悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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その手の先は

 リバイスレックスが鉄骨の上で巨大な顎を開いた瞬間、電波塔の外周を覆っていた赤黒い雨が、その咆哮に押し返されるように震えた。リバイとバイスが一つになった恐竜の姿は、召喚体でありながら確かな質量を持ち、爪を床へ食い込ませるだけで点検デッキ全体を軋ませている。空中ではブラッドベイドが血のような弾丸を放ち続け、背中から噴き出す赤黒いインクを翼のように広げながら、電波塔の上を旋回していた。

 

 キリエは胸元の青白い光を見上げる。ブラッドベイドの装甲の奥に、まだイリスがいる。さっきから何度もそう自分へ言い聞かせてきたが、今は言い聞かせるだけでは足りなかった。イリスを取り戻すためには、あの空へ届かなければならない。

 

「イリスの光が、まだ見えてる。あの中に、まだイリスがいる」

 

「なら、追いかけようか。怪盗の仕事は、奪われたお宝を取り戻すことだからね」

 

 ディエンドはネオディエンドライバーを片手で構えたまま、もう片方の手をキリエへ差し出した。キリエがその手を掴むと、彼は軽く引き上げるようにして、リバイスレックスの背へ飛び乗る。巨大な背中は金属床よりも不安定で、足元には召喚体特有の光が流れていたが、キリエは膝を曲げて姿勢を低く保ち、銃を握り直した。

 

「追えない。空は血で閉じる」

 

「閉じた空ほど、破ってみたくなるものさ」

 

 ブラッドベイドの声が降ってくると同時に、赤黒い弾丸が雨のように落ちた。リバイスレックスは大きく踏み込み、点検デッキから外壁へ爪をかける。次の瞬間、巨大な体躯は重力に逆らって電波塔の壁面を走り始めた。爪が鉄骨を削り、火花と赤黒い滴が風に散る。背に乗るディエンドとキリエは、垂直に近い角度で駆け上がる振動に耐えながら、迫る弾丸へ銃口を向けた。

 

 ディエンドの青いエネルギー弾が、進路を塞ぐ赤黒い弾丸を正面から撃ち抜く。キリエはリバイスレックスの背中を狙って曲がる弾丸へ狙いを変え、横から撃ち落としていった。血の弾丸はただ砕けるだけではなく、破片となった後もインクの糸へ変わって絡もうとするため、二人は落下する破片の軌道まで読みながら射撃を重ねる必要があった。

 

「弾が多すぎる。このままじゃ背中に当たる!」

 

「なら撃ち落とせばいい。君も銃は使えるんだろう?」

 

「分かってる。イリスを助けるためなら、外さない」

 

 キリエの銃撃が、リバイスレックスの首元へ落ちかけた弾丸を撃ち抜いた。赤黒い飛沫が視界を覆うが、ディエンドの次弾がその飛沫ごと吹き飛ばし、前方に一瞬だけ空白を作る。リバイスレックスはその空白へ飛び込み、外壁を走る速度をさらに上げた。巨大な尾が塔の支柱を掠め、反動で体勢を整えるたび、キリエの身体は背中から振り落とされそうになる。それでも彼女は銃を離さず、ブラッドベイドの胸元の青白い光を追い続けた。

 

「血は降る。声も、翼も、すべて撃ち落とす」

 

 ブラッドベイドは空中で旋回しながら、ブラッドベイドバイスタンプを掲げる。赤黒い弾丸は形を変え、今度は太い槍のように束ねられて落ちてきた。ディエンドはそれを見て、通常射撃で全てを捌く限界を悟ったように、ネオディエンドライバーを下げずにカードケースへ指を伸ばす。

 

「このまま噛みつかせるだけでは分離できない。なら、少し派手にいこう」

 

「何をするつもり?」

 

「君は声を止めないでくれ。僕は、蹴りで盗み口を開ける」

 

 ディエンドはファイナルアタックライドカードを抜き取り、リバイスレックスの背で膝を曲げながらネオディエンドライバーへ装填した。塔の外壁を走る振動、空から降る赤黒い槍、後方で続く量産型イリス達の戦闘音、そのすべてが一瞬だけ遠ざかったように感じられる。カードが読み込まれた瞬間、リバイスレックスの身体を青いライドプレートが包み込んだ。

 

『FINAL ATTACK RIDE!RE-RE-RE-REVICE!』

 

 音声と共に、リバイスレックスの全身が光へ変わる。巨大な恐竜の輪郭は崩れるのではなく、脚力の一点へ収束するように再構成され、太い恐竜の脚を模したエネルギー形態となってディエンドの右脚へ装着されていった。鋭い爪を備えた脚部装甲が幾重にも重なり、青と黒の光がディエンドの身体を包む。キリエはその変化を背後から見ながらも、ブラッドベイドへ向けて声を張った。

 

「イリス、聞こえているなら戻ってきて! 私は、あなたの声をまだ聞きたい!」

 

「戻らない。離れない。血はすべてを繋ぎ止める」

 

「繋ぎ止めているなら、そこが切り口だ」

 

 ディエンドはリバイスレックスの脚部エネルギーを右脚へまとったまま、壁面を蹴って夜空へ跳び出した。赤黒い槍の雨が彼へ集中するが、キリエはリバイスレックスの残光が作った足場から銃を放ち、彼の進路へ刺さる弾丸だけを撃ち落とす。ディエンドはその射線を信じるように速度を落とさず、巨大な恐竜の脚を纏った右足を前へ突き出した。

 

 ブラッドベイドは迎撃のため、バイスタンプからさらに濃いインクを噴き出す。赤黒い壁が空中に広がり、ディエンドの蹴りを受け止めようとするが、脚部エネルギーの爪がその壁を噛み砕くように突き破った。衝撃は装甲そのものを砕くためではなく、ブラッドベイドとイリスを繋ぐ赤黒い侵食信号へ向かって走り、胸元の青白い光を覆っていた膜を踏み抜いていく。

 

「イリス!」

 

 キリエの叫びと同時に、ディエンドの必殺キックがブラッドベイドの中心へ叩き込まれた。夜空に青と赤黒の光が交錯し、電波塔の外周へ衝撃波が広がる。ブラッドベイドの装甲は大きく歪み、胸元に閉じ込められていた青白い光が弾けた。赤黒いインクは、血管のように絡みついていた線を次々と断たれ、ブラッドベイドバイスタンプの明滅も不規則に乱れていく。

 

「……キリエ……」

 

 微かな声が、今度は赤黒い装甲の奥ではなく、光の中から聞こえた。キリエはその声へ向けて手を伸ばす。ディエンドの蹴りが侵食信号を踏み砕いた瞬間、ブラッドベイドの身体からイリスの輪郭が押し出されるように分離した。青白い光に包まれたイリスは意識を失ったまま空中へ投げ出され、赤黒い装甲の破片と一緒に落下を始める。

 

 キリエは迷わなかった。リバイスレックスの残光が消えかける足場を蹴り、落下するイリスへ向かって身を投げ出す。背後でディエンドが空中姿勢を整え、ネオディエンドライバーの一発で彼女の落下軌道を塞ごうとした赤黒い弾丸を撃ち抜く。キリエは腕を伸ばし、指先がイリスの服を掴んだ瞬間、全身を引き寄せるように抱き締めた。

 

「イリス、しっかりして。今度は、絶対に離さない」

 

 イリスの身体は軽く、ひどく冷えていた。だが、胸元にはまだ青白い光が残り、キリエの腕の中でかすかに瞬いている。彼女は落下の勢いに引かれながらも、イリスを庇うように抱え込み、電波塔の外壁へ向けて魔力を放って減速した。ディエンドは近くの鉄骨へ着地し、ファイナルアタックライドの余韻を残した右脚から光を散らしながら、空中で赤黒く点滅するブラッドベイドバイスタンプへ視線を向ける。

 

「まだ盗むべきものが残っているね」

 

 ブラッドベイドの装甲は大きく崩れ、イリスを失ったことで形を保てなくなっていた。だが、バイスタンプだけは赤黒い光を残したまま宙を漂い、電波塔に残る侵食信号と細く繋がっている。後方ではデモンズトルーパーαとβが量産型イリス達の波を押し返し、赤黒かった制御線の一部が青白い色を取り戻し始めていた。

 

 キリエは腕の中のイリスを抱き締めたまま、荒い呼吸を整えようとする。イリスの唇がわずかに動き、声にならない声がキリエの名を呼んだ。分離は成功した。けれど、すべてが終わったわけではない。空中で明滅するブラッドベイドバイスタンプと、電波塔に残った赤黒い侵食信号が、まだ次の危険を告げるように揺れていた。

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