悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

136 / 149
機械の獣達

交差点へ滑り込んできた無人車は、昨日の連中と同じように、最初から事故を装う気なんて微塵もない動きだった。

正面からこちらを轢き潰すことだけを目的に、ライトを白く焼きながら一直線に突っ込んでくる。

俺はマシンディケイダーを深く倒し込み、タイヤを軋ませながらその突進を紙一重で外した。

背後ではやてが短く息を呑む気配が伝わるが、避けただけで終わらないことくらい、もう予感の段階で分かっていた。

 

すれ違った車体が、そのまま慣性に任せてガードレールへ突っ込むはずだった。

だが次の瞬間、その車はあり得ない軌道で車体ごと跳ね上がり、タイヤが折り畳まれ、ボディが縦に裂け、金属が擦れ合う耳障りな変形音と共に、前輪だった部分が腕のようにせり出してくる。

ヘッドライトは獣の眼みたいに位置を変え、エンジンの唸りは、もはや車のものじゃない。

人を轢くための機械が、その場で別の殺し方を選び直した。

 

「……は?」

 

背中越しにはやての声が震える。

それも無理はないし、魔導師だのロストロギアだのを見慣れていても、目の前の車がいきなり人型の鉄塊へ変われば、まず驚く。

しかも、正面だけじゃなかった。

左右の脇道から迫ってきた無人車も、次々と急停止し、同じようにボディを捻じり上げ、脚部と腕部を持った異様な機械へ変形していく。

夜の道路は一瞬で、遊園地へ向かう途中の平凡な道から、悪趣味な玩具箱の中みたいな戦場へ変わった。

 

「先生、これ……!」

 

はやての声には驚きが混じっていたが、その驚きは次の瞬間にはもう動きへ変わっていた。

背中へ回されていた手が俺の服を離れ、代わりに魔力が膨れ上がる。

こいつはもう、ただ守られるだけの子供じゃない。

そういう場面を、俺は何度も見てきた。

 

「下がってろ。」

 

短くそう言いながら、俺はマシンディケイダーを強引に滑らせ、道路脇の開けたスペースへ車体を止める。

同時に、はやてが飛び降りる気配があった。

着地はまだ少しぎこちないが、その後の動きには無駄がない。

 

「シュベルトクロイツ、お願いや!」

 

はやての呼びかけに応じるように、紫を帯びた魔力光が夜気へ走った。

展開された術式はまず俺達の周囲を包み、そのまま外側へ幾重にも広がって、周辺一帯を閉じるように結界の輪郭を描いていく。

ただ守るだけの防御壁じゃない。

衝撃も破片も爆発も、その内側へ封じ込めて逃がさない、封殺結界だ。

街灯も、道路標識も、近くの建物も、結界の向こう側へ切り分けられたみたいに遠ざかり、ここだけが戦場として切り離される。

 

「……っ、びっくりしたけど、これなら周りは巻き込まんで済む……!」

 

自分へ言い聞かせるみたいな声だったが、それでいい。

驚いていても、やるべきことを先に選べるなら十分だ。

 

「分かってるなら上出来だ。」

 

俺はディケイドライバーを取り出し、腰へ叩きつけるように装着した。

通りを塞ぐように並んだロボット達が、一斉にこちらへ眼を向ける。

ヘッドライトめいた視線の中に、機械らしくない悪意があった。

ただの暴走じゃないし、誰かの意志がこの場を動かしている。

 

カードを抜き、バックルへ差し込む。

 

「変身。」

 

『KAMEN RIDE――DECADE』

 

響いた機械音声と共に、桃色の装甲が身体へ走る。

幾つもの世界を渡り、幾つもの厄介事を引き受けてきた仮面が、夜の街灯を鈍く反射した。

変身を終えた瞬間、俺は一歩前へ出る。

封殺結界の内側、はやてを背後へ置き、ロボット達と真正面から向き合う。

 

「昨日の無人車にしちゃ、ずいぶん派手な隠し芸だな。」

 

返事はないが、必要もない。

目の前の機械は、会話じゃなく攻撃でしか答える気がないらしい。

先頭の一体が腕を振り上げ、鉄塊の拳を叩きつけるように跳び込んでくる。

俺はその動きを待ち構え、身を半歩だけずらして避け、反撃の構えを取った。

ライドブッカーへ手を伸ばす、その一瞬。

 

上から、別の気配が落ちてきた。

 

咄嗟に視線を上げる。

街灯の光が届かない闇の中から、細い影がゆっくりと降りてくる。

少女――そう見えた。

夜の風をまとったように静かで、それでいて周囲の鉄の怪物共よりも、よほどはっきりとこの場の中心へ立っている。

人間の姿をしているのに、普通の人間が持つ匂いがない。

魔導師とも違う。

もっとよそ者の、世界の外側からそのまま滑り込んできた存在の気配だった。

 

はやても、その影へ気づいたらしい。

封殺結界を維持したまま、小さく息を呑む。

 

「……誰や、あれ。」

 

俺も同じ疑問を抱いていた。

知っている顔じゃないし、少なくともこの世界の人間の立ち方じゃない。

だが、無人車がロボットへ変わったこの状況で現れた以上、無関係で済むとも思えない。

 

少女は道路脇の信号機の上へ軽く降り立つと、こちらを見下ろした。

月明かりに照らされたその輪郭は、妙に整っていて、だからこそ余計に現実味が薄い。

何者かは分からない。

分からないが、今夜の厄介事の中心にいる顔だということだけは、嫌なくらいよく分かった。

 

俺はディケイドのまま一歩だけ前へ出て、封殺結界の前で構えを崩さない。

ロボット達もまた、その少女の出現を待っていたみたいに動きを止めている。

つまり、答えはあいつが持っている。

 

「さて……。」

 

仮面の向こうで目を細めながら、俺は夜の高みからこちらを見下ろす少女を睨んだ。

名前も、目的も、正体も、まだ何一つ分からない。

だが、今夜の厄介事が本格的に始まるとしたら、間違いなくここからだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。