「全ての始まりと言っても、これは因果関係が複雑なんだ。
だからまずは
煌びやかなスポットライトを受けて舞台の上で一礼するルシファー。
どこから取り出したのか、その手にはステッキとシルクハット。後ろには大きなハンドルのついた機械まで準備されていた。
「ああ、質問は逐一してくれたまえ。今回は君一人に向けた特別ショーなんだからなァ」
きしし、と笑うその姿がルシエラのモノだとよく映える。
「…さっさとしてくれ。あとその姿もどうにかならねえのかよ」
「この姿も含めて、今から話すんだ。セッカチだけはやめてくれよな!それから口調はこのガワに引っ張られてる。すまない、許しておくれマイ・ポーン」
「オレ様が生まれたのは今から3年前。君も見ただろう?この世界が新世界に生まれ変わった瞬間だ。
その瞬間、オレ様たち『旧世界にいたとされる』超常の存在が定義づけされ、その存在を証明された」
ああ、旧世界ってのは新世界の反対。つまり今より3年以上前のこの世界な、と補足説明を受ける。
既に頭が痛くなってきたぞ…。
「おいおいおいおい、これくらいは頼むぜ君ぃ。と言ってもォ、気が使えるいい女!なオレ様はそこんとこ準備してあんだよなあ」
ルシファーは自分の後ろにあった機械を手前に持ってくると、付いているハンドルを回し始めた。
「この通り紙芝居舞台がございまァす。君のために準備したんだぜ。オレ様優秀」
紙芝居の1枚目には、地球の絵を中心に、上下に矢印が伸びていた。中心の地球には3年前の2×××年8月と書かれている。
よく覚えてる。俺が22歳になったあの年だ。
真夏の炎天下のした、クーラのあまり効いていない部屋で他人事のようにニュースを眺めていたあの夏だ。
「定義付けだとか存在証明だとかは難しく考えなくていいよ。オレ様もよくわかってねえし。
要するにオレ様みたいな空想の存在が生まれたんだって覚えといてくれ」
「…いや、待て。それなら3年前からこの新世界にやってきだした異世界の存在とはどう違うんだ?お前らも結局は本来この世界にいなかったんだろ。やってきたって意味じゃ同じじゃないのか??」
「いい質問だ!答えは簡単、3年前に来たアイツらよりも、オレ様たちの方がずっと先輩だ、ってこと」
ルシファーがハンドルを回すことで1枚、紙芝居が進む。
そこには大きく25と書かれたルシエラ(ルシファー)の姿と、3と書かれた〇が描かれている。
「オレ様たちは3年前に存在証明された25歳児だ。オレ様たちは別の世界が観測される前からこの世界にいた。よってこの世界本来の住人ってこと…ニ,ナッタラシイ…」
3年前に生まれた25歳児、、、ってまた激しく混乱しそうなことを…。
まあ要するにこの世界で生まれたからって事ね。了解。
にしても25、か…。
「さて、さっきこの世界本来の住人とか言ったが、、、オレ様たちが生まれたのは
「ハア!?今までの説明全部嘘ってことかよ!!」
「違う違う。今までの説明も、今からの説明もホントだよ。バグみたいものなんだってェ…」
また1枚、紙芝居が進む。
今度は男の子が1人と
またそれぞれの分の上に「3年前 」 「25年前」と年数が書かれている。
いつの間にか、ひしひしと感じていたナニカがすぐそこまでやってきている気がして固唾をのみこんだ。
「良いかい?異世界の
しかしねえ、、、果たして初めて異世界の観測ができたのは。もっと言うと初めて別世界から
「…25年前。別世界の記憶を持つ俺が生まれた」
「そうさ!!ここまでいえば誰でも気がつく、簡単な答え合わせだ!!!
初めて観測されたのは、25年前。
君が生まれたその日に!オレ様たちは存在したと保証されたんだ!!!!
まあ、もっともぉっと厳密にいうなら?君の生まれた瞬間に、それぞれに合った伝承とかの『記憶』が流れ込んできたんだけどな。オレ様なら創世記、失楽園のその時とか」
「……」
言葉が、詰まる。。。
他人事どころかこれじゃ当事者、世界各地で起こっている問題の火付け人だ。
これは、、、知らないでは許されない罪だ。
俺は、もっと早く知らなければ行けなかったんだ。この世界の現状を。
「世界のバグ、だなんて言ったけど、これもオレ様にとっては運命の延長線上なんだぜ。
なんたって
ぺらり。
1枚、また紙芝居が進む。
先程まであんなに軽かった1枚の髪が擦れる音が、今ではとても重く感じられる。口内が乾いて仕方ない。
「【カタログ】、、、【エンジン】?」
「次の話に進もう。
この世界に、こちら側での姿を持たない異世界の存在がどうやってきたと思う?」
【カタログ】と書かれた人形と、横に描かれた魂はに【エンジン】の文字。
「大前提として、別の世界に普通のヤツが移動しようとしても不可能だ。別の世界には異物としてはじき出されてしまうからね。服屋の中で食事をしだすとつまみ出されるのなんて、火を見るより明らかだろう?」
まあ、言わんとしてる事はわかる。そういうものだと言われたら、そうとしか納得できないという側面もあるが。
「そこでこの【カタログ】と【エンジン】だ。どちらかを旧世界由来のものにすればいい。そうすれば必然と違和感が薄れ、次第に世界へと馴染み出す。
旧世界から新世界へゆっくりと以降しだしたのはそういうことだ。必然、力の弱いヤツからこの世界に出現しだしたのも説明がつく」
「それじゃあ今からは、君の場合の説明だ。
カタログの中から選ばれたのは実際に生きている人間の子供、あるいは胎児。まあ記憶を見た感じじゃあ意思もない胎児だったけどね。そしてエンジン。これは君の魂だ。ただ記憶という部品がいくらか破損した、ね」
「それって…元々意識とかがその子に宿っていた、、、とかいう可能性もあるのか?」
「それはない。
君がどんな想像をしようと勝手だが。。。僕の観測した範囲だと君はたしかにこの世界で生まれた。そもそも記憶だとか意識だとかは生まれてから付随してくる外部品だ。
…ふむ。そういう意味だと記憶という部品は外付けかもしれないね。故障していたのじゃなくて、初めから常人じゃあ誰も持ち越せなかった、と考える方が自然か。
そうすると僕らのような存在は?死への定義の違いか??それとも…
ああいやこれはひとりごとだ。本題に進もう」
ボソボソと、途中から自分の言葉に返答を繰り返し出したルシファーを見て胸の中で何かがさらに重くなった。
たしかに俺は俺だが、その場合、無意識に忘れている俺は現在どうなってるんだ?俺は集合意識なのか?主人格が俺だけでそれ以外の俺はどこかにいたんじゃ…
俺は無意識のうちに殺していた、のか?かつての俺の可能性を。生きた記憶を。成り行きでも、理由があった訳でもなく。ただただ傲慢に振舞って…
思考の海に溺れだした時、顎に手を添えられ、無理矢理引き上げられる。
「その先は泥沼だぜ、君。そんなの君は君じゃないか。その考え自体が傲慢だということに気がつけ。
…この世界で生きてくんだろ?そんなとこで躓いてどうすんだお前」
真っ直ぐな、終ぞ生前一度も逸らしてくれることのなかったルシエラの輝く一等星が、言い訳なんてさせないと俺をどこまでも照らしだす。
すつ、と呼吸を忘れる。
これじゃあ、まるで…。
「君、君、君。そうやって腐心するのは辞める、って。あの子供を見て考えたんじゃなかったのかい?
オレ様が、ボクを通してみたお前はどこまでも無神経に、そして自己中心的に、誰かを救っていたぞ。そんな情けない姿を
■■■■■■
「やはり、どこまで行っても君という障壁は存在するようだね。朱禰君?」
「お前に私の名前を呼ばれる道理なんてないわ。一刻も早く消えろ」
校長室での構図と瓜二つ。
悠々と胸を開け、両手で四郎が飛び込んでくるのを待つルシエラと、四郎を後ろから抱きすくめ、消して譲らないと睨みつける朱禰。
「(アレは逃げるのがうまい。僕の世界からも上手く出ていった。しかしここ以外もう逃げる場所もないんだろう?だったら)」
「(どこまで逃げても、するりと潜り込んでくる。本当に鬱陶しいなコイツは。それなら)」
【鏡合わせのように】
「起きろ黒狼」
二人のには爆発的な存在感が立ち上り、同時に行動を開始する。
ルシエラは動じず、指を鳴らすだけ。
対して朱禰は距離を離すため後ろに飛び退き、自分の影から呼び寄せて狼を襲わせる。
しかし、狼の牙はルシエラの体に届いた瞬間、
「コイツ…」
「そんなに驚かないでくれよ。これはまだまだ序の口だぜ」「全く、ペットの躾はしっかりと済ませておきたまえ。ボクでも死んじゃったぜ」
「「それじゃあどうぞ、ご唱和ください」」
【【鏡併せのように】】
止めるまもなく2人が4人へ、4人が8人、8が16、どんどんと人数が増えていく。
朱禰とて黙って見ていた訳ではない。
黒猿も黒狼も精一杯の数を呼び出して対応させる。
軍対個の戦いであったはずのそれは、気が付けば個が圧倒的に上回る数で制圧しだす絵面へと変わっていった。
周囲の狼よりもさらに一回り以上大きな大狼の上に腰掛け、雑木林を駆け回らせることで1度落ち着く朱禰。
「(詰みね。既に処理できる数の倍が一度に生み出されている。かと言って個々を出れば本格的のあいつの思うツボだわ…)」
「おーい、追いかけっこはそろそろ終わりにしないかい?この後は予定が詰まっていてね」「大丈夫、悪いようにはしないさ」「暴れられないようにするだけ」「おい、ボクのセリフを取るんじゃない」「うーん、、、様式の方が馴染み深いかな?」「せっかくなら和式もいいかも」
至る所から同一の声が響く。それぞれが思考しているのか、そもそもが常に考えていることが2転3転するようなタイプなのか。
なんにせよ大量のルシエラはそれぞれ別々の意見を好きに言い合い、中には言い合いの喧嘩をしているものも出てき出した。
「(ダメね。湧く瞬間に潰され出した。時期にこの空間もアレらに埋め尽くされる。出来ればコレは使いたくなかったのだけれど、そうも言ってられないわね)」
孤立し、一件詰みの盤面に見えようとも朱禰は尚も冷静であった。
冷静に、冷徹に。自身の中に燃えたぎる怒りを押さえつけて次なる一手を打つ。
【
大きな口が世界を呑み込んでゆく。
静かに、土が割れるような音な度もなく、世界は闇に包まれゆく。
この空間自体、朱禰の記憶が陰りを帯びだした頃に、消して忘れないよう作られたものである。
言い換えればこの空間を壊すことは彼女にとっての古い記憶を壊すことと同義であった。
「(『陰り』と『影』の言葉遊びで私自身の影を出入口にしたけれど、思わぬ形で役に立ったわね)私にこの幸せな箱庭を捨てさせた報いよ。忘却刑。せいぜい自分という存在を暗中模索しなさい」
四郎の住むアパート、その一室に帰ってきた朱禰は地面に散らばっている割れた鏡の破片をよける。
「(あの目障りな蛇女も消えたことだ、きっと四郎も直ぐに起きてくれるだろう)」
少し見ない間に部屋には、金色の長い髪の毛や見覚えのない水の入った未開封のペットボトル、玄関には乾いた土が少しあがっていた。
まずは掃除だな、と下ろした髪の毛を縛りかけた瞬間。
トプン
「自分探しの必要は無いよ。ボクは
「んな!どうやってこの短k【旧き蛇のスプリット】」
言葉を紡ぐ間も与えず、朱禰の目を深く覗き込み、魔法を発動する。彼女のもっとも得意とする、そしてこの世界に来てから少しだけ性質の変わった魔法を。
「ふう!全く、思わぬ反撃だった。ま、今回はボクが1本ワザアリ、ってとこかな」
膝から下が光っている状態のルシエラが胸を張って、朱禰を見下す。
地面には髪を三味線の撥のように乱した朱禰が虚ろな目で、それでも無意識にか四郎の頭を抱きかかえて寝転がっている。
「本当、その情念には恐れ入るよ。
…全く君と言うやつはどうしてこんな女に目をつけられているんだい?君はボクのものだろうに。。。」
朱禰から取り返すかのように、四郎を腕に収めたルシエラはため息を吐きながらも、表情はまったく緩いものになっていた。
「君の瞳を覗いた瞬間、ボクは僕自身に気がついた」
徐々に光っていた足が元に戻りだし、それに合わせるようにだんだんと床にへたり込むルシエラ。
存在をもう一度確認するかのように、四郎の頭に顔を埋める。
時間にして数分。
腕の中にでモゾモゾと動く感触を受け取り、力をさらに込める。
「くすぐったいからやめろ。あと苦しい」
「おや、これはこれは随分な物言いだね。マイ・ポーン」
目覚めた四郎。その瞳には今までにない鋭く、強い意志が宿っている。
すう、と一息。大きく肺を膨らませるように空気を吸い込み。
「……おい、元ご主人サマ。喧嘩の時間だ」