悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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神社での一幕

 人気のない境内に、虫の声だけが微かに残り、石段と鳥居は月明かりに淡く照らされている。その静寂の中心に立ちながら、イータはじっと前方を見据えていた。

 

 ――来た。

 

 空気が、歪む。

 鳥居の奥、御神木の影から、異質な気配が滲み出すように現れる。黒ずんだ結晶体に覆われた異形。ジェルシードの暴走体だ。原型は人間に近いはずだが、意思はほとんど感じられない。ただ、衝動と破壊欲求だけが肥大化し、暴力として噴き出している。

 

「……予想通り……制御、完全に失ってる……」

 

 イータは溜め息交じりに呟いた。

 同時に、わずかに肩を落とす。その口調は緩慢で、どこか気怠げだが、視線は一切ぶれていない。

 

「……理不尽……静かに、観察したかったのに……」

 

 暴走体が低く唸り、地面を踏み鳴らす。神社の石畳がひび割れ、結晶が増殖するように腕から突き出した。放置すれば、周囲一帯が危険に晒されるのは明白だった。

 

 イータは懐から変身デバイスを取り出す。

 その動きに迷いはない。

 

「……仕方ない……実験、前倒し……」

 

 次の瞬間、イータの姿は光に包まれた。

 詳細は闇に溶けるように曖昧で、どんな仮面ライダーなのか、外見も能力もはっきりとは分からない。ただ一つ確かなのは、変身が完了した直後、神社の空気が一変したということだった。

 

 暴走体が先に動く。

 巨体を活かした突進。だが――

 

 速い。

 イータの姿が、かき消えた。

 

 次の瞬間、鈍い衝撃音が連続して響く。

 境内のあちこちで、結晶が砕け散る音。暴走体の身体が何度も揺さぶられ、対応する暇すら与えられていない。力任せではない。的確で、効率的で、徹底的な制圧。

 

「……ほら……ここ……関節、脆い……」

 

 淡々とした声。

 暴走体の膝が崩れ、続けて胴体が地面に叩きつけられる。反撃の兆しすら見せられないまま、最後に強烈な一撃が加えられた。

 

 衝撃。

 結晶が砕け、異形は完全に沈黙する。

 

 境内に、再び静寂が戻った。

 イータは変身を解除し、気絶した暴走体を見下ろす。

 

「……生存確認……うん……死んでない……」

 

 どこか残念そうにも、満足そうにも取れる声だった。

 

 その時だった。

 

「――あっ!」

 

 石段を駆け上がる足音。

 なのはとユーノが、神社に飛び込んでくる。

 

 目に飛び込んできたのは、倒れ伏す異形と、境内に残る戦闘の痕跡。そして、そのそばに立つ、見覚えのある少女――イータだった。

 

「……え?」

 

 なのはは、言葉を失う。

 明らかに、戦闘があった後だ。それも、激しい戦い。だが、目の前のイータは、息一つ乱していない。

 

「な、なのは……あの人……」

 

 ユーノも、フェレットの姿のまま周囲を見回し、驚きを隠せない。

 

「……全部……終わってる……?」

 

 なのはの視線が、気絶した暴走体へ向かう。

 

「……これ……イータさんが……?」

 

 イータは二人に気づくと、少しだけ首を傾げた。

 

「……間に合わなかった……?」

 

「い、いえ! その……」

 

 なのはは自分の姿を思い出し、慌てて身を隠そうとする。魔法少女の恰好。明らかに普通ではない。

 

 その瞬間、イータの目が、きらりと光った。

 

「……へぇ……」

 

 一歩、近づく。

 観察するような視線。好奇心が、隠しきれていない。

 

「……変身……魔力反応……未知のシステム……」

 

「えっ!?」

 

「……興味深い……すごく……」

 

 なのはが後ずさる中、ユーノが思わず前に出る。

 

「き、君……一体……」

 

「……秘密……」

 

 イータはあっさりと言い切り、気絶した暴走体に視線を戻す。

 

「……今は……安全……たぶん……」

 

 境内に、微妙な沈黙が落ちる。

 なのはとユーノは、互いに顔を見合わせた。

 

 “何者か分からないが、圧倒的に強い”。

 その事実だけが、二人の胸に強く刻み込まれていた。

 

 一方イータは、内心で静かに考えていた。

 

(……やっぱり……この世界……面白い……)

 

 そして同時に、確信する。

 

(……ツカサ……この子……中心……)

 

 だが、そのことを口にする気はなかった。

 今はまだ、観察段階だ。

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