ダウナー・ジャジー・シーカーズ~テンション低めの気怠げお兄さんによる飯テロ有の悪くないダンジョン配信~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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ここから第三部となります٩( 'ω' )و引き続きよしなに


第3部 夏休み
052.久々に四人で飲むのも悪くない


 

 

 昼間が暑すぎて、ちっとも涼しくならない夏の夕暮れ。

 ぼちぼちと居酒屋が暖簾(のれん)を上げ、客の呼び込みを始める時間だというのに、汗が引くような気温にはなっていない。

 

 そんな時間ともなれば、駅前は帰る人と帰ってきた人が混じり合い賑やかにもなってくる。

 とはいえ、今は普段と些か異なる。

 社会人は相変わらずながら、学生たちは制服よりも私服が多い。

 俗に言う夏休みに入ったからだ。

 

 人の比率は異なれど、普段使わない駅であろうと、人の出入りの多い駅の近隣の様子というのは、どこもあまり変わらないのかもしれない。

 

 そんな普段余り来ない駅を降り、駅前から少し歩いたところにあるお店。

 

【創作(さかな)ダイニング DEKITATE】

 

 カウンター席を含めても、三十人座れるかどうかという小さなお店。

 そこで、酒盛りをしている四人組がいた。

 

「そういや、セイジ。ガーロの肉ってまだ余ってっか?」

「ああ。食べ切るにはかなり量がある。コウタ、いるか?」

「マジか? 食ってみてぇとは思ってたが、分けて貰えるってぇな嬉しいぜ」

 

 コウタが店長のきまぐれサラダをとりわけて、隣に座るセイジに手渡しながら笑う。

 その二人のやりとりを見ながら、ツカサは横に座るサイキと共に肩を竦める。

 

「あれであの二人、自認仲が悪いなんだよな。信じられるか?」

「昔からでしょそもそも実際に最初はお互い相性が悪いと思いながら付き合っていってその認識が変わらないまま関係性だけ変わってるからこうなってるというか」

 

 サイキは甘い柑橘――不知火(しらぬい)の入ったサラダから、不知火だけを箸で摘まんでモグモグしながらツカサに答える。

 

「まぁ良きにしろ悪しにしろ暑苦しいコウタと、常にやる気無くクールなセイジだと、そうもなるか」

「実際のセイジの筋を通す主義と根は真面目でやる時はやる気質を間近で見るまではコウタはだいぶ変な目で見てたのも事実だよ」

「コウタもコウタで、見た目ヤンキーだしノリもヤンキーだから、本質的にはセイジと同じ筋は通すしやるべきコトはちゃんとやるヤツだって理解されるまで、怖いヤツって、見られるもの仕方ないけどな」

「アッパーかダウナーかの違いがあれど似たもの通しでしょアレ」

「違いない」

 

 こういう分析は的確なんだよなぁ――とサイキのことを笑いながら、ツカサはビールをあおった。

 

「好き勝手言ってるなお前ら」

 

 ベーコンビッツと不知火とトマトをレタスで包み、シーザーっぽく仕上げられたチーズドレッシングと共に口運んでから、セイジはうめく。

 

「ったくツカサはともかく、サイキとはすげー久々に会ったけど、相変わらずだよな」

 

 お通しの生ハムとクリームチーズとタマネギのマリネを口にしながら、コウタがそううめくと、サイキは楽しそうに笑った。

 

「コウタは変わったよね粗野っぽさは残ってるけどすごい周囲を見るようになってる」

「そりゃあな。いつまでも学生のノリで生きられねぇからよ」

 

 だろ――と、同意を求められてセイジとツカサは苦笑しながら同意する。

 それから、セイジはサイキを示しながら、苦い顔で告げた。

 

「ちなみにサイキの変わらなさはお前もビックリすると思うぞ」

「そのレベルかよ」

「アーティストとして売れてるからなんとか生活が成立してるレベルだ」

「しかも定期的にセイジママによるお世話付きでな」

「ママとか言ってんじゃねぇぞ」

 

 セイジは思わず本気でうめく。

 

「おいストップだツカサ。今の言葉は本気でコイツが嫌がってやがる」

「おう。おれも初めて見る顔してた。悪い。この方向のからかいはやめる」

「まぁ意外と通いオカンというのは間違ってないかもしれないし実際助かってるから別に呼び名とかどうでも――ごめん。そろそろボクも真面目に空気を読むというコトについて勉強するべきかもしれないなと思った」

 

 流石のサイキも殺気を飛ばされたので、調子に乗った言葉を撤回する。

 

 若干、全員が顔を引き攣らせているのを見て、ちょっとやりすぎたか――と、セイジは小さく咳払いすると、メニューを手に取って店員を呼ぶ。

 

「すいません。追加で――えーっと、今日は刺し盛りあります?」

「ありますよ。良いのが入ったんで」

「じゃあ、(だい)で一つ。それから、名物のカニクリームコロッケを……」

 

 注文を口にしながら、三人の顔を見れば三人とも食べる――と顔に書いてある。

 

「コロッケは二皿お願いします」

「他にはありますか?」

「日本酒、今日のおすすめのやつを」

「あ、白ワイン頼んます」

「こっちもビール追加で」

「アイスウーロン茶のおかわり」

「かしこまりました~」

 

 それぞれに飲み物の追加をし、店員がカウンターへと戻っていくのを見てから、再び雑談の花が開いていく。

 

「そういやセイジ。お前、四月から配信を初めてもう七月も後半だろ? 調子はどうよ?」

 

 コウタがサラダを口にしながらそう訊ねてくる。

 セイジは少し考えてから、それに答えた。

 

「悪くないと思う。収益化まではまだ考慮に入れてないので何とも言えないが、今のところは性にもあってる」

「そりゃあいい。お前の配信は、あの独特の空気と、コメント欄の住民の空気が唯一無二感があるかんな。常連が調子乗って新規客を排除したりしねぇ限りは安定するとは思うぜ」

 

 そんなコウタの言葉に、ツカサが付け加える。

 

「そのコメント欄の常連も、バランスよく自治してるみたいだから、しばらくは大丈夫だろ。まぁファンネームくらいは欲しいかもな」

「ファンネーム?」

 

 セイジが首を傾げると、ツカサはうなずく。

 

「そうそう。おれのところの『オシャレさん』とか、ムルちゃんのところの『冒険者』みたいな?」

「ああ……」

 

 ようするに、自分のチャンネルのリスナーに対する呼び名のことのようだ。

 

「自分で良いのがないなら、配信の時にでも雑談がてらリスナーに聞いてみ? 結構、アイデア出してくれると思うから」

「ツカサの言う通りだな。そういう交流もたまにはするといいぜ」

「なるほど。勉強になる」

 

 一つうなずき、まだ残っているサラダを食べようと、ボウルを見ると――

 

「……不知火だけ綺麗になくなっている……」

 

 別にそれだけが食べたかったワケではないのだが、不知火があってこそ一つの料理たるサラダだったのだ。不知火だけ無くなってしまうのは少しばかり寂しくもある。

 

 というか、ひたすら不知火だけ食べた犯人(ヤツ)がこの中にいる。

 

「美味しかったよ」

「そうか」

 

 犯人は明白だった。

 そういえば、サイキがひたすら(つつ)いていた気がする。

 

「飲み物と、カニクリームコロッケ、二つ。おまちどうさまです」

 

 などとやっているうちに、この店の名物であるカニクリームコロッケがやってきた。

 

「思ってた以上に大きいな」

 

 ツカサがそう言うのも無理はない。

 成人女性の握りこぶしくらいのサイズはある、球体状のコロッケが、お皿の上に二つずつ乗っているのだ。

 

「カニクリームコロッケは、味がしっかりついてるから、そのまま食べてくださいね」

 

 カウンターの方からこちらを見ていた店長がそう添えてくるので、目の合ったセイジとコウタは軽く会釈を返した。

 

 それぞれが、自分の皿へとコロッケを乗せる。

 その迫力に驚いている三人とは裏腹に、この店には何度か来たことのあるセイジは、躊躇(ためら)わずにコロッケを箸で半分に割った。

 

 ザックという子気味の良い音と共に、大きなコロッケが左右に分かれる。

 

 すると、中から白いクリームではなく――言葉は悪いが、濁ったドブ色のやや固形よりのクリームが、熱々の証拠たる白い湯気と共に流れ出てきた。

 

 それを見ていた三人は驚いたものの、即座にコウタが答えに気づく。

 

「かに味噌入ってんのか、これ」

「ああ。カニをほぼ丸々使ったコロッケだ」

 

 そこに気づくと、湯気に交じる香気の中に、豊かなカニの風味が混ざっているのに気づく。

 三人がそれぞれに自分のコロッケを食べやすい形へと割っている間に、セイジは先にそれを口に運んだ。

 

 湯気がくぐっている通り、熱々でザクザクだ。

 そこにクリーミーな味わいとカニの旨味、かに味噌の豊かな風味が怒濤(どとう)のように押し寄せてくる。

 

 まさにカニを一匹、コロッケの中に閉じ込めたかのような味わいだ。

 熱々の衣をザクザクと、熱々のクリームをハフハフと、口から熱を逃がすように咀嚼して、飲み込む。

 

 そして、口の中に熱が籠もっている間に、セイジは頼んでいた日本酒を流し込む。

 濃厚なカニ味噌クリームの味わいを、酒のすっきりとした味わいが洗い流していく。その余韻がなんとも良い。

 

「うおおお……すげぇなこれ。名物って名乗るだけのコトはあんぜ……」

「マジでうめぇ。これでビールは最高だわ」

「いいね本当にいい惜しむらくはこれを食べるにはセイジやコウタに頼むのはムリでココまで来ないとダメそうなところだ」

 

 三人からの評判も良さそうだ。

 

「刺し盛りの大、お待たせしました」

 

 コロッケに舌鼓を打っているところに、刺し盛りもやってくる。

 大きめの下駄の上に綺麗に並べられた様々な魚の切り身は、宝石のようにも見える。

 

「刺身も旨そうだな」

「気に入ったのを仕入れられなかった時はメニューにないくらいにはこだわってるらしい」

「そりゃあ、すげぇ」

「マグロの赤身もらう」

 

 そうして料理を食べながら、お酒やソフトドリンクを飲み、他愛もない雑談で盛り上がる。

 なんのかんのとこの四人で飲み食いするのは悪くない。

 

「そうだセイジ。窟魔ムルに楽曲提供したいから話付けて」

「そういうのはオレじゃなくて星庭さんに言ってくれ」

「でもセイジからなら直通でムルに届くじゃん? 連絡先知ってるんでしょ?」

「プライベートはな。だが仕事ならマネジャーや事務所を通せと言っている。別箱なんだから尚更だ」

「えー、めんどー。楽曲提供するだけじゃーん」

 

 二人のやりとりを見ながら、コウタとツカサは苦笑しか浮かばない。

 

「セイジの言うとおりだよサイキ。そういうのはちゃんと筋を通さないと、後々で面倒なコトになるんだ。その面倒事を一切合切無視して、周囲の人間だけ困らせるようなコトをしても平然としているのは、お前の昔からの悪いところだぞ」

 

 (なだ)めるようにツカサが言えば、サイキはバツが悪そうに頭を掻く。

 

「熱が入ってるんだろうが、そこはそれだ。セイジの言う通りちゃんとマネジャーを通せ。

 お前にとっては楽曲提供するだけだろうとも、すでに名前が売れちまってるお前がそれをすれば、そこには色んな文脈が乗るんだよ。お前が望む望まない関係なくな。

 だから、もっとも面倒がなく、お前が望む形に近いところで決着をさせる為にもマネジャーを通せって言ってんだよ。セイジは」

 

 コウタからも言われれば、サイキはお手上げだ。

 三人から同意見を言われた以上、ここはちゃんと筋とやらを通すためにマネジャーである星庭(ホシニワ) 願音(ネオン)にお願いした方がよいのだろう。

 

 ――と、サイキは嘆息混じりに三人の言うことを聞こうと決めた時、ふと脳裏に過ったことがあった。

 

「あ。そうだ。八月の二十八日、絶対に空けておいて。三人とも」

「なんだ?」

「どうした急に?」

「嫌な予感しかしない」

 

 相談されてOKの返事をしてから、すっかり忘れていた事柄があった。

 

「世間では幻のバンドグループたるボクら『アルカナム』。その日に、限定復活ライブするから」

「は?」

「あ?」

「お?」

 

 一拍あと――

 

「ふっざけんなッ!!」

 

 ――三人の声が唱和した。

 

 そして、店長に注意されてしまった。

 そこは大変申し訳ない。でもサイキが悪い。

 

 

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