悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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魔法の援護

巨大化した身体で見る戦場は、もはや街ではなく盤面だった。

海鳴の灯りは足元の端で瞬き、なのは達の魔力反応は夜空に散る小さな星みたいに見える。

その中で、ナハトヴァールだけが明確な“敵”として巨大な影を持ち、こちらを最優先の脅威と認識しているのが分かった。

視線が痛い。

砲口とも眼ともつかない黒い穴が、俺だけを見て開閉し、次に何を撃ち込めばこの巨体が止まるのかを学習している。

なら好都合だ。

見たいならいくらでも見せてやるし、その代わり、よそ見をした瞬間に叩き潰す。

 

「こっちを見てろ。余所見する余裕があるなら、まとめて叩き潰して終わらせるぞ」

俺がそう吐き捨てると、ナハトヴァールの外殻が脈を打ち、次の瞬間には触手とも腕ともつかない巨大な部位が三本、同時にこちらへ叩きつけられた。

一本は頭部を、一本は胴を、一本は足元を狙っていて、受ける順番を間違えればそれだけで姿勢が崩れる。

俺はまず左の一撃を素手で掴み、正面から来た質量を肩ごと押し返し、同時に巨大ライドブッカーを盾みたいに使って残る二本を受け流した。

衝撃は重い。

だが、受け切れないほどじゃない。

問題は、その重さが“こちらを止めるため”ではなく、“こちらが他へ注意を向けられないようにするため”の圧になっていることだった。

 

「なのは、今の右側だ。外殻の継ぎ目が一瞬だけ開いた!」

俺が叫ぶより早く、なのはは動いていた。

「分かったよ。そこなら、通すだけで十分だもんね!」

桜色の魔力が夜を引き裂き、一直線の砲撃がナハトヴァールの右腹へ突き刺さる。

直撃だ。

外殻が裂け、黒い再構成の糸が一瞬だけ露出する。

そこへフェイトが稲妻みたいに滑り込んだ。

 

「今なら切れる。なのは、次の一秒だけ貰うよ!」

バルディッシュの刃が閃き、再生途中の黒い組織を斜めに断ち切る。

斬れた部分が落ちる。

だが次の瞬間には、その断面から別の形の外殻が盛り上がり、まるで“壊される前提”で作り直しているみたいに組み替わる。

やっぱりただの再生じゃない。

これは損傷修復じゃなく、優先順位の再配置だ。

 

「再構成速度が上がってる。ユーノ、今ので何か見えたか!」

クロノの声が通信に混ざる。

ユーノは息を詰めるような早口で返した。

「見えたよ。完全再生じゃなくて、攻撃を受けた場所を捨てて別の形へ組み直してるんだ。だから核が無事なら際限がない!」

「なるほどな。だったら核を探るまで、再構成に余計な手順を踏ませ続ければいい」

俺はそう言いながら、ナハトヴァールの正面へ巨大ライドブッカーを叩きつけた。

斬るんじゃない。

押し潰して、思考を一つだけ増やすための一撃だ。

巨体がわずかに仰け反る。

そこへもう一発、拳を胸の中心へめり込ませる。

 

ナハトヴァールが、そこで初めてなのは達の方を見た。

砲撃と斬撃が痛いと理解したらしい。

重心が俺から逸れ、外殻の一部が空中で砲台へ変形し、なのはとフェイトのいる方向へ口を開く。

「――そっちを向くな」

俺はその変化を見た瞬間、前へ出た。

巨大ライドブッカーを横薙ぎに振り抜き、砲台へ変形しかけた外殻ごと顔面を叩く。

衝撃波が夜空へ広がり、ナハトヴァールの視線が無理やりこちらへ引き戻された。

そのまま間を置かず、顎の下からアッパー気味の拳を突き上げる。

巨体がぶれる。

視線が固定される。

それで十分だ。

 

「いい判断だが遅い。俺を見なければ死ぬ、なのは達を無視しても削られる。お前はもう選び損ねてる」

ナハトヴァールが怒ったみたいに鳴いた。

音というより、空間そのものを歪ませる低い振動だった。

その振動に合わせて周囲へ黒い光弾が散り、外縁の防御線へ流れていく。

そこで動いたのはベリス達だ。

「右の散弾は私が処理する。ケルビム、弾き返すだけでいい、深追いはしないで」

「分かったです! 噛むのは我慢するですけど、壊すくらいはするのです!」

「うーん……細かい破片はこっちで受けるね。街に落ちると面倒だから」

 

三人が余波を削ってくれているおかげで、俺は前だけを見ていられる。

なら、前を崩すことだけ考えればいい。

ナハトヴァールはまた二本の腕を生成し、今度は明らかに俺を拘束するための形で絡め取ろうとしてきた。

一本を右腕で払い、もう一本をライドブッカーの腹で受け止める。

受けたまま回転し、その勢いを利用して逆に相手の腕をねじ切るように捻る。

千切れた。

だが、その破断面からすぐに別の部位が芽吹く。

本当に面倒な敵だ。

 

「ディケイド、今の部位変換で中央寄りの反応が一瞬だけ落ちた!」

ユーノの叫びが飛ぶ。

「中心が核じゃない。でも、中心から命令は飛んでる。そこを乱せば再構成の優先順位が崩れるよ!」

フェイトが即座に合わせる。

「だったら、私が上を取る。なのは、正面から動かして」

なのはも迷わない。

「うん。押し切るんじゃなくて、崩すために撃つ!」

 

桜色の砲撃が正面を打ち、俺がその反動に合わせて肩からぶつかる。

ナハトヴァールの巨体が僅かに開く。

そこへフェイトが高空から一直線に落ち、再生途中の継ぎ目を雷ごと断ち切った。

今度はさっきより再生が遅い。

いや、遅いんじゃない。

どこを優先して塞ぐか、一瞬だけ迷った。

 

「見えた。今の迷いだ、それを増やせば止まる」

俺は巨大ライドブッカーを剣から銃へ切り替えるでもなく、単純な打撃武器として握り直した。

斬るより殴る方が、相手の処理系統を乱せる。

そういう手応えが、もう腕に残っている。

 

クロノが冷静な声で全員へ命じる。

「いいぞ。このまま正面へ負荷を集中させろ。再構成の優先度を崩し続ければ、必ず中枢が見える!」

はやても息を整えながら、小さい声で、それでも確かな意志を乗せて言った。

「お願いや、みんな。もうちょっとだけ、こじ開けてくれたら、きっと届く」

 

俺はその声を聞いて、巨大な拳をもう一度握り込んだ。

守るために壊す怪物に対して、守るために殴るのは、皮肉としては出来すぎだ。

だが、そういう皮肉は嫌いじゃない。

 

「だいたいわかった。お前は無敵じゃない。ただ、壊され慣れてるだけだ」

ナハトヴァールの巨体が、今度は明確に俺を警戒して身を引こうとする。

そこへ俺は踏み込み、素手のまま胸部へ叩きつけた。

衝撃が抜ける。

外殻が波打つ。

そしてその奥で、今まで見えなかった“黒より深い何か”が、一瞬だけ脈を打った。

 

核だ。

まだ完全には見えないが、もう遠くはない。

第一段階で必要だった答えは、ようやくそこまで出揃った。

 

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