「さて、とりあえずは、課外授業の為に場所を移動するか」
そう告げると同時に、俺はオーロラカーテンを展開した。
極彩色の裂け目が空間を縦に走り、揺らぐ光の膜がその場にいた全員を包み込む。
一瞬だけ足元の感覚が曖昧になり、次の瞬間には、俺達はもう別の世界へ立っていた。
「これは一体」
クロノの声には警戒が滲んでいたが、それも無理はない。
管理局の技術体系で説明がつかない現象を、目の前で見せられたんだからな。
「オーロラカーテン。簡単に言うと、世界を渡り歩く事が出来る能力だ。ディケイドの力の一部だな」
俺がそう言うと、クロノはすぐに次の問いを重ねてきた。
「ディケイド、それは一体」
当然の疑問だ。
だから俺も、ここは誤魔化さずに口を開く。
「仮面ライダー。数多の世界に存在し、その世界の中心にいる戦士達の事だ」
なのは達は、俺の言葉をすぐには飲み込めないらしかった。
無理もない。
一つの世界の中ですら理解しきれないものがあるってのに、いきなり“数多の世界”なんて話をされて、はいそうですかで済む方がどうかしてる。
「数多の世界、だが、そんな存在は先生達以外には観測されていないって」
なのはが戸惑いを隠せないままそう言う。
だから俺は、少しだけ肩を竦めて答えた。
「世界の数がどれだけあると思っているんだ。それこそ、人間なんて存在が想像出来ない程の無限にあるんだぞ」
「それは、確かにそうだけど」
言いながらも、なのは自身、反論しきれていなかった。
世界が一つしかないなんて、誰が決めた話でもない。
ただ、自分達が触れてきた世界の範囲が狭かっただけだ。
「俺はそのディケイドの力を、まぁ事故の形で手に入れた。その時から年齢は変わっていない」
そこまで言うと、なのは達の視線が改めて俺へ向く。
教師として立っていた時と変わらない顔。
だが、その変わらなさ自体が、今は逆に異様に映るらしい。
「年齢って……」
その言葉の意味に、ようやく気づいたんだろう。
だから俺は、そこでわざと視線を外さずに続ける。
「そして、ディケイドの力を手に入れた時、俺の世界は無くなった」
その一言が落ちた瞬間、空気が変わった。
なのはも、フェイトも、はやても、驚きを隠せなかった。
ただの能力説明じゃ済まない話だと、ここでやっと実感したらしい。
俺はそのまま、フェイトへ視線を向ける。
「フェイト、お前が言っていたアルハザード。あれはまだ確定じゃないが、俺の世界だった可能性がある」
「ツカサ先生の……」
フェイトの声は小さかった。
だが、小さいからこそ、今の言葉がどれだけ重く届いたかはよく分かる。
「当時、ある奴がとんでもない事を考えた」
俺はそう言って、手にしたカードへ視線を落とす。
どの世界も、自分の世界を守りたいと思うのは当然だ。
問題は、その為に何を犠牲にするかってだけの話だ。
「そいつの世界には滅びが迫っていた。だから、仮面ライダーがいる他の世界を全部滅ぼして、自分の世界だけを救おうとした」
「そのために、ライダーの世界を一つに融合した」
「そういう事だったのか」
ユーノが何かに気づいたように目を見開く。
あいつは頭の回転が速い。
話の本筋より先に、そこから生じる歪みへ目が行くタイプだ。
「どういう事なの」
なのはが問うと、ユーノは俺を見たまま答えた。
「彼のこれまでの戦いを見たら分かるけど、仮面ライダーは一人一人が、その技術があまりにも違い過ぎる」
「異なる技術が融合した結果――」
「死者蘇生みたいな、まともじゃない現象まで起きる」
俺がその先を引き取る。
嫌な話だが、事実は事実だ。
「実際にあった。最悪な形の数々がな」
「最悪の形……」
フェイトが低く呟く。
ああ、そうだ。
最悪だった。
理屈だけなら綺麗に見えても、実際に起きたものは、どれもろくでもない形ばかりだった。
俺はもう一度、手の中のカードを見る。
そして、その中から一枚を抜き取った。
「そして、ある意味で、あいつに一番近い考えをした存在と戦ったのがウィザードだ。魔法使いの仮面ライダーだよ」
「という事で、悪いが軽く話してくれるか、晴人」
「晴人?」
その名に反応した直後、空気が揺れた。
呼び出しに応じるように現れた男は、いつも通り、少し面倒そうな顔をしている。
「全く、いきなり呼び出したと思ったら、わざわざ俺の世界に連れてきたのか」
「悪いな」
軽く返すと、クロノが怪訝そうに男を見る。
「彼は一体、それに俺の世界って」
その問いに対して、俺は周囲を見渡してから答えた。
ここにいる全員が、まだ足元の感覚に馴染めていない。
景色も、空気も、魔力の流れも、今までいた世界とは微妙に違う。
「ここは、仮面ライダーウィザードの世界だ」