正面の壁を食い破る勢いで突っ込んできた無人車を見た瞬間、俺は考えるより先に身体を動かしていた。
こんな露骨な足止めを仕掛けてくる以上、狙いは俺をここへ縫い止めることだろうし、それはつまり、上空を横切った人影を追われたくないという意味でもある。
だったら話は早い、付き合ってやるのは構わないが、踊り場を決めるのはこっちだ。
俺は写真館の裏手へ飛び出すと、待機していたマシンディケイダーへ躊躇なく跨り、キーを捻ると同時にアクセルを開いた。
低く唸るエンジン音が深夜の空気を切り裂き、黒い車体は地面を蹴るみたいに前へ飛び出し、そのまま写真館の脇道を一直線に抜けていく。
背後では一台目の無人車が外壁を軋ませながら向きを変え、二台目、三台目と続く金属音が、まるで獣の群れみたいに夜の住宅街を這ってきた。
ミラーへ映るのは、運転席に誰もいないくせに、狙いだけは異様に正確な無人の車列だった。
しかも一台ずつが単独で突っ込んでくるんじゃない、交差点の先、駐車場の陰、脇道の奥から、あらかじめ配置されていたみたいに次々と現れ、俺の進路を塞ぐように広がってくる。
上空の影を追うには鬱陶しいどころじゃないが、逆に言えば、それだけ向こうが焦っている証拠でもある。
「なるほどな、そうまでして追わせたくないか。」
呟きながら、俺はわざと市街地を一直線には抜けなかった。
人気の多い大通りへ出れば、相手の狙い通りに被害が広がるし、そんな真似を見過ごす趣味もない。
なら、人の少ない場所へ引っ張るだけだと決めると、ハンドルを切って海鳴の外れへ続く山道へ進路を変えた。
マシンディケイダーは俺の意図を読んだみたいに車体を深く傾け、街灯の数が急に減っていく暗い道へ滑り込む。
山へ向かう上り坂は、街中よりもずっと静かだった。
静かだからこそ、後方から迫る無人車のエンジン音が余計に耳へ刺さる。
一台、二台じゃない、金属とタイヤの擦過音が重なり、闇の中からヘッドライトだけがいくつも浮かび上がって、まるで機械仕掛けの猟犬が獲物を追ってくるみたいだった。
だが、数が多いなら多いで、逃げる道を絞りやすい。
俺はカーブの角度と幅を頭の中で測りながら、あえて速度を落とさず、山道の連続した曲線へマシンディケイダーをねじ込んでいく。
右へ切れば、無人車の先頭がわずかに膨らむ。
左へ返せば、後続の一台が前車との距離を詰めすぎて、車列全体の動きが一瞬だけ鈍る。
機械的な制御らしく反応は早いが、それでも人間の勘が混ざらない動きには癖がある。
その癖を見切った瞬間から、これはただの逃走じゃなく、相手を一列に整列させるための仕込みへ変わった。
ヘアピンカーブへ差しかかったところで、俺は車体を思い切り倒した。
足元を擦る寸前まで傾いたマシンディケイダーは、路面へ鋭く軌跡を刻きながら曲がり切り、背後の無人車達はそのラインをなぞるように突っ込んでくる。
一台目は曲がる。
二台目も無理やり曲がる。
三台目はわずかに膨らみ、四台目は前の車に半ば乗り上げるようにして、車列は綺麗なまでに細長く伸びた。
思った通りだ、この狭い山道なら横へ広がれない。
さらに人の気配が消え、街の灯りがほとんど見えなくなったところで、俺はようやくアクセルを戻した。
人気はない。
民家もない。
巻き込まれるのはせいぜい木とガードレールくらいで、俺としては十分に合格点だ。
次の緩いカーブを抜けた瞬間、俺はブレーキを叩き込み、マシンディケイダーの前輪を軸にして車体を半ば滑らせるように反転させた。
正面から迫ってくる無人車のヘッドライトが、一斉にこちらを捉える。
だが、もう追う側と逃げる側は入れ替わっていた。
俺はマシンディケイダーをわずかに前へ滑らせたまま、ライドブッカーを抜いてガンモードへ変形させる。
装填、照準、呼吸、どれも今さら意識するほどの手順じゃない。
夜気を裂くように最初の一発を放つと、先頭車両のフロントへ火花が散り、そのまま制御系らしき部分が吹き飛んだ。
一台目が姿勢を崩し、横転しかけた車体を後続が避けきれずに突っ込む。
そこで俺は二発、三発と間を置かずに引き金を弾き、二台目のタイヤ、三台目のボンネット、四台目のガラス越しの中枢へ正確に撃ち込んだ。
無人とはいえ、向こうはまだ走ろうとする。
なら、その意志ごと叩き折るだけだ。
爆ぜるヘッドライト。
裂けるボディ。
金属の悲鳴みたいな音が山の闇へ反響し、さっきまで獲物を追っていた車列は、今度は自分達同士で絡まり合いながら道を塞ぐ鉄屑へ変わっていく。
それでも最後尾の一台だけは、瓦礫と化した前方の車を無視して、強引に脇の斜面へ乗り上げながら突っ込んできた。
執念深い。
だが、その程度の執念なら見飽きている。
俺は一度だけ息を吐き、マシンディケイダーを前へ出しながら最後の一発を放った。
弾丸は一直線に車体中央へ吸い込まれ、次の瞬間、エンジンの唸りが途切れる。
惰性だけで滑った無人車は、俺のすぐ手前で横へ流れ、路肩の柵へぶつかってようやく沈黙した。
静かになった山道に残ったのは、冷えた夜気と、焦げた鉄の匂いだけだった。
俺はガンモードのライドブッカーを下ろし、無数の残骸を一度だけ見回す。
足止めは終わった。
だが、終わったのはせいぜい前座だ。
こんな無人車の群れをぶつけてまで、上空の影を追わせたくなかった。
それなら本命はまだ別にいて、しかも向こうは俺がここを抜けて再び動き出すことまで計算に入れている。
「……始まったばかり、か。」
山の向こう側へ視線を向けると、さっき見失った人影の残滓みたいな違和感が、まだ空のどこかに薄く引っかかっている。
異世界の来訪者。
街を巻き込む機械の暴走。
その両方をまとめて考えれば、今夜の厄介事はまだ導入にすぎない。
俺はマシンディケイダーのハンドルを握り直し、再びエンジンへ火を入れた。
夜の山道へ、低く鋭い駆動音がもう一度響く。
この先にいるのが敵か、それとも巻き込まれた側かはまだ分からない。
だが、どちらにしろ、世界の膜を軋ませて来た以上、無視して終わる話じゃない。
俺は闇へ溶けるように車体を走らせながら、遠くへ逃げた気配の先を睨んだ。
どうせ会うことになる。
だったら次は、空の上で話を聞かせてもらうだけだ。