星歴九〇〇年の往復書簡【完結】   作:ぼっちクリフ

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星暦六七九年十一月二十三日の別れ①

今でも昨日のように思い出せます、あの日の事は。ええ、もう200年以上前の事です――あぁ、ドゥラ姉さまはあまり詳しくは語ってくれなかったでしょう。ええ、200年前の事などいくら魔種族でも詳細には思い出せないでしょうから。けれど、私は記憶力は良い方です――ええ、これまでの手紙でお分かりでしょう? 私は細かい事でも詳細に記憶を残し、それを記憶の『棚』とも言うべき場所にしまっておけるのです。ええ、ですので会話の詳細まで、正確にお話できます――とはいえ、指導者(ヴィラール)様の言葉は私などには到底理解できない難解な事も多いのですが。

 

「姉さま、一体どこへ?」

 

「早くなさいルシ、皆さま待ってらっしゃるの!」

 

幼い私と姉さまはその日、街の郊外にある古いお屋敷に行きました。ええ、氏族の大人達には内緒です。指導者(ヴィラール)様達は神聖な御方、本来ならば私達姉妹のような幼子が会える存在ではありませんでしたから。

最初に指導者(ヴィラール)様と出会ったのは姉さまでした。姉さまは指導者(ヴィラール)様達に気に入られ、しばしば氏族の街を抜け出しては指導者(ヴィラール)様にお会いしに行っていたのです。そしてその日、私は姉さまに連れられて初めて指導者(ヴィラール)様にお会いしました。ええ、普段来ている洋服ではなく、お祭りなどに着ていく古めかしい緑のドレスを着て。姉さまも同じです、指導者(ヴィラール)様にお会いする時は必ず伝統のドレスを着ていきました。

 

指導者(ヴィラール)さま!」

 

「あ、ドゥラちゃんだ~!」

 

指導者(ヴィラール)様は4人で古いお屋敷の中でくつろいでいらっしゃいました。ええ、もちろん全員が白エルフです。長い金髪の方、短い銀髪の方、長身の方、小柄な方。姉さまは小柄な指導者(ヴィラール)様に飛びつくと、その膝の上に座られました。小柄な指導者(ヴィラール)様は嬉しそうに座られた姉さまを撫で愛しそうに頬ずりなさいます。お二人の親密な仲は初めて見た私でもよく分かります。

 

「は~、ドゥラちゃんカワイイ、最高すぎ」

 

「どう見てもロリコンです、本当にありがとうございました」

 

「お前絶対手は出すなよ、『いつかやると思ってました』って証言するからな」

 

「出しません~、イエス・ロリータ、ノータッチ!」

 

「タッチしてるし何時代の標語だそれ」

 

「てかさ、やっぱりエルフの服と言えばドレスでしょ。本当最近エルフ見ても洋服やらスーツばっか着ててさ、台無しだよね」

 

「それに関しては同感。なんか現代転生モノの漫画に出てくるエルフ見てる気になる」

 

「ねー、だからドゥラちゃんにはいつも言ってるの。『エルフはそのドレスを着てる時が一番美しいよ』って」

 

「俺らも伝統ドレス装備だしな、やっぱこれが一番映えるし」

 

「ドゥラちゃん今日も一緒にスクショ撮らせて~」

 

 

――やはりこうして思い出しても指導者(ヴィラール)様の言葉は難解ですね、ほとんど意味が分かりません。私は少し離れた場所で見ているだけでした。その、人見知りでしたので。それを見た姉さまがすぐに指導者(ヴィラール)様の膝から立ち上がり、私の手を引っ張って皆様に紹介して下さいました。

 

 

指導者(ヴィラール)さま、私の妹のルシです!」

 

「あ……う、るし、ルシエン・ディーアハイル、です」

 

ぺこりと頭を下げる私を指導者(ヴィラール)様達は大歓迎して下さいました。特に小柄な指導者(ヴィラール)様が愛おしそうに抱きしめて下さった事、今でもよく思い出せます。ええ、あの方達は、本当に私達を愛して下さっていたのです。

 

 

指導者(ヴィラール)さま、今日もお話をして下さいませ!」

 

 

元気よく言う姉さまの言葉を受けて、金髪の指導者(ヴィラール)様が頷いて、手のひらくらいの――ええ、これくらいの、水晶の板を取り出されました。それが光り出すと、様々な文字が浮かんで来たのです。ええ、不思議でしょう? 私もそのような魔法は初めて見ました、指導者(ヴィラール)様の御力は我々の想像を絶するのです。

 

 

「オッケー、それじゃどこの話が聞きたい?」

 

「え、デバイス取り出せるの? あれロックかかって無かった?」

 

「運営からのお知らせ読んどきなよ、サ終前の脱出用にデバイスロックが外れてんの。ったく、最初から外しとけば色々と面倒無かったのにさぁ」

 

「いやダメっしょ、現地人の前で出したら異世界管理法違反だよ」

 

「異世界管理法は企業の努力義務、取り締まるのは運営の役目。んで、ヴィラール運営は『サ終にあたってデバイスのヴィラール内での使用を許可』してるっしょ」

 

「それ現地人との接触を想定してないと思うんだけど」

 

「けどその規約が有効とも言ってないし、そもそも転生事故のリカバーで忙しくて取り締まる暇なんてあるわけないじゃん」

 

「どうでも良いよ、ドゥラちゃん待ってるんだから早く」

 

 

ええと、おそらくこのような会話だった筈です。あまり意味の分からない会話は飛ばしても――ええ、分かりました。では思い出せるだけ全て言いますね。

 

 

「白エルフの話が良いです、私たちがどれくらい優秀か教えてください!」

 

「ドゥラちゃんは本当にその話好きだね~」

 

「ルシにも聞かせたいんです!」

 

 

小柄な指導者(ヴィラール)様に甘えながら姉さまは無邪気に言います。銀髪の指導者(ヴィラール)様が頷いて語り始めて下さいました。

 

 

「この世界ではエルフがもっとも優秀、これは創世の頃から決まっている事だよ――ま、そりゃエルフと触れ合えるのがウリの異世界なんだから当たり前だけど」

 

「人間よりも、他の魔種族よりも優秀なんですよね!」

 

「そりゃね、人間は完全に下位互換だよ。人間に寿命と基礎的な筋力・体力、それに魔術の素養と暗視能力足したのがエルフだもん、勝ってるの繁殖能力くらい?」

 

「国家を形成する以外で使わない能力~」

 

「まぁ政治プレイするヤツなら欲しがる能力だろうけど、それ以外ならエルフの方が完全に上位互換」

 

「コボルトよりも基礎魔術能力で上だし、大鷲やらオークやらはデバフエグいからなー」

 

「Wikiにも書いてあるよ、ヴィラールでの人権は断トツでエルフだって」

 

 

そういえば、指導者(ヴィラール)様は『人権』という言葉を私達白エルフを定義するモノとして語っていらっしゃいましたね、ええ、人権とは我ら白エルフの為にある言葉だと。ふふ、お分かりになりますでしょうか、教義における白エルフの基本的な立場が。ええ、人権とは我ら白エルフの為にあるものなのです――

 

ええ、申し訳ございません、また話しが逸れました。続けますね。

 

 

「まぁでもエルフのバフとアプデヤバすぎでしょ、もうエルフ以外選ぶ意味ないじゃん」

 

「そりゃヴィラール運営、調整下手過ぎ問題があるから」

 

「ほとんどの種族、千年以上前に絶滅してるからね。ファンタジー異世界でドラゴンすら絶滅させるとかどんな調整してんだよ」

 

「それでエルフだけは死守すべくバフにバフを重ね続けた、と」

 

「結構前のアプデで男エルフ全部消したんでしょ? よくやるわ本当、異世界管理局激オコっしょ」

 

「まぁ今回のサ終も直接原因は召喚システムの不具合だけどさ、いい加減当局がヴィラール運営に愛想尽きて稼働停止勧告したんでしょ」

 

「ちょっとまたドゥラちゃん達置いてきぼり!」

 

 

小柄な指導者(ヴィラール)様が言うと、銀髪の指導者(ヴィラール)様は頭をかきながら私達姉妹の方を向いておっしゃいました。

 

 

「えーと、つまりは君らエルフは世界から愛された、この世で一番優秀になるよう調整された種族だから、うん」

 

「おっけ、そういう風に教えてあげないとドゥラちゃん達わかんないからね」

 

 

姉さまは感極まって指導者(ヴィラール)様に抱き着き、それを嬉しそうに指導者(ヴィラール)様が抱き返します。長身の指導者(ヴィラール)様が、私の頭を優しく撫でて下さいました。ええ、私達は世界から、指導者(ヴィラール)様達から愛されている。それを実感し、本当にうれしかったのです。

 

 

――大丈夫ですか、陛下、随分と顔色が優れないようですが。

ええ、ええ、もし何かあるのでしたら遠慮なくおっしゃって下さいね。

 

では、続けましょう。

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