事前登録者3355万336人突破報酬、☆5『ファイノン』   作:きのこの

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いつか群星を駆けた

「貴方のことは結構好きよ。でも…貴方の体内には『星核』がある。」

 

「貴方の宇宙ステーションに対する情熱は理解できるけど、私は心を鬼にして貴方を拒否しなければならないの。」

 

 

最初は些細な好奇心だった。もし宇宙ステーションに残りたいと言ったら、ヘルタの人々はどんな反応をするだろうか、と。

 

 

「ダメ、あなたは危険すぎる。私は別に構わないけど、アスターたちのことを考えると、ダメ。」

 

「たまに帰ってくるくらいなら、迎えてあげられるから__長居は控えめにして。」

 

 

小さかったそれは、話すうちに別のモノに置き換わり、徐々に膨れ上がる。ふつふつと湧き上がってくる感情は視野を狭め、ある一つの選択肢に拘らせるようになった。

誰かに『駄目』だとか『行って』だとか言われるたびに、星は頬を膨らませてこう思った。

 

 

___絶対宇宙ステーションに残ってやる、と。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

収容部分一階、シャドウギャラリー。

用途のよく分からない、幾つもの奇物が並ぶ部屋の中央で、僕は星と向かいあった。

 

わざわざサポート部分から収容部分まで、長い道のりを歩いてこの部屋にやってきたのは、ここが星の始まりの場所だからだ。

星がどうして星穹列車に乗らないことを選んだのかは分からないけど…旅の始点であるここでなら、彼女の気持ちを変えられるかもしれない。

 

 

「まずは…ありがとう。姫子さんから聞いたよ。僕が気を失った後、君が終末獣を倒したんだろう?君のおかげで、僕は今ここにいられる。」

 

 

星は照れたような、でも困ったような、そんな曖昧な表情で微笑んだ。多分、彼女自身あの時何が起きたのかあまりよく分かってないんだろう。目が覚めたら記憶がなくて、星核というよく分からない物が体内にあって、よく分からないまま力を解放して…だから困惑の感情の方が強いんじゃないかな。

 

 

「それだけじゃない。最初に出会った時も、君たちからすると怪しかった僕を受け入れてくれて、一緒に戦ってくれたね。あの時みんなに出会わなかったら、僕は一人で主制御部分まで辿り着けなかったと思う。僕に背中を預けてくれて、ありがとう。」

 

「それを言うなら、あんただって最初に会った時私を助けたし、終末獣との戦いにも駆けつけてくれたじゃん。」

 

「それでもだよ。星…さんと、みんなと一緒に戦えて、誇らしいよ。」

 

 

星さんは今度こそ照れたように後頭部を片手で掻いた後、「やっぱ好感度高くない…?」と呟いた。

そうかな?彼らが僕に齎してくれたことを考えれば、……ぎりぎり、普通のことだと思うけど…?

 

 

「それで、星穹列車の話になるけど……。」

 

 

話を切り出した途端、星の雰囲気が僅かに刺々しい物に変わった。

当然か。自分で決めたことに横から他人が口出ししてくるなんて、場合によっては嫌がられることだ。本当は僕も、好き好んで彼女の決意に横やりを入れたいわけじゃない。

でも…でもこの世界の為にも、僕は絶対に星を星穹列車に乗せなければいけない。彼女の『開拓』を、待ち望んでいる者がたくさんいるから。

 

……前世の頃、ゲームで僕は、星穹列車の人たちの話だけを少し聞いてすぐさま列車に飛び乗ったから、『ヘルタに残る』選択肢を選んだ人の気持ちがよく分からない。

多分純粋な好奇心が大半なのだと思うけど、今目の前にいる実際の星の様子を見ると、どうも違うような気がする。

 

__星は、どうしてヘルタに残ることを選んだのだろう?

 

予想がつかない所為で説得の為の見通しもつかないけど、とにかく理由から聞いてみないと。

 

 

「僕はてっきり、星……さんが、星穹列車に乗ると思ってたんだ。だから君たちの会話が偶然聞こえてきたとき、すごく驚いてしまった。大きい声で驚かせてしまって、すまなかった。

…もしよければ、ここに残ろうと思った理由を聞かせてほしいんだ。」

 

「呼びづらいなら、『星』でいい。」

 

 

星は眉を顰めて、頬を膨らませた。

 

 

「だって、みんな『ヘルタに残るな』って言うんだもん。

星核とかよく分からないけど、みんな私に出ていけって言う。私はまだ選んですらいないのに。

だったら、ここに残ってやろうって思った。」

 

 

星の声音からは僅かに不満そうな色が滲み出ていて、彼女が心からそう思っているのが分かった。

 

じゃあ……つまり、星が出ていかない理由は『()()()()()()()()()()()()()()()()』ということかい?

それに怒って、その選択に固執している…?

 

 

「…クロノンはなんでこの話をしようと思ったの?あんたも私にヘルタに残らない方がいいって言うつもり?」

 

 

星がジッと疑るような視線を向けてくる。

そうか、彼女はそれを僕に言われることを警戒して、刺々しくなったのか。

 

僕の行動__星を星穹列車に乗せるために説得することは、一見すると彼女をヘルタに残らせないようにも見えるものだ。

 

でも、違う。

 

同じように見えても、『ヘルタに残らない為に星穹列車に乗ること』と『星穹列車に乗る為に乗る』のでは、選択の意味も、そこに込められた信念も目的も全く違う。

身勝手な思いだけど、僕は彼女に追い出された結果じゃなくて、『開拓』への思いの結果として星穹列車に乗ってほしい。

 

次から次に浮かび上がる星に伝えたい言葉を、脳内で整理する。

僕は彼女の心に寄り添うように言葉を選んで、口を開いた。

 

 

「いや、僕は宇宙ステーションのスタッフじゃないから、そんなこと言わないよ。むしろ、星と同じ追い出される側だからね。」

 

「同じ…?」

 

「僕もヘルタさんに言われたよ、あと3システム時間後に宇宙に放り出すって。もう0.5システム時間は過ぎたから、あと2.5システム時間かな。

星は追い出されるようなことはないけど、ある意味で、僕たちの状況は似ているかもしれないね。」

 

「……そっちの方が深刻じゃない?」

 

「そうかな?『残る』という選択肢があるのに、それを拒否されてる星の方がずっと苦しい状況じゃないかい?

『ヘルタに残らないで』。そう言われて、君は悲しかったんだろう?」

 

「……………。」

 

 

星の雰囲気が、どこか寂し気な物に変わった。

 

怒りとは悲しみや不安、そして絶望から生まれてくるものだ。

開拓者が列車に乗るよう言われるシーンは、BADENDの演出をまとめた動画でしか知らないけど、確か『星核が危険だから残らないで』という理由だった。

もし星も同じことを言われているとしたら、……まるで星自身が危険なような言葉に、彼女はショックを受けたんだろう。

 

衝撃と悲しみは怒りに変わり、ここに残ることに強く固執する原因になった。

推測でしかないけど…そういうことじゃないかな?

 

 

「悲しかったから、君は怒って、ここに残りたくなった。

君は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んじゃないかい?」

 

「………クロノン、私がヘルタとかアスターと話すところ、見てたの?」

 

「いや、見ていないよ。その頃は...気絶しているか、アーランさんと話をしていたと思う。」

 

「…あんたも同じって言ったよね。つまり、追い出されそうで、同時に姫子から星穹列車に誘われてる。だから分かるの?」

 

 

…僕は『ゲームの記憶』があるからっていうのが一番大きいけど、説明できないしそういう事にしておこうかな。

アーランさんの時みたいに、星から『不気味』だって思われたら、少し…悲しいかな。

 

星の言葉に頷く。

 

 

「選択肢があると言われて、実質一つだと迫られた君の気持ちは、僕にとって全く理解できないものじゃない。

だから、僕に君の選択肢を妨げる資格はないし、『怒りを収めろ』とも絶対言わない。」

 

 

僕は『ゲームの記憶』でこれからの未来を知っている。でも彼女からするとそんな未来は知らないし、今の彼女には関係がないことだ。本当なら彼女自身で選ぶべき選択を、僕は……考え直させようとしている。

 

___本当は、そんなこと許されるべきじゃない。

 

 

(ごめん……星…。)

 

 

これは必要なことだ。彼女には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

自己嫌悪が湧いてくる。

それでも、僕の言葉が星に届いてほしい、と願いながら、僕は口を開いた。

 

 

「ただ、『追い出されること』以外に、選択肢があるんじゃないかと思うんだ。君のやりたいと思える選択が。」

 

「ヘルタは…私次第だって。『人がいない場所に行ってハッチを開けて飛び出してもいいし、裂界に潜り込んで、モンスターがあなたを神として崇めるか試してみてもいい。』って言ってたよ。」

 

「…ほとんど自殺と変わらない気がするけど、君がやりたいなら選択肢にも、なる、かな…?

…でも、誰かに示されたことじゃなくて、君がどうしたいかが大事なんだ。」

 

「私がどうしたいか?」

 

「選択肢は君の手にある。法や規則、権利、役割、それに責務、何者にも縛られてない君だからこそ自由に選べる。

例え誰かに強要された道でも、運命に定められた道だとしても、君が『そうしたい』と望んで選んだ道なら、君が自分の意志で選んだ道になるはずだ。」

 

 

胸に手を置いた僕を、真似するように星も胸元に手を置いた。

 

 

「ヘルタに残ることが、君がやりたいことなのか。

もう一度、よく考えてみてほしい。星、君のやりたいことは、君の理想は、君の願いはなんだい?

追い出されることも、星核のことも考えずに。

どんな道を歩みたいのか、どうすれば最も君が望むものが手に入るかを。」

 

「私が、望むもの…。」

 

 

星は口を閉ざし、僕は彼女の答えを待った。

数秒ほど、穏やかな静寂が部屋を支配する。

 

 

 

 

胸に手を当て、目を閉じていた星が、目を開けて僕を見た。

 

 

「正直分からない。宇宙だとか星核だとかよく分からないものばかりで、何がやりたいなんて決められない。

 

__でも、…宇宙がどうなってるのか、あの群星に何があるのかは…気になる、かも…。」

 

「ほ、本当かい…!?」

 

 

つまり、星穹列車に乗ってくれるってことかい!!?

よ、よかった!本当によかった!!

 

嬉しくて自然に顔が緩む。

僕の顔を見て星が苦笑と呆れのいり混ざった表情で首を横に振った。

 

 

「やっぱり乗ってほしいんじゃん……。

ほら、そうと決まれば、一緒に姫子のところに行こう。

 

____星穹列車に乗る為に。」

 

 

星の言葉に頷く。

僕たちはサポート部分までの道のりを、並んで歩き始めた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

白髪に青いマント。絵本の世界から飛び出してきたかのような風貌の青年の隣を歩きながら、星は思案する。

 

星にとって、クロノンは不思議な人だ。

星と同じ記憶喪失なのに、新しい事にも不思議そうにしている様子がない。知識だけがあるのかと思ったけど、そんな雰囲気は感じず、何に対しても初めてみるような、目をキラキラさせて見ている。バットとか見てるときは特に顕著に出ていた。

 

あと重い。びっくりするくらい重い。

初めて会うのに好感度が驚くほど高い。

なのたちの知り合いかと思ったら、みんなも不思議そうにしていたし、ヘルタの人たちも首を傾げていた。

彼が星たちを見ている時は、大体しっぽをブンブンと振り回す幻覚が見える。

 

記憶のない星が確信できるくらいに、クロノンは星たちのことが好きだ。

 

 

(なんでこんなに私のこと好きなんだろう?)

 

 

今回のやり取りだって、クロノンは星の気持ちに寄り添い、彼の本来の考えとは別に、星のやりたいことをするように言った。ヘルタの人(というよりミス・ヘルタ)のわがまま爆発頭天才クラブっぷりと比較すると、まあいい人だ。

 

…サポート部分までまだ道は長いし、彼にその理由を聞いてみてもいいかもしれない。

 

 

「重いノンはさ。」

 

「重い…ノン…?」

 

「どうしてこんなに私を気にかけるの?今日出会ったばかりの他人でしょ?」

 

 

重いノンは悩むというよりも、何を言うべきか迷うように眉尻を下げたあと、考えを絞り出すように言う。

 

 

「星は、『心の中の英雄』を、知っているかい?」

 

「知らない。イマジナリーフレンド?」

 

「ははは。言われてみれば…うん、似たようなものかな。ただ立場としては、『友達』じゃなくて、その人にとっての『英雄』なんだ。」

 

「英雄…。それを思い描く人にとって、心を救ってくれる人、ってこと?」

 

「…結果的にそうなる事もあるかもしれない。

『心の中の英雄』は、その人が思い描く英雄の姿だ。僕たちは、その理想の英雄の姿を完璧なものに仕上げて、現実にする。」

 

 

「理想の自分、ってことか。この話をしたってことは、クロノンにはそれがあるの?」

 

「いや、僕は……。」

 

 

クロノンは僅かに目を伏せて、少しだけ思案した後、自信なさげに続けた。

 

 

「ない……と、思う。僕には…僕の心の中には、その姿がないから…。」

 

 

あ、ないんだ。

なんだかシリアスになった空気を突き破ってその言葉が口からでてしまいそうになったのを、星は咄嗟に抑えた。よく分からないけど、クロノンが真剣に悩んでる様子だったので、一旦我慢した。

 

 

「ないんだ。」

 

 

嘘だ。やっぱり我慢できなかった。銀河打者の辞書に我慢の二文字はない。

 

てっきり『星がその姿にそっくり』とかそういう話かと思っていた。自分の理想にそっくりだから星に対する好感度が出会った時から高いのか、と。

…だがよく考えたら、クロノンは星と同様に記憶喪失である。記憶もないのに理想も何もない。星だってそうだし、ならばクロノンもそうだろう。

 

彼は何故、この話をし始めたのだろうか。

 

 

「この話と私が好きな事、繋がりがあるの?」

 

「繋がり…。そうだね、繋がりが……あるといいな、と思ったよ。」

 

「あるといいな???」

 

「つまり……君が、僕の理想とする英雄の姿。心の中の英雄なら、いいなって。そう思ったんだ。」

 

 

クロノンの最初に会った時と同様に、特徴的な青い瞳が柔らかく緩ませ、星を優しく見つめた。

その言葉に、星は_____

 

 

 

 

(おっっっっっっっも。)

 

 

驚きの重さである。

いや最初からこんな感じだった。じゃあ驚くことでもないかもしれない。

 

星は思った。それにしたって星以外の人を英雄にしてもいいんじゃないか?と。ほら、丹恒とか。よく前線で戦うし、最適である。

星じゃないと駄目な理由でもあるのだろうか?

この白髪クソデカ感情系青年の重いノンと銀河一の美少女である星の関りなんて、みんなとさほど変わらない。強いていえば、重いノンが星たちと出会って早々一番にしたことが星の命を助けることだったくらいで____

 

 

(なるほど。)

 

 

これが理由か。瞬間、星は青年の全てを理解した。

重いノンが扉を開けて一番にしたことは、星の命を助けること。つまり、彼の目には星の姿が一番に目に入ったのだろう。

だから彼は星に重いし、周囲にいた人にも異常に重い。

 

記憶喪失から目覚めて、一番出会ったのが星たちだったから、彼はこんなにも慕っている。まるでひな鳥が、一番最初に目にしたものを親と刷り込むように。

 

つまり___重いノンは鳥だ!!!

 

 

「そうなんだ。」

 

 

星にとって、最初に出会った人を慕う気持ちは、理解できるものだった。星が目覚めて最初に目にしたのは丹恒のキス顔とピンク髪のお転婆な少女の顔ドアップだったがゆえに。

星はなののことが好きだし、丹恒のことも信頼している。

重いノンが星たちに向ける感情は、それにしたってあまりにも重かったが、まあそういう人なんだろう、多分。

彼は鳥なので。

 

 

「トリノンさ。」

 

「!?」

 

「心の中の英雄っていうけど、私はあんたが理想にするような英雄の姿にはなれないと思うよ。記憶もないし。私はあんたの理想通りに動かない。」

 

「…僕は君に何か望むつもりはないよ。星は星の思うまま自由に生きてほしい。

僕にとっての心の中の英雄(理想)は、自由に生きる君そのものになるから。」

 

 

あと、トリノンは…名前が一緒の人がいるから、別の呼び方がいいな。

 

重いノンはそう言って困ったように笑った。

 




難産すぎて新年あけましたね。今年も無料配布クロノンくんをよろしくお願いします。
あと添削してくれた友人ありがとう。
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