ダウナー・ジャジー・シーカーズ~テンション低めの気怠げお兄さんによる飯テロ有の悪くないダンジョン配信~ 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
「実際問題、どういうコトだ?」
三人を代表して、コウタがサイキに訊ねる。
先ほど店長に怒られたので少しトーンを抑えて。
「んー……学校から依頼があってさ」
「学校って?
「そ。
正直、何がどうしてサイキとアルカナムへの依頼が発生したのか理解が出来ず、三人は首を傾げる。
「我らが母校たる私立
「いや」
三人は初耳だったので、サイキは先を
「事件に関しては今回はどうでもいいので省略するけどちょっと地元ローカル的には大きめな事件で多少マスコミも取材に出てくる事件だった。そうなると話題に上りやすくなるでしょネガティブな」
「まぁそうだろうな」
そこは容易に想像できる。
しかも、学校側としては全然ありがたくない盛り上がり方だ。
「そこでポジティブな話題で上書きしたいと学校は考えた」
「いやその思考の流れは分かるけどよ、なんで俺たちなんだよ?」
ツカサの言葉に、サイキは少し表情を変えた。
「っていうかもしかしてだけどキミたちって当時のアルカナムの評判知らなかったりする?」
「どういうコトだ?」
三人が顔を見合わせたことで、サイキはなるほど――と、うなずいた。
「当時学園祭のあとスカウトがいつくか来てたよ全部ボクが断ったけど」
「待ってくれ、本当か?」
「初耳だぜ……」
「俺もだ」
「やっぱりかー」
サイキの話によると、たまたま学園祭に来ていた音楽関係者のツボに刺さったらしい。
他にも生徒が撮影していてネットに上げた動画が、一部で大盛り上がりしたとか。
「学園祭が終わって以降もちょくちょく学校へ問い合わせはあったらしいよ。全部断ってくれと言っておいたからボクらの方には流れてこなかったけど」
「……ウケてたのか、あれ」
「マジで世の中わかんねぇな」
「運命の流れ次第では実はバンドデビューだったとか言われても想像できねぇ……」
確かに文化祭直後は、学校中でちょっとしたアイドル扱いされた覚えはあるが、それも冬休みが明けた頃には落ち着いていた記憶がある。
「ボクらが卒業したあとでハイパージャムのインディーズバンド特集の途中で取り上げられたりもしたよ謎の学生バンドグループって」
「マジで?」
ハイパージャム。
アイドルグループながら本格的なバンドをやっているハイパーイーストの面々が、音楽関係の人をゲストに、音楽そのものや、音楽ジャンルあるいは、時代毎の音楽シーンを深掘りしていく、深夜番組だ。
サイキこと
音楽関連のマニアックな話を、ハイパーイーストの面々とゲストによる軽快なトークで盛り上げていく番組だ。
時間が合った時などは、セイジも時々見ているが、まさか自分たちの知らないところで取り上げられているとは思わなかった。
リアルタイムで見てたら思い切り噴き出していたことだろう。
「うあマジだ。検索したら結構アーカイヴや、番組の切り抜きとか上がってる……」
ツカサが自分のスマホを見ながら盛大に顔を引き
全くもって想定外がすぎる。
「そんなワケでどこぞの学園祭に
「ダルすぎる……」
「サイキの作詞作曲能力に加えて技術指導能力が高すぎた弊害だろこれ絶対」
「信じられねぇ……なんでおれら誰も気づいてねぇんだよ……」
三人揃って思わず頭を抱えてしまう。
「それで逮捕者が出た話に戻るんだけど……」
「皆まで言うな。ようするにオレたちを一時復活させるコトで話題にしたいってコトだろ。OBって宣伝すれば、ネガティブな話題を上書きも出来る」
「まぁ公立じゃなくて私立だもんな。そういうトコに必死にはなるか」
「理解はする、理解はするんだがなぁ……」
うーん……と、うめきながら、三人はそれぞれにお酒のグラスを
「さて、隠者。話は理解した。理解した上で、ここから重要な話をしようと思う」
グイっと手元の酒を一気に飲み干し、グラスをテーブルに戻したセイジが真面目な顔をしてサイキを見た。
「聞こう節制。なんだい?」
サイキもそのシリアスな気配を感じ取って、一つうなずいて聞く姿勢を取る。
「オレたち三人とも、八月二十八日には動けない」
「え?」
「それぞれ、すでに予定が入っている」
ちなみに、実際にそんなものがあるかはセイジも知らない。
ただ二人が黙っているので、そういうことにして押し通す。
「いやでも」
アルカナムとして演奏するにしろしないにしろ、まずはサイキの阿呆に痛い目を見せるべくセイジは告げる。
二人も同意見なので、セイジの作る流れを読むべく黙っている。
「アルカナム復活ライブなんぞ優先順位は下だぞ? そもそもが卒業した学校のイメージ戦略でしかない。オレたちになんのメリットもないライブなんぞやる意味がない。ダルいだけだ」
そこまで口にして、ふとセイジは眉を
「そういえば、報酬やメリットの話は何かあったのか?」
「え? どうでもよくない?」
次の瞬間、サイキの横にいるツカサが、呆れ顔をしながら無言でサイキにアイアンクローを仕掛ける。
「えッ、ちょッ!? ツカサまでセイジみたいなコトを……!?」
「お前は顔出ししてないとはいえ名の売れたアーティストだろうが。それに、俺もコウタも、そこそこ名の売れた美容師だったり配信者だったりする。最近はセイジもだ。
それが無報酬とかナメてんのか? 何でもかんでも自分基準で考えてんじゃねーよ」
「でもでも! 三人とも報酬とかメリットとかあんまり興味はないタイプでしょう!?」
もがきながらそう口にするサイキに、コウタはそれを肯定する。
「まぁ否定はしねぇよ。だがな、例え無報酬でもそこに至る為の理由や建前は必要だ。特に今回は向こうの問題にこっちが手間をかけてやる状況だ。向こう側がまず報酬を提示できなきゃ、協力する気もおきねぇって話だよ」
「それこそ、さっき言った文脈や情報付与の話に通じる。何でもかんでもウェルカムにしてダルいコトが増えても困る。だから取引だし、だから政治って言うんだ。
今、お前はもっとも無視しちゃいけないモノを無視して好き勝手やらかした結果、オレたち三人の
コウタとセイジがそう言い終わると、ツカサがサイキの顔から手を離す。
それから、怒るコウタやセイジとは逆に、穏やかな調子で
「お前の音楽に対する思いの強さや熱さは知ってるよ。それ以外のモノは余計な
だから、俺たちもそこを理解した上でお前と付き合ってるし、時々一緒にお前の情熱的音楽性癖に付き合ってバンドをやったりもしてる。
でもな、今回はかなり最悪だ。お前の嫌いなその余計なシガラミってやつをマネジャーさんや、何ならセイジが引き受けてくれてるのが現状だろ?
なのにお前は、通すべき筋を通さなかったが為に、色々とぶち壊した。気を遣って柵の面倒を見てくれているセイジやマネジャーさんの顔に泥を塗り、元々負担が大きい二人に、さらに大いに負担を掛ける行いをした。恩を
コウタは個人勢の有名配信者として。
ツカサは腕利きの美容師にして、有名な個人勢配信者として。
二人はすでに企業勢配信者との付き合いがある。
そしてセイジも、個人勢配信者ながらすでに企業勢と付き合いがあるし、そもそもサイキの柵の一部に関して引き受けていた。
だからこそ、こういう筋の話には敏感だ。
文脈や政治などの意図が、どうしたって入り込んでしまうのだから。
「学校への断りの電話は俺からしておく。お前は必ずマネさんに今回の件を最初から
いいか? セイジを通すな。お前の口から、ちゃんと正しくマネさんに伝えろ」
「……わかった」
さすがのサイキも三人から叱られれば
サイキは暴走しがちだし、社会的には不適合者の類いではあるが、頭が悪いワケではない。単に音楽以外の余計なことへリソースを使いたがらないだけだ。
逆にいえば、リソースを割いてちゃんとやらねばならないと理解したことはちゃんとやる。とりあえず今回はちゃんと反省にリソースを
ツカサがサイキを穏やかに叱っているのを横目に、セイジはスマホでLinkerを起動し、二人へとメッセージを投げる。
表面上はふつうにやりとりしながら、Linkerでやりとりするのは、探索中に警戒とトークを同時並行できる三人からすると朝飯前だ。
[セイジ]
コウタ、ツカサ。明後日、空けておいてくれ。
[コウタ]
りょーかい
[ツカサ]
ゲームキャラのスタンプ【ごめんムリ】
[セイジ]
ならコウタだけでいい
それと学校とのやりとりは俺がやっておく
[コウタ]
結局ライブはやるんだよな
まぁしばらくはサイキに悟られねぇようにすっか
[ツカサ]
アニメキャラのスタンプ【まかせた】
[セイジ]
サイキのマネの星庭さんにも伝えておくし
明後日、打ち合わせをしよう
星庭さんには少し無茶なスケジュールになるかもしれないが
[コウタ]
なんであれ七月中には必要なとこ詰めねーとな
今日27日だけど
[ツカサ]
デフォルメされた女の子のスタンプ【じかんがねぇ~!】
サイキに隠れて三人はさっさとスケジュールを組み立てる。
そして、ひと段落したところでコウタが口を開いた。
「なんか辛気くせぇコトになっちまったが、楽しくて旨ぇ
「同感だ」
それにセイジも乗っかった。
「メニューとってくれ」
「ああ」
次は何を頼もうかとコウタがメニューを見ていると、サイキがしょんぼりとした顔をしながらおずおずと告げた。
「フライドポテト的なの……ある?」
「おう。あるみたいだぜ。『自慢のフレンチフライ』ってやつが。普通の塩に、バター塩、トリュフ塩、あとペペロンチーノ味とかもあるな」
「じゃあ、バター塩で。サイズがあるなら大盛りがいい」
サイキはだいぶ落ち込んではいるようだが、食欲に
「まぁなんだ。サイキ、これに
「……うん。なんか久々に三人から怒られて、完全にやらかしたー……ってなってるよ」
反省してもまた近々やらかすだろうが、それでもちゃんと反省してくれたのであれば、まぁそれで良い。
叱らないまま調子づかせるのはサイキの為にもならないのだから。
三人はそう考えながらも、それはおくびにも出さずに酒盛りの続きを始めるのだった。