路地の奥、街灯の光が届かない場所で、俺は足を止めた。背後の気配は、もう隠す気もないらしい。静かだが、濃い。逃がさないという意思だけが、空気に混じっている。
「……いつまで見てるつもりだ」
振り返ると、そこにいた。人の姿をしているが、どこか噛み合っていない。立ち方も、視線も、まるで“人間という型”を真似ているだけだ。何より、その目だ。感情がないわけじゃない。ある。だが、それは敵意一色で、他が削ぎ落とされている。
そいつは答えない。ただ、睨んでくる。なのはを見ていた時と同じ視線――いや、今は違う。明確に、俺を見ている。
「……随分と分かりやすいな」
俺も視線を逸らさず、睨み返す。ここで引いたら、終わりだと直感が告げている。こいつは、強い弱い以前に、こちらを“排除対象”として認識している。
「さっきから、ずっとだ。観察は終わったのか?」
沈黙。だが、その沈黙自体が答えだった。十分だ、と。評価は終わった、と。
俺は小さく息を吐く。
「……忠告しとく」
一歩、前に出る。相手の肩が、僅かに強張ったのが分かった。
「ガキを見てる暇があるなら、帰れ。ここはお前の世界じゃない」
その瞬間、そいつの目が細くなる。初めて、感情が動いた。苛立ちだ。あるいは、侮辱されたという反応。
「……」
無言のまま、圧が強まる。まるで、俺の存在そのものを否定するような感覚。だが、退く理由はない。
「俺が邪魔か?」
あえて、踏み込む。
「それとも、怖いか。自分より“完成してない”はずの相手が、立ってるのが」
空気が一瞬、歪んだ。こいつは、言葉を理解している。理解した上で、怒っている。
睨み合いが続く。数秒か、もっと短いか。だが、俺には十分だった。確信する。こいつは、いずれ来る。正面からでも、別の形でも。なのはを中心に、必ず動く。
「……その目だ」
俺は低く言った。
「そうやって、全部を比べて、取り込んで、完璧になったつもりか」
答えは返らない。代わりに、そいつは一歩下がった。撤退だ。だが、逃げじゃない。“今はやらない”という選択。
闇に溶ける背中を見送りながら、俺は視線を切らなかった。
「次は、もっとマシな場所を選べ」
当然、返事はない。気配が完全に消えたのを確認してから、俺はようやく肩の力を抜いた。
(……厄介だな)
次の瞬間、空気が弾ける。
影の背後に、黒い装甲が展開され、機械的な駆動音が夜に響いた。
――ダークバスター。
その名を俺は知らない。だが、見ただけで分かる。高速戦闘、データ解析、最適化。戦うために作られた力だ。影は無言のまま、その姿へと変わり、構えを取る。無駄がない。隙もない。最初から、俺を倒す前提で立っている。
「……なるほど。話し合いはナシか」
なら、答えは一つだ。
俺は腰に手を伸ばし、ネオディケイドライバーを引き抜く。カードを一枚、指で弾き、正面にかざした。
「世界を試す奴は嫌いじゃないが……」
一歩、前に出る。
「生徒の前でやられるほど、落ちぶれちゃいない」
『KAMEN RIDE!DECADE!』
装甲が展開し、世界を渡る戦士の姿へと変わる。相手も、こちらを見据えたまま微動だにしない。二つの力が、路地の中心で向かい合う。
ダークバスターが、低く構える。
ディケイドが、静かに構える。
(……来い)
言葉はいらない。
ここから先は、戦いで語るしかない。