ダウナー・ジャジー・シーカーズ~テンション低めの気怠げお兄さんによる飯テロ有の悪くないダンジョン配信~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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007.ムル と ダウナーニキ と コメント欄

 

 

「うわ! やわらか! 美味しい!」

 

 アイアンウールのジンギスカンを一口食べて、ムルは思わず声を上げた。

 

 その様子は生配信されている為、視聴者たちは窟魔ムルの配信チャンネルのコメント欄に、好き勝手なコメントを書き込んでいく。

 

:このメッセージは削除されました

:いい声だ

:そんな美味しいんだ

:視界共有型配信だからムルネキのメシの顔を見れないの残念

:メッセージは削除されました

:助けてくれた上に焼き肉ごちそうしてくれるとかダウナーニキ良い人だ

 

 コメント欄には色々なコメントが流れているが、コメント確認用のホロウィンドウを閉じているムルの視界には入ってこない。

 

「野菜もおいしー! タレとアイアンウールの脂が混ざって格別!」

 

:視界共有型だと咀嚼音ってこんなASMRみたいに聞こえるんだな

:シャキシャキキャベツの音捗る

:メッセージは削除されました

:メッセージは削除されました

:なんで男とメシくってるんだよ

:ムルちゃんの配信でメシテロ喰らうのは想定外

 

 ムルとしてはホロウィンドウを開き、コメント欄を見ながら食べたかったのだが――コメント欄が荒れに荒れているので、慌ててホロウィンドウの表示を消したのだ。

 

 彼にも見えてしまう状況で、彼を悪く言うコメントが流れる様子は見せるわけにもいかない。

 

 それでも、ダウナーさんが許可してくれたので、配信を切らずにそのままジンギスカンをごちそうになっているのだが――やっぱり切っておけばよかったかも……と、思わなくはなかった。

 

 今更なので、ムルとしてはこのまま突っ切るしかないと腹を括っているのだが。

 

「確かに悪くないんだが……」

「ダウナーさん、どうかしました?」

 

 ジンギスカンを作っているダウナーさんは、何やら難しそうな顔でうめいている。

 

「いや。自分で作っておいて言うのもなんだが……味付けが濃かったな、と。正直、酒か白米が欲しくてしかたがない……」

「お酒は分かりませんが、お米が欲しいというのはとてもわかります!」

 

 悔しそうにうめくダウナーさんに、ムルも握りこぶしをつくって同意した。

 

:そんなに旨いんか

:焼き肉に白米はジャスティス

:メッセージは削除されました

:ムルちゃんお酒への反応鈍いな

:淡々としてるけどダウナーニキ面白い人だな

:動きがのんびりしてるのに居合いすごかったな

:ダウナーニキに殺意向けてる人大丈夫?

:メッセージは削除されました

:大丈夫じゃないんだよなぁ

:なんでお前らアイツに好意的なんだよ!!

:だってダウナーニキがいなかったらムルネキ死んでるじゃん

:スプラッタなムルネキはノーサンキュー

:ムルちゃんは一般配信もしてるから勘違いされがちだけど本業は探索者なんやで?

:ダンジョン配信は配信者の命がけエンタメだってのをいい加減理解しよう

:ムルちゃんダンジョン配信なんかしなければいいのに

:企業も個人も近いタイミングで一斉にやってたいつぞやの啓蒙配信を思い出してもろて

:メッセージは削除されました

:一般配信から入ってきた人たちはそもそも啓蒙知らないんだよなぁ

 

 コメント欄こそ見てはいないが、ムルとてコメント欄が荒れ続けてるだろうな――くらいのことは想像できている。

 

 とはいえ、ダウナーさんに命を救われたのは間違いない。

 それを悪くは言わないで欲しい。

 

 ダンジョン配信者としてのムルを求めているリスナーたちはそれを分かってくれるだろうが、歌ってみたとかゲーム配信だとかの一般配信を求めているリスナーたちは違うだろう。

 

 つくづく立ち回りというのは難しい。

 そんなことを思いながらも、ムルは表面上は取り繕いつつ、雑談をする。

 

「ダウナーさんは、いつもこうやってダン材料理を現地で食べてるんですか?」

「いや。今日初めてやった」

「そうなんですねぇ。料理上手みたいだからいつもやってるのかと」

「十年くらいは料理屋で働いてたから」

「ベテランの料理人さんじゃないですか! 専門のお店とかです?」

「……いわゆる町中華。でも勤めてた店の店長が店を畳んだから、今は無職」

「食べに行きたかったけど残念。でも、料理ができるなら引く手あまたでは?」

「どうなんだろうな……」

 

 ダウナーさんは困ったように首を傾げている。

 

「料理は嫌いじゃないんだが、料理人としての仕事が好きかと問われると……どうなんだろうな」

 

 悩ましい――と口にして、ダウナーさんは自分の首を撫でた。

 困ったり考えたりするときに首を撫でるのは、クセなのだろうか。

 

「天職ではないが、嫌いではない仕事だったとは思う。ダルくはなかったから、性に合ってたというか……。

 ただ……性に合ってたと感じるのは、あの店だったから――と、思わなくもない」

 

:それなんか分かるわ

:ダウナーニキの感じ分かるな

:天職じゃないけど性に合う そういう考え方もあるのか

:天職じゃあないが居心地が良い職場っていうのいいよな

:メッセージは削除されました

:結局ただのニートだろ

 

「じゃあ、次のお仕事探しの一環ですか?」

「そんな大層なモンでもない。

 元々極端に面倒くさがりなのもあって……店がなくなってから日々を怠惰通り越して虚無に過ごしてたんだ。

 このままじゃあ貯金がつきるまで怠惰に虚無に生きてしまいそうだと感じてな……。

 そんな生活はイヤではないが、人間としてダメだと思ったんで、思いつきでアイアンウールを食べに来た」

 

:行動力があるのかないのかw

:メッセージは削除されました

:その思いつきのおかげでムルちゃんが助かりましたありがとうございます

 

「ダウナーさんは、このままダン材料理の食べ歩きを続けるんですか?」

「どうかな……。探索者資格は持ってたから、とりあえずやってみただけだからな」

「やってみた感想としては?」

「悪くはないと思うし、虚無に過ごすよりもマシかなとは感じてる。

 そうは言っても、事前に準備したりターゲット探したり、狩ったり、解体したりするのはダルい。でも料理するのはダルくないな」

 

:大半ダルがってて草

:マジで面倒くさがりなんだなダウナーニキ

:メッセージは削除されました

:でもお金に余裕があってもニートしてると自分がダメになっていきそうって焦るの分かる

:趣味とかがないとマジ何もしなくなるもんな覚えあるわ

 

「ダウナーさん、配信はしないんですか?」

「配信? オレみたいに淡々と喋るコトしかできないヤツに需要あるのか? 人とのコミュニケーションとかダルくて最低限しかしないんだぞ?」

 

:言うて声はいいしな

:コミュニケーションすら面倒と言ってるの草

:この低音ボイスの淡々とした喋り方クセになる人いそう

 

「需要はあると思います。そして、配信者になったらわたしとコラボしてまた食べさせてくれません?」

 

 そう告げてから、コメント欄がひどいことになりそう――と思ってしまったが、あとの祭りだ。

 

:メッセージは削除されました

:メッセージは削除されました

:メッセージは削除されました

 

「コラボとかはよく分からんが、また食べたいのか?」

「はい! これめちゃくちゃ美味しいですし」

「ふむ……そう言って貰えるのは悪くない。

 それに、配信というのもダルい話だが興味はなくもない、か?」

 

 何か心に触れるものがあったのか、少し真面目な顔をして悩んでいる。

 せっかくだから、勧誘してみるのもありだろう。

 

「なんなら、ウチの事務所に入ります?」

「……いや、事務所とかの所属はダルそうだからやめとく。たぶん性に合わない。だから、やるとしたら個人で、だろうな」

 

 相変わらず淡々とした喋りだが、想定外の反応が返ってきてムルは思わず目を(しばたた)いた。

 

「あれ? 意外とノリ気です?」

「貯金に余裕があるとはいえ、ただダン材料理を続けていても、懐から出て行くだけというのは少し困る。

 上手く行けば多少の金になるのだから、一考の余地はあるかな、と」

 

:メッセージは削除されました

:メッセージは削除されました

:ダウナーニキが配信始めたら見に行きたいな

:見るわけねぇだろ

:なんなんだよこのクソやろう

:いやぁ急に荒々しいコメント欄になったなぁ

 

「知り合いに配信者がいるから相談してみる」

「そんな簡単に決めちゃっていいんですか?」

「相談してから考えるさ。仕事がなくなってどうしようか悩んでいたから、やるかどうかはともかく、興味あるネタが一つ増えたのは助かる」

 

 食べながらそうやって談笑しているうちに、ジンギスカンは全て食べ終わった。

 

「よし。火を消して、道具一式はSAIにしまって……忘れ物はナシ、っと」

 

 指先確認というわけではないが、ダウナーさんはかなり丁寧に周囲を確認している。

 

「それじゃあ地上まで送ろう。

 イレギュラーなんてそう出るわけじゃあないが、数年前にイレギュラーが多発してた時期があるからな」

「ありましたね。それじゃあ、地上までよろしくお願いします」

「ああ。乗りかかった船だ」

 

 そう言って薄らと笑うダウナーさんの顔に、ムルは不覚にもドキっとしてしまった。

 それを自覚した途端、視覚共有型配信で良かったと安堵する。

 

 ドローン等での撮影だったら、僅かな表情の変化から、リスナーに邪推されていた可能性もあるのだ。

 

:最後まで面倒みてくれるの優しい

:ダウナーニキが良い人で良かった

:こういう人に助けられると安心するんだよな

:メッセージは削除されました

:メッセージは削除されました

:安心できてないのもいっぱいいるみたいだけど

:もうそいつらには触れてやるな

:メッセージは削除されました

:メッセージは削除されました

 

 なにはともあれ、死の危険が迫っていたダンジョン配信者『窟魔 ムル』は、このダウナーさんのおかげで、無事に危機を脱することができたのだった。

 

 

 




本日はここまで٩( 'ω' )وお読み頂きありがとうございます!
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