悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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鍛えた先と転生の謎

「さて、続きをやろうか」

俺は響鬼の姿のまま、わざと呼吸を整える間を作ってから、ゆっくりと両足を開いて構え直した。

夕暮れの無人区画には余計な目も耳もなく、さっきまでの殴り合いの熱だけが地面に薄く残っている。

蒼玉林檎の視線は、さっきまでの「真似るための観察」から、もっと別のものへ変わっていた。

技を盗む目ではなく、心の置き場所を探る目で、まるで自分の中の欠けた形を確かめるみたいに俺を見ている。

 

「…」

蒼玉は言葉を捨てたまま、無言で構え、次の瞬間には地面を噛むように踏み込んできた。

さっきのような多彩な連打ではなく、最小限の動きで一直線に距離を詰める踏み込みで、逃げ道を作らない意志だけが見える。

その一撃に対して、俺は正面から受け止めた。

本来なら命がけの戦いであり、受け止めるのは愚策にもなるが、俺はあえて受け止めた。

逃げずに受けることで、蒼玉に「自分の一撃が何を持っているか」をはっきり自覚させるためだ。

 

拳が当たった瞬間、衝撃は確かに前より“乗って”いた。

だが、芯まで貫く決意の重さには届かず、最後の押し込みだけがほんの僅かに逃げる。

蒼玉自身もそれを理解したのか、悔しそうに顔を歪ませ、歯を食いしばった。

それでも蒼玉は拳を引かず、息を吐いて叫ぶ。

 

「終わらない!」

そのまま打ち込んでくる連打は、速さではなく意地が主役になっていた。

俺は受け流しながら距離を詰め、逃げられない間合いで蒼玉の手首を掴んだ。

 

「お前は確かに強くなろうとするのは理解出来た。だが」

掴んだまま、俺は蒼玉の体勢を崩さず、あえて踏ん張らせるように固定する。

ここで投げてしまえば話は早いが、蒼玉が欲しいのは敗北ではなく答え合わせで、俺が叩き込むべきは体より先に心の芯だ。

 

「なりたい自分がいなきゃ見つけてない。強くなりたい、その先がない」

蒼玉の瞳が揺れ、反射で腕に力が入る。

力はあるのに、向ける先が定まっていないから、強さが空中で滑る。

 

「強くなった、先っ」

蒼玉が言い返しかけた瞬間、俺は握った手首を引き寄せて距離をゼロにし、逃げられない位置で言葉を叩き付ける。

 

「そんな“覚悟”を決め、執念と魂の込めてない一撃こそ、重さがないんだ」

俺の中で、これまで見てきた無数のライダー達の背中が一瞬だけ重なった。

誰もが何かを守るために、何かを失う覚悟を決めて、拳に理由を込めていた。

理由がある拳は、技が同じでも重さが違うし、迷いがない分だけ相手の心を折る。

 

俺は掴んだ手を放し、腰を落として拳を構える。

響鬼の拳は派手な装飾を持たず、余計な音も鳴らさないが、だからこそ中身だけがそのまま出る。

 

「受け取れよ!」

そうして放った拳は、一直線に蒼玉の胸を打ち抜き、空気を割って蒼玉を吹き飛ばした。

蒼玉の身体が壁へ叩きつけられ、鈍い音が一つだけ響く。

それでも蒼玉の顔は、痛みで歪みながらもどこか晴れ晴れとしていて、悔しさの中に「掴めたもの」が混ざっていた。

 

壁に背を打ちつけた蒼玉は、少しだけ身体を起こし、息を整えながら呟く。

「…少しは強さが何か、分かった気がする」

「…そうか」

俺は響鬼のまま一歩も詰めず、勝者の余裕ではなく教師の線引きとして距離を保った。

 

すると蒼玉は、痛みに顔をしかめながらも、妙に真剣な声で続けた。

「付き合ってくれたお前に一つ、教えておく」

「・・・なんだ」

 

「俺達がこの世界に来る前、俺達の多くは神に転生を与えられた。そう言っていたな」

「確かにそう言っていたな」

蒼玉はそこで一度だけ息を吸い直し、言葉の重みを確かめるように告げる。

 

「より正確に言うと異なる」

「何?」

その一言に、俺は思わず眼を見開いた。

 

「全員が同じだとは限らない。だが、死んだ俺達の魂は、一つの記憶と一つの能力に入って、この世界の住人に入り込む。その際には無作為となる」

「…記憶と能力」

 

その言葉を聞いて、胸の奥に引っかかりが生まれた。

転生者が倒されると“消える”ようにいなくなる現象と、倒した後に俺のカードに能力の痕跡が残る感覚が、一本の線で繋がりかける。

そして目の前にいる蒼玉の正体も、少しだけ輪郭が見えた気がした。

 

「…ドーパントなのか、お前達は」

俺の口から出た言葉に、蒼玉は否定も肯定もせず、ただ苦笑いに近い表情を浮かべた。

 

俺は頭の中で、これまでの戦いを反芻する。

転生者達が倒されるといなくなるのは、封印ではなく、もしかしたら“メモリブレイク”に近い現象なのかもしれない。

そして倒した後に俺のカードに残ったのは、封じた魂ではなく、メモリに刻まれた記憶や能力の残滓である可能性がある。

それは突飛に見えて、決して可笑しな話ではない。

ガイアメモリの中には複数の記憶が絡む異質な例もあり、死んでいる人間でも変身が成立する世界を、俺は一度や二度見てきた。

片方に人間の記憶、もう片方に能力の記憶が入るなら、転生者という名のドーパントを生み出す理屈は組める。

だが、それが本当かどうかは未だに謎で、確証がない以上は断定できない。

 

「正直、転生というのは未だに分からないがな。どうする、倒すか」

俺がそう言うと、蒼玉はしばらく黙り、壁に手をついたまま視線を上げた。

 

「…倒すかどうか、少し迷う。だが、お前は何時から、その身体なんだ」

蒼玉の質問は響鬼の姿に向けられているようで、実際にはその奥の“覚悟の作り方”を聞いている。

俺は一瞬だけ間を置き、喰えない調子で答えを返した。

 

「生まれた時からだよ」

 

それだけ告げると、蒼玉は悔しさと納得を混ぜた顔で立ち上がり、俺に背を向けた。

去り際の足取りはまだ不安定だが、さっきまでの軽さとは違い、地面を確かめるような重さがほんの少しだけ残っていた。

俺はその背中を見送りながら、闇の書と転生者の線が、思ったより深い場所で繋がっているかもしれないと確信に近い不安を抱え直す。

そして、その不安が当たっているなら、次に面倒を起こすのは闇の書か、転生者か、あるいは管理局の顔を被った泥棒か。

 

夕暮れの空気がもう一段冷え、紙がめくれるような音が遠くで鳴った気がした。

俺は響鬼の拳を一度だけ握り直し、教師の仮面へ戻るために静かに息を吐いた。

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