薬屋と料理人は幼馴染み   作:ボルメテウスさん

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小蘭のお弁当作戦 五

 蓋を閉めると、乾いた音が一つ、庭の葉擦れに吸われた。布を戻し、結び目を指で押さえる。風が抜けても、今日は大げさに揺れない。

 

「もう終わり?」

 小蘭が花巻の欠片を見つめたまま言う。「まだ食べられる気がするんだけど」

 

「終わり。片づける」

 猫姉が桶の縁に手を置く。水面の光が揺れて、すぐ落ち着いた。「手、先に拭いて」

 

「はーい」

 小蘭は布で指先を押さえた。子翠は札を指でくるくる回しながら、口の端だけ上げる。

 

「札、回収するんでしょ? はい」

 差し出されたのは二枚だった。

 

 猫姉の目が細くなる。

「安心どころじゃない。数、ズレてる」

 

「え、多いほうが安心するじゃん?」

 子翠が首を傾ける。

 

 猫姉は札を受け取らず、袖口へ視線を落とした。

「……袖」

 

「えっ、袖ってなにさ」

 

 返事の代わりに、子翠が袖をつまむ。木札の角がちょいと顔を出した。小蘭が噴きそうになって、口を手で押さえる。

 

「だって、かわいかったから」

 子翠が札を引っぱり出し、胸の前で揺らす。「関係あるって。返したくなるもん」

 

 猫姉は淡々と手を伸ばした。

「戻す気なら、袖に入れない」

 

「うう、正論」

 

 札を四枚並べる。猫姉の指が端を揃え、音も立てずに束ねた。

 

「次から色札にする」

 視線が小蘭へ向く。「箱も同じ色」

 

「わ、分かりやすっ!」

 小蘭が身を乗り出す。

 

「分かりやすいほうが、戻し忘れない」

 猫姉が桶の水を一度見てから、俺の重箱へ視線を戻す。

 

 重箱を抱え直すと、紐が指に食い込んだ。今日は甘いのも氷も出してない。出せたのに、閉じた。それだけで片づけが早い。

 

「次は甘いの!」

 小蘭がすぐ言う。「庭なんだし、甘いのほしい!」

 

「冷たいのも」

 子翠が追い打ちする。「庭って言ったら氷だよ」

 

 猫姉は布を払って砂を落とした。

「虫が寄る」

 

「虫は……うっ」

 小蘭が固まる。

 

「虫、そんなに来ないよ。たぶん」

 子翠が肩をすくめる。

 

「“たぶん”は当てにしない」

 猫姉が手拭いで指を拭き、短く息を吐いた。

 

 口を挟むなら今だと思って、声を落とす。

「猫姉、次は季節の果実で」

 

 猫姉は札を結びながら、目を向けないまま返す。

「……喉が通ってからね」

 

「分かってる」

 

「果実いい!」

 小蘭が手を叩き、子翠が笑う。

 

「色札、果実色にしよう」

 

 猫姉は一拍だけ止まり、何も言わずに歩き出した。

 

「なんというか、こういうのもたまには良いな」

 

 そうして、俺が呟くと猫姉が答えた。

 

「まぁ、そうかもね。今度は遠出する時にはなんか作ってよ」

 

「うん、分かったよ」

 

 札は戻った。重箱も戻った。外へは出られないままでも、今日は庭で、ちゃんと息が通った。

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