すけこま!   作:糖分至上主義

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修羅場の兆し

「これもいらない。これも、コレも。水呑?いらない。」

 

俺は今、震えて待つことしか出来ない。

それというのも…

 

「オマエは()()()要らないものばかり置いているのね。大丈夫、捨てられないのなら私が捨ててあげる」

 

めちゃくちゃ笑顔の朱禰が色々な物を彼女の影の中に捨てているからだ。

猿どもが顔だけ出して嬉しそうに噛み砕いてら。

 

「いや、それは…」

「これがどうしたの?藍色で、所々に傷がある、お前以外の匂いが付いていた、この櫛が。ねぇえ、コマ?」

 

鼻の上に持っていくようにして櫛を弄ぶ朱禰。

わーぉ。何気に久々に名前呼んでくれたわ。

嬉しくねぇ…。

 

「今日から私もここに住むのよ。多少過ごしやすくするのは見逃して欲しいわ」

「あ、ああ。そうだよな」

 

いや、それ初耳です!だなんて言えるわけが無い。

朱禰の影の手が俺の影の頬を撫でている。何故かずっと寒い。

一時期だけとはいえ誰かと一緒に過ごしたのは今生だとあの人だけ。まあそれも数年前で、もう相手は俺を覚えてないだろうけど。

 

「ふぅ。ひとまずはこんなものね。ほら、そんなところで惚けていないで。早くこちらに来なさい」

 

言うが早いか、朱禰に絡め取られる。

 

「なんか、随分と昔に戻った気分だな」

「ええ、そうね。まるであの日々の焼き直しのような…。

ねえ、オマエ。まだ、、、、あの時の約束は覚えているかしら。一緒に、外に出るという」

「ああ、あったあった。いやあ、あの時は朱禰があんまりにも退屈そうだったからさ。てか外に出れるようになったのな!良かったじゃん」

「それは…!(オマエが居なくなったのだから村なんてすぐに沈めてやったけれど、、、それを知られるのは嫌ね)」

 

「そんなこと、とうの昔すぎて何を思ったか忘れたわ。

それよりもほら、もう夜は冷えるわ。オマエも私を抱き締めなさい」

 

真正面から俺を見つめてくる彼女の表情はどこか無機質なものになっていた。でもこの表情を作る時は何か難しいことを考えている時だと、俺は知っている。

朱禰は昔から悩み事が多い印象というか、どこか草臥れた考え方をする奴だ。こういう気分もあるんだろう。

 

部屋の中央で互いが無言で抱きしめ合うこと数分。

朱禰は満足したのか、最後に1度だけ力が籠り、そして解放される。こいつ全く俺から目を逸らさねえな。そういうのはちょっと恥ずかしいじゃんか。。。

 

 

この時、四郎は気が付かなかったが部屋中に真黒なナニカがだんだんと延び広がっていた。しかしそれも朱禰の腕に力がこもった瞬間、何事も無かったかのように全て彼女の内へと、まるで巻き戻したかのように引っ込んで行った。

 

 

「…ねえ、何か汚れてもいい入れ物はないの?」

「ん?ああ、別にいいけど、、賃貸だからなここ。変なことはよしてくれよ?」

「賃、貸、、?」

「ああそうだわな。現代のことなんて知るわけないよな」

 

ここに住むというのなら現代について最低限のことは教えないと行けない。朱禰のような人命を簡単に消し飛ばせるなら尚更だ。

 

ひとまず、このアパートのルールから教えることにしよう。

ちなみに渡した容器にはクチナシを植えるらしい。

 

 

 

「なあ、この骨、、、って人骨、、じゃあ、ない、、、よな?」

「それはあの子たちのお気に入りよ。狼だからかよく食んでいるけれど、あまり気にしなくていいわ」

「あ、そう、、、」

 

 

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 

【ヒメサマ……あたくち、いらない子だったのですか…?】

「ごめん、、、ね?アコメ。私、何も出来なかった…」

 

学生寮、その中の朝霧カナメに与えられた一室にて。

その部屋主たるカナメは部屋にて大きな扇子とともに沈みこんでいた。

かたや主に見放されたもの、そしてもう一方は、自分を信じるといった兄のような人物に、お泊まりのお強請りを断られたものであった。

 

カナメは朱禰とヒメサマの激突時、彼女たちの凄まじさを目の当たりにしていた。その時に感じたのは「相手に立ち向かう」という、()()()の意志ではなく。真逆の「どうにかして4人で逃げ延びる」いう()()()()の意志であった。実際はなんら問題のない、酷く人間的で当たり前の反応なのだが、あの場ではカナメ以外の全員が、事態の終息を目指して行動していた。

 

同じ期間、現場にたっていた充は冷静に戦況を眺めていたし、アコメは必死にヒメサマに呼びかけているように見えた。なんの力も無いはずの四郎ですら、藻掻いて朱禰にやめるよう呼びかけていたのだ。

少なくとも彼女には自分だけが諦めたように思えて仕方なかった。

 

沈んだ気持ちがさらなるマイナスを産み、「そうだ。自分は頼られたのに…」と自己嫌悪に繋がる。

 

「(あの人、、私、、、から、お兄さんを、奪って!大事な位置も取られた!!)」

 

思い出すのは、「守ってくれ」と真剣な顔で(冗談めかして)熱い眼差しで(笑顔で)宣った四郎の顔。

「ごめん、でも本当に怖いんだ。もうカナメしか頼れない」などと実に心くすぐる言葉をくれた四郎。(言ってない)

しかし今、彼を守り、隣に立ち、頼られているのは朱禰だ。

 

「ねえ、アコメ。良かったら、だけど。わたしと、、一緒に、、、強く、なろう」

【今更何を言うとるのじゃおまえは…ヒメサマはもう、もう!!】

「うう、ん。まだ、多分、生き、、てる。」

【…じゃあなぜあたくちを迎えに来てくれないのよ!ぞれなら"やっばりあだぐぢは…あ"だぐぢ、い"ら"な"い"ごな"ん"だあ"あ"ぁ"ぁ"あああ"あ"!!!!!】

 

あの時、朱禰と呼ばれていた霊害が号令をだして、数多のオオカミ達がいっぴきの大きな存在へと進化した。

それはそのまま大きな口でヒメサマに喰らいついていたが、あの特有の悍ましい気配は急速に小さく、そして遥か遠くへと逃げて行った。

 

「た、ぶん。あの朱禰って呼ばれてた、、アイツは、ヒメサマを、追い払っただけ、、、、だと思う。

…でも、朱禰自体が強すぎて、ヒメサマは、、、その、、、、逃げた、んだと思う」

 

「だから、ね!一緒に、、、強くなって、大事なひと、を、、守れるようになろう、アコメ」

 

カナメは抱きしめていたアコメを目の前の床に置き、その正面に正座で座り込む。

 

「(これは私なりの誠意。もしもアコメが私の手をとってくれなくても、ヒメサマの捜索をすると結んだ約束を果たすつもり。それでも、私の手を取ってくれたなら…!)」

 

ピトッ

 

【…ヒメサマは非常に尊大で、それに見合うくらいの高貴な身分で、常に他を下に見ておられる方なのね。それでも元は多くの者を魅了してやまない、まさしく天性のものをお持ちであったの】

 

青々とした風が吹く、今よりももっと古い時代の映像がカナメの脳内を通り過ぎていく。

 

『妾に歯向かうものは皆、破却じゃ。ほぉれ、凍てつくがよい」

『妾の国では弱き者を認めぬ。皆、心して妾に尽くせよ』

『妾こそが天であり、地であり、そして国である』

 

【あたくちのような大した力も持たない、小霊のような存在ではあの方の近くにいるだけで掻き消される存在なのね。

しかし。あの方は気まぐれにもあたくちにお声がけくださったの】

 

 

『日の光が煩わしい。ソコの、遮ってみせよ』

『は、、、、はいぃぃい』

『ク、フフ、、、クハハハハ、なんだ。こうしてみれば案外アレも可愛いものよな』

 

 

【…以来、あたくちはあの方の側仕えを許されたのね。

あの方とともにある。あの頃はそうずっと考えていたの。

でも…】

 

 

『なぜじゃ、、?なぜ妾ではなく、、そやつを選んだ…。妾は全て手に入れた、それでも足りないのなら作らせよう。戦で負けることもない。なんの不安もないだろう、■■■■』

『貴方様はどこまで行っても鮮烈で、過激で、艶やかだ。それこそが貴方様であり、世界もそれを切望している。

しかし、私は野に咲くノジギクのようなコヤツだからこそ、好いたのでございます。大変お世話になりました、姫様』

 

 

【ヒメサマは真に欲したモノだけは手に入れられなかったの。あの男はよりによってヒメサマの妹君を連れ、どこかへと去っていった。まあ、それもじきに討ち取られたらしいのね。

以来ヒメサマはすっかり窶れてしまわれた。。。

この世界に来れば、新しいものを見つけて元気になっていただけると、そう考えたのに、、。ヒメサマはさらにおかしくなってしまわれた。】

 

「そ、れは、、、」

 

すっかり泣き止んだアコメの変化した口調(7割は元のままの一人称)に戸惑いながらも、話を聞き進める。

そのうち、カナメは彼女の素が今である事に気がついた。

ならば、先程までの口調と傲岸不遜な態度は…。

 

【ねえ、カナメ。

あたくちもやらなければ行けないことを思い出したのね。だから、これはヒメサマが迎えに来るまでの仮の関係。

…それでも!それでもヒメサマの腹心たるあたくちの力が必要なら、、心の底より丁寧に扱うのじゃ!】

「うん、うん!一緒に、強く、、なろう」

 

カナメはもう一度、アコメと()()から向き合う。

互いが互いに触れ、何かが結ばれる感じがする。

深く、自分の魂の奥底のにある、ナニカに絡みつくように。

今なら、彼女のことが詳しく理解できる。

居場所や感覚を何となく共有している感覚すら芽生えだした。おそらくもう触れずとも声も聞こえるのだろう。

 

「よろしく、アコメ」

【せいぜい上手く使うのじゃぞ、カナメ】

 

この夜。

日本で初めての存在、後の『契約者』が生まれたのであった。

 

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 

『私立ミハエル学園高等学校』

充が「校長室」とかかれた札が上部に掲げられた扉をノックする。

影からは赤い目が圧力を発しながら俺を眺めてきているのがわかる。なんなら下を向けば目線が合う。

 

「失礼します」

「やあやあやあやあ!待っていたよ、朝霧カナメ君、剣崎充君、そして助駒四郎君!話は2人から十二分に聞いているよ。さ、前に座って。茶をだそう。アレルギーなどはないね?

あ、こっちにいるのは鳩羽誠一(はとば せいいち)君。僕の監視だから気にしないでくれたまえ」

「スゥ……」

「僕はルシエラ。ルシエラ・クロッヒェン・サヴァトロモチカ。この学園の一番偉い()さ」

 

俺は勢いよく顔を背けた。

 

 

 

事の始まりは早朝に家のチャイムが鳴ったことだった。

朱禰がイライラとしているのを宥め扉を開けると、そこにはカナメちゃんと剣崎少年が全身鏡をもってやってきていた。

 

「おはようお兄さん。あのね、今日はね」

「お前、もっと早く喋れねえんか。おいオッサン、なんか学園長がオッサン連れて来いってよ」

「は?学園長?なんで俺が?ああ、ごめんごめん。カナメちゃんおはよう。剣崎少年もおはよう」

「充だ。いちいち少年って呼ぶな」

 

目に見える形で頬を膨らませるカナメちゃんに挨拶の返事を済ます。剣崎少年…充は軽々と全身鏡を持ち上げ、家に上がっていいか尋ねてくる。

すると不機嫌さが影の中から伝わってきた。先に俺の影の中に溶けていった朱禰によるものだろう。

 

「家に上がるのは全然いいんだけど、その鏡は?」

「あ、あのね。これがあると、私たちの、学校に、行けます!」

「??」

「オッサン、昨日の霊害まだ近くに居るんだろ?あの後学園に頼んでた援軍の奴らがやってきたんだが、随分と前から黒髪女を追いかけてたらしくてよ。何故か学園長が聴取するんだとよ」

 

なんでだよ、とコチラが首を傾げている間に、玄関の靴棚前に鏡を設置しだす充。鏡がなんの役に立つんだ…?普通、こういう時は車の出迎えとかがあるんじゃないだろうか。

しかし、疑問を解消する間もなく、鏡の向きを整え、全身が移ることを確認すると2人が学生証のようなものを鏡にかざした。

 

 

「お兄さん。ようこそ、ミハエル学園に」

 

こういう物にありがちな眩い光などなく、本当に一瞬で景色が切り替わる。

しかし風が頬を撫でる感覚が、床から足裏に伝わる木材特有の反発感が、そして何よりうっすらと聞こえてくる子供たちの声が、ココは紛れもない現実なのだと知らせてくる。

 

「ほら、さっさと行くぞオッサン」

 

そうして充先導の元、校長室へと入室したのであった。

 

 

「うーっん!実に面白い!僕としては君みたいな存在はもっと後、具体的には5年後くらいに出現すると思ってたんだけど、完全に予想外だ。実際どうだい?超短期間の契約でもない、利害関係の一致でもない、ただただ損得勘定抜きにして自分より圧倒的に上位の存在と縁を結ぶ。てのは」

「えと、その、、はい。まあ特別運が良かった、のかなと」

 

こ、こいつ!!わざと遠くを見つめて視線を合わせないようにしている俺と、わざわざ目線を合わせようとしてきやがる!!

 

「ふむふむ。特別運がいい、ね。その通りだと、僕も思うよ。ただ、人はそれを運命と呼ぶ、なんてのは少し詩人過ぎるかな。

うん。この内容だと大丈夫かな〜。皆今日はご苦労だった。偉い人には僕の方から上手いこと言っておくさ。ね、誠一くんもそれでいいだろう?」

「私からは何も」

 

ふう、と鼻から溜まった空気を吐き出す。

実に疲れる数時間だった。最初の方はカナメちゃんや充のことを聞いたり聞かれたりと、和やかな会話(2人は居心地が悪そうにしていた)が続いたが、途中から会話のはずなのに尋問されてるみたいな内容が続く、肩肘張った話し合いになっていた。

 

「ヨシ!それじゃあ今日は終わりだ!次会う時は()()()()()()()()()()()話そう。まあ僕が美しすぎるのもあるからね。多少は目を瞑るさ。」

「はい、、いや本当、気を使わせちゃったみたいで…」

 

なるべく意識をルシエラに割かないようにする。

自分よりも上位の存在、、ね。俺からしたら今までの記憶が全部そうだから、もう違和感とかあんまり機能してない。

 

「(そりゃまあ、あまりにもグロテスクなタイプだったり、あまりにも理外の存在だったり、そもそも姿がないやつとかは別だけど、朱禰とかどう見ても美少女だしなぁ…)」

 

さて、何もなかったしさっさと帰らせてもらおう。朱禰の圧力が物理的に重くなって来てるくらいにはヤバい。なんか影がある場所、柔らかいもん。いつ影の中に吸い込まれてもおかしくない。なんなら彼女が外に出て来ないだけ素晴らしい状況だ。

 

「(律儀に言うこと聞いてくれてありがとな。後でなんか頼みがあったらなんでも言ってくれ)」

 

返事代わりとでも言うのか、明らかにおかしな形をしていた俺の影が元に戻っていく。

さてと、終わりらしいし、朱禰も限界みたいだから座っていたソファから立ち上がる。

横で真っ白な置物みたいになってるカナメちゃんは置いておくことにしよう。充は随分前、学園生活の話が始まるとそうそうに逃げ出した。

 

「おやおや、随分とまあ警戒されたようじゃないか。なぜだか皆僕のことをそういう目で見てくる。まだ何もしていないのに、全く困ったものだよ」

「いや、そういう含んだ物言いがダメなんだろ」

「おっと、これは手痛い指摘だ。ありがたい意見として飲み込むよ。

…フム。ところでなんだが、もう一つだけ聞きたいことがあったんだった。君、、どこかで僕と会わなかったかい?」

「いや、全く?あんた程の美人、そうそう忘れたくても忘れられないんじゃないか?」

 

そうか、だなんて少し気落ちした声とともにポスリとソファに座る音が背後から聞こえてくる。

以前より随分と聞き分けのいい、というかもはや別人レベルになってるじゃん。前まで「皆僕に尽くせて幸せだろ!ハーッハッハッハ」みたいなやつだったのに。

少しだけルシエラのことを見直したとともに、ふと思い出したことを聞いておく。

 

「ルシエラさんあんた、足腰とか大丈夫なのか?」

「…何を持って大丈夫かは人によるが、僕は僕なりに健康だよ」

「そっか。そりゃy「合わせ鏡のように」

 

 

 

「私のモノに触れるな」

 

 

影が隆起し、俺の体を覆うようにして立ち上がる。

 

同時に後ろから、ガギンッ、と何かを叩きつけあったような重低音がなった。

 

驚いて尻もちを着いた俺の視線の先では

 

真っ赤な目を敵意に染めた朱禰と、不敵に笑うルシエラが睨み合っていた。

 

 

 

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