ダウナー・ジャジー・シーカーズ~テンション低めの気怠げお兄さんによる飯テロ有の悪くないダンジョン配信~ 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
自殺騒動に巻き込まれた日の翌日。
セイジは、サイキのマネジャーであるネオンと、コウタの三人で軽い話し合いをした。
基本的にはライブをやってやる方向ではいるのだが、簡単にうなずいてやる気はない。
特にサイキを覗く三人は、在学中からずっといるとある教師に懸念を抱いていた。
今回の一件は、彼が関わっている様子なので、なおさら思うところはある。
その辺りをどういう方向でもっていくべきかという話をし、ある程度纏まったところで、それを踏まえて学校へアポ取りだ。
学校側は明日にでも話をしたいということで、明日の放課後に学校へと顔を出すこととなった。
そして、さらに翌日。
セイジは、母校である私立
窓際の席でコーヒー片手に本を読んでいるのは、待ち合わせの為だ。
少し早く来てしまったので、ここで時間を潰しているのである。
このカフェチェーンは、セイジが学生当時には無かったな――などと思いながら、ふと顔を上げる。
ちょうど下校の時間だ。
窓の外には、見覚えのある制服を着た生徒たちが、駅へ向かって歩いている。
制服を着た小学生のように小柄な少女が目の前を通り過ぎる。
その少女は、通りすがる他の生徒たちから声を掛けられる度にビクビクしているようだが、声を掛ける人たちは好意的なようだ。
恐らくは、現役生徒たちの間では有名な子なのだろう。
セイジも少しばかり身に覚えがある。
特に学園祭でアルカナムとして演奏した直後などは、あんな風に学年も違う見知らぬ生徒たちから声を掛けられたモノだ。
まぁセイジは性格が性格なので、声を掛けられたところでマイペースな反応だったのだが。
何となく学生時代のことを思い返していると、目の前にガタイの良い男が現れて、軽く窓を叩く。
声は聞こえないが、手を挙げて「よ!」と言っているようだ。
その横には、メガネを掛けた女性も一緒にいる。彼女もセイジに対して小さく会釈してみせた。
どうやら、待ち合わせ相手は二人とも揃っているようである。
セイジはコーヒーの残りを一気に煽り、本をカバンにしまうと席を立つ。
店を出ると、二人は入り口の前まで移動していてくれた。
「星庭さん。昨日に引き続き今日も、わざわざすみません」
「いえ。私としても、dedさん絡みでお世話になっていますから」
セイジの言葉に、dedことサイキのマネジャーである
だが、セイジとコウタは同時に顔をしかめた。
「むしろ、あのバカがいつもいつもいつも、すんませんス」
「コウタの言うとおりです。あの阿呆が毎度毎度毎度毎度、迷惑を掛けてすみません」
「お二人とも、お友達……なんですよね?」
名前を呼ばず、バカや阿呆呼ばわりする二人に、ネオンはやや顔を引きつらせた。
「それにしても……みなさんがアルカナムだったのはやっぱり驚きです」
「……あー、星庭さん。おれら、マジで有名なんスか?」
「え? 知らなかったんですか?」
「オレたちは、サイキに教えてもらうまで、自分たちが話題になってたんだと気づいてなかったんですよ」
「皆さんは本当に文化祭の間だけのユニットのつもりだったんですねぇ……」
なんとも言えない複雑な顔をするネオン。
どうやら、彼女も彼女でアルカナムに対して、何か思うところがありそうだ。
そんなネオンを余所に、コウタがセイジへと訊ねる。
「セイジ、学校には今日行くって話にはちゃんとなってるよな」
「ああ。放課後に
なおその三人の中に、サイキが含まれているとは言っていない。
もしかしたら学校側は、サイキが来ると思っているのかもしれない。そしてサイキの性格を知っている教師がいるのであれば、それで釣れるとも思っているのだろう。
あるいは、もしかしたら、サイキ以外の三人が来ると思っているのかもしれない。
元生徒である三人ならどうにでもなると――そういう風に考えていても不思議ではない。
だが、そうは
アルカナムの四人は全員すでに社会人だ。
サイキはさておくにしても、他の三人は良くも悪くも、社会人らしい洗礼は経験済みである。
相手がこちらを学生のままであるかのように侮ってくるのであれば、いくらでもすくってやろう――そういう気概が、セイジ、コウタ、ツカサの三人にはあったのだ。
ネオンに頼ったのも、単にサイキの代理というだけでなく、芸能系マネジメントの話を
「んじゃあ、カチコミと行くか『節制』!」
「ああ。キッチリ話を付けてやるとしよう『戦車』」
「え? カチコミって……穏当な話し合いじゃないんですか?!」
戸惑うネオンには申し訳ないのだがセイジとコウタからすれば、ある意味で母校へカチコミに行くつもりで、今日この場に挑んでいる。
生憎と今回ツカサは来れないのだが、居たならばきっと同じ心境で挑んだだろう。
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応接間に通されると、そこには三人の男性が待っていた。
ロマンスグレーという言葉がよく似合う初老のイケオジ姿の学園理事長。
昔ながらの七三ヘアをしたどこか嫌味を感じる胡散臭い笑みの教務主任。
キッチリカッチリ堅物やってる感じのメガネ男性の教務主任補佐。
そして学園理事長ではなく、教育主任が中央にいるので、今回の一件は彼に任されているのだろう。
一方で――
対面の中央に座るのはセイジだ。足を組み気怠げに頬杖をしている。
隣にいるコウタは、ソファに浅く座り足を開き両手をズボンのポケット突っ込むヤンキースタイル。
二人の露骨な態度の大きさに、少しばかり居心地が悪そうなネオンがいる。
ネオンに対しては、二人とも申し訳なく思っているが、今回は必要なことなので、我慢して欲しい。
主任補佐はこちらの態度の悪さに顔を
「いやぁ久しぶりだね。二人とも」
胡散臭いにこやかさで教務主任が挨拶をしてくる。
それに対して、セイジは気怠げなまま一応の挨拶をした。
「ええ。お久しぶりです。この十年で教務主任になってたんですね。
「まぁね。だからこそキミたちに頼れたワケだんだがね」
調子の良いことを言ってやがる――とは思うが、敢えてそれはスルーして、セイジはネオンを紹介する。
「こちらは知人の星庭さんです。芸能関係のマネジメント業務をやられているので、今回の交渉の場に辺り、協力をして頂くコトになりました」
「星庭と申します。今日はよろしくお願いします」
「か、関係者が三名と聞いていたのだがね?」
「ええ。自分、
ネオンに挨拶に返事もせず、いきなり揚げ足を取ろうとしてくる辺り、教務主任は相変わらず考えナシの男のようだ。
今のやりとりで、学園理事長の目つきが変わったことに気づいただろうか。
主任補佐も、何やら主任に対して思うところのある視線を向けている。
「さて、余計な雑談はダルいので、率直に聞かせてください。教務主任、今回の依頼を引き受けた場合の、こちらのメリットはなんですか?」
「節村、何を言っているんだ?」
「貴方こそ何を言ってるんですか? オレたちはもう学生じゃあない。いや、学生であったとしても、メリット無しに動かそうというつもりですか?」
「いやだが、
「あいつは
恐らくはサイキの気質を利用して、なし崩しにことを進める気だったのだろう。
だが、そんな都合の良い話など、セイジが通すワケもない。
「改めてお伺いします。すでにアルカナムの面々は社会人であり、各々のスケジュールが存在しています。やるとなれば練習時間だって必要だ。
オレたちの時間をわざわざ奪ってまで演奏会をやるメリットって何ですか?」
極端な話、セイジたちは無報酬でも構わないと思っている。
だが、それはそれとして、ちゃんと交渉に応じてくれるような相手ではなかった場合、今後も好意を搾取されかねないので締めておく必要があるのだ。
学園理事長と教務補佐も理解を示したように無言でうなずき、教務主任がなんと答えるのか興味ありげに視線を向ける。
「き、キミたちの売名になるだろう? 学生バンドから始まったバンドの、名が売れるんだ! メリットになるだろう?」
「話にならねぇな」
コウタが吐き捨てるようにうめくと、教務主任は彼を睨む。
だが、そこへネオンが口を挟む。
「そうですね。お話になりません。それは何一つ、アルカナムのメリットになりませんので」
「なんだと!?」
事前に決めてあったのだ。
相手がふざけたメリットを提示してきた場合は、芸能関係の仕事をしている者としてキッチリと反論して欲しいと。
そして、ネオンが口を挟むと同時に学園理事長と教務補佐は頭を抱えた様子を見せる。
「まず、アルカナムの名前は、知名度だけであれば有名です。
正体不明の、学園祭にだけ現れたバンドグループではありますが、その実力が確かであると各所で話題になっています。
ハイパージャムという有名アイドルの看板音楽研究番組の、インディーズバンド特集でも紹介されたんですよ? 少なくとも、音楽関係者で興味がない人の方が少ないと言えるでしょう」
「そもそも
コウタに指摘に、セイジも確かにとうなずく。
少なくとも先日の飲み会でのサイキの口ぶりからして、教務主任は知ってて依頼していたかのように感じる。
「いやそれは……」
「なるほど。つまり猪見谷教務主任は、知っていたのにもかかわらず、交渉の場においてそれをメリットであると卓上に乗せたというコトですか」
少し、ネオンの雰囲気が変わった。
セイジとコウタはそれを感じ取って、少しばかり警戒する。
さすがに怒り任せにやらかしたりはしないだろうが、らしくない怒りを感じた為の警戒だ。
「
何より隠鉄さんに至っては、芸名を使っている上に表立った活躍はしてませんが、界隈では有名なアーティストとして芸能事務所に所属し音楽関係の仕事をしている人です。
そんな彼らの貴重な時間を奪った上で、何のメリットも示せないのですか? だとしたらそもそもこの交渉の場すら時間の無駄だったというコトになりますが?」
「時間の無駄、だと?」
「ええ。だってアルカナムが演奏をする理由がないじゃないですか。こちらとしては、ここで交渉決裂という形で帰るだけですよ?」
わりと本気でネオンはそう口にした。
セイジとコウタも異論はない。
だが、教務主任はそんなネオンに慌てて待ったを掛ける。
「いや、待ってくれ! それは困る! それではこの学校の汚名が返上できん!」
「知りませんよ。それは
ネオンらしからぬキッパリとした強い口調で告げた。
「むしろ、そちらの都合でこちらの時間を使おうとしている以上、こちらが納得するメリットを掲示する必要があります。なのにこちらから交渉をしようと持ちかけるまで、知らぬ存ぜぬで都合を通そうとしたコトが、そもそもからして気に入りません」
これについてはセイジも同感だ。
ツカサとコウタも似たようなことを感じていたからこそ、ネオンに頼ってこういうことを計画したのだ。
「節村、深車。お前たちからも何か言ってくれ! お前たちの母校だろ!?」
「……で、メリットは?」
セイジは淡々と訊ねる。
すると、教務主任は縋るようにコウタに視線を向けた。
「猪見谷さぁ、なんで自分ばかりが困ってるみたいなツラしてるワケ?
おれらは、テメェがまともな交渉してくれなくて困ってんだけどよ?」
もちろんコウタも突き放す。
「自分で言うのもなんだが――おれぁ、ダンジョン配信者として結構売れてんだよ。すでにそれなりに有名だから、あんたの言うメリットが全くメリットにならねぇワケよ。
だからわざわざ配信休んでまで、アルカナムとしてドラムを叩く理由ってヤツがねぇんだ。交津摩だってわざわざ美容室を休んでまでキーボードを弾く理由はないって言ってたしな」
これに関しては事実だ。
コウタもツカサも、わざわざ仕事を休んでまでやる理由がない。
サイキはまぁサイキなのでメリットの有無は気にしないだろうが。
助け船を出す気のないセイジとコウタに、教務主任は顔を真っ赤にする。
「貴様らッ、こっちが下手に出てれば調子に乗りやがって!
な、何が配信者だ! 個人が勝手にカメラ回して有名人気取ってるだけの分際で!
探索者だなんだと言ったってただの風来坊みたいなモノだろう! 歌や楽器が上手いくらいで調子に乗りやがって!
まともな仕事に就いてないお前らに仕事を与えてやろうって言ってんだ! 素直にうなずいたらどうだ!」
瞬間――ダンと、ネオンがテーブルを叩いた。
さすがに学園理事長と主任補佐も、まずい――という表情をしている。
今の発言はさすがに問題アリだと二人も思ったことだろう。
ネオンは本当なら殴り飛ばしたいだろう衝動を堪えるような顔で、真っ直ぐに教務主任を見る。
「つまり、教務主任は音楽活動や芸能活動、探索業を舐めていると……いえ、下に見ているというワケですね」
「はッ! テレビの前で誰にでも出来るようなコトやって金貰ってる連中ども下に見て何が悪い! 何がお笑いだ! ただ人に馬鹿にされて面白がってるだけじゃないか!
何がアイドルだ! 民衆に媚びうってチヤホヤされてるだけのビッチどもだろう!?」
ネオンが拳を振り上げ兼ねない顔をした瞬間――
「少し黙れ」
「あ?」
――セイジがポケットティッシュを丸めたものを教務主任に投げ当てた。
その左腕は、ネオンを抑えるかのように彼女の前に伸びている。
そんなセイジを横目に、目を丸くしている教務主任にコウタが嘆息した。
「変わってねぇな猪見谷。おれらが、イヤミヤとかイヤ
それにセイジも同意する。
「全くだ。教務主任なんて器じゃないのに、無駄に調子づいている辺りもっと酷い」
二人のあからさまな敵意に教務主任は口をパクパクさせる。
そんな彼に、セイジは畳みかけるように告げた。
「法や道徳が存在しているから、丸めたティッシュで済ませてやったんだ。
存在してないなら湯飲みを全力で投げていたし、ここがダンジョンだったら黙れと言う前に首を
嘘偽り無いセイジの本気の言葉と目線に、教務主任が青ざめる。
それを横目にコウタはネオンに声を掛けた。
「星庭さん。色々とブチギレポイントはあったと思うんスけど、一旦深呼吸して落ち着いてくださいよ」
「え、あ、はい」
すーはーと深呼吸を繰り返すネオンに、セイジは安堵を漏らしてから、学園理事長に視線を向けた。
「もう茶番はいいでしょう。こいつを追い出して、ちゃんとした交渉をしましょう」
「ああ、そうだネ。本当に申し訳ない。よもやここまでとは思っていなかったものだからネ」
ブランドモノのスーツを嫌味無く着こなした、ロマンスグレーという言葉がよく似合う容姿をした学園理事長は本当に申し訳なさそうにそう口にしてから、教務主任へと告げた。
「それじゃあ猪見谷先生。ここから出て行って貰えるかな? キミ、居てもただ邪魔なだけだしネ?」