ダウナー・ジャジー・シーカーズ~テンション低めの気怠げお兄さんによる飯テロ有の悪くないダンジョン配信~ 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
「本日二度目ましてだ」
:来た!
:草原で魚どうなる?w
:待ってた
結局、答えが出ないままに配信の時間になってしまった。
「先ほどの配信で出たダイスロールに従って、草原がメインのダンジョンに来ている」
最初はアイアンウールのいるダンジョンにしようかと思ったのだが、意図してなかったとはいえ、先日そのダンジョンで配信していたムルの番組に顔を出してしまっている。なので、ちょっと控えたかった。
そんなワケで、普段あまり足を伸ばさない草原ダンジョンへとやってきた。
:エントランスは森っぽいな
:結構明るいし鬱蒼とした森ってより林に近い気もする
「正直、調べても魚の情報が出てこないこのダンジョンでどうやって魚を確保すればいいのか分からないが、とりあえず進もうと思う」
:素直w
:エントランスの時点で水気がないしなぁ笑
:今日はレアな困惑ボイスばっかりで良いですね!
森の中に作られた広いウッドデッキを思わせるエントランスを抜けて、巨木の
そして階段の先にある出口から外へとでた。
巨大な洞の階段を背に、一歩踏み出すと目の前に広がるのは文字通りの草原ダンジョンだ。
天井はなく、厚い雲が広がる野外型。
ただ雲の隙間から無数の光が零れており、チンダル現象によってダンジョン全体が照らされている為、寂しさと美しさ、荘厳さがまざった不思議な風景だ。
:見た目だけなら綺麗だなぁ
:まあダンジョンだしな
ただ、一面に広がる大草原のようで、実はちょっと違う。
二色の草の絨毯で構成されているように見える。
足首までの高さの色の薄い草で出来た道が、迷路のように複雑に入り組んでいる。
その道以外は、腰元くらいまで伸びた色の濃い草で構成されていた。
また、まばらに生えた、なんらかの実りをたたえた木々が、何も無い草原という印象を払拭しているようにも見える。
「オレの身長よりも背が高く硬い草が壁となっているダンジョンなどは、うちの近隣にかかわらずそれなりにあるが、ここはそれらと少し違う。腰元までのこの草も柔らかく、踏み越えていこうと思えば行けるんだ」
:へぇ
:なら隣の通路みたいな場所まで一足飛びに行ける的な?
「ただ、この草むらの中には小型の虫系や蛇系、ネズミ系のモンスターが隠れ潜んでいるらしいので、突っ切っていくのは危険が伴う。
その為、素直に背の低い草で作られた道を歩いて行くのが、良いと言われている」
:ですよねー
:安全第一で
:今日は説明が多いからいっぱい声が聞けて幸せ
:下手な大型危険モンスターより見落としやすい小型モンスターの方が怖い場合もあるよな
「とりあえず目的地が無いわけではないので、そこへと向かいたいと思う」
:一応下調べはしてあるのか
:その辺は流石ワルニキって感じ
「ここは自宅からのアクセスが悪いのもあって、普段あまり来ないダンジョンだ。なので普段よりも移動に時間がかかるかもしれないが、了承して欲しい」
:りょ
:そういうコトもある
:わかる アクセスしづらい場所って足が伸びないよね
「では、進もうと思う」
そうして、セイジはダンジョンを進み始めた。
相変わらず早足で、安心感のある静かな歩み。
ただ、やはり普段と勝手が違うからか、時々足を止めて周囲をうかがうことが多い。
:とびかかってくる巨大バッタは瞬殺しているな
:トンボみたいなモンスターにも容赦ない
:足元を気にしてる感じあるなぁ
:草むらから飛び出してくる小型モンスターを警戒してる感じか
少し開けた場所で足を止めると、スマホを取り出して何かを確認する。
:珍しいな地図を見てる
:普段来ない場所だからだろ
:目的地が決まってても馴れてないダンジョンなら道の確認はするって
:左手を刀に添えて、右手にスマホってなんだか不思議な二刀流だよな
:別にスマホは武器じゃないだろw
「よし」
:吐息のような声ありがとうございます!
:メカクレから覗く道を確認する眼差しありがとうございます!
:もはや誰もフェチネキたちに触れなくなったなw
:いて当たり前の存在だし何の問題もないからな笑
スマホをポケットに戻して、セイジは再び歩き始める。
そうして、大きな池の前へとやってきた。
「この池は、このダンジョンの先へ進むための目印の一つだ。
入り口からここを目指して、ここから次の階段を目指す」
:魚いないの?
:そういうスポットがあるダンジョンはありがたいんだよね
:道に迷った時とかこういうスポットを見つけた時の安心感よ
「このダンジョンはあちこちに、こういう池が点在しているらしい。ただ池の中に魚はいないとされている」
:解説助かる
:コメント欄にこのダンジョンを知ってそうな人がいない辺りマイナーなところかな
セイジは解説しつつ、池を覗き込む。
澄んだ綺麗な池のようだが、魚影のようなものは見えない。
「……実際に見てもいなさそうだな」
:残念そうだw
:いれば話は早かったのに笑
:綺麗は綺麗なんだけどなー
「ともあれ目的地は、次の階にあるとある池だ」
そう告げると、セイジは再び動き出す。
相も変わらず
:うーん昆虫系が多すぎて魚以前の問題な気がしてきた
:蛇はまぁともかくネズミって可食なのか?
:リアルのセミは美味いやつもいるぞ
:料理すらできないパターンもあるか?
:料理無しパターンそれはそれでニキの反応知りたくてワクワクする
:そもそもセミ型モンスターもいないだろ
:ていうかセミ喰ったコトあるやつが視聴者にいるんだな
:スルーしかけたけどなんでセミの味知ってるヤツが混ざってんだ?
少し進むと、入り口と似たような巨木があり、その洞の中に階段がある。
セイジはためらわずそれを降りて次の階へ。
:おお
:へぇ
階段を降りて洞から出ると、コメント欄に感嘆の言葉が流れていく。
「一階と違って二階は少し華やかになる」
ほとんど緑一色のような一階と比べると、二階は草木に花や実りが増えている。
相変わらず空は厚めの雲が多いのだが、雲間から覗く陽光のような明かりに照らされる草木はそれだけで芸術のようだった。
「まぁ気をつけるべきコトは代わりがないので、進ませてもらう」
:探索者じゃないんだけど風景見たくて探索してみたい
:ダンジョンならではの風景探しってハマる人はハマるんだよなぁ
:どこぞの鶏ジャンキーとかたまにそういう配信してるよな
セイジはスマホで地図を確認して、目的地へと進んでいく。
:モンスターは代わり映えしないか
:テントウムシみたいなのが増えてはいる
:結局虫かよ!
そんなこんなで、新しい池の前までやってくる。
「この池から階段方面を目指すと、草原狼という緑色の体毛をした狼の巣を突っ切る必要があるらしい。だが、オレはそちらに興味はないので、逆方向を目指す」
:このダンジョンで毛が緑の狼は怖いな
:狼の巣ってくらいだから群れてるのか?
:想像すると面倒くせぇ
そして、目的地を目指す傍らで、ふと思うことがあって足を止めた。
ドローンの頭頂部を操作してホロウィンドウを表示すると、リスナーへ訊ねる。
「……ところで、カニは魚料理に含んでいいか?」
:個人的にはアリ
・だめ
:まぁいいかカニ?
:ダメでしょ
:いいよ
:カニは魚かどうかって言われるとカニだしなぁ
:個人的にはNG
:カニはダメカニ
:そこは妥協しないで欲しいなぁw
:ダメかなぁ
:ダウナーさんの困ってる姿見たいんでNGで!
:そんな妥協はニキらしくない!
:カニや貝は魚ではないと思う
:ナシで
「……くっ、想定以上にNGが多いな。仕方ない、もうちょっと考えるか……」
セイジはホロウィンドウの表示を消しながら、彼にしては珍しく弱音っぽいことをぼやく。
:いまのボヤき良い!
:レアなダウナーさんが見れた!
盛り上がるコメント欄を余所に、新しい池へとやってきた。
「この池には初めて来たが、いい場所だな」
:モネの池みたい
:綺麗だな
:水底にカニが歩いている!
:あー……カニはいるなw
:なんか花で着飾ってるみたいな可愛いカニだ
実際、これまでの池と比べると透明度が段違いで高く、周囲の植物や水草、花の感じなども相俟って、コメント欄の言う通りモネの池を思わせる。
「……魚は、いないか……」
この池の反対岸の方は湿地帯のようになっている様子だったので、泥土の絡まり魚などを期待しているのだが――
「
:珍しい本気で困ってるw
:まぁこのお題は厳しいって笑
:ニキが始めた物語だけどな!ww
「ん……?」
池の周りをぐるっと歩きながら、セイジの視界にふと影が過った。
それが気になって、池の中を覗き込む。
「もしかして、もしかするのか?」
水底を歩くカニばかりが目に入っていたのだが、僅かに魚影が見えた気がする。
案外、池の中をつぶさに観察する探索者がいないせいで、情報がないだけの可能性がある。
「……みんな、最初に謝っておく。ただでさえトークの少ない静かな配信をしてしまっているオレだが、今日は特に、動きも何も無い静かな配信と化すかもしれない」
:なんだ?
:ニキ、何かに気づいたのか?
:どうしたんですか?
ドローンへ向けて軽い謝罪をしたあとで、セイジはSAIから釣り竿を取り出した。
リールとかは付いていないシンプルなモノだ。
:釣り竿の用意はしてたのか
:そりゃしてるだろ魚探してるワケだし
:あれ?もしかして池にいた?
「この辺りでいいか」
岩が並んで桟橋のようになっている場所を見つけると、そこで準備を始めた。
練り餌を取り出し、池の水を加えて練り上げていく。
それを針につけると、岩の一つに腰を掛けてセイジは糸を投げた。
:釣りスタート!
:さて何が釣れるかな
:っていうか魚いるのかここ?
:ドローン越しに見る限りだと魚っぽいの無い気がするが
「…………………………………」
:……待って!?このまま喋らず糸を垂らし続けるの!?
:このまま無言でいくのかニキ!?
:釣果ゼロだったらマジで虚無配信化するぞ大丈夫か!?
:魚料理だめでも水底のカニくらいは料理して欲しい
:本当にいつも以上に喋らない配信始まったぞww
:いつにもまして静かすぎる・・・
:もはやAMSRとしてすら音がなさ過ぎる。。。
:吐息!せめて吐息だけでも…!
:吐息すら聞こえない……!
:ドローンも背中から撮影してるダケだからメカクレもないよ!!
:指先も見えない!!
:喉仏を拝ませてください!!!!!!
:フェチネキたちすら困らせてる・・・
:アーカイブで見てる人たちへ この釣りは飛ばしていいと思う
「…………………………………」
:ダウナーニキ!!
:マジで身動ぎせず糸を垂らしてる・・・
:あれからどれだけの時間が経ったのだろうか……
:アーカイブで見てる人たちへ まだ終わってないから飛ばしていいよ
:まだ十五分くらいかな?
:さすがにきつい 釣果はアーカイブで確認するわ
「…………………………………」
:ねぇ大丈夫この配信!?
:微動だにしない動画扱いで強制終了されない?
:いやさすがにそれはないと思うけど
:ニキの虚無配信すきだけど今回は虚無過ぎてギブアップしそう
:ニキ!頼むからニキ!少し動いてくれ!
:ダメだドローンが背後で固定されているから・・・!
:そもそもワ○ルドさんからはドローン上にウィンドウ表示しないとコメント見れない仕様じゃん!
:どうすんのこれ・・・
:もはや放送事故レベル
「………………!!」
:アーカイブで見てる人たちへ この辺りから動くよ!!
視聴者が不安になりはじめた頃に、セイジの様子が変わった。
見れば、浮子が激しく動き始めている。
水底を見ると、さっきまでは見えなかった魚影が何匹が見えていた。
しばらく様子を見ていたセイジは、何か確信を持った様子で竿を引く。
:魚影だ――――!!
:来た!
:ぎょえええええ!!
:何か釣れてくれ頼む……!
:これで根掛かりとかだったらどういう顔していいか分からんぞ!
:ゴミとかはさすがに掛からないと思いたいが・・・
:分からんぞ枝くらいなら掛かる可能性は十分ある
ややすると、ドローン越しでもそれの姿が明確になり始める。
:魚だ!!
:マジで釣りやがったのか!
:いやまだだちゃんと引き上げるまで安心するな!
池の中で暴れるその魚を見る限りは、すこし太ったサンマのようなシルエットで、胴が長く鼻先がかなり鋭い形をしている。
そして、その見慣れぬシルエットの魚との格闘の末、セイジはついに釣り上げる。
:釣れたぁぁぁ!
:よくやったニキ!
:すげぇちゃんと草原で魚達成しやがった!
:まだ料理してないぞ
「ふぅ……粘った甲斐があったな」
釣った魚はシルエットから感じたイメージ通りの姿もしていた。そして鼻先はカジキを思わせるようなかなり凶悪な形状をしていた。
ただ、その鱗は光に照らされると虹色に輝いており、非常に美しい。
モンスターというよりも、ダンジョン産の魚と呼んだ方が良い雰囲気の生き物だ。
「とりあえずこれは、クーラーボックスに入れよう」
生き物はSAIに入らない。
だから、セイジは用意していた氷を詰めたクーラーボックスをSAIから取り出すと、釣った魚をそこへと入れる。
「……ん?」
これであとは調理するだけだ。
そう思った時、何やら池の様子が変わった。
「なんだ?」
どこに隠れていたのか、池の中に今し方釣った魚と同種の魚たちが姿を見せ始める。
姿を見せるなんてレベルではない。どこから現れたのか、池の中に満員電車を思わせる勢いで増えていっている。
バシャバシャバシャバシャと水面を激しく揺らしながらもその数はどんどんと増えていっているようだ。
「……嫌な予感しかないな」
:なんで急に出てきたんですかねぇ・・・
:ニキ逃走用意!!!
:なんなんだこいつら
:いやまてカジキのような鼻の形を思うに
やがて魚たちは水面から顔を出す。
魚たちは全員、その鼻先を真っ直ぐにセイジに向けているようだ。
セイジが動くと、鼻先もセイジの動きに合わせて動く。
「……だいたい予想ついたぞッ!」
セイジは舌打ちとともにそう呻くと、急いで岩場から移動して、岸に戻る。
そして、すぐにクーラーボックスを邪魔にならないところへと投げ、剣を構えた。
「受けて立とう。魚は欲しいしな」
:ちょ!
:大丈夫?!
:ニキにしては珍しく欲望に忠実な言葉だ
ややして、虹色の鱗を持つ鼻の長い魚たちが一斉に池から飛び出してきた。
まるで自分自身をダーツや投げナイフであるかのように、勢いよく。刺し殺す気概を感じる突撃だ。
ズバババババババと、池から飛び出してくる音はガトリングガンを思わせるほど激しく連続して響く。
:多い多い多い!!!!
:なんじゃこりゃぁああああああ
:どうすんのこれ!!!!
自分に迫る大量の魚を見据えながら、ほんの僅かにセイジの口の端が笑みに揺れた。
「どうやら大量らしい」
そうして、セイジは飛びかかってくる魚の群れに向かって、居合いを構えながら一歩前へと踏み出した。
【Idle Talk】
アーカイブのコメント欄の一部より抜粋
『アーカイブ気に掛けニキまじでありがとう』
『アーカイブを気に掛けてくれるリアルタイムコメントのおかげでタイムスタンプ作りやすくて助かった』
『これリアルタイム勢は虚無時間どうしてたの??』
『配信おとされるギリギリだったのでは?』
『くそリタイアしたあともう少しでこんな面白いコトになってたなんて・・・』
投稿主
『これ、自分で見ると反省する以外の何者でもないな。次からは気をつける。虚無虚無タイムに付き合ってくれたリスナーさんは本当にありがとう』