今回はいつもより短くなっております。
次話も近日中にあげられたら……嬉しいなぁ…………。
2章を投稿するか、閉幕を投稿するか.、気分次第です。
閉幕は買い物デートかなぁ。絶好の海水浴日和が続いておりますので。
月曜日の真昼間。
テレビとソファの置かれた大部屋と、それからトイレが設置されただけの小部屋が一つ。素泊まりのみを対象としたホテルをさらに手抜きで作ったような空白の間に俺は軟禁されていた。
ニュース番組かなにかが流れているテレビを前に、今まで座ったこともないような高級なソファに体を沈めて何をするでもなく、ただただぼうっと部屋の景色を眺める。ついこの間まで暖かな春の日差しだと思っていた日常は、早朝の涼しい静寂に内包される蝉の声によって、今が既に真夏が迫っていると言外に告げていた。
足元にはどこから持ってきたのか、ひと昔以上前のセーラー服を身に着けた朱禰が丸まっていた。はじめは俺の膝を枕にして横になっていた朱禰だったが、小刻みに揺れる太ももではさすがに収まりが悪かったのか、膝を抱くようにして眠る体制に入ってしまった。
「(ああ、なにかして気を紛らわせたいのに、ずっと脳内で会話してる気がする。というか赤禰は何で何も言ってくれないんだ…。ルシエラも用があるとか言って出て行ったしさぁ!というか本当に失礼だけは働かないでほしい…!せめて、せめて俺が庇える範囲で頼む)」
体が砕かれてからどれほど経ったのか。
あたたかな水底に沈んだような、いつしか慣れてしまった死んでから生き返るまでのあいだの微睡みの時間。ダメだったかとおとなしく観念した俺とは対照的に、朱禰は毛ほどもあきらめるつもりがなかったようで、死に体の俺を無理やり引き上げてくれたのだった。
「つー、かー、れー、たー!!!」
自分を落ち着かせるために一連の出来事を思い出していた俺の耳には、聞きなれた声が入ってくる。
声の主は以前のような格好つけたような似非宝塚ではなく、幾分か幼さがました柔らかな声。
朱禰に見張られながら呼吸をすること数日、先日急にやってきたるルシエラは裁判にかけられたとだけ俺に告げ、すぐにどこかへと連絡をして鏡に消えていった。
そんなわがまま娘が、光り輝く全身鏡から正装を身にまとった姿で、記憶の頃より若干煤けた表情で現れた。
「る、ルシエラぁぁ……。お前、途中で抜け出したりしてないだろうな。どうだった?無事に済んだのか?穏便に済ませれたのか!?」
ついつい立ち上がってルシエラの両肩を揺さぶる。それをこいつは噛合った歯を前面に押し出したいかにも不服です、といった表情で返してくる。
「むぅ。うるさいなぁ、君の考えそうな事を汲んでなるだけ紳士的な対応をしてやったんだぞぉ……。ちょっとは僕をしんじたまえ」
「いや、俺お前に『勤め先に行ってくる』とだけ言われたんだぞ。普通裁判の後の勤め先なんてっ!……というか今はどういう状況なんだよお前。仮出所?猶予期間?まさか脱獄っっ!?」
「……キミには大事な話が合ったのだが。ふむ、ふむ、ふむ。これは先に改めないといけない認識があるようだ」
「それは無理でしょう。お前の今までの行ないを客観的に見てみなさい。全然信用に値しないから」
のそのそと上半身だけを起こし、背筋を伸ばしながら言葉をこぼす朱禰。溢れる吐息と筋だって見える綺麗な背骨のラインが思わず顔を逸らしてしまうくらいには艶かしかった。
眠ったと思っていた彼女は目を瞑っていただけのようで、こころもち緩く波打っていた口許が今では重くなっているように思われた。
朱禰とルシエラが互いを見つめあい、何とも言い難い空気が流れる。どちらとも言葉を発するわけでもなく、かといってお互いのことをするわけでもない。時間にすれば数秒だろうか、数十秒だろうか、呑んだ空気を吐き出しづらい雰囲気になっていた。
「いいわ、私が自分で話すもの。お前の話はそれからよ蛇女」
「ハイハイ、敗者はおとなしく従うことにするさ、厭味家」
朱禰にしては珍しく、本当に珍しく数度言葉にならない言葉を零し、それから俺の両頬に手を添え視界を占領した状態で口を開いた。
「落ち着いてききなさい、コマ。お前はあの時、体がひび割れたとき。私も手を尽くしたのだけれども。それでもお前は死んだわ」
「は?……いや、ああ、まぁ……そうだよなぁ」
「……ごめんなさい」
朱禰が謝る。俺から顔をそらさずに、いつものように真ん丸で赤い瞳で、何を言われても受け止める様な真摯なたたずまいで。涙なんて言って気もこぼれていないはずの白い頬を触れ返す。
涙はぬぐってあげなくちゃ、だよな。
「なんでそんな顔するんだよ、朱禰。悪いのは俺だろ。それに薄々何かあるんだろうな、って思ってはいたんだよ。ありがとうな、話してくれて」
今の俺は笑っているんだろうか。あんまりこういう感情を抱くのはようないのだろうけど、きっと俺はいま嬉しいのに違いないんだと思う。あの、世界を憎むのすら疲れた表情をしていた朱禰が、こんなにも喜怒哀楽を出してくれているのだから。
だからきっと、これから先訪れる「楽しい」を満喫できるのだと思うとたまらなく、嬉しい。
「……で、俺はいつまでこの状況なんだ?明日か、それとも来週?一年は、まぁ、無理だよなさすがに。っくぅ……流石に夢見た生活はまたらいせかぁ」
だから、きっと俺は幸せに違いない。それに希望だって持てた。仮に来世で、あるいはその次で、いつかは巡り合える奇跡があるってわかったんだ。ま、のっぴんだらりとやってくさ。
「なあ四郎?すまないが……なにか盛大に勘違いしているね、君。それも語るのもこっぱずかしいタイプの。ウルグスが浮気されたと思って相手の国を滅ぼそうとしたときみたいな」
差し込まれるは悪魔が謀。
正直俺も感動的な別れとか、体のいたるところにかゆみが走りそうになってたけれど。それでも流れ出そうになっていた涙が引っ込んだ。
「だれだよウルグス。ああ、そういえばお前にも言っとかなきゃな。ありがとう。おかげでいい思い出に包まれて死ねそうだわ」
「いや、だから死なないって」
こいつはなにをいっているんだ?
「だれが」
「君が」
「なんで」
「そこの蛇女と僕の合わせ技で」
「ああ……そう。」
「うん、そう。」
なるほど。
要するに、朱禰とルシエラの合わせ技で俺は死なないってことだ。
ふーむ。
ここはにかいだから、きっととびおりたらさっきのきおくもいいかんじにきえるかな。
「はい、いい子だね四郎。そこでストップだ。……君、僕のこと馬鹿にするわりにトキドキ比にならないくらいばかになるよね」
「はい。おれはおろかものです」
「冗談はさておき。君は無事黄泉帰りをしたわけだ。そこで少々君の体に異変が起きていてね。具体的に言うと……」
チラリと朱禰へ視線を向けるルシエラ。朱禰だからこそこうやって気を使うのか、それとも少しずつ他社に歩み寄っているのか、できたら後者のほうがいいな……なんて。
「オマエはね。生き返るには到底不可能だった。なぜって肉体は治ってもすでに底に入る魂が離れていたのだから。そこでオマエの体に私の一部を混ぜて、溶かして、作り直した。
そうして縁を無理くりつないで魂を探し、引き上げた」
「……て、ことは、だ。朱禰の力的なやつを引き継いでたりする、の、か?」
「まあ、ね。おそらく人から恨まれたりしたら力が強くなるんじゃないかしら。あるいは人を恨んでもそうなるかもしれないけれど……。正直どうなるかはまったくわからないの」
胸元を強く握りしめた朱禰が先ほどとは違って自分の足元を見つめながら話す。心なしか影もぐにゃりぐにゃりと形を変え、落ち着きがないように感じられる。
じゃああれだ。俺、しっかりとこいつらの行く先を見てやれるんだ。前みたいな中途半端な終わりじゃなくて。
そう考えると今までよりも活力が湧いてきた。試しに手を握っては解いてみる。
「てことはやっぱりありがとうだ!おかげで以前より元気になった気がする。朱禰のおかげだな」
正直違いはあんまり分からないが、それでもいいんじゃないかと思える。
だってほら、あの朱禰が……。
「なんなのよもう!気をやった私がばかみたいじゃない!!……まあ、オマエが受け入れるのなら私から言うことは何もないわ」
「いや、むしろこんな世界情勢だとメリットのほうが多そうで願ったりかなったりなんだけど……」
「本当に単純ねオマエというやつは」
何が朱禰の琴線に触れたのか、彼女は上品にくすくすと笑い声を漏らして口元を隠してしまった。ルシエラに至っては腕を組みながら首肯を繰り返しており、そこはかとなく腹が立つ。まぁ、何はともあれあまり今と変わらないのであれば気にすることもないか。
「あ、其れと私学校に通うことになったから」
「は?ハァァァァアアアアアアア!?⁉⁉ゴホ、グ、グホ、、ゴホン」
間違いなく今日一番の、どころかここ数年で一番の腹の奥底から驚嘆が飛び出した。絶叫はやがて裏返り、情けない声で話しきる前に咽る。
しかし俺は忘れていた。うちのクソ魔族は絶望的に空気が読めないことを。もはや狙って俺を困らせに来てるとしか思わない。
「それに関しては四郎。君も来週から学園勤務だけどね」
「はぁぁあああアアアアアあああぁぁ……」
脳に大量の負荷を与えられ、まだ人類には表現するのが難しい感情が洪水のように体内で暴れだす。急に絶叫したことと合わさったそれは急激に胸につっかえ、目覚めた俺をもう一度布団にたたき落とす力の本流となる。
あ……ちょっと……逝く…………。
第一部はこれにて終了。
時系列が逢わないことや、それぞれの主張・推察が異なるのはいつか回収されると思います(忘れない限り、完結までには…)