すけこま!   作:糖分至上主義

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2人目、気取り屋西洋貴族娘:クソ魔族・ルシエラ

「ようやくたどり着いたぞ、魔王ルシエラ!このハルト・イーダ、貴様の過去の悪行を決して忘れたりなどしない!焼け落ちた公国、洗脳をして自信を崇めさせている魔都、搾取する為だけに作られた人間牧場!

もはや同じ天の元に生きているものだとは思えない!今日、貴様を此処で討つ!

勝とうぜ、みんな。」

 

「「「おう!!!!」」」

「あ終わった感じかい?いやぁ、よく頑張ったんだね。感動した!」

 

一座の先頭にいた物々しい全身鎧が斧を掲げ、ルシエラに向かって果敢に突撃をする。それに続くように弓を構えた男と杖を構えた女が何かを唱え出す。

と同時に、ハルトと名乗った男は彼らを守るように盾と剣を構え、最後尾にいた少女が祈りを捧げ出す。

合図なしに行われる連携は、彼らの積み上げてきた研鑽の証であり、彼ら自身の誇りでもあった。

 

【ッッッッそれは、さすがに反則だろ!!】

「フン。お前さんでもネコネ・コネコの祈りはどんなものか、わかるじゃろ。あの子は世界で最も敬虔なシスターじゃからのう」

 

「ハルト、いつでも打てるよ」「ハルト、いつでも合図を出したまえ。この、キハーノ国第1王子、キハーノ「ながい。キハーノ」ごめん…」

【クソ!邪魔だ退け!!有象無象ども】

「言葉を宿すこと、それ即ち神を宿すのとひとしく、また黎明を切り開く大いなる力の象徴でもあった。

受け取ってください、ハルトさん!『神はその一言に(ア・ラ・カルト)』」

 

全身鎧を来ていた老兵、アレイはルシエラの伸びた爪を戦斧で押さえ込み。しかしそれをやぶれかぶれになりながらもルシエラが押し返す。

と、それを待っていたかのように杖持つ少女、レイと弓引き男、キハーノがそれぞれの技を放ち、さらに押し返す。

 

 

 

「ルシエラ。貴様は多くに人を殺めすぎた。大人しく天界で裁かれるんだ!!!」

 

 

 

〈黎明切り裂く光の刃〉(ホーリー・ブレイド)

 

 

 

ハルトの持つ、まさしく光の塊としか思えないような眩い純物質の本流がルシエラを押し流す。

それは魔王城の壁を打ち破り、さらには赤く染った曇天を晴らして、世界に平和をもたらす光芒となって三千世界を照らすのだった。

ここに悪は潰えた。

彼らの長きに渡る艱難辛苦の旅は終わりを迎えたのだ。

 

 

 

 

 

 

⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎

 

 

 

 

 

 

「おぉぉいぃぃ、労働奴隷(ポーン)くぅぅん。ボク、君に言ったよねぇぇえええ。昼まで寝てる、って。」

「ええい!うるさい!!毎回毎回グースカピー眠りこけやがって。まとめて睡眠を取るのはやめろって何回言えばいいんだこのバカ!」

 

真っ赤な煙が空を覆う曇天の下。

騒々しい騒ぎ声が山の頂から辺りに木霊する。

 

ここはクロッヒェン城。

四方に四角い建造物と、中央正面に大門を構えており、その奥に本邸を構える形の巨大な城であり、遠くから見た姿は霧に浮かんでいるようにも見える。

 

第4大陸随一の高さと危険度を誇るクロッヒェン山塊の、その中で最も高いマクスウェル山の山峰を、真っ平らに切断した平面に立っている、難攻不落の魔王城として名高い違法建築物だ。

 

「ええい、さっさとシーツをよこせ!朝ごはんを食べろ!!メヌエットの、散歩に、たまには行けぇえええええ!!!」

「ボ、ボクのエデンがああああぁぁ!!!!」

 

ポーンと呼ばれる真っ白な髪の毛の青年がシーツを引き剥がし、その上に寝ている女性が床に放り出される。

 

「おい、お前ら。このバカは俺が相手しとくから、コレ洗ってきてくれ。

……お は よ う ご ざ い ま す 。 ルシエラ様」

「キミィィ、それでもほんとにボクの下僕かい?ったく、ああおはようおはよう。全く嫌になるくらい最高の目覚ましだったよ」

「お気に召したようで何より」

「コイツッッッ」

 

そそくさと部屋の外に待機していたメイドにシーツを渡し、いい笑顔で腕を組むポーンと、それを恨めしそうに見上げるルシエラ。

この城ではすっかりこの数年で見られるようになった光景だ。それ故、他のメイドやコックはいつものことかと、すぐさま自身の仕事に戻っていった。

 

「で。今日の予定は?」

「不躾なお客様がお越だぞ。おそらくあのペースだと昼頃だってよ」

「ふうん」

 

ルシエラは真っ黒なネグリジェ姿で尊厳をどこに捨ててきたと言うのか、床をコロコロと転がり窓辺にある椅子の足元までたどり着く。

そうして流れ着いた先で、腕を組み、足を放り出した体制のままじっとポーンを見つめる。

 

「ッチ」

「あー!いけないんだー、主人にそんな態度。処しちゃうぞ。ン?ン???」

「ッッッッッチ」

 

ポーンは溢れ出そうな怒りとルシエラの鳴き声を無視して、両脇に腕を入れ椅子に座らせる。満足したのかルシエラも鷹揚に頷いており、それがまたポーンの血圧をあがらせる。

 

数年前から続く奇妙な関係。

ルシエラはこの感覚がどこか好きだった。

打てば響く、小気味よい会話の応酬。以前までは面倒だからと、デフォルトで運用していた自動人形たちに、ポーンの真似事をさせるくらいには耽っていた。

ポーンは預かり知らぬことだが、彼以外の使用人はルシエラによって設定されたことだけを繰り返す自動人形だったのだ。

 

「ほんと、いい拾い物、したよねぇ」

 

近くにいた自動人形たちにどこかに散るよう、脳内で命令をだす。

それから、部屋の外まで持ってきていた朝食を配膳しているポーンを眺めながら、ルシエラはあの日の情景をパラパラとめくりだした。

 

 

 

ハラリ

 

 

 

何となくの気分で、小国が集まってできた「公国」と呼ばれる国家を滅ぼしに行った際、自分を一度殺めるに至った只人がポーンだった。なにか名前を名乗っていたような気もするが、そんなことをいちいち覚えられるルシエラではなかった。

 

ルシエラは自身の不死性と特異性をよく()っていた。

未知でしか殺せぬ特性に、相手を覗き込む魔法。

ただ一つの動作で相手を理解し未知を既知とする、この世で最も効率的でつまらない外法に、ルシエラは開発者でありながらも駄作だと思って憚らなかった。

 

『お前。こんな事して魂を食うどころか、つまらなそうに眺めるだけとか何がしたかったわけ』

『ン?新しいものは現地で実験するに限るだろう。それにボクら魔族にとって魂はあくまでも嗜好品で主食は感情だよ。苦痛や怒りって、苦くてボク嫌いなんだよなぁ」

『ああ、そう。じゃあそろそろお話は終わりだ。くたばれクソ魔族』

 

「(名前を授ける祝福、だなんて。ホント、命のかかってる場面であんな選択普通はしないだろうに)」

 

 

 

「おら、準備できたぞ。さっさと食べて、今日の見回りに行ってこい!」

 

過去の情景が突き破って目の前までやってくる。

もう以前のような力はないのに、自身を監視すると言ってここまでやってきた変わり者は、相も変わらず目の前で偉そうにふんぞり返っている。

「ま、いつでも聞けるか」とルシエラは思い直し、準備のすんだ朝食の一軍を眺める。

 

「…今日は随分と豪勢じゃないか」

「何言ってんだ。毎回お前が眠りこけてる日はコックにこんぐらい作らせてんだよ。嫌がらせのために」

「あ、そう」

 

食事を必要として居ないはずのルシエラ。しかしナニカが彼女の琴線にやわらかく触れた。

 

「メヌエットの散歩はキミがずっとやってたのに、やけに最近はボクに行かせたがるじゃないか。サボりは許さないぞ」

「うるせえ、ペットの面倒くらいテメエで見やがれ」

 

意趣返しとして、気にもしていないことを毒として吐き出すが、それもポーンは受け流す。

 

不貞腐れたように食事に噛み付くルシエラと、それにまた青筋を立てるポーンの姿を遠くで見ていたメヌエットは退屈そうに欠伸をして、また眠りこけるのであった。

 

 

 

 

「(…あま)」

 

 

 

 

 

ハラリ

 

 

 

 

 

「じゃ、君たち適当に帰っていいよ。もう1回ここに来たらどこか適当なところから飛び降りてくれ。」

 

うつろな眼をして笑い合う侵入者一行に命令を下すルシエラ。

この玉座の間にやってきた瞬間からハルトと名乗る男たちは自分の幻想に溺れていった。

理由は簡単、ルシエラの瞳を覗き込んでしまったから。

 

「(お腹、すいたなぁ…。毎日毎日甘いものを食べさせられるボクの身にもなって欲しいものだよ、全く。そもそもボクは食事を必要としないって以前にも言ったはずなんだけどな。どこまでも身の程知らずの変わり者め)」

 

なんて適当なことを考えているうちに襲いかかって来るものだから、「どんな失礼なやつなんだ」と相手を()()()()()見つめたら、全員ルシエラを真っ直ぐ見つめ返してくるものだから驚いた。

ルシエラは自身が「魔王」だの「天敵」だの色々言われて方々から恨みを買っていることをよく知っていた。

だからこそ自分の能力に対策くらい立てていると思っていたら、まさかのノーガード戦法。

これにはさすがに萎えが出た。

きっと何事もなければ彼らは王国の帰路に着いたことだろう。

仮にもう一度この城に来ようものなら、その時は先にしかけた暗示で身投げをするはずだ。

我ながら随分と慈悲深い選択だった、とルシエラは自分を褒め称える。

彼らが王国に帰ったあとのことは、彼女の考えるべきことではないのだから。

 

 

 

『おい、クソ魔族。お前、いつから魂食ってねえんだ』

『んー?いつからだったかなぁ。。。ボクの記憶だと…』

『いいよ、、、わざわざ思い出さなくて。お前俺らにずっと嘘ついてきたろ。魂は食わなくたって問題ないって』

『いやぁ?ボクら魔族が数を減らしたのは何も他種族に滅ぼされた訳じゃない。退屈という遅効性の毒に誰も打ち勝てなかったからだよ。

そういう意味では魂は必須じゃない。感情で腹は満たされるしね』

『お前、、、ッ明らかに!!・・・や、そうかよ。じゃあ、いい』

 

 

そんなことよりも、戦いが終わってから急に行われた会話が何度もルシエラの脳裏を駆け巡る。

なぜあんなに彼は複雑そうにしていたのだろうか?それはきっと今の自分では分からないことだと知りながらも、ルシエラは悩まずにはいられなかった。

 

自身の胸にはしる、この痛みから気をそらす為には。

 

 

 

 

ハラリ

 

 

 

 

あれから少しだけギクシャクした空気がポーンとルシエラの間に停滞していた。しかしそれも次第に日常へと飽和していく。

いつもと変わらない日常。いつもと変わらないやり取り。いつもと変わらない…

 

「なあ、ルシエラ。お前、俺がいなくなったあとはどうすんの?」

「は…ぁ?」

 

優雅な夜の紅茶の時間。(これもポーンが来てから行われるようになった恒例行事のひとつ)

珍しく中庭で開かれた茶会には、いつもと変わらず2人と1匹の参加者がいた。給仕をするものにそれを受けるもの、そして双方の足元で丸まっているメヌエットだ。

 

そんな中ポーンはふと思い出したかのような、まるでいつの間にか、月がまあるくなっていることに気がついたかのような調子で尋ねた。

 

「いや、また軽い気持ちでどこかの国を滅ぼしたりするのかと思ってよ」

「ああ、そうだね…。いや、その、あれだ。ボクとしてはまた新たな研究を始める、んだと思う」

「なんだ、随分とおかしな返事だな」

 

笑いながらポーンがお代わりの紅茶を茶器に注いでいる。

しかしそんなことを気にしているほどルシエラには余裕がなかった。

 

「趣味のひとつでも作っといたら、お前のその熱中しすぎる悪癖も治ると思うけどなぁ。1日の終わりの日記とかさ。あるいはお前のために働いてくれてるアイツらに手紙なんか書くのもいいんじゃね?アイツら結構いいやつらだぜ。お前なんかには勿体ないくらいだ」

「…とんだ自画自賛を聞かされた気分だ。まぁ?砂糖ひとつ分くらいは君の意見を取り上げてあげようじゃないか」

 

紅茶をひとくち、ふたくち、、、と嚥下していく。

いつの間にか随分と口内が乾いていたらしい。柄にもなく、香りを楽しむことなく飲み干したルシエラは恥ずかしさに襲われた。

 

「(…そうか。君はいつかいなくなるのか)」

「あ、おい、今日はもういいのかあ?いっつも3杯は飲むだろお前」

「ああ、うん。今日はやらなければいけないことを思い出したからね。」

 

 

 

 

 

ハラリ

 

 

 

 

 

「やあやあやあ、寝坊助(ねぼうすけ)怠慢給仕係(ポーン)君。一体ボクの空腹は誰が埋めるんだい?早く配膳したまえ」

「早起きしてるとそれはそれでムカつくんだよな…」

 

こういった急なテンションでルシエラがおかしくなるのはよくある事だった。

「朝の目覚ましなど、面倒なことが減って楽でいい」「しかしよく回る口だ」と感想と文句とが同時にこぼれでるが、どれにも文句を言ってこないルシエラに、ポーンはふと首を傾げる。

 

表情を見ようとルシエラを眺めてみるも、ニコニコとこちらを眺め続けるだけではないか。ポーンは途端に自分のことが馬鹿らしく思えてまた配膳に取りかかった。

 

「(ま、どうせいつもの思いつきだろ)」

 

 

 

しかし…

それからというもの毎日毎日、ポーンが起こしに来るよりもルシエラの方が早く目覚めて椅子に座っている。

月が完全に隠れる頃には、これは流石におかしいぞとポーンも気がつく。

 

「お前、いつから休息とってねえんだよ。もう随分と長い間早起きじゃねえか。どころか寝てすらいないんじゃねえのかよ」

「ああ!今は新しい魔法を研究中でね。今にできるからゆっくり待ちたまえ。なんたって私は稀代の魔王、らしいからね」

「いや、一旦休めよ。少しくらい休んだって別に…」

 

ダン、という打撃音が静かに響く。

 

「キミ、キミ、キミ。

ボクは主人で。キミはその配下だろう?いいから言われたことに粛々と従ってくれないかい」

「なに意固地になってんだお前。別にやれる所までやればいい。ただそのためにも休んだ方がいいって提案だろ。

お前やっぱ疲れてんだよ」

「うるさいうるさいうるさいうるさい!」

 

癇癪を起こしたルシエラは、何に苛ついているのかも分からないまま、ひたすらに暴れ続ける。

それをポーンはただただ近くで言葉を投げかけ、落ち着くのを待ち続けた。

 

「な。そろそろ一旦夕飯にしようぜ。お前も疲れたろ」

「もう、、、いい。疲れた。寝る」

「はいはい。全く手のかかるご主人様だよお前は」

「近くにいろ。あと昼に起こせ」

「今日だけな」

「すまなかった」

「いいよ。べつに」

 

 

 

 

ハラリ

 

 

 

 

「キミはさ、なんでボクの監視なんかしてるんだい?」

「あ?今更聞くかそれ?」

「いいから答えなよ。ああ、これ命令だから」

「…別に、別にさ。俺ら人族は道に迷って泣いてる子供にゃ優しいんだよ。特別なことじゃない。

ただ、その子供が馬鹿みたいに強い力持ってただけって話だ」

「…キミ、、、ボクより全然年下だろう…」

「ッッッッッッッッチッ」

 

それ以降、ルシエラのだる絡みは圧倒的に量が増えた。

それに比例するようにポーンの舌打ちが増え、メイドやコックたちのため息も増えた。メヌエットは知らぬ間にマクスウェル山にいる数多の獣たちを従えていた。

 

 

 

 

ハラリ

 

 

 

 

その日の朝は特に冷える朝だった。

ルシエラは心地よい空気に羽根伸ばし、逆にポーンは凝り固まった関節をほぐす。

空は相変わらず厚ぼったい雲に覆われた赤模様で、マクスウェル山は枯れ木が覆い尽くしていた。

 

「失礼するよ魔王様ぁ~」

 

そんな気軽い挨拶が朝一番で城内に響き渡る。

メイドやコックたちは即座に戦闘態勢に入るも、一瞬で全て崩れ落ち、縄張りを荒らされたと感じたメヌエットも犬歯をむき出しにするが、一瞬で床に叩きつけられ気絶する。

飛び出そうとしたポーンはルシエラが制し、玉座の横に控えさせた。

 

「随分と久しぶりだね、ウルグス。まだ生きてたんだ」

「おい、知り合いか?」

「久しぶりだねルシエラ。少し見ない間に随分と、、、賑やかになったみたいじゃな~い」

 

ウルグス、と名乗るボロボロの外套を纏った人物がルシエラと魔法についての談義を始める。

 

その間に寝転がって伸びていたメヌエットが起き上がり、ポーンに頭を擦り付けに行く。メイドたちも一部のものが起き出して、伸びているものの足を掴んでは、片っ端から使用人室へと引きずって運び出した。

 

「ポーン、紅茶を持ってきてくれるかい?」

「ムーンドロップをきかせたうーんと甘いヤツねぇ〜」

「はい、仰せのままに」

 

一応来客の前だということでルシエラの(あるのか分からない)顔を立てる。

 

「今年は魔素が例年より濃くて、随分と過ごしやすいね」

「大陸の他種族は大慌てだろうけどねぇ〜。魔素なんて僕ら魔族以外毒にしかならないだろうし」

「それで。

君がここに来たのはそんなことを報告しに来た訳じゃないだろ。わざわざポーンを追い払ってまでやったんだ。さっさと吐けよ衆愚の集まり(ウルグス)

「そう猛らないでよぉ。もしもを覗く人(ルシーラ)

 

 

「ボクはルシエラだ。間違わないで貰えるかな」

 

 

軽口の言い合い程度だった会話が、一瞬で殺気を含んだもの言いになる。

 

「…失礼」

「僕らにとっての名前ってのは、存在意義みたいなものだよ。いいの?それを捨てるような真似して」

「仕方ないだろう?祝福されてしまったんだから、さ」

 

不貞腐れたような声音の割にやけに嬉しそうじゃないか、とはさすがのウルグスも言葉に出来なかった。

魔族の中でも一番存在が希薄だったのは彼女だった。

享楽的なのは全ての魔族に共通して言えることだったが、とりわけルシエラはその特性が強かった。

まるでそれ以外のことがよくわかっていないかのように。

必然的に最年長であったウルグスは当時最新の魔族であったルシエラを気にかけた。

気にかけて、気にかけて、気を揉んで、気に病んで、気を使って、気をつけて、気を抜いた。

彼女は()()()()魔族なのだと思い込んだから。

それがルシエラにとっての最大幸福だと思ったから。

 

「(なんて、目の前の様子を見たら間違いなのが丸わかりなのにねぇ〜)」

「なんだいその目は。また潰そうか?」

「いやぁあ〜、別にぃい〜。前までは問答無用で潰しにかかってきた君が、こうやって成長したみたいで安心しただけだよぉ〜」

 

 

パリン

 

空間に何か、まるで陶器を落としたような音が鳴る。

 

「だからこそ、君の運命が悲劇的であるのが悲しいよ」

「早く行ってあげなぁあ〜。彼、そろそろ限界だよ」

 

「何を言って…。ッポーン!!!」

 

ウルグスの意味深な物言いの真意を問いただそうと、口を開いた瞬間。ルシエラの目には、コックの目を通してポーンが前のめりになる姿が映った。

 

 

 

 

 

 

ハラリ

 

 

 

 

 

 

「ポーンッッッ!お前、なんであんな状況なのに何も言わないんだ!!!」

「うるせえクソ魔族。俺はどんくらい寝てた?」

「…3時間くらいだよ。ウルグスはさっき帰った。『最後の時間を大事にしなぁあ〜』だってさ」

 

ルシエラの装いが、普段はどこでも、それこそ室内でだって来ているフロックコートを脱ぎ真白なシャツ姿になっている。

ポーンはそこで、やけにこの部屋が暖かいことに気がつく。

 

「あっついなこの部屋」

「キミは、、、。キミは高濃度の魔素中毒、らしい。

ウルグスがそう言ってた」

「魔素中毒、、、ねぇ」

「なあ、、、。キミ、自分がこうなるってわかってたのかい?」

「まあ、一応は」

 

それっきり黙りこくってしまったルシエラを見て。

ポツリ、ポツリ、、とポーンが吐き出す。

 

「この山に来る前、お前にかけた名付けの呪文があったろ。

あれさ、自前の魔力だけじゃ足りなくてさ。文字通り全てを絞り出したんだよ。

そこで俺は終わりだったんだ。

でも、どっかの変わり者魔族が見た事ある目をしてたからな。ほっとけなくなったんだよ。

それに、俺の命が無くなったのは魔力の使いすぎだ。だから魔力を取り込めば、何とかなるんじゃねえか、って思ったんだけどさ。

まあ、、、見ての通りだ」

「…」

「そんな顔すんなよ。

俺は元々あそこで土に還るべきだったんだ。

でも、ここにきたおかげでこんなにも長生きできた。だったら上出来だろ。」

 

 

「…僕は、キミがいなくなるって聞いた時。すごい嫌な気分になった。だからキミがもっと生きられるように、何とかしようとしたんだ。

それもキミに止められちゃったけどね」

「ね、ほんとに死ぬのかい?」

「死ぬよ。もう正直体も重くてうざったかったんだ」

「僕を置いていくのかい?」

「ああ。俺だけじゃない。人はみんな、いつか死ぬんだ。」

「僕は、、、この先どうすればいい?」

 

「…あのなぁ。いっぱいお前に生き方は教えてやったろ。

お前は俺より生きて、そんでこれからも生きるんだろ?だったら、好きなことのひとつやふたつ、見つけてこいよ。

んで死ぬほど必死に生きて、死ぬほど後悔作って、そんで最後にそれでもと笑って死ね」

 

 

「なあ。僕に殺された人らはどんな気持ちだったんだろうね」

「知るか。この世界は()()()()世界だろ」

「そっか」

 

夜。

すっかり日も落ち、外の木々が風にあおられて揺れ動く中。

寒さを全く感じさせない部屋でポーンはブスくれていた。

 

「くそ、案外死なねえじゃねえか」

「っクク。君らしくていいじゃないか、ええ?今夜は冷えるから、何か持って来させよう」

「ああ、これでお前のとこでの奴隷生活も終わりか。もう一生お前のとこでは働かねえ」

 

脳内でコックに部屋の前まで飲み物を持ってくるように言う。

そこでルシエラは、ここ最近はすっかりとポーンに入れてもらったストレートティーしか飲んでいなかったことをおもいだす。

 

「ふふ、特別にボクのお手製を飲ませてあげようじゃないか。高くつくよ」

「なあ、光に向かって歩むもの(ルシエラ)

お前、俺が死んだら魂喰っていいよ。それでチャラってことにしてくれ」

「そうかいそうかい。殊勝な心がけで感謝感激。だが先に飲みたまえ。運ばれてきたようだ」

 

なんだかんだ生きているポーンを前に、実は明日の朝になれば元気になるんじゃないのかと考えた。

 

「(そうさ。何も急に死ぬなんてことないに決まってる。そうなったら明日はボクの料理をたべさせてあげよう。フフ、一体何を作ろうか)」

 

廊下の壁に着けるように置かれているトローリーを部屋に運び込む。

紅茶と、マフィン、スコーンにクッキーと茶菓子もつけてあることに感心する。

 

「(ただ真似事をさせてただけだったけど、命令以外のこともできるようになってるじゃないか。全く気が付かなかった)」

 

ゆっくりと、何度も目の前で見せられた動作をなぞる様にカップに注ぐ。

小麦の柔らかく甘い香りと、紅茶の優しく穏やかな香りとが部屋に広がる。

 

「さ、できたよ。茶菓子もいくらかあるが、どれがいい?ポーン?」

 

 

 

「…ポーン?」

 

 

 

 




魔素…世界の淀み。魔法を使うのに必要

魔法…不思議なちから。生まれ持ちひとつだけ使えるが、研鑽すると派生する。派生の法則性は不明

魔族…魔素から生まれる存在。世界の洗浄・循環機能

公国…善いことも悪いこともしていた。混沌としていたが、過ごす人物は皆逞しく生きていた。





勇者一行…王国に凱旋した。王様から望みをかなえられてみんなハッピー


メヌエット…皮が張り付き、骨格が見て取れる姿をしている。8足歩行で二股の尾を持つ百足のようなドラゴン


ルシエラの魔法…相手を覗き込む魔法。目を合わせると、相手の経験したことやできることを知る。知っているものは当たらないという屁理屈で無効化してくる。
派生で『相手に理想を見させる』『相手の望みを知る』『相手の視界を盗み見る』などができる。


ウルグス…"みんな"と相談して決める優しい王様。多くの国民と協力して()()する、力ずくの未来予測ができる。
今回は旧友のためにやってきた。
託されたものを引き継ぐ魔法を持っている。
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