事前登録者3355万336人突破報酬、☆5『ファイノン』   作:きのこの

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過去より湧き上がる心

僕がアーランさんの元にやってきた頃には、既に彼は手当を終えて、休息を取っていた。

彼が言った通り、怪我の具合はそこまで重症なものじゃないらしい。数日運動を控える必要があるようだけど、安静にしてれば数日で回復するみたいだ。

 

ゲームだと、アーランさんはなんでもないように言っていたし、過ごしていたけど、怪我の詳細は語られなかった。

加えて、宇宙ステーションヘルタには僕というイレギュラーがいて、その影響らしい物が目に見える形で表れてる。

彼が治らない傷を抱える事態にならなくて、本当によかった。

 

ホッと安堵の息を吐いた僕を、アーランさんはもの言いたげな様子で見ていたけど、結局言わないことにしたらしく、首を横に振った。

 

 

「俺は今からスタッフと話す。貴様はそこで休んでいろ。」

 

 

彼はそう言って、すぐ後ろにやってきた数名のスタッフと話をし始めた。

 

 

うん、どうしようかな。やることがなくなった。

アーランさんの仕事の話を邪魔する訳にもいかないし、でも他にすることもない。

 

あまり歓迎していなさそうな声音の広告用モニターの音声を聞きながら、ぼんやりと主制御部分の奥の方にやった視界に、開拓者たちの姿が入った。

不安そうにしているスタッフに話を聞いたり、机から紙を拾い上げて読んだり、探索を楽しんでるみたいだ。

あ、星がゴミ箱を見てる。彼女のゴミ箱に対する深い愛と探求心はこの時点で既にあったんだね。なんだか貴重な物を見れたみたいで嬉しい。

 

__星と言えば……

 

 

(この後、僕はどうしようかな。)

 

 

開拓者たちがスタッフたちに話を聞き終えたタイミングで、ヘルタに終末獣が現れる。主人公は星穹列車の乗員と一緒にサポート部分まで走るけれども、追ってきた終末獣が開拓者たちの前に立ち塞がり……戦闘の末、壊滅の星神(ナヌーク)の一瞥を経て、星核の力で終末獣を退ける。

 

 

(……ナヌーク。)

 

 

嫌な気分を通り越して不快になる言葉の響きに、僕は眉をしかめそうになり、慌てて他の人に見えないように後ろの方を向いた。

 

もう分かっているだろうけど、僕はナヌークが嫌いだ。すごく嫌いだ。嫌悪している。

ゲーム以外の記憶は曖昧で確かによく覚えていないけど…この感情だけは覚えている。僕は生まれる前からナヌークが嫌いだった。

 

ヘルタは反物質レギオンに襲撃され、壊滅的な被害こそ出さなかったが、多くの人々を混乱と恐怖に陥れた。

二章の舞台である仙舟『羅浮』では、絶滅大君『幻朧』によって星核が持ち込まれ、建木の封印が解かれてしまう。

…あと、ヤリーロⅥやピノコニーの星核も、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だと公式で示唆されている。その情報が正しいならば、この二つの星は直接的には壊滅の勢力は関わっていないけど、星核があるという意味で全ての元凶は壊滅だ。

 

ヘルタでは同時に主人公がナヌークの一瞥を受けて助けられているように見えるが、自分たちで襲撃して、わざわざ終末獣で追いかけて、ピンチになったら一瞥している辺り、完全にマッチポンプだ。何様なんだろうか、本当に傲慢だな。

 

何より…僕があいつを嫌う一番の理由は、オンパロスの悲劇だ。

3355万336回の輪廻を徒労呼ばわりしたライコスもむかっ腹が立つがまだいい。オンパロスに住む人々。世界を救うには再創世を行う事だと信じて命を懸けて戦い続けた黄金裔たち。黄金の血によって、彼らの全てを燃やして、薪にくべ、絶滅大君『鉄墓』を生み出そうとしたナヌーク。その愚かな所業の数々を僕は許せない。

僕はオンパロスの全てが、何一つ犠牲になることも、薪になることもなく、明日を手に入れてほしかった。

 

……だから、ゲームの主人公である開拓者のおかげで、オンパロスの人々はまた明日を、望む事が出来て、四章が終わった時僕は心から嬉しかった。本当に、彼らはまさしく英雄だ。

 

 

 

ともかく___あの傲慢な神の狙いは何なのか分からないが、終末獣がわざわざ開拓者たちを追ってきたところや、一瞥を経てすぐにレギオンの軍勢が撤退したことを考えると、星核の器である主人公が覚醒することが目的だったと考えていい。

 

原作通りなら。

 

 

ナヌーク(あいつ)の目的はなんだ。)

 

 

原作通り開拓者を狙い、僕という変数のせいでレギオンの勢力が増しているなら、僕は終末獣との戦いに向かおう。僕という存在が生んだ異常に片をつけ、最初に誓った約束通り、開拓者たちの旅路を守る。

 

だが…ナヌークが開拓者だけじゃなく、僕に目をつけていて、僕と行動した結果彼女が巻き込まれていたら?

僕が終末獣の戦場に向かうことで、更に多くの戦力が投入されることになれば?

僕は、僕の引き起こした問題に、彼らを決して、巻き込みたくない。

 

 

(僕は、開拓者たちを、守りたい。)

 

 

心からそう思う。だからこそ、どうすれば彼女たちを守れるのか分からない。僕が過去を思い出せればいいけど、手がかりはないし、手がかりになりうるオンパロス()は宇宙のどこかだ。

 

行って助けに入れるなら単純だ。

ヴォイドレンジャーが一体から二体になるならなんてことないけど、終末獣が二体になりでもしたら、笑えない。

 

 

__流石にそこまで馬鹿で愚かなことは起こりはしないだろうけど。

終末獣単体でも厳しいのに、更に周囲にヴォイドレンジャーが現れたら、どんなに強固に守り警戒を張り巡らせても、いすれ綻びができてしまうだろう。

僕の誓いとは裏腹に。

 

 

 

(僕は…どうすれば……。)

 

 

俯き、唇を噛む。

こんな時、心の中に正しい道を示してくれる誰かがいたらいいのに、なんて思う。

本物のファイノンなら、『心の中の英雄』が、道を示してくれるのだろうか?あの温かな麦穂のような輝きが、穏やかな声で、理想の英雄を語ってくれるのだろうか?

 

 

「…貴様、大丈夫か?」

 

 

突如横から声をかけられる。ハッとして振り返ると、アーランさんが心配そうに僕の方を見ていた。

 

 

「苦しそうだったが、どこか怪我でもしているのか?医療スタッフを呼ぼうか。」

 

「えっ、い、いや。なんでもないさ!ちょっと、考え事をしていただけだよ。」

 

 

慌てて笑顔で取り繕うと、アーランさんは訝し気な表情を浮かべたけど、やっぱり言及するつもりはないみたいだ。

考え込むように目を閉じた後、腕組みをした。

 

 

「貴様が何を隠していようとも、貴様をどうするのかはお嬢様…アスター所長やミス・ヘルタが考えることだ。俺は指摘するつもりはない。

だが…負傷があるならすぐに教えろ。貴様が宇宙ステーションに害をなさない限り、ここにいる間は、防衛課の責任者として貴様を守る義務がある。」

 

「ええっと、ありが、とう?」

 

 

何か隠している僕に気が付いているのに、あっさり引き下がり、それどころか『守る』とまで話すアーランさん。

彼のその姿勢はもっともだし、正しいけれども、僕を疑ったりはしないのだろうか?

彼だって最初は僕のことを警戒していたのに。

ちょうどいいから尋ねてみようかな。

 

 

「思っていたけど、僕が本性を隠しているだけで、『害をなす』存在かもしれないとは考えないのかい?

自分で言うのもなんだけど、反物質レギオンの襲撃中に突然宇宙ステーションに現れた人間なんて、すごく怪しいだろう?」

 

「確かに怪しく思っていたが、貴様は大丈夫だろう。」

 

 

大丈夫だろう…って、楽観的すぎないかい??

 

僕のそんな思考を読み取ったのか、アーランさんが続ける。

 

 

「同行中、敵意や害意のようなものは感じなかった。最初に会った時も、貴様は俺たちを助けただろう。

初対面にしては妙にこちらを信頼しているのは、正直不気味だが…信頼と守ろうとするあまりに拳で戦おうとする人間が、俺たちを害するとは思えない。」

 

「ぶ、不気味…。」

 

「あと、貴様が隠していないからだろうが…分かりやすい。全部顔に出ている。」

 

 

言われるがまま、顔に手を当てる。

確かに隠していなかったし、『真摯でいよう』としていたけど、そんなに顔に出ていたかな?

 

あと、不気味って……いや、考えてみれば、僕は彼らからすると不審者だったけど、同時に記憶喪失の人間だった。自分の名前すら覚えていない人が、最初から親し気に接してきたら、不気味に思われるのも仕方ないか。

星にも二回『重い』と言われたし、僕は僕が思っている以上に周りのことが見えてなくて…あまり冷静じゃなかったのかもしれない。

 

星穹列車の人々も、このヘルタの人々も、どちらも尊敬と信頼に値する人格者たちばかりだ。

彼らに敬意を払わないなんて、そんなこと彼らの勇敢な側面を知っている僕にはできないし、したくもない。

僕が『ゲームの記憶』をもって目覚めた限り、そういう風にみられるのは必然だ。もうちょっと本心を抑えればまた変わったかもしれないけども。

 

なんだかむずがゆくなって後頭部を擦っていると、アーランさんが「それより」と口火を切った。

 

 

「状況も落ち着いてきた。貴様も、主制御部分から外に出ることはないだろう。そろそろ大剣を返してほしい。」

 

「!、あ、ああ。勿論だよ。君の大切な武器を貸してくれて、ありがとう。」

 

 

そう言いながら、僕はしまっていた大剣を具現化させた。

 

させた、けど…。

 

口ではそうのたまいながらも、僕はこの大剣を返すことを迷っていた。

 

 

 

 

いや、返すべきだ。あたりまえだろう。これはアーランさんの命を守る武器であり、戦いの相棒だ。いつまでも僕が持っていい物じゃない。

 

だが__この武器がなければ、僕は終末獣との戦いに駆けつけることができなくなる。

 

最初、ヴォイドレンジャーを拳で制圧しようと考えていたけど、流石に終末獣を拳で戦えるとは思わない。

イレギュラーが起こりえる戦場で、拳という短い射程で、限られた力で戦えば、僕はむしろ開拓者たちの足を引っ張ることになる。

 

それに、戦いを通してはっきりわかったことだけど、僕の肉体はどうも『ファイノン』と同じように大剣が一番力を発揮できるようだ。

アーランさんの武器は僕が理想とする大剣よりは少し軽く、長さも少し短く感じる。でも、この武器種以外を使う自分を想像できなかったし、剣は異様に手に馴染んだ。

 

 

アーランさんから武器を借りないと、僕は戦えない。

彼に返すということは、僕が狙われている可能性に懸けて『開拓者を助けに行かない』ことを選ぶことに等しい。

 

 

(情けない。)

 

 

他人の武器を借りないと戦えない、選択すらできない自分に、自己嫌悪を覚える。

 

『もうすぐ終末獣が襲撃してくるから、もうしばらく武器を貸してほしい』なんて言って、納得してもらえるだろうか。

情報の出所は、僕の記憶。記憶喪失の人間から引き出される、未来予知じみた記憶の話に、信憑性はあるのだろうか。

 

それを信じてもらえたとして、アーランさんは…防衛課の責任者として誇りを持っている彼は、きっと終末獣襲来に備えて、すぐにでも対策を練るだろう。

その時僕は何をしている?

 

いや、そもそも___終末獣の襲撃を知っていながら、僕は何もせず、ここにいる。

ヴォイドレンジャーの襲撃の時だって、僕自身が警戒はしていたけど、誰にも、何も、伝えなかった。

…僕も、全てを救えるとは思っていない。でも、先の()()を知っているのに、それによって誰かが困難に見舞われると分かっているのに何もしないだなんて、

 

 

 

 

 

それは______彼らの生を、侮辱してるんじゃないか?

 

 

 

 

 

「…………。」

 

 

まるで、出口のない迷宮に迷い込んだような気分だった。

行き止まりに引き裂かれた心が、次から次に思考を投げかけてくる。そのどれにも、僕は答える事が出来なくて、積み上がり続ける岩壁を、ただ見上げることしかできない。

いくつもある岩壁の内、どれか一つに求める景色があるというのに、どれにもリスクがあり、選択を誤れば、僕は決して失ってはならないものを自らの手で殺すことになる。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

選択、選択…か…。

 

 

(選択だったら、開拓者は簡単に答えを導き出せるんだろうな。)

 

 

現実逃避のような思考が、脳裏をよぎった。

開拓者は幾度も『やり直せない選択』を選んできた。

 

 

 

開拓者()なら……

 

 

 

(星なら、なんて答えるんだろう。)

 

 

 

無邪気にゲームを楽しんでいた記憶がよみがえる。

 

『選択の機会がある時に、自分が後悔するようなことはしちゃだめよ』

 

カフカが主人公に伝えた言葉だ。そして、彼女が心に刻んでいる言葉だ。

 

 

 

 

 

…後悔。

 

 

それなら、僕は_______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「?おい…?」

 

 

大剣を持ったまま何も言わない僕に、アーランさんが首を傾げた。

 

 

 

 

 

まさに、その時だった。

 

 

 

 

ビーーーーーーーーーーー

 

警告音が鳴り響き、主制御部分中央に巨大なモニターが現れる。

ハッとして中央を振り返ると、開拓者が主制御部分の出口から走り去っていくのが見えた。

 

 

「なっ、終末獣!!?」

 

 

隣からアーランさんの動揺した声が聞こえてくる。

続けて何かを言いかけていたけれども、それを聞き終える前に。

 

 

「!?待て!貴様、どこにっ…!?」

 

 

彼の呼び止める声を置き去りに、僕は駆け出した。

出したままだった武器をしまい、一目散に、脇目も振らず。

 

 

 

中央エレベーターを下り、

 

レギオンをすれ違いざまに斬りつけて、

 

通路を渡り、

 

銀河を横目に、

 

廊下を駆けて、

 

扉が開く。

 

 

 

高い位置にある通路から、列車が停泊している場所がよく見えた。

普段ならどこかの青い惑星が見える宇宙空間には、今、それを覆い隠すように、巨大な何かが居座っている。

 

 

頭部には翡翠のような球体が、殻に覆われている。すぐ下には、V字に開かれた二本の角のような何か。

胸元にはいくつもの刃が左右に突き出している。

背負う翼は、四翼は虫のようで、下側の二翼は蝙蝠の羽のようだ。

手は四つ。機械的なそれは囲むように開かれていて、中央には金色の殻に囲まれた、黒い球体が宙に浮いている。

 

 

 

 

見間違えるはずがない。

 

 

 

『戦争洪炉』の、幾万もの死者の怒り、憎しみ、悲しみ。

 

それらで鍛え上げられた壊滅の手先。

 

 

 

 

 

 

___『終末獣』

 

 

 

 

 

 

青紫の巨大な影が、開拓者たちの前に立ちふさがっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二体。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…………は?)

 

 

 

 

走る。

足裏から零れだした熱が床を僅かに焼き、僕の体を前へ前へと押し出す。

ぱちぱちと火花が弾けている。

 

大きく振っていた両手を下に、大剣を顕現させ、握りしめた。

 

 

思考が晴れ渡り、敵の巨影と、守りたい者の姿だけが、はっきりと目に映る。

 

 

 

燃え盛る胸の内とは裏腹に、心は一切の静寂に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ナヌゥウウウウウクゥゥゥゥウウウウ!!!!!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あげそうになった怒りの咆哮を、歯を食いしばることで抑え込む。

歯が軋み、血管が音を立ててきれた。

体の奥底からマグマのような熱が吹きあがり、思考を焼き尽くすほどに燃え上がる。

 

 

おまえ、お前、ふざけっ……ふざけるな!!

 

傲慢な神よ!!!己の目的を果たす為なら、他のものなど、塵芥に過ぎないとでも!!?

 

 

大剣に、怒りの炎がなだれ込み、全てを焼き尽くす烈日が、刃を黄金に輝かせる。

 

 

終末獣の一体が、その巨大な手を掲げたかと思うと、開拓者たちに向かって振り下ろした。

踏み出された右足が、バネのように小さく縮こまり、瞬間、床を焦がしながらこの身を跳ね飛ばす。

巨大な影が彼らに迫る刹那、その間隙に割り込み、渾身の力をもって腕を斬り上げる。

鈍い衝突音。バチリと火花が舞い、衝突で欠けた粒子が次々炎に身を焼べる。

巨大な腕は余燼とともに弾かれ、掌の焼け跡を宙に晒した。

 

 

「っ!?クロノン!!?」

 

 

彼女の驚いた声が背後から聞こえてくる。

 

 

「話はあとだ!!」

 

 

 

 

殺してやる、ナヌーク!!!

 

 

 

 

律儀に二体の終末獣が立ち並ぶ中、戦いの火蓋は切られた。




過去より湧き上がる心(ぶっ殺してやるぞ!ナヌーク!)


ノリと勢いでやった、反省も後悔もしていない。
クロノン頑張れ♡

次ちょっと遅くなります。
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