悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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二つの意地

ダークディケイドが踏み込んだ瞬間、夜の倉庫街に張りついていた空気そのものが捻じれた。

ただ速いんじゃない。

重い。

それも、ただ鍛えた肉体の重さじゃなく、いくつもの異物を無理やり束ねて一撃へ押し固めたような、不自然で、だからこそ質の悪い重さだった。

 

俺はコンプリートフォーム21のまま、その最初の拳を受けた。

受けた瞬間に分かった。

ディケイドの機動に似た踏み込みの中へ、別の“力”が幾つも重なっている。

筋力を押し上げるもの。

衝撃を増幅するもの。

おそらくは感知や反応の類まで混ざっている。

オール・フォー・ワンの流儀そのものだ。

奪い、重ね、都合のいいところだけを繋ぎ合わせて、自分だけの怪物を作る。

 

「だったら――」

 

俺は一度その衝撃を受け流し、大きく後ろへ跳んだ。

距離を切ったその一瞬でケータッチ21へ指を走らせる。

今必要なのは、真正面から押し返すだけの力じゃない。

混ざったものを見抜き、ほどき、中和する答えだ。

 

『BUILD!KAMEN RIDE!GENIUS FORM!』

 

桃色の歴史がほどけ、その上へ六十本のボトルの叡智を束ねた装甲が重なる。

ビルド・ジーニアスフォーム。

胸の奥で回り始めた複合演算の感覚と共に、視界へ走る世界の輪郭が一段だけ鮮明になった。

ダークディケイドの周囲で渦巻く力の流れが、今度は形を持って見える。

継ぎ接ぎだ。

しかも、継ぎ接ぎであることを隠す気すらない。

 

「寄せ集めなら、分解して答えを出すまでだ」

 

俺がそう吐き捨てた直後、横合いから青い銃声が夜を裂く。

海東は最初から迷っていなかった。

ネオディエンドライバーの銃口をダークディケイドへ向けたまま、わずかに口元だけで笑う。

 

「趣味の悪い玩具を見せられたんだ。せめて綺麗に片づけたいね」

 

カードが装填される。

海東の指先は、こういう時ほど妙に優雅だ。

だから余計に、その怒りが冷たく見える。

 

『WIZARD!KAMEN RIDE!SORCERER!』

 

黄金の魔法使いが、海東の前へ召喚される。

ソーサラー。

金色の外装が月光を鈍く跳ね返し、手にしたディースハルバードが不吉なまでに静かに揺れた。

次の瞬間、ソーサラーの周囲へ魔法陣が幾重にも広がり、稲妻が夜空を裂き、竜巻が倉庫街の通路をねじ曲げる。

 

ダークディケイドの足元から衝撃波が走る。

コンクリートを砕きながら一直線に俺へ迫るその攻撃は、ライダーの力だけじゃない。

空間ごと押し飛ばすような、別のレアスキルの性質が混ざっている。

だが、もう見える。

俺は一歩踏み込み、ジーニアスの装甲越しにその軌道へ拳を差し込んだ。

中和粒子が爆ぜる。

紫黒い衝撃の輪郭が、接触した一点からわずかに崩れた。

 

「ほう」

 

ダークディケイドが、そこで初めて低く声を漏らす。

驚きというより、観察対象の更新だ。

本気で腹が立つ。

 

「分析か」

 

「お前みたいな手合いには、ちょうどいい」

 

返しながら、俺は間合いを詰めた。

ダークディケイドも正面から来る。

拳と拳がぶつかる。

今度は受けた瞬間に、俺の腕へ複数の情報が流れ込んできた。

強化。

圧縮。

増幅。

どれもこれも、単体なら厄介で済む。

だが、無理やり重ねたせいで繋ぎ目がある。

そこへ中和を差し込めば、完璧な怪物にはならない。

 

背後から、海東の声が飛ぶ。

 

「士、右だ」

 

それだけで十分だった。

俺が半身になった直後、右手側の倉庫群へ向かってソーサラーの雷が落ちる。

落雷は直撃を狙っていない。

戦場の“面”を制御するための一撃だ。

ダークディケイドが右へ逃げれば雷。

左へ逸れれば竜巻。

前へ出るなら俺。

海東はいつだって、盤面を怪盗らしく支配する。

 

「散らかりすぎなんだよ、君の戦い方は」

 

青い銃撃が重なる。

ダークディケイドがそれを紙一重で避けると、その避けた先へ今度は竜巻が巻き込むように噛みついた。

動線が閉じる。

その一瞬の遅れへ、俺はジーニアスの拳を叩き込む。

 

「力を重ねるのは勝手だ」

 

腹部へ直撃。

吹き飛ばすんじゃない。

中和だ。

複数の力を重ねたその一点へ、ジーニアスの答えを流し込む。

 

「だが、混ぜれば混ぜるほど綻びも増える」

 

鈍い破裂音と共に、ダークディケイドの装甲の隙間から紫黒い光が一度だけ乱れた。

手応えはある。

だが、まだ浅い。

オール・フォー・ワンは一歩下がっただけで膝もつかない。

それでも、踏み込みの圧がさっきよりほんの少しだけ鈍った。

 

「なるほど」

 

穏やかな声だった。

気味の悪い余裕を残したまま、ダークディケイドは肩を軽く回す。

 

「中和と分解か」

 

「ようやく理解したか」

 

俺がそう言うと、奴は笑うように首を傾けた。

 

「いや」

 

その直後、周囲の空気が粘ついた。

ダークディケイドの視線が、ほんの一瞬だけ俺の奥――複製体の方へ流れる。

それだけで分かる。

今度は言葉で揺さぶりに来る。

 

「それでも、まだ迷いは残っているね」

 

予想通りだった。

さっきまでの盤面を、わざわざ口に出して蒸し返す。

俺の拳が止まった理由。

似た顔をした偽物を壊し切れなかった一瞬。

そこへ触れれば、また判断が鈍ると思っている。

 

「人間らしいよ、士」

 

その瞬間、俺の右横を青い閃光が掠めた。

海東の射撃だ。

ダークディケイドの頬をかすめるように抜けた一発は、ダメージよりも会話の流れを断つためのものだった。

 

「底が浅いね」

 

海東が冷たく言い放つ。

ネオディエンドライバーを持つ腕は微塵もぶれない。

 

「人の心を揺らすのに、借り物の顔しか使えないらしい」

 

それはさっき俺が叩きつけた言葉の続きでもあった。

海東はこういう時、真正面から肩を貸すんじゃない。

代わりに、相手の一番気にしているところへ容赦なく刃を入れる。

だから助かる。

だから腹も立つ。

 

ダークディケイドの気配が、そこでわずかに冷えた。

穏やかなままだ。

だが、余裕に混じる不快感だけは隠しきれていない。

 

「なるほど」

 

奴が一歩踏み込む。

今度の速度はさっきより速い。

強化の重ね掛けを一段深くしたのか、脚部の加速が目に見えて上がっている。

俺は迎え撃つ。

拳が触れた瞬間に解析。

増幅の比率が変わった。

衝撃の乗り方も違う。

なら、答えも変えるだけだ。

 

「海東!」

 

「命令する気かい?」

 

「右を閉じろ!」

 

「……まあ、悪くない」

 

返答と同時に、ソーサラーの竜巻が右方のコンテナ列を丸ごと巻き込み、逃走路を封じる。

左には雷。

上はソーサラーの魔法陣。

前だけが、俺の間合いだ。

 

「さあ、選びたまえ」

 

海東の声が響く。

ダークディケイドは前進を選んだ。

当然だ。

後ろへ引くような性質なら、そもそもあんな男はやっていない。

 

真正面からぶつかる。

俺はジーニアスの複合展開で脚部へ加速、腕部へ中和、胸部の演算で次の一手を重ねる。

一撃目で崩す。

二撃目で中和する。

三撃目で出力の繋ぎ目を剥がす。

それが今の答えだ。

 

拳。

肘。

蹴り。

三連の衝撃がダークディケイドの装甲へ叩き込まれ、そのたびに紫黒いオーラが小さく乱れる。

ソーサラーの雷が背後へ落ち、逃げ道を削る。

ディースハルバードの軌道が残像みたいに閃き、死角へ回ろうとする動きすら牽制する。

 

「混ぜ物だらけの力にしては、よく持つな」

 

俺が吐き捨てると、ダークディケイドは初めて明確に一歩だけ押し返された。

装甲の一部がひび割れ、その奥から覗く暗い光が不規則に脈打つ。

完全には崩れていない。

だが、確かに届いている。

 

「だいたい見えた」

 

そう呟いた時、ダークディケイドの動きがほんのわずかに止まった。

こちらが見切ったことを理解した顔だった。

 

海東がその横で、愉快そうに、だが一切気を抜かずに銃口を持ち上げる。

 

「次は、もっと派手に剥がす番だね」

 

夜風が倉庫街を吹き抜ける。

竜巻が収まりきらずに唸り、雷の残光がコンテナの壁へ白く滲んでいた。

前半は終わっていない。

だが、少なくとも相手の理屈は見えた。

重ねた力。

継ぎ接ぎの悪意。

そして、その綻び。

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