ダウナー・ジャジー・シーカーズ~テンション低めの気怠げお兄さんによる飯テロ有の悪くないダンジョン配信~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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009.ファンとアンチ

  

 

「……お前、コーンに嫌がらせとかされてね?」

「コーン?」

 

 真面目な顔をしてツカサに訊ねられて、セイジは首を傾げた。

 

「ああ、そうか。お前はSNSとかやってないもんな」

 

 小さく息を吐くツカサ。

 

「オシャレさんの中にもコーンが気になる人がいるみたいだけど、気にしないでいい。言葉の意味が分からない人はそのままでいてくれ。

 つーか、うちの配信とは無縁だし、コーンが現れそうなコラボも、俺が意図的に断ってるから。

 分かってるオシャレさんも解説とかしなくていいからねー……いやまぁ、こいつのせいでコーンがここに現れたら申し訳ないとしか言いようがないんだが」

 

 コーンとはどうやら配信やSNSに出現する厄介モノを示す言葉のようである。

 そしてそれは、自分のせいでツカサの配信に出現する可能性があるらしい。

 

「すまん。よく分からないが、なんかお前に迷惑かけるかもしれないんだろう? リスナーさんたちも申し訳ない」

「正直、お前のせいじゃないよ。でも一つだけ確認させろ。どこで助けた?」

 

 ツカサの表情は真剣だ。

 ここは変に誤魔化すのでは無くちゃんと答えるべき場面のようである。

 

 なので、セイジも真っ直ぐにツカサの顔を見返して答えた。

 

「ダンジョンの中。久々に探索してたんだ。そこでイレギュラーに追われてる彼女を助けた」

「おーけー。それさえ聞ければいい」

 

 その言葉に画面に表示されているコメントからも、安堵がある。

 探索中の救助であれることが、内容的には大事だったのだろう。

 

「念の為にちょっとスパナ持ち増やすか。常連のオシャレさんの中で、この手のネタに詳しそうな人に渡すので、面倒かけるけどよろしくねー」

 

 ツカサの言葉の意味は分からないが、どうやら対策が必要な可能性が出てきたようだ。

 

(ダルいな……よく分からないが、結果としてツカサに迷惑をかけちまってるのが、めちゃくちゃダルい……)

 

 正直に言ってしまえば面倒くさい状況だが、知らない言葉と知らない情報の組み合わせによって生じている知らない厄介事を放置するワケにもいかない。

 

「メシの時間にでも詳細聞くから、料理の続きよろしくな」

「……ああ」

 

 ちなみにあとで確認したところによると、スパナとは一種の管理権限のようなモノらしい。正式にはモデレーターと呼ぶそうだが。

 ともあれ配信主であるツカサによってスパナを渡されたアカウントは、ツカサ本人の代わりに荒れそうなコメントなどを消したりすることができるようである。

 

「深く気にする必要はねぇよ。ネット事情に(うと)いヤツが、この手の面倒に巻き込まれるなんて良くある話しだしな」

「……わかった」

 

 ともあれ、このままツカサの配信の邪魔をし続けるのも不本意だ。

 

「それじゃあリスナーのみなさん。お邪魔しました」

 

 告げて、セイジは作業部屋を後にする。

 なお、セイジ本人は全く知らない話となるのだが、意外と評判は悪くなかった。

 

 親しみを込めたダウナーニキ、節制さんなどの呼び名で、受け入れられているようである。

 

 ツカサのところのオシャレさん(リスナー)たちは、またゲストに呼んでトークして欲しいとリクエストするほどだ。

 

 特にファッション系の話よりも、単純にツカサの顔や声が好きなリスナーの中にはかけ算を始めている人までいる。

 

「ナマモノでのかけ算はほどほどにね。

 あと、この場合のナマモノやかけ算って言葉の意味が分からないオシャレさんはその純粋さを失わないままでいるようにお願いしたい」

 

 ツカサの配信がそんなことになってるなどつゆ知らず、セイジは料理の続きに取りかかるのだった。

 

 

  ・

  ・

  ・

 

 

「やっぱお前、料理うまいよなー!」

「そうか。喜んでくれるのなら悪くない」

 

 セイジが作った海南鶏飯(ハイナンチーハン)は、ツカサに好評だった。

 自分も食べているが、なかなか悪くない。 

 

 タレも含めて美味く出来て良かった。

 

 スーパーで買った鶏肉ながら、かなり質が良かったのか、鶏の旨味がよく出ている。

 

「ツカサ」

「分かってるよ」

 

 茹鶏(ゆでどり)を口に放り込みながら、こちらの言いたいことを即座に理解してツカサはうなずく。

 

「どーすっかな……そうだな。先にお前からでいいよ。聞きたいコトあんだろ?」

 

 問われて、セイジは少し考える。

 分からない専門用語が多かったが、やはり確認したいのはーー

 

「コーンって何?」

「まぁそうだよな。気になるよな」

 

 本当に困ったような顔をして、ツカサはスープを口にした。

 

「おお! これも旨いな! 鶏のスープ?」

「ああ。余った茹で汁を使った」

 

 へー! と楽しそうに声をあげ、スープをもう一口啜ってから、小さくうなずくように口を開いた。

 

「コーンってのはさ、業界用語的なやつでな。正確にはユニコーンのコトなんだ」

「ユニコーン? 角の生えた白馬のアレ? 神話とかファンタジーに出てくる」

「そうソレ。語源はまさにソレ。処女が好きでお馴染みの、な」

「それが配信とどう絡んでくるんだ?」

「女性配信者ーーいや、アイドル家業をしてる声優や俳優も含む、女性芸能人に絡んでくるんだよ」

「……女性芸能人、ユニコーン……」

 

 口に出すと、セイジの中で二つの情報が結びついた。

 

「もしかして、男の気配に敏感な過激ファンのコトか?」

「正解」

 

 ぴんぽーんと、ツカサが軽い調子でうなずくのを見て、セイジは面倒くさそうに顔を顰めた。

 

「それがどうしてお前の配信に来るんだ?」

 

 どうにも理解が及ばない。

 ムルと関わったのはセイジだ。

 ここでツカサの配信にやってくるという理由が全く分からない。

 

「お前が俺の配信に顔出したから。

 ああいう連中は叩く先を探すからな。SNSや配信などのネット活動をしていないお前を叩けなくてストレス溜めてた矢先、関係者である俺の存在が判明したから、荒らしに来る。それだけだよ。『俺のムルちゃんに近づくな!』ってな」

「……そこでムルの名前を出すと、ムルに迷惑がかからないか?」

「かかるよ。あまりにしつこいと、うちのオシャレさん(リスナー)たちが、ムルちゃんのアンチになって向こうに嫌がらせを始める可能性だってある」

 

 まぁうちのオシャレさんたちに限ってはありえないけどーーと、ツカサは余裕がある。それだけリスナーのことを信じているのだろう。

 

 とはいえ、ツカサのところのリスナーがムルの配信を荒らし始めるようなことになるとするならば、それはーー

 

「仮にお前のとこのリスナーが向こうを荒らし始めたら、泥沼になるよな?」

「そうだよ。さらにそこへ、面白おかしく煽りたいだけの連中が大量に湧いてきて、両陣営そのものが和解したり落ち着いたりしてても、延焼させ続けて、余計なところへ飛び火をしはじめたりする」

「……ダルすぎる。行動に移せるほど強い興味を抱くコトを否定する気はないが、人に迷惑かけるのはどうなんだ……?」

「それはそうなんだよなぁーーとはいえ、便乗煽りはともかく、ユニコーンってのはそのくらい推しへ強い情熱を注いでいるファンとも言えるかな」

「推しや仲間に迷惑掛ける推し活をしてるヤツを、ファンと呼んでいいのか議論が必要じゃないか?」

「正論パンチは時に人を傷つけるんだぜ、相棒」

「勝手に傷ついてろよーー以外の感想がないな」

「手厳しいねぇ……でもまぁ、俺も同感なんだけど」

 

 小さく嘆息してから、ツカサはスイートチリソースを付けた茹鶏を口に運ぶ。

 最初にソースの強い甘みが、その後で仄かな酸味とガツンとくる辛さが舌に響く。そんなソースの味が、鶏の旨味と相俟って、お酒やご飯が欲しくなる風味になっていた。

 

 ツカサはそんな味を堪能し、飲み込んでから、言葉の続きを口にする。

 

「ユニコーンという呼び名が浸透する前からアイドル界隈には似たような過激で厄介ファンはずっと存在してたらしいしな。

 それに……女性アイドルの処女性を求める男が目立つせいかユニコーンなんて呼ばれ方をしてるが、別に男性アイドルファンの女が、男性アイドルに女の匂いがするコトで暴れるってのもゼロじゃあないんだ。

 ある意味でアイドル家業についてまわる宿業(しゅくごう)みたいなモンよ。

 最近は、V配信やダンジョン配信はもちろん、一般配信って呼ばれるところでも、アイドル性を出す人たちがいるからな。加えてSNSなんかがあるから、余計に目に見えやすくなったってのもある」

 

 ツカサの話を聞いて、セイジはふと思う。

 

「オレは……窟魔ムルを助けない方が良かったのか?」

「それは違う。その不安は感じる必要はない。お前の言い方に合わせるなら、それは感じる必要のないダルい感情だ」

 

 セイジの不安を、ツカサはキッパリバッサリ切って捨てる。

 

「ダンジョンでイレギュラーが発生してたんだ。助けて正解。助けない理由は無い。むしろ助けないのは探索者として有り得ない」

 

 配信事情を知らないゆえに不安を抱いたセイジだったが、その言葉に大きく安堵する。

 

「いいか? 色々複雑な背景や事情はあるんだが、単純に言えばーーダンジョン配信にもユニコーンはいる。いるんだが、ダンジョン配信だけは少し例外的なところがあるんだよ。

 何せダンジョン配信の根幹はダンジョン探索だ。そこで生じる生死の瀬戸際の出来事に対して、ユニコーンもクソもない。

 どんだけアイドル性を売りしているダンジョン配信者のユニコーンでも、推しの命の危機を救った男性に対しては絶対にクレームを入れない。ダンジョン配信界隈は配信者もリスナーもそういう空気を持っている」

 

 力強いツカサの説明に、けれどもセイジは疑問が湧いて目を(すが)めた。

 

「それだとムルのユニコーンがお前を襲うって話と矛盾しないか?」

「困ったコトにしないんだよな……」

 

 本当に困ったようにウーロン茶を口にして、ツカサは嘆息する。

 

「Vヴァンプって芸能事務所は、窟魔ムルちゃんを含めて配信の売り方がちょっと特殊でな。別ジャンル配信でデビューさせた子も、合間にやる一般配信や歌って踊るアイドル配信なんかが人気出ると、そっちに比重を寄せるようなプロデュースが多い。

 その中でムルちゃんはダンジョン配信をメインにデビューした配信者なんだ。そして例に漏れず探索配信の合間にやってた通常配信やアイドル配信なんて言われるーー歌ったり踊ったりゲームしたりってのが、めちゃくちゃウケて人気が出た」

「ああ、そうか。そもそもファンそのものが二つの勢力で別れてるのか」

 

 セイジが気怠げにそう口にすると、ツカサはその通りだと首肯した。

 

「そういうコト。初期に比べて明らかにアイドル売りの仕事が増えてるのは間違いない。

 古参だったり両方楽しめてる連中はともかく、そっちの一般ネタがバズって以降に一般配信枠から入ってきた、ダンジョン配信や探索者に理解や興味のないファンっていうのがネックになってるとも言える」

「ようするに推しのコトが好きなんじゃなくて、自分の理想を叶えてくれている間の推しが好きってコト」

「うーん、正論パンチ」

「そういう興味の持ち方もあるのかーーと関心はするが、感心はできないな」

「まぁな。でもアイドルだけってワケじゃあないが、人に夢を売るっていうのは、一定数いるそういう人たちとの対話が仕事とも言えるからなぁ……」

「意外とユニコーンに対して甘いのか、お前?」

「ユニコーンというかアイドル……アイドル家業に甘い、が正しいかな?

 仕事柄そういう子たちのヘアメイクの依頼が来たりするからさ。ファンの理想でありたい自分と、自分が目指す理想に向かいたい自分がズレてたりで、悩んでる子って結構いるんだよ」

「そうか」

 

 セイジには分からない世界だ。

 だが、自分にはない情熱や強い思い、目指すべき夢を持って仕事をしている人たちというのは、その人たち特有の悩みがあるーーということは理解できた。

 

「とりあえずコーンについては理解した。次の話をしていいか?」

「おう」

 

 カモンーーと指をクイクイとしてくるツカサに、セイジはうなずく。

 

「当初の目的通り、配信について知りたいんだが」

 

 セイジの相談はもう少し続くようだ。

 

 

 




本日はここまで٩( 'ω' )و
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