ダウナー・ジャジー・シーカーズ~テンション低めの気怠げお兄さんによる飯テロ有の悪くないダンジョン配信~ 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
(わざわざメッセージを寄越したってコトは……)
:ん?ニキのスマホになんか来たのか
:ちょっと真面目顔?
セイジは僅かに
クマなどの疲れのサインを探そうとしたが、よく分からない。
「えー……と、なんです?」
「あー、いや……」
:急にどうしたニキ
:ステラさんの顔に何かついてる?
(まぁそもそもメイクとかで隠されてたら分かるわけないか……)
:スマホに何かメッセージでも届いたのか
:知り合いからの謎の指令とかだったり?w
:ああリモコンアクション的な?
:ニキはその手のネタ面倒くさがってやらなそう
(ストレートに行くか。元々、俺も時々口にしてたコトだしな)
いちいち歪曲表現して訊ねるのも自分らしくない――と、そう考えたセイジは軽く首を撫でてから、気怠げないつもの調子で訊ねた。
「今日って、本業オフだからノルマ依頼をしに来たって言ってましたよね」
「え? あ、はい。ですです」
「探索終わった後の予定とかどうしてます?」
:お?ニキ、ナンパか?
:炎上しそうなコト口にしてるけど違うんだろうなぁw
:あーあーあー!なんか聞きたいこと分かったかも
「うーん、まぁ帰ったら家でたまってる書類とか片付けたり、メール返したりとかですかね?」
:あ、こりゃあ
:休日なのに?
「……最近、オフでちゃんと休んだのいつです? 今日みたいに探索してたり、家でたまった書類等を片付けてた場合は休んだとカウントしない方向で」
「…………」
:あ!目を逸らした!
:もっと見つめて追い詰めろ!
:ニキと睨めっこしててズルい!
:ステラさんこりゃあ
:ワーカーホリック系でござったか
「……誰、です?」
ポツりと訊ねる。
照れか羞恥かを誤魔化すような調子で、ネオンは口を尖らせている。
「誰から、連絡きたんです?
ランドさん?
「それだけ関係タレントの名前が出てくる程度には自覚してるんですね?」
:スタブレの事務所だったの!?
:そういや意識したことなかったけどdedとスタブレは事務所同じか
:アイドルにVタレに覆面シンガーに幅広いんだよなぁw
:ランド担当の時点で事務所はわかってたけど色んなジャンル手広く担当してる人なんだ
:あの事務所あんま所内では部門を大きく分けてないらしいしな
「……あの、ところで、スターブレイドの担当された話はあまり聞いたコトないんですけど、してたんですか?」
「いえ」
「してないのに、名前が挙がるですか?」
「ほら、スターブレイドって一時期、メンバー不仲説でネットが盛り上がってたコトあったじゃないですか」
「ありましたね。ネット文化にあまり詳しくない自分の耳に届くくらいでした」
「あの時に各メンバーの相談に乗ったり、メンタルケア的なコトに協力してたりしたら、なんだか頼られるようになってしまいまして」
:スタブレTVでよく話題に出る事務所のすごいお姉さんってステラさんのことだった!?
:スタブレを守ってくれてありがとうございます!!!!
:ファンでなくとも見てて気持ち悪い流れだったもんなあの炎上
:炎上っつーか放火っていうか
:ステラさん敏腕さんなんだねぇ
:それはそれとしてそんなすごい人なら尚のこと休んでくれ
:恩人がワーホリで休まない人だと不安にはなるわな
「まぁ事情は分かりました。なので、改めて聞きますけど、ちゃんと休んでます?」
「や、休んでますよ?」
ネオンは誤魔化すように顔を余所へ向けながら、まだ余っていた骨せんべいを口に投げ込む。
:露骨に視線逸らしてるwww
:休んでない自覚はあるのかこれ
「仕事柄全然休めない日が続くのは仕方ないとは思いますけど、休めるときに休まないと身体壊しますよ?」
「わかっては、いるんですけど……」
セイジの言葉にうなずき、ネオンは両手で紙コップを包み込むようにもちながら、視線を中の烏龍茶へと落とす。
そのまま黙り込んでしまう彼女に、セイジは首を撫でながら逡巡し、訊ねる。
「……時々、隠者の家に行くと料理、出てきたりしてません?」
「あ、はい。友達が作った手作りのお菓子だなんだって、割と。
最近気づきましたけど、あれって全部ワ○ルドさんが作ったヤツですよね?」
「全部ではないですね。隠者が雇ってる家政婦さんが作ったのも混じってるんで。
でもまぁ、それらがなんで用意されてるのかって考えたコトあります?」
「え? 気にしたコトなかったかもです。隠者さんが余ってるから持って帰ると嬉しいって言いながらくれるだけなので……」
「あれ、隠者に依頼されて作ってるんですよ。俺も家政婦さんも。
あんまり休まないマネジャーさんだから、せめて栄養や糖分をって、隠者に頼まれて」
「…………」
:それだけ心配される働きっぷりってことか
:もっと言ってやってください!
:担当されてるタレントたちもほんと心配なんだろうな
:《隠者》もっと言ってもっと!
:お世話になってる人に倒れて欲しくないってのは分かる
:《ランド》がんばれワ○ルドさん!もう一押し!
:なんかワラワラでてきたぞw
:まさか関係タレントみんな視聴中とは思わんてw
:《綯》おせー!押し倒せ-!
:あれ?スタブレのメンバーも見てたり?
:見てるよー!
:ナイちゃんだけ何か違わない???
:ダウナーニキさんヨロシクお願いします!!
:ダウナーさんもスタブレも推しな自分 状況にテンションが追いつかない
「……なんかコメント欄がすごいコトになってますが、まぁみんな心配しているみたいですよ?」
「…………」
ドローンの頭頂部に表示されたホロウィンドウに、ネオンは呆然とした視線を向ける。
その表情の意味は読み取れないが、セイジもリスナーも、そこを茶化すようなマネはしなかった。
心配している嬉しさと、それは別に何かに恐怖するような表情をまぜこぜにしながら、ネオンは大きく息を吐いた。
「……心配してくれるのは嬉しいです。でも休むのが怖いんですよ」
「怖い?」
「はい。連休明けとかにオフィスに行ったら自分の席が無くなってるんじゃないかって」
「これだけ仕事できてる人に限って……あーいや、そうか。実情とかではなく、精神的なモノですね」
コクリ――とネオンはうなずいて、手元の烏龍茶をあおった。
「一度、それを経験しているので。どうしたって、想像してしまうんです。
休み明けにクビにされたとかではないんですけどね。がんばってがんばって、だけどどうしようもない理由で、自分のイスが無くなる。そんな経験があるから、どうしても」
こればかりはどうしようもない――とセイジは、こっそりと嘆息する。
その重しが彼女の心に
だが、その澱が簡単に取り除けないものなのも、理解はできる。
ましてや、セイジにどうにか出来るものだとも思わない。
「……あー……ワ○ルドさん、ちょっと謝らせてください?」
「えーっと、何を?」
「……なんか、こう……優しくされて、気遣われて、それをしっかり受け止めたら……なんか、愚痴というか感情の暴走というか、なんか、止められそうにありません……」
本当に申し訳なさそうにネオンが告げる。
「まぁうちのリスナーは気にしないので、どうぞ。なんなら配信は止めますし」
:そうそう
:どうぞどうぞ
:ムルちゃんやマオさんも通った道や
:やっぱダウナーニキからそういうオーラかフェロモン出てるとしか思えん
「……あははは。じゃあ、お言葉に甘えちゃいます……。
配信は、そのままで。ちょうどみんな居るみたいですし。私の担当の子たちもそうでない星を目指す人たちにも、アラサー女の失敗談、聞いて欲しい、かな」
「自虐しすぎはよくないですよ」
セイジがお茶を口にしながらそう告げると、ネオンは特に何も言わずに弱々しい笑みを浮かべてから、話し始める。
「私も以前、タンレトとして一番星を目指してました。その為のイスにも座ってたんです。運良く座れたとも言いますけど。
そして一番星に手が届かなくとも、せめて一番星を間近で見れる場所くらいまでは行きたい――そんな分不相応な夢を抱いて、星を目指す為のイスに座ってたんです」
:元タレントか
:もしかしてと思ってたけどたぶん知ってるアイドルグループだ
:今も美人だし全然行ける気がするけど
「でもそのイスは、同じイスに座る人たちの荒波に耐えられず、一年も経たないうちに壊れてしまいまいた」
まだ残っているアヒージョをよそい、一口食べてから、ネオンは自嘲気味に笑う。
:実際無名タレントって俺らが思っている以上に多いだろうな
:漫才やコントのトーナメントに知らないユニット参戦したりするしな
:大多数のアンテナに引っかからないマイナータレントも大変だよな
「自分たち用のイスが手に入った時は嬉しかったんです。みんなで喜んで。
でも、そのイスに腰を掛けて一番星を目指して出発すると同時に気づくんですよ。一番星の周囲にどれだけの数の、これから輝く星々が存在するのかって……自分たちと同じようなイスに座っている人たちが、自分たちの周囲に一体どれほどの数が、こんなに隠れていたのかって。
それこそ、一匹釣ったら百匹顔を出すガトリングダーツのように」
:まぁ厳しい世界ではあるよな
:イスが壊れなくてもイスに座っている人が壊れることもあるだろうしな
「中には、自分たちが強い輝きを放つイスに座っている自覚ない人もいましたよね。
そのイスに座ってれば一番星に容易に近づけるだろうに、好きに歌い好きに踊り好きに騒いで消えていく、そんなインディーズ未満の人たち……そういう人たちをメジャーデビューしている自分たちと比べちゃったりもしましたね」
:あー……
:野生のプロとか呼ばれたりする連中な
:ふとしたキッカケで話題になったという点ではアルカナムとか筆頭よな
:ネット社会になって自分でも誰かでもすぐ話題にできるようになったからな
:歴史上一番インディーズとメジャーの距離が近いのが現在とも言えるか
:個人勢配信者レベルでなくとも完全な素人の歌ってみた踊ってみたやらもいっぱい動画あがるしなぁ
コメント欄にアルカナムの名前が流れていったのに気付いて、セイジはカメラのフレームの外でなんとも言えない表情を浮かべた。
「振り落とされないように必死にイスにしがみついていても、どうにもならない。
名も無い星が、三番星や二番星になるコトすらも容易じゃない。頭では分かっていたコトですけど、荒波に振り回され続けてようやく実感したといいますか。
結局、私たちのイスは輝くコトはなく、彗星のように消える直前に輝くコトなく、ただひっそりと――誰ともしれない名も無き星のまま、壊れるコトもなく地に堕ち、人知れず消えました。
その時のグループ終了の話があったのが、休日明けだったんですよね」
:ステラさん・・・
:実力主義社会とはいえね
:エンタメ業界は無数の同業者の涙の上に成り立ってるのかもね
「そうして私は一番星を目指すアイドルを辞めて――まあ間に
「ああ、だから良い意味でお節介焼き全開でお仕事されてるんですね。スターブレイドの皆さんのケアとか、本来の業務ではないでしょうに」
「あはは。そうなんですよね。でもあのままスターブレイドの皆さんが星を目指せなくなる姿は見たくなかったんですよ」
:嬉しい嬉しいけどやっぱり休んで!!
:オレらのコト気に掛ける前に自分を気に掛けてください!!
:明らかにスタブレ本人たちのコメがちょいちょいw
:なんのチャンネルか分かんなくなってきたがいつものコトだなガハハ
:ステラさんすごいな そこでマネジャーとしてタレントに関わるって決められるの
:まぁいつものコトというか相ダンモードというかw
:業種違えど荒波に心折れた自分に刺さりすぎてつらい
:ニキの優しく気に掛ける声に救われる命があります!
「……でまぁ、どうしてわざわざ経緯を語ったかと言いますと……そんな経緯だからこそ、休むの怖いんです。
休み明けにイスがなくなるコトもですけど、休んでる間に担当している子に何かあったらどうしようって、そういうコトばっかり考えちゃって。
何かしてないと落ち着かないと言いますか、最悪ばかり考えちゃうといいますか……」
あはははは――と笑う顔は、輝きの薄い星のように弱々しい。
:休日明けの終了宣言は結構なトラウマっぽいな
:そりゃなぁ 薄々気配を感じててもショックだろ
「そういう経緯があると知ると、確かにちゃんと休むというのが難しいのは理解しますが……」
だが、このままで良いとも思えない。
今のネオンは、他人の夢が叶うように星に願っているのに、自分のことは一切願ってないような状態だ。
しかし、セイジたちが何というとも、担当タレントたちがどれだけ心配しようとも、言葉がなかなか届かない。
(この人をちゃんと休ませるの、相当ダルいな……どうするか)
そんなことを思っていると、スマホに結構な数のメッセージが届いている。
届いたメッセージをチェックしながら、セイジは思わず声に出してうめく。
「なんでどいつもこいつも、こんなにお節介焼きなんだ?」
その声はしっかりとマイクに拾われており――
:お前がいうな
:今日のおまいう
:絶対ニキが言って良いセリフじゃない
:うーん無自覚
:いいぼやき声!
――リスナーたちはもちろんなのだが、
「ワ○ルドさん、鏡って知ってます?」
さすがのネオンも、そう言わずにはいられなかった。
:ステラさんも鏡見てください
:このお姉さんも人ごとじゃねーんだよなぁ
:ステラさん!自分セレッシュのCD全部持ってます!当時からファンです!!
もちろん、そんなネオンに対してもリスナーはツッコミを忘れなかった。