夜の街に張りつめた空気が、さらに一段、重く沈んだ。
ダークバスターは止まらない。さっきの衝突で距離が開いたにもかかわらず、迷いなく踏み込んでくる。その動きは、さっきよりも洗練されていた。俺の間合い、踏み込みの癖、反応速度――全部、学習済みだと言わんばかりに。
(……もう俺の“型”は通じない、か)
だからこそ、だ。
俺は正面から受けない。
横薙ぎの斬撃を、最小限の動きでかわす。次の銃撃は、路地の壁を蹴って軌道をずらす。ダークバスターの攻撃は速く、重く、正確だ。普通の相手なら、ここで詰んでいる。だが――
「悪いな。俺は一つのやり方に、固執しない」
回避の動作と同時に、ネオディケイドライバーへ手を伸ばす。
次のカードを、ためらいなく装填する。
『KAMEN RIDE!ZERO-ONE!』
ディケイドの装甲が分解され、再構築される。黒と黄のラインが走り、次世代の戦闘システムが立ち上がる感覚が、全身を駆け抜けた。
だが、まだ終わりじゃない。
間髪入れず、もう一枚。
『FORM RIDE!SHINING HOPPER!』
視界が一気に変わる。
思考が、加速する。
膨大な戦闘データが流れ込む。演算、予測、最適解。ダークバスターの動きを、俺は“追いかける”んじゃない。“先回りする”。さっきまで向こうがやっていたことを、今度は俺がやる番だ。
「……っ!?」
ダークバスターが一瞬、動きを止めた。
初めてだ。こいつが、明確に“想定外”を見たのは。
(そうだろ。データを食う相手に、さらに上のデータを叩き込む)
俺は踏み込む。
速さじゃない。判断が、速い。
ライドブッカーをソードモードに展開し、最短距離で斬り込む。ダークバスターが迎撃に剣を振るうが、既に読んでいる。刃を弾き、懐へ。膝、肘、掌底。ゼロワンの合理的な動きに、俺自身の経験を上乗せする。
「……何だ、その動きは!!」
ダークバスターの叫びが、夜に響く。
焦り。困惑。怒り。感情が、初めて剥き出しになった。
「学習しているはずだ! なのに……!」
「当たり前だ」
俺は距離を取り、真っ直ぐに言い切る。
「学んだだけで、追いつけるなら……誰も苦労しない」
一歩、前へ。
「学んで、考えて、壊して、限界の先に行かなきゃ――何も変わらない」
それは、こいつに向けた言葉であり、同時に、俺自身に向けた言葉でもあった。
世界を渡るたび、俺は何度も限界にぶつかってきた。完璧なんて、幻想だ。進み続けるしか、生き残る道はない。
ダークバスターが吠え、最後の突撃に出る。
全力。全速。全存在を賭けた一撃。
「なら……ッ!!」
俺は構える。
『FINAL ATTACKRIDE ZE ZE ZE ZERO-ONE』
足に力を溜め、全身のエネルギーを一点に集中させる。
「終わりだ」
地を蹴る。
跳躍。
黄金の光を纏った体が、夜空を切り裂く。
高速移動によるラッシュをダークバスターに叩き込み、最期に真っ直ぐと蹴りを放つ。
直撃。衝撃が爆ぜ、ダークバスターの装甲が悲鳴を上げる。路地の奥へと吹き飛び、壁を砕いて地面に叩きつけられた。
静寂。
俺は着地し、ゆっくりと息を吐く。
瓦礫の中で、ダークバスターは動かない。だが、完全に意識を失う直前、かすれた声が聞こえた。
「……この世界なら……生まれ変われると……思ったのに……」
その言葉が、胸に残る。
転生者。
別の世界。
やり直しを願う存在。
(……簡単に生まれ変われるほど、世界は甘くない)
だが、同時に思う。
こいつの言葉は、ただの負け惜しみじゃない。何かの“入口”だ。
未だに解けない謎。
なぜ、転生者がこの世界に集まるのか。
なぜ、なのはの周囲で動き始めたのか。
俺は変身を解かず、ダークバスターを見下ろしたまま、静かに呟いた。
「……面倒な世界に、来ちまったな」
だが、逃げる気はない。
この世界で起きることは、この世界で止める。