悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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その血の行く先

 ブラッドベイドの周囲で、赤黒いインクが沸き立つように膨れ上がった。電波塔の上層を走る侵食信号は、もはや床や支柱に染みるだけではなく、空気そのものを濁らせるように揺らいでいる。キリエはリバイの背中越しにイリスの光を見つめ、ディエンドはネオディエンドライバーを構えたまま、ブラッドベイドの右手に握られたブラッドベイドバイスタンプへ視線を定めていた。

 

 ブラッドベイドはその視線に気づいたように、バイスタンプを胸元へ押し当てる。赤黒い紋様が装甲の隙間から広がり、イリスの青白い光を押し潰すように覆っていく。直後、バイスタンプの先端から血のようなインクが弾丸となって弾け、キリエ、ディエンド、リバイ、バイスの四方へ同時に放たれた。

 

「血は刻む。逃げ道も、声も、すべて塗り潰す」

 

 迫る弾丸はただの飛び道具ではなかった。鉄骨に触れたものは表面へ赤黒い紋様を刻み、空中で弾けたものは細かな滴となって再び対象へ絡みつこうとする。キリエは銃を両手で構え、飛来するインク弾の軌道へ狙いを合わせると、引き金を引いて弾丸を横から撃ち抜いた。破裂した赤黒い滴が頬を掠めるが、彼女は目を逸らさず、ブラッドベイドの腕へ次の牽制弾を撃ち込む。

 

「イリスを閉じ込めたまま、これ以上好きにはさせない」

 

「四人まとめて狙うとは欲張りだね。けれど、怪盗相手に狙いが素直すぎる」

 

 ディエンドは軽く言いながらも、銃口の動きに迷いを見せない。ネオディエンドライバーから放たれた青いエネルギー弾は、キリエへ向かうインク弾を撃ち落とし、続けてリバイの肩へ絡もうとした赤黒い滴を吹き飛ばす。リバイは無言のまま正面へ踏み込み、拳でブラッドベイドの腕を弾いた。バイスは低い姿勢で横へ回り込み、インクが伸びる根元へ体当たりを入れて流れを乱す。

 

 ブラッドベイドは後退せず、右手のバイスタンプを振るうたびに弾丸を増やしていった。空中へ散った赤黒い滴は電波塔の風に逆らい、血管のような線となって四人を追う。キリエは横へ跳び、手すりに片足をかけながら銃撃を続ける。彼女の狙いはブラッドベイド本体ではなく、バイスタンプを握る手首と、イリスの光を覆うインクの流れだった。

 

「私はイリスを撃ちたいわけじゃない。だから、腕だけを止める」

 

「いい判断だ。壊すより、盗むための形を残す方が僕好みだよ」

 

 ディエンドの銃撃がブラッドベイドの足元を削り、姿勢を乱したところへリバイが踏み込む。召喚体であるリバイは声を発しないが、その動きは正面から相手を受け止める意思を示していた。ブラッドベイドの拳を腕で受け、肩で押し返し、近距離からの蹴りでタワー外周へ向かって一歩ずつ押し込んでいく。

 

 バイスはリバイと逆側へ回り、ブラッドベイドの背後へ伸びようとするインクを身体で遮った。悪魔的な輪郭を持つ召喚体は、赤黒い流れを避けるのではなく、流れそのものを横へ逸らすようにぶつかっていく。言葉を交わさない二体だが、リバイが正面を止め、バイスが横から崩す連携は、バディとしての形を無言のまま描いていた。

 

「声は届かない。銃も届かない。血だけが届く」

 

「届かないものを届かせるのが、怪盗の仕事でね」

 

 ディエンドはそう返し、ブラッドベイドの肩口へ牽制射撃を放つ。キリエも銃口を重ね、バイスタンプを握る右腕へ弾を撃ち込んだ。二つの弾丸は装甲を砕くほどの威力ではないが、ブラッドベイドの腕を跳ね上げさせるには十分だった。そこへリバイが踏み込み、バイスが横から絡むインクを弾き飛ばす。

 

 四者の連携によって、ブラッドベイドの足が点検デッキの端へ近づいていく。赤い航空障害灯の光が装甲を照らし、下方には結界に覆われた街が広がっている。ブラッドベイドは一瞬だけ支柱へインクを伸ばして踏み止まろうとしたが、ディエンドの銃撃がその支柱の根元を撃ち、キリエの牽制が右腕の動きを封じた。最後にリバイとバイスが同時に押し込み、ブラッドベイドの身体は手すりを越えて電波塔の外へ弾き出された。

 

 だが、落下はしなかった。ブラッドベイドの背中から赤黒いインクが噴き出し、翼とも噴射ともつかない形で夜空へ広がる。空中へ飛び出したブラッドベイドは、塔の外側で姿勢を立て直し、血のような弾丸を全身からばら撒くように放った。弾丸は雨のように上層デッキへ降り注ぎ、鉄骨、アンテナ、足場、そして四人をまとめて塗り潰そうとする。

 

「外へ出た……でも、あのまま空から撃たれたら」

 

 キリエの声に焦りが滲む。上空からの弾丸は数が多く、銃で撃ち落とすには範囲が広すぎた。リバイとバイスはキリエの前へ戻ろうとするが、弾丸は彼らの動きを読んだように広がり、退路も前進路も同時に塞いでくる。ディエンドは一瞬で状況を見渡し、通常射撃で捌く選択肢を捨てた。

 

「普通に撃ち落とすには少し数が多いね。なら、こちらも姿を変えるとしよう」

 

「降る血は避けられない。塔も、声も、すべて沈む」

 

 ブラッドベイドの声が空から落ちる。ディエンドはカードケースから新たなカードを抜き、ネオディエンドライバーへ装填する前に、リバイとバイスへ銃口を向けた。召喚体の二体は喋らないが、彼の意図を受け取ったように同時に構える。リバイは足を開いて前へ立ち、バイスはその横で低く身を沈めた。

 

「痛みは一瞬だ」

 

『FINAL FORM RIDE!RE-RE-RE-REVICE!』

 

 音声が電波塔の上層へ響いた瞬間、青いライドプレートがリバイとバイスを包み込んだ。二体の装甲が光の板に分解されるように揺らぎ、リバイの身体は強靭な前脚と胴体の骨格へ、バイスの身体は尾と顎を支える異形の輪郭へ変わっていく。召喚体だからこそ抵抗の声はなく、ただディエンドのカードに従い、二体は一つの巨大なシルエットへ組み合わさった。

 

 キリエは目の前で起きる変形に息を呑む。光の中でリバイとバイスの姿が重なり、次の瞬間、T-レックス型の巨大な形態が電波塔の上に現れた。リバイスレックスは強靭な顎を開き、鋭い爪を鉄骨へ食い込ませるようにして姿勢を低く構える。降り注ぐ血の弾丸は、その正面へ迫っていた。

 

「リバイとバイスが……一つに」

 

「リバイスレックス。あの弾丸の雨を噛み砕くには、ちょうどいい姿だ」

 

 ディエンドの言葉と同時に、リバイスレックスが咆哮の代わりに重い駆動音を響かせるように踏み出した。血の弾丸が装甲へ叩きつけられ、赤黒い飛沫が弾ける。だが、リバイスレックスは止まらない。大きな顎で弾丸の密集した流れを噛み砕き、爪で空中へ走る赤黒い線を引き裂き、塔の外で飛ぶブラッドベイドへ向かって突進の姿勢を取る。

 

 ブラッドベイドの胸元で、イリスの青白い光が強く瞬いた。血の雨を突き破るリバイスレックスの圧力が、外側の装甲だけではなく、内側に閉じ込められたイリスの意識まで揺らしているように見える。ブラッドベイドバイスタンプもまた、右手の中で一瞬だけ赤黒い装甲から浮き上がり、ディエンドの視線がそのわずかな隙を捉えた。

 

「次で盗る」

 

 ディエンドは銃口を下げず、リバイスレックスの突撃が作る道を見据える。キリエは胸元の青白い光へ向けてイリスの名を呼び、赤黒い雨が降り注ぐ電波塔の上で、分離のための最後の隙が開こうとしていた。

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