ナハトヴァールがこちらを認識した。
夜空に浮かぶ巨大な悪夢が、初めて“自分と同じ大きさで殴り返してくる敵”を見つけたみたいに、触手めいた外殻を広げる。
俺はまず、素手で行くことにした。
ライドブッカーを抜く前に、相手の重さと反応を身体で測る方が早い。
巨体を動かして踏み込むと、空気が壁みたいに圧縮され、こちらの拳だけで海鳴の夜景が小さく揺れる。
ナハトヴァールの突き出した前肢を、俺は正面から拳で叩いた。
衝撃は通る。
だが、止まらない。
殴った手応えは生き物より硬く、機械よりしつこく、壊れる前提で組み替わる構造物そのものだった。
押し返しても、その奥で別の部位がすぐ持ち上がる。
「なるほどな。でかいだけじゃない。殴られる前提で出来てるってわけか。」
クロノの声が下から飛ぶ。
「再生している。いや、違うな。受けた損傷を別の構造へ回しているのか!」
ユーノも解析に追いついたらしい。
「自己修復というより、再配置だよ! ただ潰しても意味が薄い!」
なら次だ。
俺は巨大ライドブッカーを展開し、大剣として構え直す。
ナハトヴァールが吐き出した広域の砲撃を、斬るというより盾みたいに使って受け、そのまま横へ弾く。
火花では済まない。
巨大な光の奔流が空で砕け、海面と街の境界へ流れそうになった瞬間、なのはの砲撃とフェイトの雷撃がその余波を横から押し返した。
「ディケイドさん、右から来るよ! そっちの角度、深い!」
「左側の再生が早い。そこは時間を稼ぐだけでいい!」
二人の声に従うのは癪だが、情報としては正しい。
俺は右から迫る外殻をライドブッカーで受け、押し返し、返す勢いで胴を薙いだ。
斬れた。
確かに斬れた。
だが、斬れたそばから黒い肉とも装甲ともつかない何かが這い寄り、裂け目を埋めていく。
「うーん……切断は有効だけど、決定打にはなってないね。核か制御経路を探さないと駄目かも。」
アンニアが眠そうに言う。
ベリスがそれに続けて、冷静に戦況を切る。
「ディケイド、押し返せてはいる。けど、この段階じゃ倒し切れない。次の手を考える時間を作る方が先だよ。」
ケルビムは相変わらず本能でしか喋らない。
「硬いけど、痛そうではあるのです! だったらもっと殴れば、そのうち止まるです!」
「お前は元気でいいな。」
俺はもう一度ライドブッカーを振り、ナハトヴァールの巨体を大きく弾き返した。
空の向こうへ押し戻せはする。
だが押し戻すだけで、終わらない。
斬れても、砕いても、再構築が先に来る。
つまり、今の段階では足りない。
「……だいたいわかった。でかいだけなら潰せるが、中身が止まらないなら意味がない。」
俺がそう呟いた瞬間、全員の意識が次の段階へ切り替わったのが分かった。
この第一ラウンドで必要だったのは、勝つことじゃない。
どうすれば勝てるかを知ることだ。
そこまでは掴めた。
なら次は、核を暴いて止めるだけだ。