ダウナー・ジャジー・シーカーズ~テンション低めの気怠げお兄さんによる飯テロ有の悪くないダンジョン配信~ 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
「聞こえなかったかな?
「いえ……ですが、自分が発案したコトなので、責任を持って……」
「ああ。そうだネ。責任を持って退室してくれ。キミに任せていては、この学園の汚名を返上するどころか、汚名を重ねかねないからネ」
静かに淡々と言われた上に、真っ直ぐに見つめられ、教務主任はうな
「……はい」
相変わらず生徒には強気に出るのに、理事長のような権力者などには強気にでれない男だ。
そうして退室していく教務主任の気配が、遠くにすら感じれなくなったところで、セイジとコウタは、姿勢と態度を整えた。
「君たち、わざとだったのか?」
少し驚いた様子の主任補佐に、セイジとコウタは頭を下げる。
「改めて……主任補佐とは初めてですよね。
「こっちも改めて、初めましてっスね。
頭がついていかないのか、主任補佐が困った様子でいると、横で理事長が両手を膝の上に乗せて頭を下げてくる。
「いやぁ、すまなかった! よもや猪見谷先生があそこまでキミたちの態度の意図を理解できなかったとは思わなかった!」
「いえ、こちらとしてもそれを利用した形ですし」
「まぁお互い様ってコトで」
セイジとコウタが気にしないで欲しいという態度を取るが、理事長は首を横に振る。
「キミたちはそれでいいかもしれないが、星庭さんに対してはそうもいかないヨ。
芸能事務所でマネジメントの仕事をされているそうだしネ。猪見谷先生の言葉は、彼女の仕事を侮辱し、プライドを傷つけたコトに他ならない。本当に申し訳なかった」
改めて頭を下げてくる理事長に、ネオンは慌てた様子で頭を下げ返す。
「あー、えっと、その……こちらこそ、テーブルを叩くなどという乱暴なコトをしてしまい、我慢が足りず申し訳ありませんでした」
「気にしないでくれたまえヨ、星庭さん。いやあれは当然のコトだ。音楽を披露して欲しいという依頼をしているのに、その芸事興業をバカにするなど――内心はさておいても、交渉の場ではあってはならないコトだしネ」
そうしてお互いに頭を下げあう二人を見て、主任補佐が声を掛ける。
「理事長。星庭さんも。謝罪し合っていても話が進みませんし、ここで謝罪は区切りましょう」
確かに彼の言う通りだと、理事長とネオンはそれぞれに気持ちを静めるようにお茶で喉を湿した。
その様子を見ながら、主任補佐は謝罪ではなく挨拶として頭を下げる。
「申し遅れました。私は現在、教務主任補佐をさせて頂いております
「よろしくっス、堅杉センセ」
「よろしくお願いします。そう言えば、猪見谷先生が勝手に話を回していたせいで、お互いにちゃんと挨拶もできてませんでしたね」
今更ながらの気づきに、全員は同じような顔で苦笑を漏らした。
「そういえば私も名乗れてなかったネ。OBの二人には不要でも星庭さんにはしていない。これは紳士ではなかった」
そう言って、理事長は穏やかで紳士的な笑顔で名乗る。
「改めまして。この学園の理事長である
そうして改めて全員が名乗って挨拶を終えたところで、本題だ。
「さて、節村くん。深車くん。改めて訊ねたいんだがネ。今回のライブの件、引き受けてくれるのだろうか?」
真剣な理事長の言葉。
その裏には、報酬などもちゃんと支払うという意志が見える。
横を見れば主任補佐も同じような様子だ。
これならば、問題ない。
「まぁおれらとしても、よほどのコトがなけりゃ断る気はなかったんスけどね」
「ああ。乗せられたとはいえ、サイキのヤツがOKをしてしまった以上は、あまり不義理になるような断り方をしたくはなかったですし」
その言葉に、理事長と主任補佐は大きく息を吐いた。
「よっぽどとは、猪見谷先生のようなやり口のコトかネ?」
「そんな所です。あの人は昔から強引で、わりと無茶苦茶なコトを平気で言ってましたからね」
セイジがうなずくと、理事長がなんとも言えない顔をした。
「嫌味がやや強いがそこまで問題のある教師だと認識できてなかたのは、私の落ち度だネ」
「そうは言っても、おれらが在学中は、あそこまででもなかったスよ?
「……ああ」
コウタの言葉の意味に気づいて、理事長は大きく嘆息する。
「そもそも主任にしたコト自体が私の判断ミスだったわけだネ」
やれやれ――とうめいてから、理事長はネオンに向き直った。
「星庭さん。お訊ねしたいのだが、こういう時の相場はおいくらかナ? 生憎とこういう話には疎くてネ」
「確かに本来であればそういう話をするのですけど……」
苦笑交じりに、ネオンはセイジたちへと視線を向ける。
それに、セイジがうなずいた。
「猪見谷先生を担当ならびに窓口から外してくれるのであれば、タダでいいです」
「ふむ」
セイジの言葉を受けて、理事長はすぐに喜ばず真意を探るような目を向ける。
「ついでに言やぁ、イヤ先をクビにしてくれると最高なんスけどね。OB的に後輩らの為にも」
「それは確約できないかナ。現代日本でクビを言い渡すのって、フィクションみたいに単純にはいかなくてネ」
「……っスよね」
そこはセコウタもセイジも分かっている。
「だがまぁ、だからといって放ってもおけないからネ。何かしら対策は打っておきたいとは思うヨ」
「そうしてください」
権力を手にして暴走気味になっている教務主任がどうにかなるなら、セイジとコウタはそれでいい。
「……話を聞いている限り――キミたちは、引き受けても良いが門外漢がトンチンカンな口出しをしてくるコトと、権威や金に目を眩んだ愚行をしないコトを確約して欲しい――というコトでいいのかネ?」
「おおむねそんな感じです。準備に口出されてもダルいですし、余計な宣伝や公言で、結果として学校に迷惑が掛かるような形になるのもダルいです」
ふむ――と理事長は再びこちらを探るようにしながら黙り込む。
その横で、主任補佐が訊ねてくる。
「キミたちにメリットは?」
「今回のライブで、アルカナムは今後基本的に表にもネットにも出ないという宣言をします」
「分析や考察なら好き勝手していいんスけどね。今回みたいにプライベートに急に割って入られるのも面倒なんで」
「おや? 無知で申し訳ないのですが、インディーズバンドではなかったのですか?」
主任補佐の疑問に、そう思われても仕方が無いとセイジとコウタは苦笑する。
「元々、在学中の文化祭限定で組んだだけです」
「音楽業界とかも別に目指して無かったスからね。なんか良く
そして、ネオンが二人の言葉を補足した。
「演奏した時に、たまたま有名な音楽関係の方が来ていたのと、たまたま勝手に動画撮って勝手に動画サイトに公開した人がいたのもあって、大きく広がってしまっただけみたいなんです」
「……なるほど」
それは二人が何とも言えない顔をするわけだ――と、主任補佐も苦笑する。
「メンバーの一人の
「今回と似たような流れで、
「そうか。そもそもからしてインディーズバンドでもなかったのか」
主任補佐がこめかみを押さえながら嘆息を漏らす。
「猪見谷先生は、キミたちがうちのOBでもある人気バンドだと言っていたもので、すっかりそう思い込んでいたようだ」
「……だとしたら尚更さっきの交渉はありえないですよね。人気あるなら、名が売れるなんていう報酬になんの意味もないんですから」
ネオンが何とも言えない顔でそう口にすると、主任補佐も全くだと似たような調子でうなずいた。
それから、当日の話だけでなく、道具の搬入やリハーサルなどの日程や必要事項を詰めていく。
「機材の搬入は
理事長が示すモノに、セイジは深々とうなずいた。
「ある意味で一番重要とも言えますね。幸い、星庭さんの事務所には、あの
「そうじゃなくても、うちはバーチャルタレントも抱えてますから、機材はありますしね」
ネオンが補足すれども、理事長は詳しくないのであまりピンとこないようだ。
「まぁキミたちが必要というのであれば必要なんだろうネ。
……ああ、そうか。だから猪見谷先生を遠ざけたのか。彼は絶対に理解しないし、絶対に拒否してただろうしネ……」
やれやれと嘆息しながらも理事長が納得してくれたところで、話を続けていく。
そうして、情報のすりあわせや交換、必要事項のやりとりなどは、セイジたちの想定以上にスムーズにまとまっていくのだった。