ダウナー・ジャジー・シーカーズ~テンション低めの気怠げお兄さんによる飯テロ有の悪くないダンジョン配信~ 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
「……これで、ハードバッター五匹目っと!」
手に細長い棍棒を持ち二足歩行をするバッタ型のモンスターをネオンは両手それぞれに握る円形の刃で切り裂く。
ダンジョン内で使えるチカラ、マナを込めると仄かに黄色く光るその二刀が、ネオンの武器なのだ。
:結局ステラさんの武器ってなんていうの?
:だから
:違うってあれはチャクラムだろ
:みんな落ち着け「殴れば
:でも圏は殴打メインだし刃がついてたらチャクラムなのでは?
:ステラさんは殴るし、斬るし、投げてるだろ!
:その標語は聞いたことないけど言いたいことは分かる
:結局どれなんだよww
:握ったり振るったり投げたりしたりする瞬間の指が素敵なので武器の名称とかどうでもいいです
ダンジョンからの帰り道。
配信の許可を得たので、セイジはネオンのノルマ依頼に付き合いながら地上を目指している。
そんな中、コメント欄が盛り上がっているのはネオンの武器についてだ。
みんなが言っているように、円形に近い金属に持ち手がついた武器だ。近接をメインにして戦っているのであれば、中国発祥の圏と呼んで差し支えない。
だが、ネオンはそれを時にブーメランのように投げたりして使っているのもあり、インド発祥のチャクラムではないかと、コメント欄で大論争が巻き起こっている。
「ステラさんのその武器って名称あります?」
戦闘が終わり、ハードバッターの素材の回収が終わったタイミングで話しかける。
それに、彼女も困ったような顔をして笑った。
「よく聞かれるんですけど、実は乾坤圏もチャクラムも全然知らなくって。
ただダンジョンで手に入れて使ってみたらすごい馴染みがよくて、適性あったみたいなんですよね」
:まぁ武器の名前知らなくても使えれば問題ないもんな
:使いこなせてるワケだしなぁ笑
:とはいえ刃のついたブーメランをキャッチするの怖そうw
:投げた時絶対に持ち手をキャッチしてるのもはやそういうスキルだよね笑
「なら、その武器の銘はあるんですか? 虎徹とか村正みたいな」
「それならありますよ」
セイジの質問にネオンはうなずく。
「『
ドローンに向けて両手の武器を見せるようにしてから、片方だけSAIにしまった。
二刀流が基本となる武器ながら、片手が空いていないと不便なことが多いので、歩いている時はこのスタイルなのだそうだ。
「名前からしても結構なレアアイテムだったりしますか?」
「どうなんでしょう? 今回のようなノルマ依頼をやっている途中に道に迷ってしまった時に、たまたま見つけた宝箱に入ってたんですけど」
「かなりレアそうに聞こえますね」
:絶対レアモノだろそれww
:ゲームと違って道から逸れるの怖いもんなぁダンジョンって
:道を外れたところに色々あるのは有名だけど意外とみんな怖がるよね
:そりゃあオタカラがありゃいいが凶悪なレアモンスターとかいたら怖いじゃん?
「そういうワ○ルドさんは、愛用している剣に銘とかあるんですか?」
:それは確かに気になる
:言われてみれば銘がでてきたことないね
「まぁ、あるにはあるんですが……」
逆に問われて、セイジは少し言い淀む。
:なんか言い辛そうで草
:変な名前だったりするのかな?笑
「……長ったらしいんですけど――『
銘を口にすれば、ネオンは手を合わせて声をあげる。
「すごいカッコイイ名前じゃないですか!」
そこに裏はなさそうなのだが、セイジの顔はなんとも言えないものとないっていた。
:カッコいいじゃん
:wwwwwwwww
:あれ?コメント欄で草生え散らかしてる人がいる?
:かっこいいのにね
:笑笑笑
:中軸www四枚目wwwww
:中二心にめっちゃ刺さる!と思ったらコメント欄が草原化してる??
:ダウナーニキにぴったりすぎて草
:そんな笑える名前だったの???
流れているコメントを
「……オレは解説する気ないので、気になるならコメント欄の有識者に聞いてくれ」
どこか
「あれ? もしかしてあまり良い意味の言葉じゃないんですか?」
「えーっとまぁ、その辺はアーカイヴのコメントリプレイで確認してください。たぶん解説してくれている人いるでしょうから」
:本当にイヤそうだw
:よっしゃ!解説しよう!中軸、四枚目どちらも歌舞伎用語だ!
:二枚目、三枚目はきくけど、四枚目もあるんだ
:歌舞伎用語で四枚目や中軸は名脇役を意味する言葉ではあるな
:影千両って言葉は初見だけどたぶん千両役者を影で支える、あるいは千両役者の影で輝くって意味がありそうだしね
:要するに人気者の影でキラリと光り、作品を支える名脇役なバイプレイヤー的意味の剣だな
:解説で理解したwww
:ニキにぴったりすぎで草
:そりゃあ意味が分かった人たちは爆笑するわ笑笑笑
:最後の真打は歌舞伎用語でなくて鍛冶用語かな?刀は影打ちと真打ちの二振り打つことがあるらしい
チラっと見えたコメントによる解説に苦笑しながらも、話題を変えるようにネオンは訊ねる。
「ええと、これはどちらで?」
名前の話題を逸らしてくれたことを理解して、セイジは小さく息を吐きながら答える。
「……カイズはわかりますよね? 学生時代、まだアイツも配信とかしてなかった頃なんですけど、ダンジョンで見つけたからやるって押しつけられたのがこれです」
「押しつけられたんですか?」
「まぁ、アイツの適性に剣はないんで、それもあったんでしょうけど……押しつけてくる時、その場にいた他の友人ともども妙な笑い方しながら押しつけられた印象が強くて」
:話聞く限りニキは学生時代からこんなノリだったっぽいしなw
:そりゃあこの銘の剣を手に入れたらニキに渡したくもなるか笑
「モノは悪くないんで、以降ずっと使ってるんですけどね。名前はともかく剣に罪はないんで。名前はともかく」
「そんなに名前がイヤなんですね……」
:ニキはたぶんそういう扱いに自覚あるから笑
:自分でもうっかり認めそうになってるところへの嫌悪かな?w
好き勝手言っているコメントたちに嘆息を漏らしながら、セイジは周囲を見回す。
「ステラさん。ノルマ依頼の素材はどうです?」
「あ、今ので全部です。お付き合いしてくださってありがとうございました」
「なら、地上に行きましょうか」
そうしてモンスターなどを警戒しつつも、二人は何事もなくエントラスまで戻ってくる。
ネオンに一言二言断ってから、セイジはドローンの方へと向き直った。
「さて、途中色々あったが……いや色々無かった場面もあったが、本日はここまでだ」
:色々無かったwww
:まぁ虚無ってたけれども笑
:『途中色々無かった』ってここ以外で聞かない言葉だよw
「今月はプライベートがドタバタしているが、毎週の配信はするつもりだ。
そんなワケで、来週もまたよろしく頼む」
:楽しみだけど無理はしないで
:無理して配信する必要はないですからねー
「気に掛けてくれて感謝する。配信できそうにない時は事前に
今日はこれにて終了だ。それでは」
:おつ
:今日も悪くなかった~
:またねー
:おつかれさまー
:ステラさんもおつ~
===本日の配信は終了しました===
セイジは配信を切ったあと、ネオンと軽く挨拶を交わし、別れた。
また明日会うので長々挨拶する必要がなかったので、さらっとだ。
そして翌日の午後――
ムルの声を気に入っているサイキが、ded名義で彼女の所属事務所『
当然、そのままセイジとネオンでお説教である。
「ところで、ガトリングダーツのフルコースって準備してある?」
「フルコースなんぞ作ってられるか。というか今日は説教予定だったから、作る気もなかった。軽い説教のつもりが本気で説教するコトになるとは思っても居なかったがな」
「えー……ガトリングダーツないのー……」
ほっぺたを膨らませるサイキに、昨日のアヒージョの残りを使ったガトリングダーツのペペロンチーノをふるまった。
もちろん、自分の分もあるし、一緒にいたネオンの分も用意した。
食べ終わったらアルカナム関連の打ち合わせだ。
これに関しては、サイキからセイジへの相談も一つあった。
「うちの事務所『トリック・エース』に支援してもらっているからさ何かしらのメリットとかお礼とかしたいんだよアルカナムとして」
「それに関してはもう考えてある。魔術師と戦車からも許可がでてるから、お前に相談したかったんだ」
トリック・エースへお礼の話は、サイキからの許可もでたので決定。
そのあとも、アルカナムの話だけでなく、dedのスケジュール等の話をして――
そんなこんなで、気がつけば十七時になっていた。
「それじゃあ、今日はこのくらいですかね」
「長くなってしまってすみません」
「いえ。節村さんは何も悪くないので。ええ」
「なんで二人してジト目を向けてくるのかな?」
余計なことばかりしようとするサイキをセイジが止めつつのいつもの打ち合わせは終了だ。
「星庭さん。オレももう帰りますんで、駅まで送っていきます」
「ありがとうございます」
「あ、駅前までならボクも一緒にいくー。ちょっと本屋さん見たくて」
「珍しいですね。通販とかじゃないんですか?」
「これって決めて買うならそれでもいいけど知らない本に出会うなら本屋さんだよね」
そんなワケで三人で駅前まで出た時だ。
「……あれは」
「あら?」
「あー」
「む? お前ら……」
駅前で、猪見谷先生と遭遇した。