悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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野生の電撃

 ヘキサオーズの胸部に刻まれた歪なオーラングサークルが、赤黒い光をさらに深く脈打たせている。二本の触手を失った異形は、確かに一度は後退したはずなのに、その圧は弱まるどころか、半壊した広場全体へ沈み込むように広がっている。砕けた石畳の上にはデストロンとGODの力を押し返した痕跡が残り、焼けた破片と白いマントの切れ端が夜風に揺れる中、仮面ライダーゼインはなおも真正面からフィル・マクスウェルを見据えている。

 

『敵出力、低下せず。残存メダル二種、ガランダーおよびデルザーの反応が上昇している』

 

 ゼインドライバーの内側から響くサー・ナイトアイの声に、緑谷出久は短く息を整える。ユーリ達は既に戦場の外へ離れているが、フィルがここで倒れない限り、あの悪意が再び彼女達へ届く可能性は残り続ける。だから彼は、白い装甲に刻まれた傷を気にすることなく、足元の瓦礫を踏み締めて構えを深くする。

 

「分かっています。ここで止めます、ナイトアイさん」

 

「では、最後の検証へ移りましょう。ガランダー、そしてデルザー。より原始的で、より終局的な悪意です」

 

 フィルの声に応じるように、ヘキサオーズの胸部でガランダーのメダルが先に光を増す。直後、広場の影が泡立つように盛り上がり、獣人めいた幻影が次々と姿を成していく。牙、爪、鱗、毒針を思わせる輪郭が混ざり合い、先ほどまでの機械や神話の幻影とは異なる、血肉の匂いを孕んだ捕食の悪意が夜の広場へ満ちていく。

 

 残された触手もまた形を変え、黒鉄じみた機械質を脱ぎ捨てるように、生体めいた筋肉と毒々しい棘を備えたもの。牙、爪、鱗、毒針を思わせる輪郭が混ざり合い、先ほどまでの機械や神話の幻影とは異なる、血肉の匂いを孕んだ捕食の悪意が夜の広場へ満ち、変質する。一本は蛇のように地を這い、一本は蠍の尾のように毒針を掲げ、また別の一本は広場の外へ鼻先を向けるように揺れ、ユーリ達の逃げた方向を探り当てようとしている。

 

『敵攻撃性質、捕食および追跡へ変化。逃走対象の残留魔力を嗅ぎ取っている可能性がある』

 

「なら、ここで全部切ります。ユーリさん達には、絶対に届かせません」

 

 ゼインはマントの内側からカードを引き抜き、ゼインドライバーへ差し込む。カードが内部へ取り込まれると同時に、裁断された白い光片が風に散り、ゼインの装甲へ野性を思わせる緑と赤のラインが走った。

 

『仮面ライダーアマゾン!』

『ZEIN CARD!』

『JUSTICE EXECUTE!』

 

 ゼインの姿は変わらない。しかし、構えが変わる。地面へ低く沈む重心、敵の動きを視線だけでなく気配ごと掴むような獣の反応、そして一度噛みついたなら逃がさない斬撃の気配が、白い裁定者の装甲の内側から立ち上がる。獣人の幻影が一斉に飛びかかるが、ゼインは真正面から受けず、低く滑るように間を抜けると、腕部に宿ったひれカッターじみた光刃で最初の一体を斜めに断ち切る。

 

「この力は、壊すためだけじゃない。生き抜いて、誰かを守るためにも使える!」

 

 毒針の触手が背後から突き込まれる瞬間、ゼインの腰からコンドラーを思わせる光のロープが伸び、棘だらけの触手へ絡みつく。彼は全身の力で触手を引き寄せ、体勢を崩した根元へ踏み込み、アマゾンの野性を宿した斬撃を重ねる。毒々しい肉質が裂け、赤黒い脈動が石畳へ飛び散るが、ガランダーの悪意はまだ止まらない。

 

「興味深いですね。君は理性を語りながら、野性の力まで救済に使うのですか」

 

「理性だけでも、本能だけでも、人は救えない時があります。だから、使える力は全部使います」

 

 ゼインは短く返しながら、四方から襲いかかる獣人幻影の群れを見据える。幻影は倒されても倒されても、胸部のオーラングサークルから伸びる赤黒い線を通じて再び形を結び直す。広場の石畳には獣の巣のような影が広がり、牙と爪を持つ悪意がゼインの退路を塞いでいく。

 

『再生の起点は、胸部オーラングサークルから各幻影へ伸びる赤黒い脈動だ。斬撃で基点を断てば、ガランダー由来の再生は抑制可能』

 

「分かりました。狙うのは、あの線ですね」

 

 ゼインは毒針触手をロープで固定し、反動を利用して宙へ舞い上がる。獣人の幻影が彼を追って跳びかかるが、ゼインは空中で身体を捻り、最も太い赤黒い脈動へ向けて腕の光刃を振り下ろす。白い装甲に緑と赤の光が重なり、鋭い斬撃が血管めいた悪意の線を一気に裂いていく。

 

「大切断!」

 

 斬撃が走った瞬間、広場を満たしていた獣人の幻影が大きく揺らぎ、毒針触手の動きが鈍る。ガランダーのメダルから伸びていた再生の線が断たれたことで、獣性の悪意は形を保てず、黒い霧となって石畳の上へ崩れ落ちていく。ヘキサオーズは数歩分だけ後退するが、フィルの声にはなお余裕が残っている。

 

「獣性の悪意を、別の野性で断つ。実に予想外の解答です」

 

「野性が悪いんじゃありません。誰かを喰らうために使うから、悪意になるんです」

 

 ゼインが着地した直後、ヘキサオーズの胸部で最後のメダルが重く輝く。デルザーの光が広がるにつれ、広場の空気は急に重さを増し、残る触手が黒い装甲を纏いながら束ねられていく。先ほどの獣性のように飛び回るのではなく、巨大で、圧倒的で、踏み潰すだけで戦場の形を変える終局の悪意が、ヘキサオーズの背後に立ち上がっていく。

 

「では、最後です。デルザー。単純で、巨大で、抗いがたい終局の悪意」

 

 黒鉄の触手が地面へ叩きつけられるだけで、石畳は波のように砕ける。ゼインはアマゾンの反応速度でかわすが、余波だけで白いマントが大きく煽られ、足場ごと押し流されそうになる。彼が光刃を叩き込んでも、装甲触手の表面には深い傷が残るだけで、完全には断ち切れない。

 

『斬撃のみでは突破困難。高出力の電撃による内部制御破壊が有効と推定する』

 

「なら、次は電撃でいきます」

 

 ゼインは次のゼインカードを取り出し、ドライバーへ装填する。白い光片が再び裁断されて舞い、今度はゼインの装甲へ青白い電撃と赤いラインが走る。広場に残った街灯の破片が細かく震え、空気そのものが帯電していく。

 

『仮面ライダーストロンガー!』

『ZEIN CARD!』

『JUSTICE EXECUTE!』

 

 ゼインの拳に高圧電流が集中する。黒鉄の触手が轟音と共に迫るが、彼は正面から受け止めるのではなく、触手の側面へ腕を振り抜き、エレクトロファイヤーを思わせる電撃を流し込む。青白い火花が装甲の継ぎ目を走り、デルザー由来の重い触手が一瞬だけ痙攣した。

 

「どれだけ硬くても、内部まで止めれば動きは崩せる!」

 

「電撃による制御破壊ですか。君は本当に、相手を殺すより止める道を探す」

 

「止めます。それで救えるなら、何度でも」

 

 ヘキサオーズは残る触手を束ね、巨大な槍のようにゼインへ突き出す。ゼインはアマゾンの力を宿した低い姿勢で槍状の触手の脇へ潜り込み、光刃で黒鉄の装甲へ深い切断痕を刻む。そこへすぐ、ストロンガーの電撃を帯びた拳を叩き込んだ。

 

『外装に切断痕を作れ。そこへ電撃を流し込めば、内部制御を焼ける』

 

「はい。アマゾンで開いて、ストロンガーで止める!」

 

 青白い電撃が切断痕から内部へ流れ込み、黒鉄の装甲が内側から爆ぜる。ヘキサオーズの触手が大きく振れ、胸部のオーラングサークルにノイズが走るが、デルザーのメダルはなお強く輝き、最後の悪意を力ずくで押し通そうとしている。

 

 ゼインは跳躍し、電撃を脚部へ集める。白い装甲に走る赤いラインが強く光り、空中で身体を捻った彼の蹴りが、黒鉄の触手を踏み台にしながらヘキサオーズ本体へ向かう。

 

「ストロンガー電キック!」

 

 電撃を纏った蹴りが胸部へ叩き込まれ、広場全体へ青白い閃光が走る。ヘキサオーズは大きく後退し、残る触手も痙攣するように跳ねるが、フィルはまだ倒れない。胸部ではガランダーとデルザーのメダルが同時に暴れ、残った全触手を束ねて巨大な槍へ変えていく。

 

『通常出力では押し負ける。ストロンガーのチャージアップ相当の力を、一瞬だけ重ねる必要がある』

 

「一瞬で十分です。その一瞬で、未来を変えます」

 

 ゼインの全身を超電子エネルギーめいた光が包む。通常のゼインカード使用よりもはるかに高密度の電撃が白い装甲を走り、マントの裂け目まで青白い火花を帯びる。チャージアップは長く維持できる力ではないが、緑谷が必要としているのは長時間の支配ではなく、目の前の未来を切り開くための一瞬だけだった。

 

「いきます、ナイトアイさん!」

 

『未来分岐、開いている。行きたまえ、緑谷少年』

 

 ヘキサオーズの束ねられた触手が、巨大な槍となって突き出される。ゼインは真正面から受けず、アマゾンの野性的な動きで軌道をわずかに外し、切っ先が石畳を砕く直前に身を潜らせる。腕の光刃が束ねられた触手を縦に裂き、開いた隙間へ超電子エネルギーを纏った蹴りが突き進む。

 

「この力は、誰かを奪うためじゃない! 守るために、未来を変えるために、僕が使う!」

 

 大切断のような斬撃が束を割り、ストロンガーの電撃がその内部へ流れ込む。ゼインの蹴りは裂かれた触手の中心を貫き、そのままヘキサオーズの胸部へ到達する。ガランダーとデルザーのメダルが大きく揺らぎ、赤黒いオーラングサークルが激しいノイズを放つ。広場全体が白と赤黒の閃光に呑まれ、瓦礫が宙へ跳ね上がる。

 

「これは……想定以上です。君は、どこまで他者の力を救済へ変えるつもりですか」

 

 初めてフィルの声に、明確な揺らぎが混じる。ヘキサオーズの巨体は後方へ押し込まれ、残る触手は制御を失いかけたように広場の上で暴れる。完全に倒れたわけではないが、六つの悪意を束ねた異形の最終形態は、明らかに崩れ始めている。

 

 ゼインは着地し、裂けた白いマントを背中で揺らしながら、胸部にノイズを走らせるヘキサオーズを見据える。装甲には傷が増え、電撃の残滓が腕と脚へ細く走っているが、その構えは崩れていない。

 

「必要なら、どこまでも。誰かを救けるためなら」

 

『六つのメダルすべてに異常振動を確認。緑谷少年、次が本当の決着になる』

 

「はい。ここで終わらせます」

 

 半壊した広場には、ガランダーの獣性を裂いた斬撃の痕と、デルザーの重装甲を内部から焼いた電撃の焦げ跡が残っている。ヘキサオーズはなお立っているが、過去の悪意を束ねた六つのメダルは、もはや整然と輝いてはいない。白いゼインの装甲は傷つきながらも前を向き、緑谷出久の拳は、次に来る決着の一撃へ向けて静かに握り締められている。

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