ダウナー・ジャジー・シーカーズ~テンション低めの気怠げお兄さんによる飯テロ有の悪くないダンジョン配信~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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058.クセを個性として味わうアロなんとか

 

 

 ムルと漫才していると自分の食べる時間がなくなると気づいたセイジは、自分の分を皿に乗せる。

 

 それから、肉を一切れ口に運び、ゆっくりと咀嚼(そしゃく)した。

 

「確かにこれは、前のよりずっと肉質がいいな……」

「だよね!」

 

 料理している時点で分かっていたことながら、ちゃんと食べたからこそ実感する。

 以前に食べたアイアンウールも美味しかったのだが、今回はそれ以上だ。

 

「同じモンスターの肉でも、個体ごとに肉質が違うのか。だとしたら、美味しい個体の見分け方とか見つけられたら面白いかもしれないが」

「あ、面倒くさい方向の完璧主義が顔を出しはじめた」

 

 ムルにツッコミを貰って、セイジは思わず苦笑する。

 

「学生時代からよく(つる)んでる面々から貰いそうなツッコミだな」

「その人たちも大変そうだなぁ」

「……いや、恐らくオレが一番大変なポジションにいる気がするが?」

 

 魔術師と戦車が聞いていたら、即座にツッコミを入れてきそうなことを言いつつ、セイジは野菜を口に運ぶ。

 

 野菜そのものは近所の商店街の八百屋で買ったものだ。

 値段のわりに質がバツグンに良くて助かっている。

 

 そんな野菜に、肉の脂とタレが混ざり合う。

 

「うん。やっぱり悪くない」

 

 アイアンウールの脂は本当に野菜と相性が良い。

 タレと絡んだ野菜だけで、ご飯が進む。

 

「……しかし、こんな上質な肉をジンギスカンだけで消費するのは勿体ないな」

「そもそも量がありすぎて一匹を三人で食べきるのはムリじゃない?」

「それもある」

 

 そううなずきながら、セイジは自分の白米を食べきって、立ち上がった。

 

「好きに食べてていいぞ。

 焼いてないのも、そっちの台にあるから自由に焼いてくれ」

 

 ムルとマオにそう告げ、自分は焼き場の横にある調理台に立つ。

 

「さて、作り方はうろ覚えだが――」

 

 まずは鍋を取り出し、そこに水を用意すると、竹串を放り込む。

 

 竹串を湿らせている間に、肉の用意だ。

 

 取り出したアイアンウールのモモと肩の肉を、1cm~1.5cmサイズに角切り。

 それとは別に脂身の多い部分も同じように切りそろえる。

 

 湿らせた竹串を取り出し、カットした肉と脂身を交互に刺していく。

 それを何本も作ったあとで、岩塩を軽く振り、オリーブオイルを全体へまんべんなく振りかけた。

 

「串焼きですか」

「ああ」

 

 興味深そうに覗いてくるマオに、セイジがうなずく。

 

「低価格で有名なイタリアンレストランチェーンのガーデニアのメニューにもあるやつだ」

「あ! 知ってる! あの美味しいやつ! 一時期ガーデの串焼き美味しいってネットでもバズってたよねぇ」

 

 それにムルも嬉しそうに声を上げた。

 実際その通りだ。かなり本格的な味わいで、一緒に出てくるスパイスも美味しいと有名になっている。

 

 一時期は期間限定と言われていたが、今では定番メニューとして定着している品だ。

 

「確かアストロティーチャーでしたっけ?」

 

 日本人に馴染みのない名前ゆえに、マオは変な名称で覚えているようだ。

 

「アイロニーチェインじゃなかった?」

 

 それにムルがツッコミを入れているが、ムルもムルで思い切り名前が間違っている。

 

「アロスティチーニだ。イタリア語で小さな串焼きという意味の言葉で、宇宙飛行指導者(アストロティーチャー)でも皮肉の連鎖(アイロニーチェイン)でもないぞ」

 

 放っておくと絶対に正しい名称が出てこなさそうなので、セイジは正しい名称を告げておく。

 

 きっとムルの配信のコメント欄では大量のツッコミが並んでいるに違いない――とセイジは思っているが、意外とコメント欄も正式名称が言えずに、大喜利(おおぎり)をするか勉強になります的コメントの方が多かった。

 

 二人揃って笑って誤魔化(ごまか)しているのを見ながら、セイジは串をバーベキュー台の網の上に置く。

 本来であれば、フォルナチェッラという名前の専用の焼き台を使うのだが、ないので普通に網焼きする。

 

 ちなみに竹串を水に浸けておいたのは、こうやって直火で焼くときに串が焦げすぎないようにする為だ。

 

 アロスティチーニを焼くときは強火だ。

 表と裏。それぞれの面をまずは一~二分。

 軽く焦げ目が付いたら、回しながら全体に火を通す。

 

「居酒屋とかの焼き鶏とかでこう言う焼いている光景見ますけど、なんだかテンションあがりますよね」

「わかります! なんか目の前で焼いてくれるっていいですよね!」

 

 火に炙られ、肉の表面の脂が焦げる。あるいはしたたって火の中に落ちる。

 ジュっという音と共に、一気に香りが広がっていく。

 羊特有のクセを感じながらも、肉らしさを持つ甘く香ばしい香りだ。

 

「誰かが料理を作ってる光景って落ち着くんですね……。ましてやそれが自分の為だと思うと、なんか不思議な気分になります」

「落ち着くんですか? あたしはソワソワしちゃいますね」

 

 小さめにカットしてるのもあって火の通りは良い。

 その為、合計して十分にもならない時間で引き上げる。

 火の入り方次第で、五分くらいでもいいかもしれない。

 

 ともあれ、両面を焼き、そのあとに串を回して全体を炙り――合計でだいたい五~十分で焼き上がりだ。

 

 

 セイジの長い前髪の下で、額に汗が滲んできたのを拭いながら、肉を引き上げて皿に乗せる。

 

「決して味の濃い料理ではないんだが……。

 君のリクエストである味の濃い肉というのはジンギスカンで応えられたと思うからな」

 

 重ねて盛らず、横並びに平らに乗せた串肉に、オリーブオイルを軽く回しかければ完成だ。

 皿にはカットレモンを添えておく。

 

「アロスティチーニの完成だ。本場だと、これにレモンを(しぼ)って食べる。

 思いつきで作ったから、生憎(あいにく)とガーデニアのようなミックススパイスはない。

 だが塩や胡椒。辛子や七味なんかはあるし、ワサビは洋の東西両方のモノがあるから、好きに味付けして食べてくれ」

 

 言いながら、アロスティチーニの乗った皿を、先ほどのテーブルへと置いた。

 ムルとマオも席に戻ると、それぞれに串を一本手に取る。

 

 それを見てから、セイジも自分の分を一つ手に取った。

 

「いただきまーっす」

「いただきます」

「ああ」

 

 楽しそうに声を上げるムルに釣られるように、マオも口にしたので、セイジはうなずいて応える。

 

 そして、二人は串肉に噛みつき、先頭のひとかけらを串から引き抜いた。

 

「うわー! 美味しい!」

「これも美味しいです!」

 

 二人の反応を見ると悪くはないようだ。

 セイジも、自分が手に持っているものを口に運ぶ。

 

 ジンギスカンは薄切りだったが、コチラは角切りだ。歯ごたえがまったく違う。

 柔らかくはあるが、しっかりと押し返してくるような弾力を感じる。

 

 噛みしめると肉の脂が溢れ出てくる。

 臭みはないが、ラム特有のクセのある風味と旨味が溢れ出てきた。

 

 ジンギスカンの時はタレや野菜の風味によって、クセは押さえられ旨味だけが溢れていたのだが、こちらはダイレクトに――いや、それ以上にそのクセが全面に出てきている。

 

 この特有のクセは好き嫌いが分かれる部分だろうが、嫌いではないセイジには問題はない。

 

「なるほど。悪くないな」

 

 脂身を間に挟んで焼いているからだろう。

 前後の肉へ、溶けた脂そのものが調味料のような役割をし、同時に脂身そのものも噛みしめてやればジューシーな旨味を弾けさせる。

 

 素材であるアイアンウールの味を、存分に味わうのであれば、ジンギスカンよりもこちらの方がいいだろう。

 

「シンプルに美味しい! イタリア式焼き鶏って感じ?」

「実際、鶏ではないものの肉の串焼きだしな。一口サイズにしてあるという点でも近い」

「これラムのクセを悪いモノとして扱わずに、そこを強みとして押し出した料理ですよね?」

「それで合ってると思う。発祥のアブルッツォ州は牧羊が盛んな場所らしいからな。羊肉のクセを、クセという扱いではなく個性として扱う料理が、郷土料理になっているんだと思う」

 

 ムルとマオ。どちらの言葉にもセイジはうなずいた。

 

「クセではなく、個性……」

 

 そして、マオの方がセイジの言葉に何か引っかかるところがあったようだ。

 そんなマオの様子に、ムルが小さく笑う。

 

「今の職場だと、役に立たない邪魔な『クセ』扱いされているお姉さんも、環境が変わるととても良い『個性』として扱われるかもしれませんよ?」

「…………」

 

 そう言われ、マオはムルの顔を見たまま動きを止める。

 もう少し踏み込めそうだ――と、判断したムルは言葉でもって一歩踏み込む。

 

「羊肉のクセがとことん嫌いな人だと、どれだけ美味しいラムもマトンも、たぶん意味がないんですよね。特有のクセが苦手なんだから。どれだけ腕の良い料理人が料理しても、たぶん不味いって言われちゃいます。クセそのものを個性的な調味料としているかのようなこの料理(アロスティニーチ)なんて尚更です。

 でもクセを気にしない人や、羊肉が好きな人なら、この串肉は美味しく感じますよね?」

「…………」

 

 マオの瞳が揺れる。

 迷いによる揺れだが、悪い迷いではなさそうだ。

 

 セイジは次の串に手を伸ばしながら、黙って様子を伺う。

 レモンを掛けた二本目の串は、果汁が羊特有の個性を爽やかに引き立てている。

 

 その強い酸味は、強い個性とぶつかりあうがケンカせず、美味しくお互いを高め合っているようだ。

 

「例えばお姉さんが、羊料理しか作れなかったとして、羊嫌いの社員ばかりの社員食堂にいつまでもいる理由ってあります?

 不味い不味い。羊料理しか作れない役立たず。食堂にお前しかいないし捨てるとウチが餓えるから仕方なく雇ってるんだからな……なーんて毎日言われ続けたら、楽しいワケないですよね」

「……楽しくないです。詰まらないです。辛いです……でも……辞めちゃうと、お金とか、不安で……」

「あー……」

 

 この瞬間だけはお金なんてどうにでもなる――と、根拠が無くとも力強く一刀両断できた方がマオの為にも良いのだが、ムルの持つ善性は両断できずに彼女の迷いを理解してしまう方へと行ってしまった。

 

 だが、十分だ。

 そこからの説得は、セイジが引き継げばいい。

 

「君の迷いの原因がお金だというのであれば、オレが仕事を紹介できる」

 

 二本目の串の最後の一口を嚥下(えんか)してから、そう告げる。

 

「え?」

「知り合いに小さな会社の社長がいるんだが、次の仕事が見つかるまで自分のところのバイトとして雇ってもいいと言っている。仕事ぶり次第では給料もあげてくれるそうだ」

「…………」

「今より給料は下がるかもしれないが、環境は間違いなく改善する。ある程度の貯金があるなら、まずは心身を癒す為に時間を使うのも悪くないぞ」

 

 前髪の下の目を(すが)めて、マオの瞳を真っ直ぐに見る。

 

(もう一押し――と言ったところか)

 

 自分たちとのやりとりや、ちゃんとした食事をしたことで思考の巡りが良くなっているのだろう。

 冷静に、今の自分の状態を見えているようだ。

 

「これは持論だが――お金、体力、精神……人は生きるのにこの三つが必須だと思う。

 そして、どれか一つでも残っているのであれば、人生を挽回するキッカケになると、個人的には思うんだ。

 だが、その三つの全てが潰れてしまった時、恐らく人が再起するのはとても難しくなってしまう」

 

 体力が余っているなら、精神を摩耗しない体力だけでできる仕事につき、お金を稼げる。

 お金が余っているなら、お金が許す範囲で体力と精神の回復を優先した生活ができる。

 精神が残っているなら、体力を消費しない精神力だけでできる仕事につき、お金を稼げる。

 

 残るチカラが一つだけになってしまったとしても、そうやって生活して、失われたどちらかもう一つチカラを取り戻せれば、建て直しは目前だ。

 あくまでセイジの持論だが、だからこそセイジもまたどれだけダルくとも全てを失わないように、日々の生活を気をつけてはいた。

 

「三つのうち、どれか一つでも余力が残っているうちに、最悪の環境から抜け出せるかどうか。とても難しい判断と決断が必要かも知れないが、大事なコトだと思う。

 とはいえ、最後に判断するのは結局は自分だ。オレの言葉は無責任な外野のアドバイスに過ぎないと言われればその通りだがな」

 

 マオの瞳にチカラが戻ってきている。

 もう一押しもいらなそうだが、一応のダメ押しくらいはしておくべきだろう。

 

「……ともあれ。君が良かったら、このあと少しギルドまで付き合ってくれないか? 少し、見せたいモノがある」

 

 セイジの言葉に、マオは迷うことなくうなずいた。

 

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