事前登録者3355万336人突破報酬、☆5『ファイノン』 作:きのこの
………。
……のは、……がこの…………いうこと?。
…………意識………。でも………抜け殻……。……だけど………。……この程度じゃ……ないよ。
微睡む意識の外側で、誰かの話し声が聞こえてくる。
声に引っ張られるように、思考が浮上し、濁っていた意識が徐々に鮮明になっていく。
まるで氷の中にいるように周囲を覆っていた冷気が、意識の上昇に合わせて徐々に薄まり、燃えるような熱が全身に戻ってきた。
「…ぐっ…。」
重い瞼をどうにかこじ開けると、煤けたオレンジ色を背景に、幾つもの細長い白い照明が目を焼き、僕は二、三度瞬きを繰り返した。
これは、天井…かな?
あまり見覚えがないから、ここがどこか判別できない。
若干眩む視界を堪えて仰向けに寝ていた体を起こすと、僕の正面に立つ、さっき聞こえてきた声の発生源である二人がこちらに振り返った。
「ほら、もう起きた。」
「クロノン、大丈夫?」
心配そうに僕を覗き込む姫子さんと、全く知らない、でもすごく見覚えのある人形の少女。
この宇宙ステーションの主、ヘルタさんが無感動に僕を見下ろしていた。
「じゃ、私はもう行くから。そこのあなた、3システム時間後に宇宙に放り出すから、用があるならそれまでに済ませて。それじゃ。」
僕が口を開く前に、ヘルタさんは踵を返して歩き去った。
えっ………えっ…?
「ごめんなさいね。彼女、自分が興味ないことにはいつもあんな感じなのよ。」
姫子さんはそう言って苦笑した。
別に、僕はヘルタさんの言葉で傷ついたり、気分を悪くすることはない。
なぜなら、僕は彼女のことを全く知らないと同時に、よく知っているから。
興味があることに対しては何事にも手を付けるけれど、逆に興味を失うと離れてしまう。開拓者に対してさえ『興味がなくなった時は出て行ってもらう』と断言していた彼女だけど、決して冷酷でも、人道がないわけじゃない。
むしろその心根は善性だ。オンパロスでは、すぐにでもセプターを破壊できたにも関わらず開拓者の意志を尊重し、彼らを助け続けた。更に自分の命を顧みず、
鉄墓を倒し、オンパロスがまた明日を望めるようになったのは、彼女のおかげでもあるんだ。
だから、僕は彼女のことを心から尊敬して………
……いや、それよりも…、あの後みんなはどうなったんだ?
星穹列車のみんなは?
開拓者は…星は、どうなったんだ…!?
「姫子さんっ…みんなは…三月さんに、それに、星は…!?」
「大丈夫、落ち着いて。三月ちゃんも星も、他のみんなも全員無事よ。今、彼女たちには列車に残って、辺りを見張ってもらっているの。」
それから姫子さんはあの後何があったのかを教えてくれた。
僕が二体の終末獣の光線を受けた直後、星の中の星核が光を放ち、終末獣二体を鎮圧。原作通り、暴走状態に陥りかけたところを、ヴェルトさんが眉間を軽く叩いて暴走を収めたそうだ。
そして意識を失った僕と星を主制御部分に運び今に至る、らしい。
…ゲームの時も思っていたけど、弱っているとはいえ終末獣を一撃で倒すなんて、星核はどれだけ強大なエネルギーを宿しているんだろうか。しかも今回は終末獣が二体いたのに、それでも倒した。
結局ゲームの中では壊滅に関係することくらいしか語られなかったけど、星核とは、一体なんなのだろうか。
それに、星核の力を使ったということは、
…星の旅の始まりに、ナヌークの一瞥が必要、というのは理解している。理解しているけど……なんというか、複雑だ。
「そっか…よかった。誰も傷つかなくて。」
ホッと安堵の息を吐き出す僕を、姫子さんは微笑ましそうに見ていた。
「それと、今後のことだけど。」
「今後…?」
姫子さんの言葉に、目覚めたばかりの僕に向かって放たれたヘルタさんの声が脳裏によみがえる。
確か、『3システム時間後に宇宙に放り出すから、用があるならそれまでに済ませて』と彼女は言っていたような。
(僕、このままだと宇宙空間に放り出されるのか……。)
冷たいとは思わなかった。
ヘルタのスタッフでもなければ、星穹列車の乗員でもない。開拓者のように星核を有しているわけでもない僕は、今すぐ宇宙空間に放りだされてもおかしくないほど怪しい存在だ。
3システム時間の猶予は、彼女の良心なんだろう。その間に僕が自分で出ていけばそれでいいし、そうじゃないならヘルタの人々の為にも、彼女は僕を追い出す。
問題は…僕は自主的に出る手段をもってないし、宇宙空間に放り出されたらいくらファイノンと同じように身体能力が高くても、普通に死んでしまいそうなところかな。
「ははは……いまから彼女に言って、宇宙空間じゃなくて別の星に送ってもらうようにできないかな?」
正直、望み薄な気がするけどね。
苦笑いした僕を、姫子さんは何か考え込むようにジッと見つめた後、一つ頷いた。
「クロノン。もしあんたが望むなら……私たちと一緒に来ない?」
「一緒に?一緒にって、どこに…?」
「決まってるでしょう。私は星穹列車のナビゲーターなんだから、行先は一つ。」
「『星穹列車』の乗員にならない?」
「……………。」
一瞬、世界の時が止まったのかと錯覚した。
姫子さんの言葉が心の中で何度も反響し、心がさざ波のように揺らめく。
僕が____僕が『星穹列車』に…?ナナシビトに、なる…?
息を吸ったまま吐き場を失った空気が、はくはくと動かされる口の動きに合わせて勝手に漏れ出る。
熱が胸奥から次から次へと、こみ上げて、頬にまでのぼってくるようだった。
「…その様子じゃ、答えは決まってそうね。」
姫子さんはフッと微笑むと、僕の答えを待つように、ただその場で立っている。
(答えないと。)
そう思うのに、不思議なことに僕の口はその形を開きはするものの、それ以上言葉を発することはなかった。
「僕は…………。」
まるで喉の奥に巨大な岩でもあるように、言葉が喉のすぐ裏側でつっかえて、それ以上先を言う事が出来ない。
なんで…僕は、彼らに憧れてきただろう??
いや、憧れてきた、だからこそ______
「……時間はまだあるわ。答えが決まったら、教えてちょうだい。」
姫子さんはそういうと、踵を返し去って行った。
誰もいなくなった空間に僕だけが、何も言えずに、ただただ、立ち尽くしていた。
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その後、僕はアーランさんを探して宇宙ステーションヘルタを歩き回り、彼に武器を返した。彼の言葉を無視して勝手に持ち去ったことを謝ると、アーランさんは「気にするな」と、僕に彼自身や星穹列車を守ったことへの感謝を伝えてきた。
お礼をするべきなのは僕の方だ。あの時彼が武器を貸してくれなかったら、ヴォイドレンジャーと戦うことも、終末獣と対峙することさえできなかっただろう。
本当に、感謝してもしたりない。
今の僕には何もないけど、いつか、アーランさんが預けてくれた剣の恩に報いて、僕の全霊をもって彼の助けになろう。
「お嬢様…アスター所長から聞いたが、貴様は星穹列車に乗るのか?」
話が終わって去ろうとした僕を呼び止めて、大剣をしまったアーランさんがそんな話を切り出した。
「それについては…まだ、『考え中』ってところかな。」
「考え中?悩む余地なんてないように思うが……。まあいい。どちらにせよ、貴様はこの宇宙ステーションを離れるのだろう?なら、これは餞別だ。」
アーランさんは近くにある物資がいくつも積み上げられた場所の一番手前から、一つの縦長のケースを僕の前に差し出した。
「これは……大剣…?」
蓋を開けると……中にはアーランさんの武器によく似た構造の大剣が収まっている。
大きさは大体僕の足先から腰くらいまで。彼の武器に似て、幾つものSFチックな部品が取り付けられた片刃の大剣。
ただ色だけは若干違って、刃の部分が白色だ。
「これは、ヘルタの戦闘スタッフに貸与される武器だ。これはその中でも最も大きな物だが…これでもまだ貴様には小さいだろうな。持っていけ。」
「え…え!?、でも、なんで?」
「貴様は星穹列車とともにヴォイドレンジャーを退け、二体の終末獣と戦った。貴様が何者であろうとも、その行動には報酬が与えられるべきだ。これについてはアスター所長も同意している。
ミス・ヘルタは武器など必要ないと思っていたようだが、それでも『否』とは言わなかった。」
アスターさんどころか、ヘルタさんも!?
予想だにしていなかった出来事の連続に、僕は呆然と目を見開いた。
僕は別に大したことは何ひとつしていな……いや、終末獣二体は大したことか。一体でも大変な被害を出すのに、二体なんてやりすぎもいいところだ。
いや、でも主に戦ったのは星穹列車のみんなと星で、僕はやっぱり大したことをしていない。彼らだけで倒せる相手だったし、僕がいなくても彼らはこの結末に辿り着けただろう。
それに、持っていけということは貸与ではなく、譲渡、ということだ。彼らの大事な武器の一つをそう簡単に譲り受けるのは…
「言っておくが、武器の一本程度なら宇宙ステーションの損失の内に入らない。むしろ、貴様が星穹列車に乗るというなら、大きな利になる。そうでなくても、貴様を武器もなしに外に追い出すのは目覚めが悪い。」
僕の考えを読んだかのように、アーランさんは有無を言わせない口調で僕に大剣を差し出した。
大きな利…多分星穹列車に恩を売れるとか、そういうことなんだろうけど。確かに、物品の金銭の損失よりも、他者に恩を売る方が価値が高いことはままある。
客観的に見て、星穹列車はその恩を売るには相応しい相手だ。様々な星と繋がりがあるし、開拓のビーコンでいつでも駆け付けられる。
僕はまだ星穹列車の乗員ではないけど、それでも大剣を譲渡してくれるのは…彼らの良心だ。
…本当に、この宇宙ステーションヘルタにいる人々はいい人ばかりだ。
アーランさんから大剣を受け取り、確認するように握りしめる。確かに僕の身長からするとあまり大きい訳ではないし軽いけど、この宇宙ステーションの人の思いの分だけ、その刃は鋭く、重く、一切の敵を打ち払えるだろう。
「……君たちには、助けてもらってばかりだ。」
「大げさだ。それに、貴様も俺たちを助けただろう。」
「君と、星穹列車のみんなのおかげだよ。…ありがとう。君たちから貰ったこの大剣に相応しく、僕はこれから待ち受ける全ての困難を打ち払い、全ての戦いで勝利する。
そして、いつか君たちの恩に報い___もし、遠い未来で宇宙ステーションに災いが降りかかったその時には、僕の全てを懸けて、君たちを守ることを誓うよ。」
「いや、そこまでしなくても……。」
アーランさんは呆れたように半目になった後、首を横に振った。
大剣を大切にしまい、彼らがくれた思いを心に刻む。
僕は彼に別れを告げて、サポート部分に向かい歩き始めた。
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僕にとって星穹列車のみんなは憧れだ。彼らの『開拓』を見てみたい、彼らの星々を繋ぐ旅を守りたい。
僕のこういった思い以外にも、彼らについていくべきだと思うメリットはある。
星穹列車はいずれ『オンパロス』に到達する。乗客でもいい、彼らの列車に乗ることができれば、ここで宇宙ステーションの外に放り出されるよりも確実に、オンパロスに行く事が出来るだろう。
___だからこそ
だからこそ、僕は星穹列車に乗っちゃダメなんじゃないかと、そう思う。
僕という変数が宇宙ステーションに現れたことで、
反物質レギオンの勢力は数を増し、終末獣は二体に。原作と同じように星穹列車の乗員が誰も欠けることなく、星は一瞥を経て星核の力を解放できたけど……僕が彼らと行動を共にすれば、また、今回みたいな
これは僕の問題で、本来なら彼らには関係のないことだ。
僕が同行することで、彼らにその火の粉が降りかかる可能性がある。
ついていくべきだと判断する本能と、彼らを巻き込むべきじゃないと諭す理性の狭間で、僕は迷っていた。
僕は……どうすべきだろうか…?
(星穹列車のみんなや、星と話せば、何か分かるかもしれない。)
そう思い、僕はサポート部分のホームへとやってきていた。
高い位置にある通路から、列車が停泊している場所がよく見える。ホームには三月さん、丹恒さん、姫子さん、そして姫子さんと何かを話している様子の星の姿を見つける事ができた。
(開拓者なら……星なら、何て言うんだろう。)
この物語の主人公である彼女の考え方を聞きたい。ゲームだとプレイヤーに託されている星穹列車に乗る選択肢を、星はどう思ったのだろう?どうして星穹列車に乗ろうと思ったのかな?
姫子さんと話してるところを邪魔するのは悪いから、彼女たちの話が終わるまで近くで待っていよう。
通路を抜け、列車のホームに向かう。
僕は3mほど距離を開けた場所で立ち止まり、彼女の話が終わるのを待_____
「宇宙ステーションに残ることにした。」
………?
「え?でもヘルタは…。」
「ヘルタとアスターもいいって言ってくれた。」
え……
えっ????
「そう…なら、あんたの選択を尊重するしかないわね。」
ま、待って……
「それじゃあ、元気で、星。また会いに来るから。」
彼女は頷く。
「さよな
「待ってくれ!!!!!」
「うわ声でか。」
慌てて駆け寄り、姫子さんと星との会話に割り込む。
目を見開き驚く彼女たちを無視して、僕はまくしたてた。
「そんな慌ただしく幕を下ろさないでくれ!!」
「音量ミキサーの上限突破してない?」
このままじゃ星が!星が星穹列車に乗らない!!!
それは駄目だ!!!宇宙がまずいし、僕も彼女に星穹列車に乗ってほしい!!
「僕の考えを聞いてほしい、星!それからでも乗車するかどうかを決めるのは遅くないんじゃないかな…?」
「え、いや、私は乗ら」
「それに、君にまだお礼を言えてなかった。少しの間でいいから、僕の話に付き合ってほしい!星…!」
「…うん、まあ、いいけど。」
よし、ひとまず話してくれそうだ。
僕が彼女に説得できる材料は少ない。短い共闘で交流もできていないから、彼女が僕の話を聞き入れてくれる確率も、そもそも聞いてくれるかさえあやしい。
それでも、それでも…
なんとしても、星が星穹列車に乗るように説得しないと!!!!
二人で落ち着いて話せる場所を求めて、僕は星を連れて姫子さんのもとを離れた。