悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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夜の高速

 夜の街に立った瞬間から、胸の奥がざわついていた。

 理由ははっきりしている。目の前の存在――ダークバスターが、最初から俺だけを見ているからだ。敵意というより、否定だ。存在そのものを拒むような、冷え切った視線。数え切れない世界を渡ってきたが、こういう目を向けてくる奴は珍しくない。それでも、慣れることはなかった。

 

「……その目、気に食わねぇな」

 

 俺の言葉を待つことなく、ダークバスターが動いた。

 音もなく距離が消える。視界が歪み、殺意だけが残る。――速い。だが、驚きはない。むしろ、確信に近い感覚があった。

 

(やっぱり来たか。こういう手合いは)

 

 衝撃が来る前に体を捻る。アスファルトが砕け、背後で爆ぜる音。振り返った時には、もういない。次の瞬間、別方向から斬撃。思考するより先に体が動く。

 

「……遅い」

 

 ネオディケイドライバーにカードを叩き込む。

 

『KAMEN RIDE!KABUTO!』

 

 世界が再構築される感覚。装甲が変わり、視界の解像度が跳ね上がる。

 そして、指を弾いた。

 

『CLOCK UP』

 

 音が消えた。

 夜が、止まる。

 

 静止した世界の中で、ダークバスターの動きがはっきりと見える。踏み込みの角度、重心移動、筋肉の使い方。合理的で、無駄がない。――気に入らないほど、よくできている。

 

「……模範解答みたいな動きだな」

 

 俺は一気に距離を詰め、ライドブッカーをソードモードへ展開する。刃が唸り、装甲に叩きつける。火花が散る。だが、深くは入らない。ダークバスターが即座に剣を構え、反撃してきた。

 

 斬り合い。

 止まった世界の中で、剣と剣が何度も交差する。

 

(……学習してやがる)

 

 一太刀ごとに、対応が洗練されていく。俺の間合い、癖、踏み込み。今まで積み重ねてきた戦い方が、次々と解析されている感覚。胸の奥が、嫌な音を立てた。

 

 クロックアップが解除され、音と光が一気に戻る。衝撃波が夜を震わせ、互いに距離を取る。ダークバスターは街灯を蹴り、ビルの壁を走り、空中へ跳ぶ。街そのものを武器にしている。

 

「……街を使うか。頭も回る」

 

 ライドブッカーをガンモードに切り替え、引き金を引く。無尽蔵のエネルギー光弾が夜を裂き、ライドマーカーによって誘導される。逃げ道を塞ぐ弾道。だが――

 

 ダークバスターは避けた。最小限の動きで、俺の“次”を読んだように。

 

(……くそ)

 

 その瞬間、奴が口を開いた。

 

「不公平だ」

 

 その声に、胸の奥が嫌な方向に揺れた。

 

「努力もせず、最初から完璧。選ばれた力を持ち、世界を渡り歩く……門矢士。お前みたいなのがいるから――」

 

 ――来た。

 その言葉を聞いた瞬間、何かが切れた。

 

「黙れ」

 

 自分でも驚くほど、低い声が出た。

 一歩、前に出る。

 

「努力してない? 完璧?」

 

 笑えない。冗談にもならない。

 

「俺がどれだけ世界を壊して、どれだけ殴られて、どれだけ後悔してきたと思ってる」

 

 視界の奥で、過去の光景がちらつく。守れなかった世界。拒まれた場所。選択を間違えた瞬間。

 それでも、前に進むしかなかった。

 

「他人の力を見て嫉妬する前に、自分の足で立て」

 

 ダークバスターの動きが、一瞬止まる。その隙に、俺は踏み込んだ。

 

「完璧なんて、最初から存在しない」

 

 完全に、キレていた。

 理屈じゃない。感情だ。触れてほしくないところを、土足で踏み荒らされた。

 

「……もういい」

 

 ネオディケイドライバーに手をかける。

 ダークバスターも剣を構え、真正面から突っ込んでくる。高速移動。正面衝突。

 

「世界を渡るのはな――」

 

 ライドブッカーを構え、真正面から迎え撃つ。

 

「自分を証明するためじゃない。守るものを選ぶためだ」

 

 銃声と衝撃が重なり、夜が揺れた。剣も理屈も捨て、体ごとぶつかる。

 

 互いに弾き飛ばされ、距離が開く。荒い息が漏れる。街の一角は既に無残だが、人の姿はない。それだけは、計算通りだった。

 

(……まだだ)

 

 ダークバスターは再び構えを取る。学習は止まっていない。

 だが――

 

(俺も、同じだ)

 

 こいつを止める理由は、もう十分すぎるほどある。

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