月下の倉庫街へ、二つの最終到達が並び立つ。
桃色の歴史を纏ったディケイド コンプリートフォーム21。
異端の宝を蒐集した怪盗の王、ディエンド コンプリートフォーム21。
その光景を前にしてなお、ダークディケイドは愉快そうな気配を崩さなかった。
だが、もうさっきまでみたいに、俺だけが感情の檻へ閉じ込められている盤面じゃない。
海東が来た。
それだけで、あの悪趣味な舞台はすでに半分壊れている。
「さて、まずは君の方だ」
海東が銃口をわずかに傾け、眠たげな顔をしたイータの複製体へ視線を流す。
その声音は軽い。
だが、軽いだけに、奥にある怒りの冷たさが余計に分かった。
イータの複製体は、こちらを標本でも眺めるみたいな目で見返しながら、奇妙な器具を両手へ展開する。
細い刃、ワイヤー、拘束具、注射器めいたものまで混ざったその武装は、戦うためというより、獲物を解体するための道具箱そのものだった。
「解析対象、変更」
平板な声が響く。
本物のイータに似せた声音のはずなのに、そこにあるのは執着じゃなく、ただ処理手順を読み上げるだけの空虚さだった。
海東はそれを聞いて、かえってつまらなそうに息を吐く。
「似せるなら、もっと上手くやるべきだよ」
次の瞬間、ネオディエンドライバーへ新たなカードが叩き込まれる。
青い光が走り、夜へ鋭い機械音が鳴り響いた。
『DRIVE!KAMEN RIDE!DARK DRIVE!』
海東の前へ現れたのは、黒く歪んだドライブの力を宿す異形。
ダークドライブ。
機械であり、奪われた姿であり、目的のために他者の輪郭すら利用する存在。
だからこそ、偽りの知性を纏ったイータの複製体には、これ以上なく似合う相手だった。
ダークドライブが現れた瞬間、イータの複製体は後退しながら無数のワイヤーを射出する。
細く光る拘束線が空間を縫うように走り、海東と召喚体の動きを封じようとした。
だが、ダークドライブは一歩も迷わない。
自動戦闘機構が最短の回避軌道を即座に選び、身体を半身だけ滑らせると、ブレイドガンナーの射撃でワイヤーの接続点を次々と撃ち抜いた。
火花が散る。
切断された拘束線が地面へ蛇みたいにもつれ落ち、イータの複製体の解析手順が一瞬だけ乱れる。
「観察対象を前にして、先に目を潰される気分はどうだい」
海東の銃撃がそこへ重なる。
ネオディエンドライバーから放たれた青い弾丸が、イータの複製体の器具を一つずつ正確に弾き飛ばし、同時にダークドライブが球状のエネルギーを収束して投げつけた。
爆ぜた光が足元を穿ち、逃げ道を奪う。
イータの複製体は眠たげな顔のまま後ろへ滑るが、下がった先にも、横へ逸れた先にも、すでにダークドライブが最適解で待っていた。
解析しようとすれば、その前に武装が剥がされる。
捕獲しようとすれば、その手順を逆算した射撃が先に来る。
研究者の真似事しか出来ない偽物が、本物の悪趣味な機械的戦闘へ一方的に上書きされていく。
「……分解、不可」
ようやく複製体の声に微かな乱れが混ざる。
そこで海東は笑った。
愉快だからじゃない。
価値を分かったつもりの偽物へ、値踏み違いを教えてやる時の笑いだった。
「壊すには値しない」
海東が一歩踏み出す。
その一歩へ呼応して、ダークドライブのブレイドガンナーが鋭く閃いた。
刃ではなく、銃口と装甲の縁で相手の腕を払い、器具を根元から叩き落とし、そのまま海東の追撃が足元を撃ち抜く。
青い光の枷が複製体の両脚へ絡みつき、さらにダークドライブが至近距離からエネルギー弾を撃ち込んだ。
爆発は起きる。
だが、胴を吹き飛ばすためじゃない。
衝撃だけで体勢を崩し、拘束光の内側へ押し込めるための、精密な制圧だった。
「でも、これ以上好きにさせる気もない」
イータの複製体は膝をつき、四肢を光の拘束環で縫い止められる。
眠たげな顔のまま身じろぎしようとするが、すでに動線は全部奪われていた。
海東はそれを一瞥しただけで、すぐに視線をこちらへ流す。
つまり、残りは俺の仕事だということだ。
正面では、デルタとゼータの複製体が、同時にこちらへ殺意を向けていた。
デルタの方は唇の端を吊り上げ、獲物を前にした獣そのものの前傾姿勢を取る。
ゼータは逆に、呼吸すら見えないほど静かで、最短距離で急所へ届く軌道だけを組み上げていた。
荒々しい突破力と、冷たい暗殺速度。
本物の性質をなぞっているくせに、人間味だけを抜き取ったような最悪の二枚看板だ。
だが、さっきまでとはもう違う。
迷いはある。
見た目が同じだというだけで、胸の奥へ残る嫌な重さは消えていない。
それでも、あの野郎の思い通りに、この顔をした偽物へ立ち尽くす気はなかった。
「海東」
俺が短く呼ぶと、あいつは振り返りもせず答えた。
「何だい」
「借りるぞ」
ネオディエンドライバーじゃない。
俺のケータッチ21へ指を走らせる。
選ぶべき力は決まっていた。
無敵。
そして、理不尽を上書きするだけの眩しさ。
『EX-AID!KAMEN RIDE!MUTEKI GAMER!』
黄金の光が夜を塗り潰し、その中から究極無敵のゲームプレイヤーが現れる。
エグゼイド ムテキゲーマー。
眩しさそのものみたいなその姿が立った瞬間、デルタの複製体が本能的に地を蹴った。
危険だと理解した獣の突進だった。
だが、遅い。
ムテキゲーマーは消えたように見え、次の瞬間にはデルタの複製体の背後へ回り込んでいた。
振り返るより早く、金色の拳が腹部へ突き込まれる。
衝撃で巨体が浮き、そこへ死角から飛び込んできたゼータの複製体の斬撃が空を切る。
俺はそのまま身体を捻り、ゼータの腕を払って上へ跳ぶ。
落下の勢いで踵を振り下ろすと、ゼータの複製体は細い身体ごと地面へ押し込まれ、コンクリートが蜘蛛の巣みたいに砕けた。
デルタの複製体が咆哮じみた声を上げ、今度は正面から力任せに両腕を振り下ろしてくる。
受ける必要もない。
ムテキゲーマーの黄金の残像だけがその腕の間をすり抜け、次の瞬間には横へ回った拳が膝裏を穿つ。
均衡を崩したところへ、さらに肩口へ一撃。
巨体が傾く。
その隙へ、ゼータの複製体が低く滑り込み、俺の首筋だけを狙って突き上げる。
冷たい。
正確だ。
だが、それでも届かない。
俺はその腕を掴み、真上へ引き上げる。
ゼータの複製体の身体が軽く浮いた瞬間、デルタの複製体が咄嗟に飛び込んでくる。
連携だ。
なら、そのまま利用する。
俺は掴んだゼータの複製体を半回転して投げ、デルタの突進へぶつけた。
二つの偽物が正面衝突し、互いの勢いを殺し合って体勢を崩す。
「似ているだけだ」
仮面の奥で、俺は低く言った。
言い聞かせるためじゃない。
今の動きで、もう十分だった。
本物なら、こんな簡単に同士討ちの角度へ釣られない。
本物なら、この一撃のあとにある選択肢がもっと広い。
こいつらは違う。
顔を借りているだけの兵器だ。
デルタの複製体が再び飛ぶ。
ゼータの複製体が横へ走る。
二方向からの同時攻撃。
そこで俺は真正面から踏み込み、黄金の腕で両方を受けた。
衝撃は重い。
だが、ムテキゲーマーは止まらない。
そのまま腕を交差して押し返し、勢いを利用して二体を逆に地面へ叩きつける。
膝をつかせる。
次の瞬間、俺は連続して蹴りを放ち、デルタの脚部関節、ゼータの肩口、さらにもう一度足首へと、動線だけを潰すように正確に撃ち抜いた。
壊せる。
今の一撃を少し深く入れれば、それで終わる。
けれど、終わらせ方は俺が決める。
あの野郎の悪趣味に、最後まで付き合う気はない。
「海東!」
呼ぶと同時に、青い光弾が飛ぶ。
海東の射撃は寸分違わず、デルタの複製体の両手首とゼータの複製体の足元を穿った。
青い拘束光が四肢へ絡み、俺もまたムテキゲーマーのまま二体へエネルギー鎖を叩き込む。
金と青の光が交差し、デルタの複製体は四肢を地面へ縫い止められ、ゼータの複製体は細い身体ごと完全に動線を奪われた。
暴れようとしても、もう一歩も動けない。
二体とも、戦闘不能。
だが、破壊はしていない。
顔をしたまま、止めた。
それでいい。
海東が拘束されたイータの複製体の横へ立ち、俺もまたデルタとゼータの複製体を見下ろした。
三体とも、まだ睨んでくる。
だが、もう戦場の主導権は完全にこちらへ戻っていた。
「盗み出すには、ちょうどいい状態になったね」
海東の皮肉へ、俺は小さく鼻を鳴らす。
答える代わりに、顔を上げた。
海東も同じタイミングで視線を上げる。
その先。
さっきまで愉快そうにこちらの迷いを見物していたダークディケイドが、相変わらず変わらない姿で立っていた。
複製体は倒していない。
捕らえただけだ。
それで十分だった。
本命は最初から、こっちじゃない。
俺と海東は、コンプリートフォーム21のまま無言でダークディケイドを睨んだ。
悪趣味な芝居は終わりだ。