悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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力の向かう先は

オーロラカーテンを抜けた瞬間、鼻についたのは、薬品と金属が混じり合った、妙に落ち着くようで落ち着かない匂いだった。

白い壁。整然と並んだ機材。散らかっているようで、必要な物だけが手の届く位置へ置かれている作業台。

研究室、という言葉が一番しっくり来る光景に、なのは達は揃って少しだけ目を丸くしていた。

別の世界へ来たはずなのに、景色そのものは、自分達の世界とそこまで大きく違わない。

だからこそ、逆に落ち着かないのかもしれない。

 

「……ここ、本当に別の世界なの?」

なのはが周囲を見回しながらそう呟くと、俺は肩を竦めた。

 

「新世界だからな。少なくとも、見た目だけならお前達の世界とそう変わらない」

 

俺がそう答えた時だった。

作業台の向こうで、何かの実験をしていた男が、ようやくこちらへ顔を向ける。

青いジャケット。癖のある髪。手元の器具を置く仕草ひとつとっても、こいつが頭より先に手を動かすタイプの研究者じゃないと分かる。

桐生戦兎は、俺の姿を認めると、少しだけ意外そうに目を細めた。

 

「なんだ? 今日は一体何の用事だ?」

 

「相変わらず挨拶が軽いな」

俺がそう返すと、戦兎は小さく鼻で笑う。

 

「お前が前触れなく来る時に限って、ろくなことじゃないからな」

「ひどい言い方だ」

「事実だろ」

 

それだけのやり取りで、なのは達は目の前の男が俺とそれなりに長い付き合いだと察したらしい。

初対面の空気じゃない。

しかも、向こうは俺の事情をある程度知っている口ぶりだ。

それが分かるだけでも、こいつらには十分すぎる材料だっただろう。

 

「とりあえず、授業に使えそうな題材を借りに来た」

俺がそう言うと、戦兎は怪訝そうに眉を上げる。

 

「授業?」

「ああ、そういう話だ」

 

さすがにそれだけじゃ意味が分からないだろう。

だが、今のこいつにとって、それ以上に気になるものが別にあった。

戦兎の視線が、俺の後ろに並ぶなのは達の方へ流れた瞬間、すぐにその興味の先がどこなのか分かった。

 

レイジングハート。バルディッシュ。

そして、守護騎士達の持つデバイス。

戦兎の目が、露骨なくらいに変わる。

人を見る目じゃない。

未知の機構を前にした時の、あの面倒な天才の目だ。

 

「……へえ」

短く漏れたその一言に、なのはは反射的にレイジングハートを抱き寄せた。

フェイトも、バルディッシュをほんの少しだけ身体の近くへ引く。

その警戒は正しい。

こいつは危険人物じゃないが、興味を持った技術に対して遠慮が薄い。

 

「ちょっと待って、その目は何かな……?」

なのはが半歩だけ引きながら言うと、戦兎はまるで悪気なく一歩近づいた。

 

「いや、面白いなと思ってさ」

「魔力制御を前提にした演算補助と武装運用の複合型だろ、それ」

「理屈は違うのに、完成度が妙に高い」

「しかも、実戦用としての最適化がすごいな。無駄が少ない」

 

早口になっている。

完全に入ったなと、俺は内心でため息を吐いた。

こうなると、止めない限り観察対象として扱いかねない。

 

「おい戦兎、分解するなよ」

俺が先に釘を刺すと、戦兎は不満そうに眉を寄せた。

 

「誰がするか。観察と分解は別だ」

「信用ならないな」

「お前にだけは言われたくない」

 

そのやり取りを聞いて、なのは達の緊張がほんの少しだけ揺らぐ。

完全に安心したわけじゃない。

だが、少なくとも、目の前の男が敵意でこちらを見ているわけじゃないことは伝わったらしい。

 

戦兎は改めて、なのは達のデバイスへ視線を向けた。

好奇心を隠そうともしないまま、しかし今度は一歩だけ距離を取る。

それがこいつなりの気遣いなんだろう。

 

「悪い。知らない技術を見ると、どうしても先に頭が動く」

「でも、本当に面白いな」

「危険にもなり得る力を、ちゃんと扱うための形へ落とし込んでる」

 

その一言は、俺がこの世界へこいつらを連れてきた理由と、綺麗なくらいに噛み合っていた。

危険だから捨てるんじゃない。

危険だからこそ、どう扱うかを考える。

闇の書の力だって、結局はそこへ行き着く。

 

俺は軽く息を吐いてから、なのは達へ向き直る。

 

「こいつは桐生戦兎。仮面ライダービルドだ」

「この世界で、危険な力を危険なまま放っておかなかった男の一人でもある」

 

戦兎は少しだけ照れくさそうに頭を掻いたが、すぐにいつもの調子へ戻った。

それから、なのは達を見渡して、口元にうっすら笑みを浮かべる。

 

「桐生戦兎だ」

「で、そっちの面白そうなデバイス持ってる連中が、今回の生徒ってわけか」

 

その自己紹介と共に、研究室の空気が少しだけ動く。

授業の本題は、まだここからだ。

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