メンヘラエルフは勇者が大好き〜霧害世界で愛が重すぎる最強格ダークエルフと旅する話〜   作:かわうそ☆ゆう

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※本話には、強い執着表現・精神的に重い描写が含まれます。

4話では、
フィリアの“優しさ”と“危うさ”が、
はっきりと形を持ち始めます。

守ることと、縛ること。
その境界線が、少しだけ揺れる回です。



04.魔獣

集落を出てしばらく歩いた先、街道沿いの森で異変は起きた。

 

霧は薄い。

だが、確実に“質”が違う。

 

「……この霧、気持ち悪いな」

 

ライラが足を止め、剣の柄に手をかける。

 

「森の中より静かすぎる。魔物の気配が……逆に濃い」

 

ミリナも周囲を見回し、眉をひそめた。

 

その時だった。

 

――ぞわり、と背筋を撫でるような感覚。

 

フィリアが、ぴたりと立ち止まる。

 

「……来るよ」

 

「え?」

 

問い返すより早く、彼女は俺の腕を掴んだ。

 

「三つ。左から二、後ろに一。全部……ユナトに近づこうとしてる」

 

匂い、か。

 

フィリアは視線を向けていない。

それでも断言するその声に、確信が滲んでいた。

 

次の瞬間。

 

霧の中から、異形が飛び出した。

 

四足の獣――いや、獣だった“何か”。

骨格は歪み、皮膚は黒く硬化し、口からは黒霧を吐き出している。

 

「魔獣、いや……変異体!」

 

ミリナが叫ぶ。

 

「普通の魔物じゃない! 霧害に完全に取り込まれてる!」

 

二体が正面から、もう一体が背後から回り込む。

 

「チッ……俺が前を抑える!」

 

ライラが前に出て、剣を構えた。

 

鉄嵐構え(てつあらしがまえ)!」

 

低く腰を落とし、剣を斜めに構える。

次の瞬間、正面の魔物が突進してきた。

 

ガンッ――!

 

重い衝撃。

だがライラの剣は弾かれず、攻撃の勢いを流すように受け止めている。

 

「受けて、流して、返す……!」

 

踏み込みと同時に地面を踏み鳴らす。

 

「――破衝(はしょう)!」

 

衝撃波が地面を走り、魔物の体勢を崩した。

 

「今だ!」

 

ライラの声に反応し剣の柄に手を置く。しかし

 

「ユナト!」

 

フィリアの声。

 

振り向いた瞬間、背後の魔物が跳びかかってきていた。

 

距離は近い。

剣を振るには、僅かに遅い。

 

――そのはずだった。

 

俺の手が、自然と剣の柄にかかる。

 

「……霧断・一閃(むだん いっせん)

 

抜刀。

 

音はなかった。

 

ただ、空気が“切れた”。

 

目の前の霧が真っ二つに裂け、

次の瞬間、魔物の身体が遅れて崩れ落ちる。

 

切断面から、霧が一気に晴れていった。

 

「……霧ごと、斬った……!」

 

ミリナが呆然と呟く。

 

「霧害の影響を……完全に遮断してる」

 

勇者の加護。

そして、フェリアス=レガリア。

勇者の一族に代々伝わる伝説の聖剣。

 

霧に干渉されないこの剣だけが可能にする、一撃。

 

残る一体が吠え、再び襲いかかろうとした――が。

 

フィリアが、前に出た。

 

「ユナト、下がって」

 

その声は静かだった。

 

だが、空気が変わる。

 

彼女の足元から、影が滲み出す。

 

「……何も、しなくていい」

 

黒霧が影から溢れ、壁のように立ち上がった。

 

魔物の攻撃が届く前に、

影が先に動く。

 

ガンッ、と鈍い音。

 

見えない何かに叩き落とされ、魔物が地面を転がった。

 

「……自動、防御?」

 

ミリナが息を呑む。

 

フィリアは一切動いていない。

ただ、俺の背中を見ている。

 

「ユナトに、当たるの……ダメ」

 

次の瞬間、影が魔物を包み込んだ。

 

押し潰すように、締め上げる。

 

骨が砕け、肉が悲鳴を上げ、

やがて霧と共に霧散した。

 

静寂。

 

「……なあ」

 

ライラが、低い声で言う。

 

「それ、攻撃も防御も……全部、同時にやってないか?」

 

ミリナが頷く。

 

「意識して発動してる感じじゃない……

 “優先条件”があるだけ」

 

視線が、俺に集まる。

 

フィリアは、俺の腕にしがみついたまま、少し不安そうに言った。

 

「……ごめん。勝手に動いちゃった」

 

「いや……助かった」

 

そう答えると、彼女はほっとしたように微笑んだ。

 

その瞬間、黒霧が完全に消える。

 

(……制御条件は、俺か)

 

ユナトが危険に晒された時だけ、

自動で発動する領域。

 

執着領域――《オブセッションゾーン》。

 

「……便利すぎだろ」

 

ライラがぼやく。

 

「便利じゃないよ」

 

フィリアは首を振る。

 

「ユナトがいないと……意味ないもん」

 

その言葉に、誰も返せなかった。

 

 

戦闘の後、俺たちはしばらく無言で歩いた。

 

霧は、確実に薄くなっている。

 

だが、心に残るものは消えなかった。

 

「なあ、ユナト」

 

ライラが口を開く。

 

「お前……本当に、あれを制御できると思ってるか?」

 

「……分からない」

 

正直な答えだった。

 

「でも、放っておけなかった」

 

ライラは舌打ちし、視線を逸らす。

 

「……お前がそう言うなら、俺は止めない」

 

ミリナが、少し困ったように笑った。

 

「でもね、ユナトくん。覚えといて」

 

「何を?」

 

「フィリアちゃんは“霧害”より、よっぽど人の心を壊せる」

 

フィリアは、その言葉の意味を理解していない。

 

ただ、俺の袖を掴み、小さく言った。

 

「……ユナト。私、役に立った?」

 

「ああ」

 

即答すると、彼女は嬉しそうに目を細めた。

 

「よかった……」

 

その笑顔を見て、胸の奥が痛む。

 

――世界を救う勇者。

 

――心を縛るエルフ。

 

この旅が、どこへ向かうのか。

 

霧よりも濃い不安が、胸に残っていた。

 

 

 




読んでいただき、ありがとうございます。

フィリアは、
誰よりも“守ろうとしている”だけです。

ただ、その守り方が
世界の常識から、少し――
いえ、かなりズレているだけで。

この物語は、
「正しさ」よりも
「想いの重さ」が先に立つ世界を描いています。

次話から、
霧害はより明確な“敵”として動き出します。
よろしければ、ブックマークして続きを追っていただけると嬉しいです。
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