ダウナー・ジャジー・シーカーズ~テンション低めの気怠げお兄さんによる飯テロ有の悪くないダンジョン配信~ 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
「……さて、呼び名もないと不便だし、暫定ガトリングダーツとでも呼ぼうか」
:ガトリングダーツwww
:いやまぁ間違ってはいないな笑
「なんでそんな物騒な名前を……」
「一匹釣ったら、今まで姿が見えなかった池から百匹以上の魚が顔を出し、かと思えば、全員が鼻先をこちらに向け、ガトリングの如く一斉に飛びかかってきたので……」
「えぇ……」
:ステラさんドン引きしてて草
:いやまぁ説明聞くと引くってw
:あれはダウニキじゃなければ死んでたレベルではあるからなぁ
「食べれるかどうか。味はどうかの確認が必要だし、とりあえず焼くか」
「そんなノリで大丈夫なんですか?」
「今日はこのダンジョンで現地調達した魚で料理を作らないと配信を終われないんで」
「お題の難易度高すぎません!?」
:ステラさんのツッコミが心地よいw
:まぁ当然の反応ではある笑
「サイコロで決めたものでして……」
「……ある意味で配信に愛されてる出目とも言えますね。結果含めて」
:なまじVのマネしてるから理解してしまえるんだろうなぁw
そんなワケで、まずはクーラーボックスから一匹取り出す。
潰れたり切れたりしていない綺麗なヤツだ。
それをまな板の上に乗せた。
「こんなのの群れがガトリングのように襲ってきたんですか?」
「そうです」
:改めてみると凶悪だなぁ
:小型のカジキみたいな魚だ
:鼻はカジキだけどシルエットはやっぱサンマって感じ
:
:
「鼻、結構硬いですね」
「先端が鋭いので気をつけてください。本当にダーツとして使えそうなレベルなんで」
「うわ。本当ですね」
:実際ニキに弾かれたのが地面に突き刺さってたしな
:でもこいつらターゲット蜂の巣にしたあと池に戻れるのかな?
:決死の覚悟で群れの敵を殺すタイプなのかもしれない
:ミツバチの集団高温攻撃みたいなもんか
「さてちょっと失礼して」
セイジは包丁を取り出すと、鱗を確かめていく。
「……まるでスーパーで売ってるモノみたいに、鱗が少ない?」
それでも無いわけではなさそうなので、包丁で優しく撫でるように、取れそうな鱗は取っていく。
「鱗はこんなもんでいいか」
確認を終えたセイジはペットボトルのミネラルウォーターを取り出すと、キャップを外してから、ネオンに声を掛ける。
「ちょっと動かして、水を掛けます」
「あ、はい」
ネオンに一言断ってから、セイジはガトリングダーツの尻尾を握り持ち上げた。
それから、少しテーブルから離れたところで、ペットボトルの水をばしゃばしゃ掛けて洗っていく。
洗ったガトリングダーツをまな板に戻し、クッキングペーパーで水気を拭き取る。
鮮魚を握って扱うときは手早くだ。
手の熱で、魚の鮮度を下げてしまう。
「で、塩っと」
少し高めの位置から、多めに感じるほどの塩を振りかける。
まんべんなく振りかけたら、それを馴染ませるように手で軽くすりこんでいく。
「本来は十分くらい置いた方がいいんだが……まぁ、お試しだから、すぐ焼くか」
そう口にすると、包丁で軽く切れ目を入れていく。
「その切り込みって何か意味があるんですか?」
「見た目がサンマに似てるので、一応ですね。
本来のサンマの場合は、こうやって軽く切り込み入れることで焼いている途中で皮が弾けて破れるを防げます。
包丁での切り込みでなくとも、爪楊枝とか竹串とかで少し穴を開けてやるだけでもイケます」
:ステラさんが聞いてくれるからニキが答えてくれる!
:つまりダウナーさんの声がいっぱい聞ける!ステラさんありがとう!!
いつものグリルの上に網を乗せて、その網にオリーブオイルを塗っていく。
少し網を温めたら、その上に塩を振ったガトリングダーツを乗せた。
「焼けるまで時間掛かりそうですね」
「確かに……この時間をどうするか」
:ずっとグリルにカメラをフォーカスしててもいいのよ?
:肉もそうだけど魚が火に掛けられてるだけで飯テロだよなぁ
:食べ物が焼ける音っていいよね
「……待っている間に、いっそもう一つ試しますか」
クーラーボックスの方を見ながら、セイジはそう口にすると、もう一匹ガトリングダーツを取り出した。
「何をするんですか?」
問いかけてくるネオンに意味深な笑みだけ返すと、鱗を取って水で洗い、拭き取るところまで手早く進める。
まな板に戻したら頭を切り落とし、内臓を傷つけないように腹を切って内臓を取り出す。
開いたお腹を良く洗い一度トレイの上に置くと、まな板も良く洗う。
洗ったまな板の上へとガトリングダーツを戻すと、骨に近いところに包丁を入れ一気に尻尾まで切り裂く。
ひっくり返して反対側も同じように切り裂いた。
「うわぁ、板前さんみたい」
:鮮やかな三枚下ろしだ
:魚に触れている指と包丁を握る指!!
:ちょっとゴツついた指が繊細に魚を捌く動きは指ネキじゃなくても来るものあるかも!
:おいでよフェチネキの沼!!
:沼からマドハンドが大量に湧き出したな……
赤味の強いピンク色をした身は、新鮮なサンマにも似た雰囲気だ。
脂によるものか、綺麗なテカリを見せている。
そんな身から骨を外し――
「あ。スルっと取れたな」
意外なほど簡単に骨が取れたことに驚きながら、身に残る小骨を確認していく。
「ピンセットとか使わなくてもスルっと取れるな……」
その小骨も、確認の為に撫でたら、それだけで簡単に取れてしまったことに驚きながら、セイジは作業を進めていく。
:一番面倒な小骨とりが一瞬で終わった・・・だと?
:サンマだったらここで骨抜き使いながらチマチマ抜く作業必要なんだよな
:撫でるだけで取れる骨ってどうなってんだ??
:ダウナーニキだけでなく料理人ニキたちが戸惑ってる珍しい
皮目を下に向けたら、一番端の身を少し剥ぎ――皮と身の間に軽く包丁を当てる。
皮にピッタリと包丁を当てたら、皮を一気に引っ張って引き剥がしていく。
すると、スルっと一気に皮が引き剥がされた。
「……すごい気持ちのいい剥がれ方だったな……」
:わかるw
:皮剥がしは上手く行くと気持ちいいよね!
もう一枚の身の方も同じように皮を剥がす。
「よし」
ここまで辿り着けたことに安堵しながら、身に対して斜めに包丁を入れて、二切れ切り出した。
「焼けるのを待つ間に、こっちも試しましょう」
「お刺身ですか!?」
「ええ。捌いてみた感じ、かなりサンマに近いのは間違いないので」
「ええっと、それって大丈夫なんですか?」
「ダンジョン食材はわりとファジーな処理で大丈夫ですからね。寄生虫とかもいないかと。
あ、試すの怖かったらオレだけ味見しますので言ってください」
「いえ、せっかくですのでご一緒させてください」
「わかりました」
セイジが箸を使います? と訊ねると、ネオンは手で大丈夫ですと答えるので、切り出したうちの一枚を彼女に示した。
ネオンは指でお刺身をつまみ上げながら、自然な動きでドローンの前に見せる。
:さすが馴れた動きだ
:旨そうすぎる
:サンマの刺身って新鮮じゃないとダメだからスーパーだとなかなかありつけないんだよなぁ
「見た目は……ちょっと大きめのサンマって感じですね」
「ええ。味はどうかは分かりませんが……」
:いいなー お刺身
:何も知らなければふつうに美味しそう
:バラムツみたいなオチはないよな?
:たぶん大丈夫だと思うけど
セイジとネオンは意図せずに顔を見合わせる形になったので、互いに無言でうなずきあった。
「では」
「はい」
そうして、二人は同時に口に放り込む。
「あ」
「これは……」
適度な歯ごたえ。噛むと魚の脂の旨味が口いっぱいに広がっていく。
磯臭さはないのに、磯の塩気を感じる風味。
旨味と脂に彩られた海の中を潜っていくと、海底にほんの微かに、果実に似た上品な香気のようなものを感じる。
「サンマのようですけど……」
「ええ。サンマに近いですけど、サンマとはちょっと違いますね」
:ステラさんの顔がもう美味しいって言ってる!
:ワルニキも悪くないって顔してるし!
:美味しいやつなのかよー!
「旨味が濃く、しっかりとした脂の味も感じるのに、後味は上品であっさりしてて……これすごい好きです」
「これはタタキやなめろうにしても美味しいやつですね。刺身でこれだけ美味しいと……」
二人は、グリルで焼かれているガトリングダーツに視線を向ける。
片面が良い感じになってそうなので、セイジはそれをひっくり返した。
ひっくり返した瞬間に、焼き特有の
「匂いだけで美味しいやつですよね、これ」
「間違いないですね」
焼けた皮目が上を向き、食欲をそそる焼き魚の姿を見せている。
まだ片面、されど片面だ。
:っていうかひっくり返された皮目がさぁ!!
:パリっとコゲっとしているそのビジュアル!!
:カジキみてぇなツラしてんのにボディは色っぽいサンマじゃねぇか!
:強面美人の健康日焼けボディに悩殺されちゃう!
じっくりと焼かれているガトリングダーツから、じんわりと脂が滲んでしたたり、火の中へと雫がおちる。
:日焼けボディというか火焼けボディだと思うけど
:褐色美人フェチの皆様におかれましてはいかがでしょうか?
:誰か焼かれたガトダのファンアート描いて~!
ジュッ――という音とともに煙が生まれ、その煙が焼き魚の良い香りとなって、周囲に広がっていく。
:これを褐色美人とか日焼け美人とか認定するヤツいるの?
:食欲にチャームをかけられちゃうくらいに魅力的ではあるけどさ
「これは、いけない……」
「未知の魚から美味しい魚へと認識が変わってしまいましたからね」
:明らかに表情が変わってるもんなぁw
:そんな美味しかったのか刺身・・・
:いっぱいあるから分けて欲しい笑
もう片面を焼いている間に、セイジは中途半端になっている三枚下ろしのガトリングダーツを、全部切り出してお刺身として大きめの紙皿に盛り付ける。
それが終わると同時に焼き魚の様子を確かめる。
「よし」
半分カンながら、セイジは完成を確信して紙皿にあげた。
「わぁ」
ネオンも思わず目を輝かせる焼き上がりだ。
セイジは割り箸を二つ取り出して、一つをネオンに手渡す。
それから自分の箸で、焼き上がったばかりのガトリングダーツを開いた。
ふっくらしっかり焼き上がってることが一目で分かる身。
皮と身の割れ目から、上品な香気と共に広がる湯気。
多めにとって、それをほぐしながら半分に分ける。
片方は自分のもの。片方はネオンの。
「ありがとうございます」
二人は何も付けずに、ほぐした身を箸でとる。
「では」
「いざ」
そして、二人はそれを口に運んだ。
「うわぁ」
:ステラさんの顔がメシの顔に・・・!
:あんな蕩けた顔するくらいの味なのか!
「これは……極上のサンマを越えた味だ……うまく説明できる気がしないが」
「わかります! しかも、すだちやレモンを搾ってないのに、ほんのりとそういう風味もしますね」
「ですね。刺身の時点で感じたそれが、焼いたコトで嫌味のない範囲で強まってるのが、より焼き魚としての美味しさを高めてくれているようです」
:ダイスロールによる草原で魚料理というお題がこんな神がかった展開になることあるの!?
:焼きサンマ食いたくなってきた!
「……ん?」
二人で感想をいいながら焼いたガトリングダーツを食べていると、セイジのスマホがバイブをした。
それに気づいて画面を確認すると、電話番号SMSへメッセージが届いている。
スマホを操作して、メッセージを確認した。
「どうされました?」
「ギルドからですね。ガトリングダーツは全部食べずに近所の大きめなギルドへいくつか持っていけ、と」
「まぁ、そうでしょうね」
納得しかない内容に、ネオンも小さく笑った。
:視聴者にギルド関係者いたのかw
:まぁでも大事よ笑
:完全に未確認の新種モンスターっぽいからなー
「ダルいが、仕方がないか……」
さすがのセイジも、新発見の自覚はある。
気怠げにうめきながらも、SMSから了解の返信を送るのだった。