悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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魔のディメンション

ナハトヴァールの外殻がもう一度うねり、さっき俺が抉った核の輪郭を黒い肉みたいな光で覆い直そうとした瞬間、俺は巨大な足を踏み込み直した。

再生は速い。

だが、速いだけだ。

優先順位を狂わせ続ければ、必ずどこかで“守り切れない場所”が生まれる。

それが今だ。

 

「なのは、もう一度だけ正面をこじ開けろ。深く撃ち込む必要はない、あれに“選ばせる”だけでいい」

なのはは空で姿勢を立て直し、息を吸ってから真っ直ぐ答える。

「うん、分かったよ。貫くんじゃなくて、崩すために撃つんだよね」

 

桜色の砲撃が夜を横切り、ナハトヴァールの胸部へ正面から突き刺さる。

直撃した場所は抉れたが、それだけで終わらず、外殻全体が一瞬だけその再生へ魔力を回した。

その分だけ、別の場所が薄くなる。

 

「フェイト、今だ。再構成の線が浮いてる、その奥に本体がいる」

フェイトは迷わずバルディッシュを振り、雷光を纏ったまま答えた。

「見えた。なら、今度は外さない」

 

稲妻の軌跡が夜空を縫い、フェイトの斬撃が再生途中の継ぎ目を深く断つ。

そこへクロノの声が重なる。

「そのまま押せ。核の周囲に命令系が密集している、今なら全部まとめて揺らせる」

ユーノも遅れずに叫ぶ。

「結界は支える。だから、ディケイド、今度は止めに行けるはずだ!」

 

俺は巨大ライドブッカーを握り直し、裂けた部分へもう一撃叩き込んだ。

刃というより、門をこじ開ける楔みたいな一撃だった。

その瞬間、ナハトヴァールの巨体が明らかに迷う。

なのはを見るべきか。

フェイトを見るべきか。

俺を見続けるべきか。

その迷いが、怪物にとって一番致命的だ。

 

「視線が散ったな。だったら、終わらせる準備だけはこっちでやらせてもらう」

俺が低く言うと、はやての声が戦場を震わせるみたいに届いた。

「ディケイドさん、リインフォースも……私も、もう逃げへん。せやから、終わらせるんやなくて、取り戻して」

その願いに、銀髪の女――リインフォースは一瞬だけ目を伏せ、次に静かに顔を上げた。

「主はやてがそう望むなら、私はもう、悪夢の檻で守ることを望みません」

 

その言葉が引き金になった。

俺の前に、何もしていないはずの空間から、十一枚のカードが一斉に浮かび上がる。

なのは、フェイト、はやて、ユーノ、アルフ、クロノ、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、そしてリインフォース。

描かれているのはただの顔じゃない。

それぞれが守ろうとしてきたもの、そのために戦ってきた軌跡ごと、カードの中へ閉じ込められているみたいな重さだった。

 

「これ……私達のカード、なの……?」

なのはが呟く。

フェイトは目を見開いたまま、最後の一枚に視線を止める。

「リインフォースまで、そこにいる……」

ヴィータは何かを言いかけ、結局は唇を噛んで押し殺した。

代わりにシグナムが低く言う。

「ならば、我らの意思もまた、その一撃に託されるということだ」

 

カードの周囲に、次々と魔方陣が広がる。

桃色、紫電、蒼、翠、銀、紅。

ミッド式も、ベルカ式も、召喚も、支援も、解析も、癒やしも、守護も、ここでは一枚の札の周囲で同じように光っている。

本来なら交わらないはずの術式が、今だけは一つの方向へ揃う。

ナハトヴァールを倒すためじゃない。

悪夢を終わらせて、現実へ戻るためにだ。

 

海東がどこか愉快そうに笑う。

「面白いな、士。結局君は、最後に一番重いお宝を引っ張り出す」

「うるさい。今だけ黙って見てろ。これはお前の盗みじゃなく、こっちの決着だ」

 

俺はネオディケイドドライバーへカードを叩き込む。

次の瞬間、音声が巨大な身体の奥から響くみたいに鳴り渡った。

『FINAL ATTACK RIDE――D・D・D・DECADE』

 

カードが縦一列に並ぶ。

だが、いつものディメンションキックとは違う。

一枚ごとに、それぞれの魔方陣が輪になって回り、ただ通過するだけでなく、俺の蹴りへ“意味”を付け足していく。

なのはの魔方陣を抜けた時には、まっすぐ届く意志が。

フェイトの魔方陣を抜けた時には、切り裂いてでも進む覚悟が。

はやての魔方陣を抜けた時には、守るために立ち上がる願いが。

そして、最後にリインフォースの魔方陣を抜けた時、悪夢へ沈めるためじゃなく、現実へ返すための光が、俺の脚へはっきり宿った。

 

「夢を見ることは悪くない。悪夢にするかどうかを決めるのは、最後まで諦めるかどうかだけだ」

俺はそう言って跳んだ。

巨大な身体が夜空を裂き、カードと魔方陣の列を一直線に貫いて加速する。

一枚抜けるごとに、夜の黒が少しずつ白金へ変わる。

ナハトヴァールの周囲を覆っていた闇さえ、その光に触れた途端、拒絶されるのではなく“別の色”へ塗り替えられていった。

 

「そんな……闇が、消えていくんやなくて……光になってる……」

はやての震える声が聞こえる。

リインフォースはそれを見つめたまま、ようやく小さく笑った。

「そうですか。悪夢を終わらせるとは、こういうことだったのですね」

 

ナハトヴァールが吠える。

だが、その咆哮にはもう、さっきまでの圧がない。

黒く濁った核は、俺の蹴りを受け止めるために再生へ全てを回そうとするが、遅い。

十一の魔方陣を抜けてきた一撃は、ただの破壊ではなく、“悪夢であり続けること”そのものを拒絶する光になっていた。

 

「終わりだ、ナハトヴァール。お前はもう、守る顔をした災厄でしかない」

俺の蹴りが核へ届く。

衝突音は爆発ではなく、凍りついた夜が一斉に割れたみたいな、澄んだ破砕音だった。

黒い核が砕け、その破片は飛び散ることもなく、一つひとつが淡い光へ変わって空へ溶けていく。

再生は起こらない。

闇だったものが、もう一度闇へ戻ることを許されないまま、希望の粒みたいに夜空へ散っていく。

 

ナハトヴァールの巨体は、悲鳴も断末魔も残さず崩れた。

消えていくというより、悪夢として存在していた意味を失って、ようやく夜そのものへ還っていくような静かな終わり方だった。

その静けさの中で、俺は着地し、巨大な身体のまま空を見上げる。

さっきまで重かった夜が、今は少しだけ軽い。

 

「……届いたよ」

なのはが小さく呟く。

フェイトは剣を下ろし、息を吐いた。

「これで、本当に終われる」

はやては涙を堪え切れず、それでも笑ってリインフォースの名を呼んだ。

「リインフォース……帰ろう。今度は、夢やなくて、ちゃんと現実で」

 

俺はその声を聞きながら、巨大な拳をゆっくり開いた。

勝ったというより、ようやく“終わらせるべきものを終わらせた”だけだ。

それで十分だ。

悪夢はもう終わった。

あとはこいつらが、現実で続きをやればいい。

 

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