事前登録者3355万336人突破報酬、☆5『ファイノン』   作:きのこの

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一方、ヴェルトは見覚えのありすぎる姿と声に、大量の感嘆符疑問符を飛ばすのであった。


終末は二度訪れる

二体の終末獣。

ほとんど瓜二つの二体の巨獣が並び立つ様は、挫折感を与えてくるようだった。

まるで、今から僕たちが蹂躙されてしまうような、無辜の人々ならば生を諦めて心を屈してしまうような、絶望感と威圧感を放っている。

 

だが、ここにいるのは星穹列車だ。この程度の困難で、僕たちの心が折れることは決してない。

 

 

奴が動き出す前に、まずこちらの戦力を確認しないと。

動揺するように弾かれたままの手で硬直する終末獣を横目に、僕は並び立つ開拓者たちを見た。

 

戦場に立っているのは、僕を含めて六人。

星、三月さん、丹恒さん、姫子さん、それに...ヴェルトさんだ。

ゲームだと前四人だけが戦って、ヴェルトさんは最後に暴走した星を止める時に現れたが、終末獣二体という異常事態に、彼もやってきてくれたのだろう。

 

星穹列車の皆は、長い間一緒にいるから、言葉が無くても連携を取ることができる。

星は道中、丹恒さんと三月さんと一緒に戦っていたから、この二人となら息を合わせて戦うことができる筈だ。姫子さんとヴェルトさんもそれを分かっているだろうから、彼らはきっと三人の援護にまわるだろう。

 

なら、彼らと共闘した経験が、たったの二度しかない僕は...姫子さんたちと同様に、三人の援護をしつつ、彼らを守って前線に立つ。

 

 

 

__星穹列車の旅路を守るため、僕は......全てを懸けよう!

 

 

 

二体の終末獣の内、右の終末獣が__分かりにくいから、それぞれ右をアルファ、左をベータと呼ぶ__アルファは左手を叩きつけ、ベータが身を乗り出しながら右手を薙ぎ払った。

散り散りに回避しながら、攻撃に転ずる。

 

「はああ!!」

 

前方に向かって回避した星が最初にアルファの反物質エンジンに一撃を叩きこんだ。反物質エンジンを覆う外殻は分厚く、鈍い音とともに攻撃は弾かれる。彼女の攻撃にすぐさま反応したアルファは左手を彼女の上に掲げた。

星が大きく飛び退くと、直後、轟音と共に大地に左手が叩きつけられ、量子の残片が辺りに舞う。

 

左手はすぐに星の動きを追うように、手を真っすぐに伸ばすと彼女に突きを放った。

獣の名に相応しく、鋭い爪先が彼女に迫り…

 

「…っ!!」

 

大剣とともに、重心を後ろへ。この身を突き動かす炎の推力のみで山成りに跳び上がった僕は、重心ごと、渾身の力でその手を地面に叩き落とした。

再び轟音が響き、巨大な手はその場で跳ねる。

 

「逃がさない!」

 

力強い声。後方から飛来する、薄桃色のグラデーションを描く氷の一矢が手に突き刺さり、更に上後方からばらまかれた幾つもの氷の礫とともに破裂する。

アルファの左手は一瞬で、地に縫い留められたまま氷の彫像となった。

 

「___!!!」

 

僕たちがアルファにかまけている間にも、ベータは動き始める。

戦場をまとめて薙ぎ払うべく、掲げられた右手は…しかし、ぴくぴくとその場で震えて動かない。

ベータの右手のすぐ後ろ、その手に収まる程度の小さなブラックホールが、手を強烈な重力によって動きの一切を封じた。

ならばと掲げられた右手が最も近くにいた僕に振り下ろされ、途端、下から掬いあげるように、回転するドローンが衝撃を分散させながら手を弾き返す。

 

「こいつは私たちが抑えるわ。あんたたちはそっちを!」

 

トランクからチェーンソーを展開した姫子さんと、漆黒を纏った杖を掲げたまま今なおベータの右手を抑え続けているヴェルトさんが、僕らを見て頷いた。

 

彼らが抑えてくれるというなら、僕たちはもう片方を、叩き潰す。

 

氷漬けの左手を引き抜こうと藻掻いていた獣は、再び駆け出す僕たちの姿を認めると、低く咆哮し、空いた右手を反物質エンジンに寄せた。

エンジンから異常なエネルギーが、右手に向かってなだれ込み、黄色い虚数エネルギーを纏う。

虚数の残映を残しながら、右手は戦場を薙ぎ払い、エネルギーが硬質な床に擦れ、不快な金属音をまくしたてながら火花を散らし、迫りくる。

 

「同じ手が、何度も通用するわけないでしょ!」

 

それぞれが散り散りに別れ、右手は空だけを引き裂く。攻撃が無為に終わった隙をついて、丹恒さんと星が前に突出する。

攻撃を終えた直後の右手と、無防備に晒されたままの反物質エンジンに、それぞれ槍とバットが振るわれた。

鈍い打撃音と共に彼らが背中合わせに後退すると、右手と反物質エンジンに僅かに傷が入った様子が見える。

 

硬質に見える装甲だが、その実、強固という訳でもないみたいだ。

星と丹恒さんが再び攻撃を加えようと、飛び出し...

パキリと何かが砕ける音とともに、飛び出した二人の上に影ができる。

ハッと見上げると、先程の右手の薙ぎ払いによって氷から解放されていた左手が、二人の頭上に迫っていた。

 

「星!丹恒!」

 

一息に距離を詰め、強引に彼らの前に割り込む。大剣の腹を見せるように構えた刹那、凄まじい衝撃と重量が剣にのしかかった。

 

「…ぐっ…!!」

 

重いっ...!!

 

ぎちぎちと音を立てながら拮抗する。強引に押し入ったから、弾き返すのは体勢的にも難しい。だが、絶対に彼らだけは傷つけさせまいと、滑りそうになる両足に力をこめて、防御にだけ集中する。

金属同士が時折甲高い音を響かせ、バチリバチリと反発するように火が弾ける。

拮抗したまま、こちらを抑え込まんと、大剣の腹に受け止められてない指先が徐々にのばされ、跳ねた髪の毛を僅かに揺らした。

 

その時、後方から剣と指の拮抗の隙間をくぐり、灰白色の影が左手の下に潜り込む。

 

「くらえ!」

 

背を向けた態勢から、半回転しながら一閃。

星の振るったバットは、カキン、と小気味いい音を鳴らしながら、その手を大きく弾いた。

そして…彼女の作った隙を逃す彼ではない。

 

「洞天幻化、長夢一覚……。」

 

リン、と低い鈴のような音が響き、バランスを大きく崩した青磁色が飛び出す。

その姿はまるで、一本の矢のようだ。

 

「破!!」

 

一意専心。貫く為に研ぎ澄まされた撃雲が、一本の線のように美しい軌跡を描きながら左手を撃った。

 

 

______!!

 

 

左手は、穿たれた箇所からひび割れ、バキリと音を立てながら頽れる。

 

 

残りは二つ。

 

 

身を翻して見上げると、一か所に纏まった僕たちを一網打尽にしようと、右手が天高く掲げられている。

回避のため両足に込められた力は、しかし力を発揮することはなかった。

 

「ウチがいるんだから…負けないよ~!!」

 

緊張の走る戦場の空気を塗り替えながら、いつの間にか三人に貼られていた存護の祝福が、僕たちに回避の必要がないことを教えてくれる。

 

虚数を帯びたままの恐ろしい威力の薙ぎ払いは、存護の盾を撫で、反対側へと流れていった。

 

「殴ったね?」

 

ニヤリと、そんな効果音がつきそうな笑みを浮かべながら、三月さんは腰を低く落とし、氷の矢を放つ。

一寸の狂いもなく軌道に乗った矢は、右手に命中し、凍り付かせながら落下した。

 

 

大剣を縦に構える。

心に刻まれた熱を込める。

大剣が仄かに輝き、込められきれなかった炎が剣身に纏わりつくように吹きあがった。

 

凍り付いた右手が落ちてくる刹那、駆ける。

 

「来たるべき、明日のために!」

 

左から右に、大きく振りぬかれた太陽の閃きは、氷を割り砕きながら右手の核を打ち砕いた。

虚数エネルギーを離散させながら、右手は沈黙する。

 

 

残りは一つ。

 

 

反物質エンジンに目を向けると…僕が右手を破壊している隙に、星と丹恒さんで破壊してくれていたみたいだ。

エンジンを覆う殻に幾つもの罅が入り、終末獣はついにその首を垂れた。

 

 

「今だ!頭部の核を破壊しろ!」

 

「ルールは、破るためにある!!」

 

 

丹恒さんの言葉の直後、膨大なエネルギーを込められたバットを、星が抜刀した。

少しの迷いもなく疾走した彼女は、その『開拓』の意志をもって、流星のごとくバットを振り上げる。

 

重い打撃音が戦場に木霊し、ひび割れた核から勢いよく暗黒物質が吹きあがった。

 

 

「アウトッ!」

 

「________!!!!」

 

 

二体の終末獣、そのうちのアルファは、天高く咆哮をあげたのち、ぐったりと沈み込んだ。

 

 

 

 

 

 

ベータを阻止し続けている戦闘音が鳴り響く中、沈黙するアルファの前で、僕たちは乱れた呼吸を整える。

決して長い戦闘ではなかったけれど、巨大な体躯から繰り出される攻撃は、僕たちの体力を大きく削っていた。

 

まだもう一体。

 

同じ体躯、同じ力。動きが見切れていようとも、消耗している今、長期戦はできない。

 

 

コア()を、直接狙おう。」

 

 

アルファのように丁寧に両手と反物質エンジンを破壊する余裕はない。戦力差で攻撃手段を封じ、直接狙う。

 

独り言のように呟かれた言葉に、星が反応し僕の方を振り返った。

パチリと瞬きした後に、グッと表情を引き締めて頷く。

僕たちは顔を見合わせると、ベータの方に走り出した。

 

 

 

 

 

 

「姫子~、ヨウおじちゃん~!」

 

三月さんの声に、姫子さんとヴェルトさんは一瞬こちらに視線を向けた後、僅かに微笑んだ。

 

ベータの状況は、右手には罅が入り左手は少しの傷跡、反物質エンジンは完全に破壊されている。彼らはベータを足止めするだけではなく、この短い間に着実にダメージを与えていたみたいだ。

流石、星穹列車の大人組。

 

 

「_______!!!」

 

 

僕たちが戦線に加わったのを見て、終末獣は宙を仰ぎ見ると、咆哮をあげた。

終末獣の放つ壊滅的な覇気が更に増し、頭部にあるコアがぎらりと輝く。暗黒物質が唸りをあげ、終末獣の頭部を囲うように天環のようなものが現れると同時に胸部の刃から青紫のエネルギーがゆらゆらと放出される。

 

第二形態。

どうやら、本気を出すみたいだ。

 

 

「ウチのとっておきをくらえ!」

 

 

足元から一本の氷の矢を生成した三月さんが、反物質エンジン周辺の地面を狙い、氷を放つ。

列車の車掌の形を模した礫たちは、反物質エンジンを床ごと完全に凍らせ、エネルギーの供給を阻止する。

 

まとめて薙ぎ払おうと、ベータは右手と左手を同時に振るい…次の瞬間、紫黒色が三度宙を裂き、右手と左手を弾き飛ばした。

杖を横に払ったヴェルトさんが、攻撃を弾いたのだ。

 

僕が右手、丹恒さんが左手。同時に駆け出した僕たちは、怯んで身動きのとれない両手を渾身の力をもって叩き落とした。

二度の轟音と共に、両手は大きく開かれる。

 

 

__道ができた。

 

 

バットを握った灰白色の彼女が、飛ぶように駆ける。

 

 

「_______!!!」

 

 

怒りに満ちた咆哮が響き、ベータはその大きな頭部をぐらりと後ろに傾けると、勢いよく彼女に向けて振り下ろす。

星は足を止めない。

彼女の耳には背後から鳴り響く、回転しながら迫る機械音が聞こえていたから。

 

後方から飛来したドローンは、提げたチェーンソーをぐるりと一回転させると、叩きつけるようにベータの頭部の前面にその刃を押し付けた。

ぎゃりぎゃりと激しく金属が削れ、ベータの頭部を後ろに大きく仰け反った。

 

 

「…はあ、あああああ!!」

 

 

凍り付いた反物質エンジンを強く踏みつけて、星は飛ぶ。

終末獣の巨躯よりも更に高く。

両手に握りしめたバットを真っすぐに掲げた。

彼女が持つ膨大なエネルギーが瞬時に流れ込み、稲妻をまき散らしながら苛烈な光を放つ。

 

 

「やあああああ!!!!」

 

 

灰白の流星が、天から下る。

風を切り裂きながら振り下ろされたバットはコアを打ち、刹那、閃光とともにコアは暗黒物質をまき散らす。

 

終末の獣は、一度大きく体躯を震わせ、ゆっくりと項垂れた。

 

 

 

 

 

 

_______________________________________

 

 

 

 

 

 

静まり返った戦場に、乱れた呼気の音だけが響く。

星穹列車のみんなを見渡して、その姿に傷がないことを確認した僕は、集中で詰めていた息とともに、ホッと空気を吐き出し......ゾクリと粟立つ悪寒に、目を見開いた。

 

終末獣を倒した後、ゲームではどうなっていたか。

 

まだ終わりじゃない。

瞬時に脳裏をよぎる記憶(ゲーム画面)を振り返る。

まるで示し合わせたかのように、二体の終末獣のコアが同時に輝きを放った。

 

 

僕はこの先の展開を知っている。

終末獣が放った光線が三月さんに迫り、それを開拓者が庇うことで、彼女が壊滅の一瞥を受けることを、知っている。

 

 

…本当のところ、僕の助力なんてなくとも開拓者たちは終末獣の二体くらい簡単に倒せていたかもしれない。僕が今なにもしなくても、彼女ならば三月さんに怪我一つ負わせることなく、死の光線を防ぎきれるかもしれない。

 

でも…僕が介入したことでそんな未来は起きず、全ては仮定となった。

僕が選択した未来に意味なんてなく、全て徒労に過ぎないのかもしれない。僕が介入したことで、より悪い未来を引き寄せているのかもしれない。

 

それでも……

 

 

それでも僕は、何度同じ分岐点に立つことになっても、それが例え徒労に終わるとしても、同じ選択をするだろう。

 

 

三月さんの前に飛び出した僕に、二本の光線が迫る。

悲鳴に近い甲高い声が僕の名前を呼び、同時に、世界が光に包まれ__

 

 

叫びの残響を聞きながら、僕の意識は光に呑まれた。

 




おい誰だよノリと勢いで終末獣二体にした奴は。
私です…………。


前話へのたくさんの感想ありがとうございます。
もう本当嬉しい、嬉しい…。たくさん語ってくれててにこにこしちゃった。いっぱいちゅき♡
これからもぜひ楽しんでいってね♡
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