悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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闇と光

ジンガは俺の構えを見て、仮面の奥で笑ったのが分かるほど大きく肩を揺らした。

「いいねぇ、その静けさ。追い詰められた奴の諦めには見えないし、だからこそ壊しがいがある」

「壊せると思ってるなら好きにしろ。ただし、その楽観ごと斬り捨てる準備はもう終わってる」

 

言い終わるより早く、ジンガが踏み込んだ。

黒金の刃は斜め上から落ち、夢の空気を焼くような深紅の軌跡を引きながら、俺の肩口を真っ二つにしようと迫ってくる。

俺は牙狼剣を真正面で受けるのではなく、刃を噛ませた瞬間に手首だけをずらし、重さの向きを外へ逃がした。

火花が散る。

黄金と深紅の火花は、ただぶつかっただけの色じゃなく、互いの信念が擦れて燃えたみたいな色をしていた。

 

「受け流すだけか、世界の破壊者。だったら、そのまま夢の底まで流されろ」

ジンガは一撃目が殺された瞬間にもう二撃目へ移っていて、肩を開かずに肘から先だけで刃の軌道を変え、今度は足元を刈るように横薙ぎを放つ。

俺は後ろへ飛ばず、逆に一歩踏み込み、牙狼剣の鍔元でその斬撃を押し上げる。

刃同士が擦れ、耳障りな悲鳴が空間を裂いた。

そのまま身体ごと回し、返す勢いで斬り下ろすと、ジンガはそれを紙一重で躱して低く笑う。

 

「ははぁ、いい。実にいい。お前の光は、潰した時にきっと綺麗だ」

「そういう趣味の悪さは、最初から知ってる。だからこそ、お前には闇ごと終わってもらう」

 

背後で、闇の書の意思がはやてを庇うように一歩前へ出ようとして、しかし止まった。

俺の言葉がまだ届くかもしれないと、そう思ってしまった顔だ。

その迷いを見て、ジンガは露骨に舌打ちを混ぜる。

「まだ夢を見るのか、お前達は。優しい結末なんてものは、悪夢の前座にしかならないだろうに」

「夢を見ることは悪くない。悪いのは、その夢をお前みたいな怪物に預けることだ」

 

俺はそう返しながら、牙狼剣を一度だけ低く落とした。

落とした刃先が夢の床へ触れた瞬間、空間中に漂っていた濁った闇が、まるで深い呼吸に吸い寄せられるように、こちらへゆっくり集まり始める。

ジンガの動きが、そこで初めて止まった。

 

「……何をしている」

「見て分からないなら、最後まで黙って見てろ。お前が食ってきた悪夢の残りを、全部こっちへ寄越してもらう」

 

ネオディケイドドライバーへ最後のカードを叩き込んだ瞬間、機械音声が夢の世界そのものを裂くように鳴り響いた。

『FINALATTACKRIDE GA GA GA GARO』

 

音声と同時に、闇の書の内部へ満ちていた濁った闇が、まるで巨大な渦に引かれるように俺の周囲へ集まり始める。

それは吸い込まれて消えるのではなく、牙狼の鎧へ触れた瞬間に黄金の光へ反転し、鎧の輪郭をさらに鋭く、さらに眩しく塗り替えていった。

黒かったはずの悪夢が、否定されるのではなく希望の色へ塗り替えられ、夢の空間全体が夜明けの直前みたいな光に満たされていく。

 

ジンガはその異変を見て、初めて本能的な警戒を剥き出しにした。

「……何をしている、闇を喰うんじゃなく、光へ変えているだと」

「そうだ、お前が悪夢に変えるだけだと言った闇を、今度はこっちが希望へ変えて使う」

 

俺が牙狼剣を振り抜いた瞬間、周囲に満ちた黄金の光が一斉に放たれ、奔流ではなく“静かな一閃”としてジンガを包み込む。

その光は焼き尽くすための熱ではなく、悪夢にしがみつく核だけを暴き出す冷たい輝きで、触れた瞬間にジンガの動きを完全に止めた。

刃を振るう腕も、踏み込もうとする足も、嘲るように歪んでいた笑みまでもが、光に貫かれたままその場で硬直する。

 

俺はそこで初めて、一歩だけ踏み込んだ。

次の瞬間には、もう自分の身体が何度斬ったのか数える意味すらなく、ただ牙狼剣の残光だけが幾筋も空間を走っていた。

一閃、二閃、三閃と認識するより早く、黄金の剣線がジンガの全身を縫い、止まった悪夢の核だけを目にも止まらない速度で断ち切っていく。

斬るたびにジンガへまとわりついていた闇は光へ変わり、砕けるのではなく、朝焼けの粒みたいに舞い上がって夢の空へ溶けていった。

 

最後の一太刀が胸の中心を抜けた瞬間、ジンガの身体はようやく自由を取り戻したように揺らぎ、だがその揺らぎ自体が崩壊の始まりだった。

奴は血ではなく光へ変わった闇を吐きながら、それでも楽しげに口元を歪めて俺を見る。

「いいねぇ……その光。 また、会えるまで楽しみにしているぜ」

 

言葉を残した直後、ジンガの身体は砕け散るのではなく、斬り裂かれた悪夢の核から順にほどけていき、最後には一片の影すら残さず消えていった。

そこに残ったのは、闇を失って静まった夢の空間と、悪夢だったはずのものが希望の粒になって漂う、妙に穏やかな光景だけだった。

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