メンヘラエルフは勇者が大好き〜霧害世界で愛が重すぎる最強格ダークエルフと旅する話〜 作:かわうそ☆ゆう
本作は「一途すぎる想い」が少しずつ歪んでいく、
勇者とエルフの再会から始まるダーク寄りファンタジーです。
可愛いだけじゃないヒロイン、
守られるだけじゃない勇者、
そして「好き」という感情がどこまで人を壊せるのか。
そんな物語を楽しんでもらえたら嬉しいです。
※ヒロインは重めです。
※でも愛は本物です。
※この作品は小説家になろうさんの方でも掲載しております
01.再開
霧が深く漂う森を、俺──ユナト・フェリアスは仲間と共に進んでいた。
世界中で突発的に発生し始めた異常現象“
ただの天候異常ではない。
霧そのものが生き物の“感情”を読み取り、弱った心を侵食し、魔物を凶暴化させ、時に人間の精神まで歪めてしまう——最悪の災害だ。
その原因は──魔王アザゼル=ミストグレア。
黒い霧を操り、世界に“心を喰う呪い”を広げる存在。
霧害の調査と対策は、俺たち勇者パーティーに課された最優先任務だった。
そして、調査の第一地点として選ばれたのが、この“
霧害が最初に観測された場所であり、アザゼルの気配がもっとも濃い場所だ。
……正直、胸の奥がざわつく。
だが俺には逃げられない理由がある。
俺──ユナト・フェリアスは、代々受け継がれてきた「勇者の加護」を持つ者。
世界に災いが現れたとき、討ち滅ぼす責務を負う存在。
使命感で恐怖を振り払い俺は霧の向こうへと1歩を踏み出した。
「ユナト、慎重にな。ここ魔物の気配が濃いぞ」
パーティの前衛ライラが剣を構え、周囲を睨む。
霧からは、時折ざわりと湿った気配が流れてくる。
そんな時だった。
──胸の奥に、妙な“懐かしさ”が走った。
(なんだ……この感じは)
森に足を踏み入れた瞬間から続いている胸のざわつき。
緊張とも、恐怖とも違う。
それどころか、不思議な安心を覚えるほどだ。
「……ユナト、誰かに見られてるぞ」
仲間の魔法使いミリナが小声で告げた。その直後。
風の音と共に霧が揺れた。
視界の奥、銀の木々の陰に“誰か”が立っていた。
小柄な影。
長い髪がふわりと揺れ、霧の光を反射して白銀に輝く。
尖った耳、冷たいほど整った横顔。
こちらをまっすぐに見つめる、緑色の瞳。
「……ユナト?」
まるで、確かめるような声。
その声を聞いた瞬間、俺の背筋に電流が走った。
(知ってる……この声……)
記憶の中の、とても小さな少女。
森で泣いていた俺の手を引いてくれた子。
──フィリア。
名前が脳裏に浮かんだ瞬間、影がこちらに駆け寄ってきた。
「ユナト!」
迷いも警戒もない。
勢いのまま俺に抱きつき、顔を胸に埋め震える声で呟く。
「ずっと……ずっと会いたかった……!」
突然の再会に動揺する俺に対し、フィリアはまるで“再会することが当然”だったかのように無邪気な笑みを向けた。
「やっと……また守れる……」
小さく呟いたその言葉に、思わず息が詰まる。
守れる?
誰から?
その時、俺の背後でライラが剣を構えた。
「ユナト、離れろ。そいつ……ただのエルフじゃない。霧の魔力に汚染されてる」
確かに。
フィリアの背中から漂う魔力は異様なほど濃く、霧と同質の妖気すら感じた。
それでも、俺の胸の奥は彼女を拒絶しない。
「……フィリア?」
呼びかけると、フィリアはぱっと笑った。
その笑顔は愛らしい。
だが、どこか危うく、壊れかけの玩具のようだ。
彼女は俺の手を両手で包み込み、囁く。
「あの日の言葉、覚えてる?
“私が一生守ってあげる”って……言ったよね?」
その瞬間、胸が締めつけられた。
懐かしい。嬉しい。
なのに、嫌な寒気が背中を走った。
フィリアは俺の後ろの仲間たちへと視線を向ける。
「ユナト。お願い……その人たち、消してもいい?」
森の温度が一気に下がった。
「邪魔なんだ。
ユナトに近づくものは……全部、消すから」
足元の霧が黒く染まり、どろりとした影が広がっていく。
木々が悲鳴のように揺れ、森そのものがフィリアの気配に反応していた。
「来るぞッ!」
ライラとミリナが同時に武器を構える。
緊張が爆ぜる。
しかしフィリアは、ユナトから離れようとしない。
むしろ、身体を密着させるように抱きしめてくる。
「大丈夫だよ、ユナト。
怖くないよ。だって私が全部守るもん」
耳元で囁かれ、背筋が強張る。
「世界中の誰があなたを傷つけても、私が全部殺すから」
霧がうねり、黒い影が蠢く。
少女との再会は、
あまりにも歪で、あまりにも突然で、
そして致命的に狂った形で幕を開けてしまった――。
フィリアの足元から揺らめく黒い霧が、じわりと広がりはじめる。
その霧に触れた草木が、まるで怯えるように枯れ縮み、葉を落とした。
「ユナト、本気で離れろ! こいつ……人じゃねぇ!」
ライラが叫び、フィリアを威嚇するように剣を突きつける。
しかし、その一瞬。
フィリアの表情が、冷たい仮面のように固まった。
「……人じゃない、か」
低い、感情の底で泡立つような声。
瞳が、深い黒へと濁っていく。
「ユナト以外に言われるの……嫌い」
ふわり、と彼女の髪が霧と同調するように浮き、黒い靄が体表を走った。
「ライラ、やめろ!」
俺は咄嗟に彼の前に立ちふさがる。
「は!? ユナト、正気か!」
「フィリアは……昔、俺を助けてくれた。彼女がこんなふうになってる理由を、確かめたいんだ」
フィリアの肩が震えた。
喜んでいるのか、怒っているのか判別できないほど不安定な微笑み。
「……ユナトは、やっぱり優しいね。昔のまんま」
「フィリア、俺は——」
言いかけた瞬間、
霧の奥から“何か”が這い出す気配が走った。
「ギャアァァア!!!」
森を震わせる絶叫。
黒い影がうごめき、異形の魔物が姿を現した。
四つ足だが、骨が曲がり、皮膚が剥け、口からは黒霧が垂れ流されている。
「霧害で……魔物が完全に変異している!」
ミリナが息をのんだ。
フィリアは、ゆっくりと魔物たちに視線を向ける。
その目は、冷たい。
仲間を守ろうとする意志ではなく、ただ淡々と“排除”しようとする目。
「ユナトに近づくな」
その囁きに呼応するように、黒霧が一気に広がる。
魔物の身体を包み、骨が砕け、肉がねじれ……次の瞬間、爆ぜた。
鈍い音ともに魔物が霧の中で潰れ、肉塊になって飛び散った。
俺たちは息を呑む事しか出来ずに居た。
「……これが……霧害の、本質……?」
ミリナが絶句する。
だがフィリアは微笑んだまま、俺を見上げた。
「あのねユナト……ユナトのためなら、私ね……何でもできるんだよ?」
その声音には後戻りできない危うさがあった。
「ユナトを守るためなら、魔王だって、世界だって、全部敵に回せるよ?」
「……フィリア……落ち着け。そんなことをしても、俺は——」
「ううん。ユナトは何も考えなくていいの」
彼女は俺の胸に額を押し当てる。
まるで病んだ恋人のように、必死でしがみついてくる。
「私が全部“正しくして”あげるから」
その瞬間、背後のライラが吠えた。
「これ以上は危険すぎる! ユナト、下がれッ!」
フィリアの耳がぴくりと動いた。
ゆっくりと、ゆっくりと――首だけをライラの方へ向ける。
その笑顔は、氷のように冷え切っていた。
「邪魔しないでって言ったよね?」
黒霧が爆ぜ、空気が揺れた。
「来る!」
ライラが剣を構えた瞬間——
フィリアの影が、音もなく伸びた。
再会は、必ずしも幸福とは限らない。
第1話は、
「守りたい想い」と「縛りたい愛情」が交差する始まりです。
フィリアは味方なのか、
それとも勇者を破滅へ導く存在なのか。
その答えは、まだ誰にも分かりません。
次話から、本当の“同行”が始まります。