悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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深夜の転移者

深夜の写真館は、昼間の賑やかさが嘘みたいに静かだった。

店の明かりは落としてあるが、完全に眠れるほど、この家はいつも平和じゃない。

世界を渡る力なんて厄介なものを抱えた時点で、まともな安眠はだいぶ前に諦めた。

俺は居間のソファへ浅く腰を下ろしながら、机の上へ無造作に置いたカードの束へ視線を落としていた。

リインフォースの件は一応の区切りがついた。

なのは達も、はやても、それぞれ自分の答えを持って前へ進み始めている。

だからこそ、今夜くらいは何も起きないでくれれば助かると、そんな都合のいいことを少しだけ考えていた。

 

だが、そういう願いは、たいてい口にしない方がいい。

嫌な予感というやつは、どうしてこうも人の油断した瞬間だけを狙ってくるのか、考えるだけ無駄なくらいよく当たる。

ふいに、写真館の空気がわずかに軋んだ。

窓が鳴ったわけでも、魔力が跳ねたわけでもない。

もっと曖昧で、だからこそ俺にしか分からない類の異常だった。

世界と世界の継ぎ目が、爪の先で引っかかれたみたいに、ごく薄く震えたのだ。

 

この世界の人間なら、たぶん気づかない。

だが、何度も次元を越えて、世界の境目を嫌というほど踏み越えてきた俺には分かる。

今、何かがこの世界へ入ってきた。

しかも、かなり強引で、かなり遠慮のないやり方で。

 

「……また厄介事か。」

 

呟きながら立ち上がり、俺は窓際へ歩いた。

カーテンを指先でわずかに開くと、深夜の街はまだ眠り切っていない光を抱えたまま、静かに広がっている。

遠くの信号、街灯、ビルの窓、そのどれもがいつもの海鳴の夜にしか見えない。

だが、その見慣れた夜空の上を、明らかに見慣れない影が横切った。

人影――しかも、ただ飛んでいるんじゃない。

この世界の魔導師が空を駆ける時の癖とは違う。

飛行のための魔力が空気へ馴染んでいない。

まるで別の空を飛ぶための理屈を、そのまま無理やりこっちへ持ち込んできたみたいな、不自然さだけがはっきり見えた。

 

「なるほどな、この世界の客じゃないらしい。」

 

その瞬間だった。

家の前の通りから、甲高いクラクションが夜を裂いた。

反射的に視線を下へ落とすと、写真館の前へ停まるはずのない一台の車が、猛スピードのまま真っ直ぐこちらへ突っ込んできていた。

信号も、減速も、常識もない。

それだけでも異常だが、運転席には誰もいない。

無人のまま、狙い澄ましたみたいに写真館の正面へ鼻先を向けている。

事故じゃない。

そんなものは一目で分かった。

 

俺は舌打ちしながら、窓から身を引いた。

直後、重い衝突音が夜気を震わせ、写真館の外壁が鈍く軋む。

壁が悲鳴みたいな音を立て、ガラス戸が激しく揺れたが、車の突入はそこで終わらなかった。

一台で済む気配がない。

外ではタイヤの擦過音が重なり、さらに別の車までエンジンを唸らせている。

上空の影と同時に、地上では無人の車が俺を狙っている。

歓迎にしては、ずいぶんと趣味が悪い。

 

俺はディケイドライバーへ手を伸ばしながら、崩れかけた入口の向こうを睨んだ。

写真館の外には、まだ終わっていない厄介事の気配が、夜の街ごと蠢いている。

そして次の瞬間、二台目の無人車が、今度は完全に俺を轢き潰すつもりの速度で、写真館の前庭へ突っ込んできた。

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