メンヘラエルフは勇者が大好き〜霧害世界で愛が重すぎる最強格ダークエルフと旅する話〜   作:かわうそ☆ゆう

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※本話では、
街への敵襲、精神汚染、強い恐怖表現を含みます。

これまで個人の感情として描かれてきた“執着”が、
6話では初めて「街」や「他人」を巻き込みます。

誰かを守る力は、
いつから“脅威”になるのか。

この物語の世界が、
本格的に動き出します。



06.侵攻

街の門が見えたとき、胸の奥で嫌な予感が膨らんだ。

 

霧は薄い。

だが――静かすぎる。

 

「……嫌な静けさだな」

 

ライラが低く呟いた、その直後だった。

 

――ゴォォン。

 

鈍く、重い音が街に響く。

 

「警鐘だ!」

 

見張りの叫びと同時に、門の上で松明が揺れ、空気が一気に張り詰めた。

 

「敵襲――!

 霧害反応、急上昇!!」

 

次の瞬間、街の外周から黒い霧が湧き上がった。

 

それは風に流されるものではない。

地面に貼りつき、意思を持つように蠢いている。

 

「……来るよ」

 

フィリアが、俺の袖を掴んだ。

 

「いっぱい。

 人の形……でも、中身が違う」

 

霧の中から、影が“歩いて”現れた。

 

人型。

だが、顔は歪み、身体は霧と肉が混ざり合った異様な姿。

 

「……霧兵(むへい)か」

 

ミリナが歯を食いしばる。

 

霧兵――

霧害によって生み出された魔王軍の下級兵。

 

見た目は霧の塊だが、内部には確かな肉体がある。

骨があり、筋肉があり、武器を握る手がある。

 

だが致命的な違いはそこじゃない。

 

「霧が……身体を覆ってる。

 斬っても、再生するタイプね」

 

霧兵が一斉に踏み出す。

 

「市街地に入れるな!」

 

ライラが前に出た。

 

鉄嵐構え(てつあらしがまえ)!」

 

剣を斜めに構え、霧兵の斬撃を受け流す。

 

ガンッ、と鈍い衝撃。

 

だが、剣は弾かれない。

 

「受けて、流して――!」

 

踏み込み。

 

破衝(はしょう)!」

 

地面を踏み鳴らすと、衝撃波が走り、霧兵の列が吹き飛んだ。

 

だが――

 

霧が集まり、再び人型を成す。

 

「チッ……やっぱ再生するか!」

 

「霧が残ってる限り、何度でも立つよ!」

 

ミリナの声が飛ぶ。

 

その時だった。

 

――ズズ……。

 

霧兵たちが、道を割るように左右へ下がった。

 

現れたのは、一段と濃い霧を纏った存在。

 

黒い外套。

仮面の奥に、確かな“意識”。

 

「……上級霧将(むしょう)

 

ミリナの声が低くなる。

 

「四天王直属。

 霧兵や霧獣を率いる前線指揮官……!」

 

上級霧将は、完全な肉体を持つ魔族だ。

霧は鎧であり、武器であり、感覚器官。

 

周囲の霧すべてが、そいつの支配下にある。

 

「――侵攻を開始する」

 

霧将が告げた瞬間。

 

「ギャァァァア!!」

 

獣の咆哮が響いた。

 

霧の中から飛び出してきたのは、四足の異形。

 

「魔獣…いや完全に汚染されてる霧獣(むじゅう)よ!」

 

ミリナが叫ぶ。

 

魔物が霧に精神を侵され、

肉体ごと作り替えられた存在。

 

理性はなく、攻撃衝動だけが肥大化している。

 

「ユナト、後ろ!」

 

剣の柄に手をかける。

 

霧断・一閃(むだんいっせん)!」

 

抜刀。

 

音はなく、霧と肉体が同時に裂けた。

 

切断面から霧が一気に消え、魔獣は二度と動かなかった。

 

「……再生してない」

 

「勇者の剣は……霧そのものを断てる」

 

フェリアス=レガリア。

霧害に干渉されない、勇者だけの聖剣。

 

だが――

 

「ユナト!」

 

フィリアの声。

 

背後から迫っていた霧兵が、

攻撃に入る前に弾き飛ばされた。

 

地面から、影が伸びている。

 

《執着領域――オブセッションゾーン》

 

フィリアへの攻撃ではない。

ユナトへの害意を検知した瞬間、

影が自動で防御と排除を行う。

 

「ユナトに……触るな」

 

影が霧兵を締め潰す。

 

霧ごと、肉体ごと、粉砕した。

 

「……自動発動型の領域……」

 

ミリナが息を呑む。

 

「条件は一つ。

 “ユナトくんへの危害”」

 

上級霧将が、それを見て笑った。

 

「興味深い」

 

ゆっくりと歩き出す。

 

「霧害を介さず、

 感情だけで発動する力……」

 

霧将が手を掲げる。

 

「では――霧害を、街用に」

 

霧が爆発的に広がった。

 

住民たちが次々と膝をつく。

 

「……心が……覗かれてる……」

 

「怖い……やめて……!」

 

精神汚染。

感情を直接刺激し、絶望を引き出す霧害の本質。

 

「……うるさい」

 

フィリアが、頭を押さえた。

 

影が暴れ出しかける。

 

「フィリア!」

 

俺が肩を掴む。

 

「街だ! 人がいる!」

 

霧将が告げる。

 

「選べ」

 

「愛する者か。

 この街の“他人”か」

 

フィリアの瞳が揺れる。

 

そして――

 

「……両方」

 

影が、街を覆う霧だけを拒絶した。

 

住民に触れようとする霧が、弾かれていく。

 

霧将が、初めて言葉を失った。

 

「……主に、報告が必要だ」

 

霧兵が、一斉に後退する。

 

「今日は観測で十分だ」

 

最後に、霧将はフィリアを見た。

 

「その愛――

 必ず、主が欲する」

 

霧が引いた。

 

 

街は守られた。

 

だが、フィリアは俺の袖を強く握っている。

 

「……ユナト」

 

「大丈夫だ。守れた」

 

「……うん」

 

だが、震えは止まらない。

 

ミリナが静かに言った。

 

「魔王達は、分かってる」

 

「何を?」

 

「この子が……

 霧害より危険な存在だってこと」

 

遠く、霧の都ネブラ・アザル。

 

感涙宮の玉座で、

魔王は――確かに、笑っている。

 

 




読んでいただき、ありがとうございます。

6話では、
フィリアの力が「個人を守る力」では終わらないことが、
はっきりと描かれました。

彼女がいなければ街は守れなかった。
けれど、彼女がいるから街は怯えた。

この矛盾こそが、
この物語の核です。

次話では、
その“守ったはずの街”が、
フィリアとユナトにどんな視線を向けるのかが描かれます。

よろしければ、ブックマークして続きを追っていただけると嬉しいです。
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