ダウナー・ジャジー・シーカーズ~テンション低めの気怠げお兄さんによる飯テロ有の悪くないダンジョン配信~ 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
:ステラさん!自分セレッシュのCD全部持ってます!当時からファンです!!
「あ、あの……今、セレッシュのファンって……」
「セレッシュ?」
「えっと、あの、私がやっていたグループといいますか……」
しどろもどろなネオンに対して、コメント欄に畳みかけるようなコメントが流れはじめる。
:何年か前にちょっとだけあったアイドルグループだな
:ステラさんの美人っぷりなら元アイドルも納得
ついでに、セイジのスマホもさっきからちょこちょこバイブしている。
なんか、あちこちからメッセージが届いているようだ。
配信中であることを意識しつつ、リスナーたちにあまり気づかれないようにちょこちょこと確認していく。
:ファンよやれ!もっとファンアピールしろ!
:ダウナーさんが許さなくてもコメント欄が許す!
ふと、目に付いたコメントにセイジは思わずツッコミを入れた。
「いやオレの許可なくやるなよ」
:草
:それはそうw
:ンンンンン!まさに正論!!でもやれ!!!
:ニキ!今回だけは許してあげて欲しい!!
:みんなテンション高くなってて草
とはいえリスナーの言いたいこともわかる。
メールやメッセージも各所から届いていることだし。
「……まぁオレもヤメロとは言わんが……ほどほどにな?」
:許可が出たぞ!!!!!
:今だ!推せー!推し倒せー!
:推しは推せる時に推せ!解散したグループの推しに会えたならチャンスだ!
:チャンネル主が許可してくれたんだからやらなきゃ損だぞ!!!
「つくづく調子の良いリスナーたちだが……。
まぁ、そういう情熱はオレにはないものだしな。見てる分には悪くない」
:悪くないキタ!!
:こうやって改めて推せ推せ言われるとどうしていいか困る
:ヒヨるなよ!解散したグループならマジで声かけるチャンスなんだから!
:悪くない扱いなら大丈夫そうだ!
:解散したグループ宛のファンレターとか事務所も扱い困るって聞くし
:そう聞くと何か言わないとって思うけど・・・
盛り上がるコメント欄を余所に、セイジは横にいるネオンをチラりと見遣る。
ネオンは完全に固まってしまっている。
かつての自分のファンという存在を目の当たりにして困惑しまっているようだ。
もしかしたら『売れなかった』という言葉が強すぎて、自分たちにファンがいなかったと思い込んでいる可能性がある。
「ステラさん」
「え? あ、はい! なんでしょう?」
「ステラさん――というかステラさんの所属していたグループのみんなって、自分たちのファンのコトをどう思っていました?」
「……え?」
まるで虚を突かれたかのような顔をする。
ならば、これは言っておくべきだろう。
「タレントとして売れなかったコトと、タレントとしてイベントやグッズなどが売り上げが0だったコトは別ですよ?」
「いえ、でも全部ひっくるめて売れなかったってコトじゃあ……」
「そうですね。単純な事実だけなら、前者は後者を含みます。でも、ファンや推しという言葉を考慮するなら、少し変わります――正直、それをタレントに伝える仕事をしているはずの貴女が、どうして気づいてないんですか?」
:ありがとうニキ 普段推し活してる私も救われるかも
:そうだそうだ!もっと伝えてくれ!!
:売れなかった=ファンが0ってコトではないしなぁ
「ステラさんは業界的に見れば売れなかったタレントかもしれません。
でも、実際のところイベントやグッズ、CDの売り上げは0でしたか?」
「……あ」
「コメント欄でも言われてますけど、グループとしての売り上げは赤字だったという結果があったとしても、グループのファンが0だったとは限りません」
実際、コメント欄にはネオンが属していたグループのファンを名乗る人がいるのだから。
:ダウナーさん、ダウナーさんの配信であることを承知の上で、ステラさん宛の長文コメントを投稿しても良いでしょうか?
「いいぞ。ランドたちの頼みもあるしな。まぁそうでなくても、必要だ」
「ワ○ルドさん!? なんで急に……」
「……オレのスマホに、ステラさん宛コメの許可をお願いという旨のメッセージが大量に届いている。送り主は誰も彼も芸能関係者ばっかりだ」
ネオンとは会ったことがないはずのムルからも、お願いメッセージが届いている。
セイジには分からないことだが、芸能関係の世界にいる人たちからは、ここでファンのメッセージをネオンに届けるのは大事なことだと思ったのだろう。
それほどまでに言われるのであれば、セイジとて
:ダウニキって芸能関係者の知り合い多いのかな?
:カイズやムルちゃんだけでなくステラさんに、ステラさんが担当してるタレントに、、、
:事務所にも顔を出して顔を覚えられてるみたいだしこの性格だから連絡先交換してるタレント多そう
:実際ランドから連絡きてたみたいだしなw
:十分にありえるww
ややして、先ほどの宣言通りにネオンのファンがコメントを記した。
:人生どん底の時にセレッシュの曲とであって勇気を貰ってからずっとファンです。当時貧乏底辺生活していたのでグッズもほとんど買えなかったですがCDだけはなんとか予約して発売日に買わせてもらってました。転職して給料がまともに入るようになってから色々買いあさろうと思った矢先の解散でしたが直後に買えるモノは買えるだけ買わせて頂いております。楽曲のサブスク配信もないのでCD等でリピしてますがもし可能でしたら配信をお願いします。CD擦り切れそうなので笑。もう会えないことを残念に思っていましたがこのような形でホッシーちゃんと再会できるとは思ってもみませんでした。一度現場に立ち歌って踊っていたホッシーちゃんだからこそ言えること教えられることがあるでしょうから担当されている人たちも励まされていると思います。皆さんから心配されているようですが元気な姿を見れてセレッシュのファンの一人としては大変嬉しく思います。出来ればもう少し周囲の言うことを聞き入れてお体を大切にしてください。解散してしまったとはいえセレッシュのメンバーが倒れたというニュースなどは見たくありませんので笑。ダウナーさんを含む周囲の皆さんはホッシーちゃんが倒れないよう見ていて頂けるとファンとしても嬉しいです。セレッシュは業界の一番星にはなれなかったかもしれませんが私にとっての一番星であることにはかわりません。流れ星となり地に堕ちる最後までを見届けたファンの一人として、セレッシュのことをキズではなく誇りにしていただければと願いながらも、ホッシーちゃんがマネージャーとしていっそう活躍できることを祈っております。この度はこのような機会をくださりダウナーさんとこのチャンネルのリスナーさんの皆さん。ありがとうございました。
「……このままだと読みづらいでしょうから、コメントをコピーしたモノをLinkerで送りますね」
「……はい」
ポロポロと無意識のうちに零している涙を拭いもせずに、ネオンはうなずく。
「……あ、ぅ」
ネオンは自分のスマホを取り出して、Linkerに届いたメッセージを穴が開くほどに凝視しながら、小さな嗚咽を漏らしている。
そのことには特に触れず、セイジは空になっている彼女の紙コップへと烏龍茶のおかわりを注いだ。
:なんて綺麗なメッセージだ・・・
:私には眩しすぎるぜ、、、
:オレたちはいつからこんなピュアなファン感情を忘れてしまったというのか…
:フェチ魂が!ワイのフェチタマが!浄化されてしまうかのようだ・・・
:コメント欄が浄化されてて草
:なんでフェチネキたち苦しんでるの?
:ピュアっピュアっなのはそうだけどさ
:いやお前らのフェチタマとやらは下水浄水場でも浄化不可能だろ
:エンタメ業経験者からすると泣きたくなるくらいのラブレターだぞこれ
「……よく分からないが、タレント業もそれを追いかけるファンも大変なんだな」
:このアニキはこのアニキで微妙に他人事だなw
:まぁ実際他人事だろうしなぁ・・・笑
ドローンのカメラはすでにネオンを映してはいない。
ただそれでも、コメントが彼女の泣き声のようなものを拾ってはしまっている。
しかし、コメント欄も決して泣いているネオンに対して、触れることはなかった。
:PS、セレッシュを箱推しはしてますが推しメンもいます。推しメンはラッシーちゃんです!
「それは余計なコメントすぎるだろッ!」
流れてきたコメントを見て、セイジは思わず噴き出してからツッコミを入れる。
それは当然、他のリスナーたちも同じだった。
:そこホッシーちゃんじゃないの!?!?
:おいwwwww
:オチつけるんじゃねーよ!!
:草草
:ピュアに浄化されかかったフェチを返せ!!
:ウッソだろお前笑笑笑
:とんでもねぇ追加コメントすぎて草
:PS付ければ許されると思うなよwww
:この流れで推しメンがステラさんじゃないコトあるの!?
:どうすんだよこの空気wwwww
:綺麗になった私らのフェチ魂をどうしろってんだ!!
「……まぁこれも一応コピペしてLinkerでステラさんに投げるか」
:投げるの!?
:ちょっとワルニキ!?!?
:もしかしてダウニキってドSだったりします?????
:オチつけるの!?
セイジの独り言をマイクが拾ったので、コメント欄の混乱がさらに大きくなっていく中、恐らくはLinkerにメッセージが着弾したのか、ネオンの思い切り吹き出す声が聞こえた。
「ちょ!? あはははは! この流れで私じゃないんだ!! あははあはははは」
:あ、ウケてる
:良かった笑ってくれた
:ここで凹まれたらどうしようって思ったけど
ひとしきり笑ったあとで、ネオンは涙を拭うとカメラOKという合図をセイジに向けた。
それにセイジはうなずくと、腕時計型のデバイスでドローンの設定をいじる。
「あー、もう……オチまで完璧で最高のメッセージでした。メッセージをくれた人ありがとう。本当に」
笑いながらも
それを軽く拭ってから、ドローンに向けられた笑顔は、セイジが見たことのない笑顔だった。
恐らく
「これ、セレッシュのメンバーと共有しても、いいですよね?」
:恥ずかしいですけど 大丈夫です
「まだ繋がりがあるんですね」
セイジの言葉に、ネオンは苦笑する。
「……いやぁ実はみんなとは解散後は音信不通で……」
そう口にしながらも、ネオンはお互いに連絡が途絶えてしまった理由は理解できていた。実際のところは自分たちの状況を消化するのに必死で他のメンバーを気に掛けられなかったというのが大きいだと。
それでも何か希望と決意に満ちた顔をして告げた。
どうせみんな自分と同じで、気づくと音信不通になってしまっていたから、今更どんな顔をしてやりとりすれば良いのか分からなくなっているのだろう。
だから、今回の一件は本当の意味で、話のキッカケになることだろう。
「音信不通ではあるけど、このメッセージはどうしてもみんなで共有したいから、今の立場をフルに使った職権乱用で、連絡先を見つけます」
「その宣言はその宣言でどうかと思いますけど」
:ステラさんなんかすごい良い顔してる気がする
:ワルニキもツッコミが大変そうだなぁw
「まぁなんであれ、ステラさんのワーカーホリック具合がそれで多少落ち着くコトを祈りますね」
「あははは……」
セイジの言葉に、ネオンは誤魔化すような苦笑を浮かべる。
:うーんこれは重傷の予感
:そもそもワーホリ体質なんだなこの人
:メンタルの原因が解消されてもワーホリのままっぽいなーw
コメントのようなツッコミは敢えて口にせず、セイジは付け加えるように告げた。
「そういえば……詳細は配信の外で決めるとして――何人かからどっか遊びに行こうというメッセージも届いてるんですけど」
「え? 私とですか?」
「この状況で届いたんです。それ以外に何があるっていうんですか?」
:これは本当に重傷なのでは?
:今の流れで自分が誘われてるって考えないのは厄介な・・・
:ステラさん重傷だなぁ
:マジでダウナーさんとそのお友達一同はステラさんに休み方教えてあげて欲しい
「まぁ最悪、そちらの事務所の社長さんに相談して、ステラさんに休暇強制してもらうという強硬手段もなくはありませんが」
「本当に出来ちゃいそうなツテ持ってる人に言われると冗談に聞こえませんよ!?」
:冗談だと思ってるのか
:ダウナーさんわりと本気で言ってそうなのに
「メンツ的にオフなのに配信始めそうなメンツですが、そのときはそのときですね」
:あーw
:カイズ、ランド、ムル、スターブレイド辺り関わってそう
:隠者さんって人も絶対にメンツにいるでしょ笑
「当日、逃がす気はありませんので必ず参加するように」
「あれ? 強制!?」
:今の声よき!
:甘くてSっぽい今のもっとください!!
:女性リスナーが色めき立っておる
:いつも以上に何の配信かわからなかったなw楽しいんだけどw
:配信内容が途中で方針が迷子になったり相ダン所になるのは定番だろ笑
:そろそろ偶然ではない相ダン依頼とか発生しそうで草しか生えない
そんなこんなで、ネオンとのガトリングダーツ実食は、お片付けの時間を迎えるのだった。