悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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予約投稿に失敗していたみたいなので、遅くなりましたが、投稿します。


その思いは変わらず

月下の倉庫街へ、二つの最終到達が並び立つ。

桃色の歴史を纏ったディケイド コンプリートフォーム21。

異端の宝を蒐集した怪盗の王、ディエンド コンプリートフォーム21。

その光景を前にしてなお、ダークディケイドは愉快そうな気配を崩さなかった。

だが、もうさっきまでみたいに、俺だけが感情の檻へ閉じ込められている盤面じゃない。

海東が来た。

それだけで、あの悪趣味な舞台はすでに半分壊れている。

 

「さて、まずは君の方だ」

 

海東が銃口をわずかに傾け、眠たげな顔をしたイータの複製体へ視線を流す。

その声音は軽い。

だが、軽いだけに、奥にある怒りの冷たさが余計に分かった。

イータの複製体は、こちらを標本でも眺めるみたいな目で見返しながら、奇妙な器具を両手へ展開する。

細い刃、ワイヤー、拘束具、注射器めいたものまで混ざったその武装は、戦うためというより、獲物を解体するための道具箱そのものだった。

 

「解析対象、変更」

 

平板な声が響く。

本物のイータに似せた声音のはずなのに、そこにあるのは執着じゃなく、ただ処理手順を読み上げるだけの空虚さだった。

海東はそれを聞いて、かえってつまらなそうに息を吐く。

 

「似せるなら、もっと上手くやるべきだよ」

 

次の瞬間、ネオディエンドライバーへ新たなカードが叩き込まれる。

青い光が走り、夜へ鋭い機械音が鳴り響いた。

 

『DRIVE!KAMEN RIDE!DARK DRIVE!』

 

海東の前へ現れたのは、黒く歪んだドライブの力を宿す異形。

ダークドライブ。

機械であり、奪われた姿であり、目的のために他者の輪郭すら利用する存在。

だからこそ、偽りの知性を纏ったイータの複製体には、これ以上なく似合う相手だった。

 

ダークドライブが現れた瞬間、イータの複製体は後退しながら無数のワイヤーを射出する。

細く光る拘束線が空間を縫うように走り、海東と召喚体の動きを封じようとした。

だが、ダークドライブは一歩も迷わない。

自動戦闘機構が最短の回避軌道を即座に選び、身体を半身だけ滑らせると、ブレイドガンナーの射撃でワイヤーの接続点を次々と撃ち抜いた。

火花が散る。

切断された拘束線が地面へ蛇みたいにもつれ落ち、イータの複製体の解析手順が一瞬だけ乱れる。

 

「観察対象を前にして、先に目を潰される気分はどうだい」

 

海東の銃撃がそこへ重なる。

ネオディエンドライバーから放たれた青い弾丸が、イータの複製体の器具を一つずつ正確に弾き飛ばし、同時にダークドライブが球状のエネルギーを収束して投げつけた。

爆ぜた光が足元を穿ち、逃げ道を奪う。

イータの複製体は眠たげな顔のまま後ろへ滑るが、下がった先にも、横へ逸れた先にも、すでにダークドライブが最適解で待っていた。

解析しようとすれば、その前に武装が剥がされる。

捕獲しようとすれば、その手順を逆算した射撃が先に来る。

研究者の真似事しか出来ない偽物が、本物の悪趣味な機械的戦闘へ一方的に上書きされていく。

 

「……分解、不可」

 

ようやく複製体の声に微かな乱れが混ざる。

そこで海東は笑った。

愉快だからじゃない。

価値を分かったつもりの偽物へ、値踏み違いを教えてやる時の笑いだった。

 

「壊すには値しない」

 

海東が一歩踏み出す。

その一歩へ呼応して、ダークドライブのブレイドガンナーが鋭く閃いた。

刃ではなく、銃口と装甲の縁で相手の腕を払い、器具を根元から叩き落とし、そのまま海東の追撃が足元を撃ち抜く。

青い光の枷が複製体の両脚へ絡みつき、さらにダークドライブが至近距離からエネルギー弾を撃ち込んだ。

爆発は起きる。

だが、胴を吹き飛ばすためじゃない。

衝撃だけで体勢を崩し、拘束光の内側へ押し込めるための、精密な制圧だった。

 

「でも、これ以上好きにさせる気もない」

 

イータの複製体は膝をつき、四肢を光の拘束環で縫い止められる。

眠たげな顔のまま身じろぎしようとするが、すでに動線は全部奪われていた。

海東はそれを一瞥しただけで、すぐに視線をこちらへ流す。

つまり、残りは俺の仕事だということだ。

 

正面では、デルタとゼータの複製体が、同時にこちらへ殺意を向けていた。

デルタの方は唇の端を吊り上げ、獲物を前にした獣そのものの前傾姿勢を取る。

ゼータは逆に、呼吸すら見えないほど静かで、最短距離で急所へ届く軌道だけを組み上げていた。

荒々しい突破力と、冷たい暗殺速度。

本物の性質をなぞっているくせに、人間味だけを抜き取ったような最悪の二枚看板だ。

 

だが、さっきまでとはもう違う。

迷いはある。

見た目が同じだというだけで、胸の奥へ残る嫌な重さは消えていない。

それでも、あの野郎の思い通りに、この顔をした偽物へ立ち尽くす気はなかった。

 

「海東」

 

俺が短く呼ぶと、あいつは振り返りもせず答えた。

 

「何だい」

 

「借りるぞ」

 

ネオディエンドライバーじゃない。

俺のケータッチ21へ指を走らせる。

選ぶべき力は決まっていた。

無敵。

そして、理不尽を上書きするだけの眩しさ。

 

『EX-AID!KAMEN RIDE!MUTEKI GAMER!』

 

黄金の光が夜を塗り潰し、その中から究極無敵のゲームプレイヤーが現れる。

エグゼイド ムテキゲーマー。

眩しさそのものみたいなその姿が立った瞬間、デルタの複製体が本能的に地を蹴った。

危険だと理解した獣の突進だった。

 

だが、遅い。

 

ムテキゲーマーは消えたように見え、次の瞬間にはデルタの複製体の背後へ回り込んでいた。

振り返るより早く、金色の拳が腹部へ突き込まれる。

衝撃で巨体が浮き、そこへ死角から飛び込んできたゼータの複製体の斬撃が空を切る。

俺はそのまま身体を捻り、ゼータの腕を払って上へ跳ぶ。

落下の勢いで踵を振り下ろすと、ゼータの複製体は細い身体ごと地面へ押し込まれ、コンクリートが蜘蛛の巣みたいに砕けた。

 

デルタの複製体が咆哮じみた声を上げ、今度は正面から力任せに両腕を振り下ろしてくる。

受ける必要もない。

ムテキゲーマーの黄金の残像だけがその腕の間をすり抜け、次の瞬間には横へ回った拳が膝裏を穿つ。

均衡を崩したところへ、さらに肩口へ一撃。

巨体が傾く。

その隙へ、ゼータの複製体が低く滑り込み、俺の首筋だけを狙って突き上げる。

冷たい。

正確だ。

だが、それでも届かない。

 

俺はその腕を掴み、真上へ引き上げる。

ゼータの複製体の身体が軽く浮いた瞬間、デルタの複製体が咄嗟に飛び込んでくる。

連携だ。

なら、そのまま利用する。

俺は掴んだゼータの複製体を半回転して投げ、デルタの突進へぶつけた。

二つの偽物が正面衝突し、互いの勢いを殺し合って体勢を崩す。

 

「似ているだけだ」

 

仮面の奥で、俺は低く言った。

言い聞かせるためじゃない。

今の動きで、もう十分だった。

本物なら、こんな簡単に同士討ちの角度へ釣られない。

本物なら、この一撃のあとにある選択肢がもっと広い。

こいつらは違う。

顔を借りているだけの兵器だ。

 

デルタの複製体が再び飛ぶ。

ゼータの複製体が横へ走る。

二方向からの同時攻撃。

そこで俺は真正面から踏み込み、黄金の腕で両方を受けた。

衝撃は重い。

だが、ムテキゲーマーは止まらない。

そのまま腕を交差して押し返し、勢いを利用して二体を逆に地面へ叩きつける。

膝をつかせる。

次の瞬間、俺は連続して蹴りを放ち、デルタの脚部関節、ゼータの肩口、さらにもう一度足首へと、動線だけを潰すように正確に撃ち抜いた。

 

壊せる。

今の一撃を少し深く入れれば、それで終わる。

けれど、終わらせ方は俺が決める。

あの野郎の悪趣味に、最後まで付き合う気はない。

 

「海東!」

 

呼ぶと同時に、青い光弾が飛ぶ。

海東の射撃は寸分違わず、デルタの複製体の両手首とゼータの複製体の足元を穿った。

青い拘束光が四肢へ絡み、俺もまたムテキゲーマーのまま二体へエネルギー鎖を叩き込む。

金と青の光が交差し、デルタの複製体は四肢を地面へ縫い止められ、ゼータの複製体は細い身体ごと完全に動線を奪われた。

暴れようとしても、もう一歩も動けない。

二体とも、戦闘不能。

だが、破壊はしていない。

顔をしたまま、止めた。

それでいい。

 

海東が拘束されたイータの複製体の横へ立ち、俺もまたデルタとゼータの複製体を見下ろした。

三体とも、まだ睨んでくる。

だが、もう戦場の主導権は完全にこちらへ戻っていた。

 

「盗み出すには、ちょうどいい状態になったね」

 

海東の皮肉へ、俺は小さく鼻を鳴らす。

答える代わりに、顔を上げた。

海東も同じタイミングで視線を上げる。

 

その先。

さっきまで愉快そうにこちらの迷いを見物していたダークディケイドが、相変わらず変わらない姿で立っていた。

複製体は倒していない。

捕らえただけだ。

それで十分だった。

本命は最初から、こっちじゃない。

 

俺と海東は、コンプリートフォーム21のまま無言でダークディケイドを睨んだ。

悪趣味な芝居は終わりだ。

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