悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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現実での乱闘

「我は闇の書、我が力の全ては、主の願いのそのままに従うものなり」

 

その宣言と共に、顕現した闇の書の意思は、空間そのものを裂くような光条を無数に放った。

白と黒の境界が曖昧な魔力は、砲撃というより“世界の書き換え”に近い性質を帯びており、着弾の瞬間ごとに空気が悲鳴を上げる。

なのはとフェイトは、言葉を交わす余裕すらないまま左右へ散り、寸前のところでその一撃を躱した。

二人の足元を抉った魔力は、コンクリートを粉砕するだけでは飽き足らず、その周囲の光景まで少しずつ歪ませていく。

 

闇の書の意思――リィンフォースの目には迷いがなかった。

主であるはやてのために、世界を壊すことすら救いだと信じ込んでいる目であり、その信念の強さがかえって事態を絶望的に見せる。

なのはは息を整えながらも、相手の姿に宿る哀しさを見てしまい、撃つべきか止めるべきかの狭間でほんの一瞬だけ唇を噛んだ。

フェイトはそれでも前を見るしかないと理解しており、雷を帯びたバルディッシュを握り直し、次の魔力の流れを追いかける。

 

そんな極限の空気を切り裂いたのは、あまりにも場違いなほど軽い拍手の音だった。

「いやぁ、凄いよね、そう思わないかい、こんな形のお宝は滅多に見られないんだから」

 

その声音は、戦場に向けるには不真面目すぎて、逆に誰よりもこの場の価値を正確に測っている響きを持っていた。

なのはが振り向くと、そこには管理局の制服を纏った男が、まるで見学者のような顔で立っていた。

「あなたは、確か志村さん……だったよね、どうしてここにいるの」

フェイトは一歩だけ前へ出て、相手の立ち姿に覚えのない嫌悪を感じながら問いを重ねる。

「なんでここにいるの、その制服でこの場に立つ理由を説明して」

 

その男を見たリィンフォースは、初めてほんの僅かに表情を硬くした。

「……これを狙っていたか、海東大樹、お前はここまで嗅ぎつけていたのですね」

その名が出た瞬間、フェイトの目が大きく見開かれる。

「海東大樹っ……まさか、あの時に母さんへアルハザードの名を教えた人物って」

 

管理局の制服を着た男――海東大樹は、面白そうに目を細め、肩をすくめてみせた。

「まさか偽名か、と言いたそうな顔だけど、うぅん、少し違うかな、そっちも本当の名前ではあるんだ」

「ただ、今は海東大樹の方がしっくり来るし、僕としてもそっちで呼ばれる方が気分がいいんだよね」

なのはは困惑を隠せず、しかしそれ以上に、この男が“戦いの外にいる者”ではないと直感していた。

「何を目的でここまで来たの、こんな時に見物だけで済む人じゃないよね」

 

海東は、まるで子どもが宝箱を前にしたみたいな笑みを浮かべた。

「勿論、闇の書さ。こんなお宝、なかなか見られないからね、しかもジェルシードに関しても面白いお宝だったし、この世界は本当に飽きないよ」

その物言いには善悪の基準がなく、価値があるかどうかだけで世界を測っている男の軽薄さが、むしろ底知れなく不気味だった。

そして彼は、リィンフォースへ顔を向け、愉快そうに続ける。

「それにしても、僕の名前を知っているという事は、魔力を通して知ったという訳か、なかなか面白い繋がり方だね」

 

リィンフォースは静かに頷いたが、その瞳には露骨な警戒があった。

「……あぁ、だからこそ、お前の厄介さは知っている。主の眠りを乱す要因として、お前は明らかに異質だ」

海東はその警戒を面白がるように、さらに笑みを濃くする。

「それは困るね、僕としてはもう少し気楽に歓迎されたいところなんだけど、まあ良いよ」

 

そう言いながら、海東は懐から黒いドライバーを抜き出し、手の中で一度だけくるりと回した。

ネオディエンドライバーの鈍い輝きが、闇の書の魔力を受けて不吉な色に光る。

なのはとフェイトがその形を認識した瞬間、場の緊張は新しい位相へ移った。

海東が観客で終わる気はないと、誰の目にも明らかだったからだ。

 

『KAMEN RIDE』

 

機械音声が冷たく鳴り、海東はごく自然な仕草でライドブックを装填する。

「変身するよ。こういう場面では、やっぱり礼儀として姿を見せた方がいいだろう」

 

『DIEND』

 

青い光が迸り、管理局の制服は一瞬で砕けるように弾け、そこに現れたのは蒼い装甲を纏う仮面ライダー・ディエンドだった。

海東は変身を終えたそのまま、世界の中心にあるべきものを奪う権利が自分にあると信じているような自然さで宣言する。

「このお宝は、僕が頂いた。誰の願いが絡もうと、価値があるならそれで十分だからね」

 

なのはが息を呑み、フェイトが低く構え直す。

リィンフォースは闇の書の魔力をさらに高め、誰一人近づけまいとする圧を周囲へ放った。

世界を壊そうとする意思と、世界から奪おうとする欲望と、それを止めようとする決意が、同じ空間で一度にぶつかろうとしている。

 

「さてっと、やらせて貰おうか。せっかくここまで揃ったんだ、見ているだけじゃ損だからね」

そう言って、ディエンドはネオディエンドライバーの引き金へ指をかけ、ためらいなく引いた。

その一発が、ただの攻撃ではなく、この混戦の“本当の始まり”を告げる合図になることを、そこにいた誰もが理解していた。

 

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