悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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教師と生徒

 動物病院の前に残った余熱が、ようやく夜に溶けていく。俺は変身を解除し、軽く首を回した。戦いは終わった。異物は消え、街は静けさを取り戻しつつある。さて――と、そこで二人の視線がこちらに向いているのに気づく。なのはと、例のフェレットだ。さっきまでの必死さが嘘みたいに、二人とも落ち着かない様子で固まっている。

 

「……高町」

 

 声をかけた瞬間、なのはが肩を跳ねさせた。あからさまに動揺している。分かりやすすぎて、逆に心配になる。

 

「は、はいっ!?」

 

「こんな時間に、何してる」

 

 教師としての立場を意識して、あえて素っ気なく聞く。なのはは一瞬言葉に詰まり、視線を泳がせた。

 

「え、えっと……その……夜の、散歩です!」

 

 俺は周囲を一瞥する。割れたガラス、歪んだ外壁。どう見ても“散歩”の成果じゃない。

 

「動物病院が半壊してる散歩があるか」

 

 なのはが小さくうめいた。苦しいのは分かるが、無理がある。

 

「う……」

 

「それと、そっちのフェレット」

 

 視線を向けると、フェレットは小さく鳴いた。鳴き声だけ聞けば普通だ。だが、さっきまでの動きと目つきが、それを否定している。

 

「……きゅ?」

 

「普通のじゃないよな。まあ、詮索はしない」

 

 これまでの旅で嫌というほど学んだ。見た目がどうであれ、“普通じゃない存在”はいる。敵じゃないなら、深入りはしない。

 

「せ、先生……?」

 

「安心しろ。職務質問する気はない」

 

 なのはが少しだけ安堵した顔を見せる。その反応に、内心でため息をついた。

 

「ほ、本当ですか……?」

 

「ただし」

 

 条件を付けると、なのはがまた身構える。

 

「ただし……?」

 

「家まで送る。以上」

 

 即答だ。迷う理由はない。こんな夜に、一人で帰らせるわけにはいかない。

 

「えっ!? だ、大丈夫です! 一人で――」

 

「ダメだ。こんな騒ぎの後だ。保護者に文句言われるのはごめんだ」

 

 本音を言えば、それだけじゃない。だが、教師としてはこれで十分だ。

 

「そ、そんな理由なんですか!?」

 

「それ以外に何がある」

 

 なのはは何か言いたげだったが、結局黙り込んだ。

 

「……」

 

「ほら、行くぞ」

 

 歩き出すと、なのはも慌てて後を追ってくる。

 

「……あの、先生」

 

「なんだ」

 

「さっきの音とか、光とか……見ました?」

 

 探るような視線。だが、俺は肩をすくめるだけだ。

 

「さあな。俺はただの教師だ」

 

 嘘は言っていない。全部は言っていないだけだ。

 

「……」

 

「それより」

 

「は、はい」

 

「無茶するな。夜の散歩はほどほどにしろ」

 

 なのはは一瞬驚いた顔をしてから、素直に頷いた。

 

「……はい」

 

「返事が素直で助かる」

 

「えっと……先生」

 

「まだ何かあるか」

 

「今日は、その……ありがとうございました」

 

 礼を言われる覚えはない。俺は、介入しすぎないと決めている。

 

「覚えはない」

 

「でも……」

 

「送るって言っただろ。黙って歩け」

 

 なのはは小さく息を吸い、従った。

 

「……はい」

 

「フェレットも、落とすなよ」

 

 なのはの腕の中で、フェレットが小さく鳴く。

 

「……きゅ」

 

 夜の街を並んで歩きながら、俺は小さく呟いた。

 

「……本当に、変わった夜だな」

 

「先生?」

 

「独り言だ」

 

「……?」

 

「行くぞ、高町」

 

「……はい、先生」

 

 足音が重なり、俺たちは何事もなかったかのように、夜の街へ溶けていった。互いに、何も知らないふりをしたままで。

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