星歴九〇〇年の往復書簡【完結】   作:ぼっちクリフ

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星歴九〇〇年八月十七日の手紙②

あなた方オルクセンの侵攻の最中、姉さまを含むエルフィンド政府首脳が出来る事はありませんでした。軍上層部、特にクーランディア元帥やマルリアン将軍は随分と姉さまと政権を批判していたようですが。

逆に聞きますが、世界の何処にあの侵攻に対し何かを出来た政府が存在するのでしょう? 断言しますが、例えばグロワールが同じような侵攻を受ければエルフィンド以上の醜態を見せた挙句に即座に首都が陥落していた事でしょう。ええ、もちろんやってみなければ分かりません。ですが、実際やってもいない、あの侵攻に晒された事の無い連中に批判される謂れもございません。

 

さて、時計の針をもう少し進めましょう。「将軍達の叛乱」に関してです。

愚かな事をしたと、私は今でも思っておりますよ。姉さまも最期までそう思っていたと確信しております。

 

「たとえエルフィンドという国が無くなろうとも、白エルフという種を残す為に最大限の努力をする」

 

でしたか?

 

これまでエルフィンドという国の権勢に胡坐をかき、その恩恵を存分に受けて来た者達がよくぞ言ったものですね。ええ、とても耳障りの良い言葉ですわ。家畜になってでも生き残ろう、昨日までの誇りと信念を全て捨てて新しい皮を被ろう、という連中が本当に『白エルフ』であるかどうか、鏡を見る事をおススメしますが。

 

エルフィンドという国と白エルフ族を形成する3つの根源、即ち『教義』『黄金樹』『女王』。生き残った連中は『教義』を捨て去り、『黄金樹』と『女王』を残そうとしたのでしょう。けれども『女王』は退位し、『黄金樹』は今ではオークの離宮と成り果てました。国は滅び、白エルフの種としての根源は全て捨てさり、そして生き残った彼女達は何をしたかったのでしょうね? ええ、一度話してみたいものです。オークやコボルト、ドワーフに大鷲に巨狼、そして(デック)と人間。あらゆる者たちからの侮蔑と嘲笑、差別の中で泥を啜りながら生きるお前らよりも、この牢獄(エンテンネスト)に居る私はよほど白エルフらしく生きている、と。

 

何度も話を逸らして申し訳ございません。将軍達の叛乱でしたね。

 

ええ、正直姉さまも私も油断しておりました。オルクセン軍が目前まで迫り、既に進退窮まったエルフィンド王国。その王国の舵取りをしたいと願う者がまだ居るなど思わなかったのです。これまで全ての決断、全ての責任を姉さまに押し付け、ただ自分の仕事だけをしていればそれで良いと思っていた連中が、この土壇場になって何が出来るものかと。そう思っておりました、まったく無知であったと姉さまも後に後悔なさっていました。追い詰められた者は、どんな愚かな行動でも「自分は行動を起こしたのだ」という免罪符の為に行うのだと。

ウィンディミアもクーランディアも、最後まで姉さまと会おうとはしませんでしたね。バツが悪かったのか、それとも自分たちの罪を暴かれるのが怖かったのか。今となっては分かりませんが、どうでも良い事でした。姉さまに全ての責任を押し付け、そしてただ嵐が通り過ぎるのを待とうとする。これまであの連中が幾度となく繰り返して来た事と本質的に何も変わりません。

何かを変えようとする事、何かを良くしようとする事、何かに挑みより良き未来を掴もうとする事。そしてその責任を全て己が背負う覚悟を持って完遂する。それをエルフィンドで成して来たのは姉さまだけです。事なかれ主義で責任を逃れ、ただ自分の仕事のみをする事で嵐をやり過ごす事を選んだ連中の事など、話すだけ無駄でしょう。

 

彼女達は、最後まで変わらなかった。それが、姉さまと私の結論です。

 

 

結果姉さまと私、そして閣僚たちは捕らえられ、表舞台から降りる事となりました。

後の事は、ウィンディミアやクーランディアが上手くやったようですね。ええ、オルクセンの飼い犬としての技量はまずまずだったのではないですか? 特にウィンディミアは元々姉さまの飼い犬のような女でしたから、誰かの吹く笛にあわせて踊るのはお手の物でしょう。

 

姉さまはオルクセンの取り調べにも決して自分を曲げる事はありませんでした。教義の正しさを語り、世界の真理を語り、エルフィンドの首相であり白エルフ族の代表として決して醜態を見せる事なく振る舞われました。多くの者が命を惜しみ、それまで信じていた教義を手放し、無様に生き永らえようとする中で、姉さまのみは決して白エルフ族の誇りを失いませんでした。ええ、私も一緒です。姉さまの正しさに関して一点の妥協もせずに取り調べ担当の方に語り続けました。結果として私は「重度の教義原理主義者」として扱われ、今でもこの監獄に収監されております。ええ、否定は致しません。私の中には今でも教義……偉大なる指導者様の言葉が息づいております。それを失う事は私にとって死よりも受け入れがたい事です。最初は白エルフの、後にオークの調査官の方に、取り調べの間に何度も「教義を破棄する宣誓をすれば罪が軽くなる」と言われましたが、何と愚かな事でしょうか。そもそも『教義を捨てて生きる』という言葉が矛盾しているのです。教義を捨て去る事は即ち、白エルフとしての魂の死を意味するのですから。

 

 

やがて収監された後に裁判が始まりました。ええ、あまりの醜態に姉さまも私も思わず笑ってしまいました。何人もの白エルフ達が「自分達は騙されていた」「政府に逆らえば収容所へ入れられる」「教義は間違っていた」と証言台で言い、オーク達に命乞いをしておりました。近年稀に見る喜劇、と言うべきでしょうか。「自分たちは己の頭で考える事も逃げ出す事もしなかった木偶の坊です」と語彙を尽くして必死に絞りだす様を、他に何と形容して良いか分かりませんわ。

 

何よりもおかしかったのは、多くの白エルフ達が姉さまを「このエルフィンドという国を徹底的に間違わせ、狂わせ、敗戦へと導いた罪」で裁く事を期待していた事です。ええ、上も下も無責任で事なかれ主義の蔓延した、このエルフィンドという国に相応しい期待と言うべきでしょう。

ですが、オークの方々は冷静でした。姉さまに課せられたのはあくまで「ドワーフ領侵攻、コボルト排斥、(デック)虐殺の罪」でした。あくまで他の魔種族に対する罪であり、エルフィンドという国に対する責任を罪として問う事などありませんでした。そして姉さまは、他種族に対する罪とやらからも逃れる事はありませんでした。

 

 

「聖地にまとまって生きる権利を持つのは白エルフのみ。その教義の遂行者として何ら恥じる事はない」

 

 

その言葉を聞いた多くの傍聴人が姉さまに死刑を求めましたが、私は覚えておりますよ。声を上げたのはほとんど――いえ、ほぼ全てが白エルフ達でした。オークも、コボルトも、ドワーフも。他全ての魔種族たちはまるでバケモノでも見るような気味が悪そうな目で姉さまを見つめ、何も言いませんでしたから。ええ、どんなに憎い相手であろうが法の手順を、正しい手続きを守る。オルクセンの方の民度は素晴らしいですね。ふふ、それに比べて傍聴していた白エルフ達ときたら。ええ、彼女達はきっとこう言いたかったのでしょうね。

 

 

「その狂った女のせいだ、私たちは悪くない、私たちに罪は無い。その女を差し出します、死刑にして私たちの罪を全て負わせて下さい」

 

 

あぁ、折角ですので是非ともあなた様にも聞いてみたいものです。

 

 

こんな連中を生き残らせる意味は、果たしてあったのでしょうか?

教義の殉死者として、誇りを持ったまま死なせた方がマシだったのではないでしょうか?

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