白銀の表紙へ新しい文字が刻まれ始めた瞬間、その場にいた全員が、ほんの数秒だけ言葉を失った。
消えるはずだったものが消えず、しかもそれが魔導技術だけでは説明しきれない形で行われた以上、驚くのも当然だった。
はやてはワンダーライドブックを胸へ抱き締めたまま、その表紙へ浮かび上がる文字を見つめている。
なのはは、その隣で小さく息を呑み、フェイトは警戒と困惑の混ざった目で本を見ていた。
クロノとユーノもまた、解析では追い切れない何かがここで起きたと理解している顔をしている。
最初に口を開いたのは、なのはだった。
「……これ、どうやって作ったの」
問いというより、半ば独り言に近い声だった。
「ただのデバイスじゃないよね。魔法だけでも、管理局の技術だけでも、こんなの……」
フェイトが本から視線を外さずに言葉を継ぐ。
「それに、あの三人もそうだ」
「病院にいた時から、おかしいと思ってた。ツカサ先生の近くにいて、そのあと戦場で仮面ライダーとして現れて……」
「ここまで全部が繋がってるなら、偶然じゃない」
はやてが、ようやく顔を上げる。
「……ツカサ先生」
その名前が出た瞬間、場の空気が少しだけ張り詰めた。
シグナムが黙って目を細め、ヴィータが舌打ちを飲み込み、クロノが僅かに身構える。
誰もまだ答えを口にしていない。
けれど、ここまで来れば、薄々は全員が同じところへ辿り着きかけている。
「病院にいた時も、あの人だけ妙に落ち着いてた」
ユーノが思い返すように呟く。
「はやての件も、闇の書のことも、知ってるような顔をしてた」
クロノが低く続けた。
「ディケイドは事件の核心に現れすぎている。あの三人との繋がりも含めれば、答えはほとんど一つだ」
その直後だった。
空間が、薄いガラスを裂くみたいに揺れた。
極彩色の光が縦に走り、オーロラカーテンが静かに開く。
その向こうから現れたのは、もう答え合わせ以外の何ものでもない姿だった。
仮面。
マゼンタの装甲。
黒い身体に刻まれた、いくつもの世界を渡ってきた証。
仮面ライダーディケイド。
なのはが思わず声を漏らす。
「やっぱり……」
フェイトは目を逸らさないまま、小さく息を吐いた。
「そういうことだったんだ」
はやてだけは、驚きの中に妙な納得を混ぜた顔で、その姿を見上げる。
「ほんまに、先生やったんやな……」
ディケイドは、その反応をひと通り見渡してから、肩を竦めるように言った。
「だいたいわかったって顔だな」
その声は、仮面の向こう側にいても聞き慣れた、あの食えない教師の声だった。
だからこそ、否定のしようがない。
クロノが一歩前へ出る。
「確認する。君が、門矢士であり、同時にディケイドでもある。そう受け取っていいんだな」
ディケイドはあっさりと頷く。
「そういうことだ。俺がディケイドだ」
短い。
短すぎるくらいだった。
だが、その一言でこれまでの違和感は全部一本の線へ繋がる。
病院での落ち着きも、あの三人との距離感も、闇の書内部への介入も、リインフォースを救うための器まで用意できた理由も。
全部、目の前の男が最初から“そっち側”の人間だったと考えれば、ようやく意味が通る。
ヴィータが、呆れたような、怒ったような声を上げる。
「なら最初から言えよ!」
ディケイドは鼻で笑った。
「言ったところで、お前が素直に信じたか」
「そりゃ……まあ……気に食わねぇけどよ」
「だろうな」
なのはが、少しだけ困った顔で、けれど前へ出る。
「聞きたいこと、いっぱいあるよ」
フェイトも続けた。
「どこまで知っていたのかも、どうして私達の前で黙っていたのかも、全部」
はやては本を抱いたまま、小さく頷く。
「私も、ちゃんと聞きたい。助けてくれたことも、隠してた理由も」
クロノはもっと実務的だった。
「管理局としても確認したい事項は多い。説明は必要だ」
一斉に向けられた視線を受けても、ディケイドは少しも動じた様子を見せなかった。
むしろ、最初からそうなると分かっていた顔で、片手を軽く上げる。
「質問は山ほどあるだろうが、ここで立ち話するには重すぎる」
そう言うと、ディケイドは腰のバックルへ手をやり、変身を解いた。
光が装甲をほどき、仮面が外れ、その下から現れたのは、見慣れた教師の姿。
門矢士は、最初から最後まで、どこか喰えない笑みを口元へ残したまま、なのは達を見回す。
変身が解かれたことで、逆に全員の実感が一段深くなる。
戦場に立っていた仮面の男と、教壇に立っていた教師が、同じ人物としてはっきり重なった。
ゼータが少し離れた場所から肩を竦める。
「ほらね。隠す段階なんて、もうとっくに終わってたんだよ」
イータは眠そうに本を見ながら呟いた。
「やっと説明の手間が減るね……」
デルタは妙に誇らしげだった。
「最初からそうだったのです。ボスは最初からボスなのです!」
士は、そんな三人の反応を軽く流し、それから改めてなのは達へ向き直った。
「どうせここから先は、お前達にも知っておいて貰う必要がある」
そこで一度だけ間を置き、いつもの教師の顔で、しかし教師以上に胡散臭い調子で笑う。
「さてっと、課外授業だ。1時間ばかりのつまんない話だが聞いていけ」