悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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機械とキカイ

信号機の上へ降り立った少女を見上げたまま、俺は一歩だけ重心を落とした。

月明かりに照らされた輪郭は細く、静かで、けれど周囲の鉄屑共よりもよほど濃い異物感を放っている。

誰だ、という問いはある。

だが今は、答えを聞くより先に、向こうがこっちを試すつもりでいるのが分かりすぎるほど分かった。

 

次の瞬間、止まっていたロボット共が一斉に動いた。

正面の一体が道路を砕く勢いで踏み込み、右の一体が低く身を沈めて側面へ回る。

さらに後方の一体は、腕部を展開して細いワイヤーみたいなものを射出した。

挟むつもりだ。

しかも、ただ俺を壊すんじゃない。

避けた先へ攻撃を流し、後ろのはやてごと結界へ叩き込む気でいる。

 

「っ……!」

 

最初の拳を半身で外し、返す勢いで蹴りを入れる。

装甲が軋む手応えはある。

だが、止まらない。

側面から来た二体目の腕が視界の端で膨らみ、俺はそっちへ身体を滑らせた。

避ける。

簡単だ。

この程度の連携なら、ディケイドのままでも捌ける。

 

問題はその先だった。

俺が外した鉄塊の拳が、そのまま後方の封殺結界へ突っ込む。

はやてが咄嗟に出力を上げたらしく、紫の壁へ火花が散り、衝撃が鈍い音を立てて拡がった。

結界は持つ。

だが、持つことと余裕があることは別だ。

 

「先生、うちはまだ大丈夫や! でも、これ……数が多い!」

 

背後から飛ぶ声に、俺は舌打ちを飲み込んだ。

そうだ。

避け続けるだけならいくらでも出来る。

だが、後ろに守る相手がいる以上、それだけじゃ足りない。

流れ弾も、外した攻撃も、全部こっちで止める必要がある。

なら、答えは一つだ。

 

「避けるのは簡単だ」

 

俺は一度大きく飛び退き、迫るロボット共との間合いを強引に切る。

その隙にディケイドライバーへ手をかけた。

 

「だが、守りながらやるなら話は別だ」

 

カードを引き抜く。

今必要なのは、速さでも奇襲でもない。

機械相手に真正面から食らいつき、受け止め、押し返し、そのまま叩き潰す力だ。

そして、それが出来るライダーを俺は知っている。

 

「だったら、正面から止める方が早い」

 

カードをバックルへ叩き込む。

 

『KAMEN RIDE KIKAI!デカイ!ハカイ!ゴーカイ!仮面ライダーキカイ!』

 

重低音めいた変身音声と共に、ディケイドの装甲へさらに厚い機械装甲が噛み合っていく。

肩が張り出し、腕部と脚部へ鈍い鋼色のフレームが走る。

視界が一段低く、重く、そして妙に鮮明になった。

変身完了とほぼ同時に、正面のロボットが鉄塊みたいな拳を叩きつけてくる。

 

避けない。

俺はその拳を、真正面から受け止めた。

 

金属同士がぶつかる轟音。

だが、押し込まれない。

むしろ、受けた腕の内側で電流が跳ね、相手の関節へ逆流する。

目の前のロボットが初めて明確に動きを鈍らせた。

 

「機械相手に小細工は要らない」

 

握った拳へ力を込める。

キカイの腕部が軋みを上げ、相手の手首から先が悲鳴みたいな音を立てて潰れた。

そのまま腕ごと引き寄せ、体勢を崩した胴へ膝を叩き込む。

装甲板がひしゃげ、火花が散り、巨体が地面へ転がった。

 

信号機の上の少女が、そこで初めて息を呑んだ。

小さな声だったが、静かな分だけよく響く。

 

「……何、それ」

 

その視線の先にいるのは、さっきまでのディケイドじゃない。

向こうはある程度、俺のデータを持っていたんだろう。

だが、この形までは想定していない。

それは周囲の機械共の反応でも分かった。

 

『該当データ……なし』

『未確認ライダー形態……再構築不能』

 

機械音声が乱れ、ロボット達の動きが一瞬だけ止まる。

その一瞬で十分だ。

 

「そういう顔をするってことは、やっぱり記録の外か」

 

左から突っ込んできた二体目の肩を、俺は半身で受けた。

ディケイドなら流していた一撃を、今度はあえて受け止める。

衝撃が重い。

だが、キカイの装甲はその重さごと呑み込み、脚が路面へ深く沈んだだけで終わる。

受け止めたまま、もう片方の拳を振り抜いた。

電撃をまとった正拳が装甲の継ぎ目へめり込み、内部回路ごと貫く。

二体目は声もなく沈黙し、そのまま背中から道路へ倒れ込んだ。

 

「はやて!」

 

俺が短く呼ぶと、背後で紫の魔力が膨れた。

反応は速い。

さっきまでなら守られる側の呼吸だったが、今は違う。

 

「分かっとる! 受け止めるんやったら、うちが外を閉じる!」

 

シュベルトクロイツを介して、封殺結界の輪郭がさらに狭まる。

逃げ場を失ったロボット共は、こちらへ一直線に殺到するしかない。

機械らしく、答えが単純だ。

なら、まとめて叩き潰す。

 

三体が横一列に飛び込んでくる。

俺は一歩前へ出て、最初の一体の腕を掴み、そのまま横へ振った。

怪力のまま叩きつけられた機械の巨体が、隣の二体を巻き込んでもつれ合う。

そこへ踏み込み、電撃をまとった蹴りを真ん中の胴へ叩き込んだ。

火花が弾け、爆ぜた金属片が結界へ当たって消える。

周囲へ被害は出ない。

それで十分だ。

 

最後の一体だけが、少女を守るみたいに後ろへ下がろうとした。

だが、その動きが遅い。

俺は地面を蹴り、重い装甲のまま一直線に間合いを詰めた。

逃げるために向けた腕を払い、胸部の中央へ拳を打ち込む。

電流が内部へ走り、装甲の奥で何かが焼き切れる匂いがした。

機械はそのまま膝を折り、沈黙する。

 

夜の道路に残ったのは、焦げた金属の匂いと、動かなくなった鉄の残骸だけだった。

封殺結界の内側は静かだ。

静かすぎるからこそ、信号機の上の少女の存在だけが逆に際立つ。

 

俺はキカイのまま顔を上げる。

あいつはまだ動かない。

逃げるでもなく、襲いかかるでもなく、ただこちらを観察している。

まるで予定外の答えを見せられて、次の手を組み直しているみたいな目だった。

 

「お前が本命か」

 

問いかけても、返事はない。

だが、その沈黙は否定じゃない。

少なくとも、今夜の無人車共を動かしていた中心が、あの少女である可能性はかなり高い。

はやても背後で結界を維持したまま、固唾を呑んでいる気配があった。

 

「先生……あの子、何者なん……?」

 

「知らん」

 

そう答えながらも、視線は一瞬も切らない。

名前も正体も分からない。

だが、次に厄介事を持ち込むのが誰かくらいは、もう十分すぎるほど分かった。

そして向こうもまた、俺のことを“記録にない異物”として見始めている。

 

少女の唇が、ようやくわずかに動いた。

何かを言いかけたのか、それとも次の命令を下そうとしたのか。

そこまでは分からない。

ただ、今夜の戦いが終わったわけじゃなく、ようやく入口に立っただけだということだけは、嫌なくらいはっきりしていた。

 

俺はキカイの重い装甲のまま構えを崩さず、夜の高みに立つその少女を睨み返した。

名前も、目的も、何一つ知らない。

それでも、次に俺達の前へ現れる時には、ただの見物人じゃ済まない。

 

そう確信したところで、夜気だけが静かに結界の縁を撫でていた。

 

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