悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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烈火のアギト

 マシンディケイダーのエンジン音が、崩れた街路の上で低く唸っていた。結界の内側に閉じ込められた街は、昼でも夜でもない妙な暗さに沈んでいて、道路の亀裂からは赤黒い光が脈打つように漏れている。なのは達との合流地点までは、そう遠くない。だが、こういう時に限って、道というものは真っ直ぐ残っていないらしい。

 

 右手でアクセルを開きながら、俺は前方のビル影へ視線を走らせる。窓ガラスの割れた上階、傾いた標識の裏、信号機の上、そして路地の奥。気配は一つや二つではない。人間の姿を崩したような異形、アナザーアギトに似た輪郭を持ちながら、獣じみた歪みを強めたギルアギトの群れが、こちらの進路を囲むように現れていた。

 

「随分と歓迎が派手だな。数で囲めば止まると思っているなら、見込み違いだ」

 

 俺の声に答えるように、屋上から一体が飛び降りてくる。爪を伸ばし、マシンディケイダーごと俺を引き裂くつもりだったのだろうが、こっちも素直に止まってやる義理はない。ハンドルを切り、後輪を滑らせながら車体を横へ流すと、爪はアスファルトだけを抉り、俺はその横を抜けた。

 

 だが、抜けた先にも別の群れがいる。前方の交差点には十数体、左右の建物からさらに数体が飛び出し、背後からも足音が迫っていた。数だけで道を潰すやり方は単純だが、こうも徹底されると面倒ではある。俺は左手でライドブッカーからカードを抜き、ディケイドライバーへ滑り込ませた。

 

『KAMEN RIDE!AGITO!』

 

 音声と同時に装甲の感触が変わる。視界の色がわずかに熱を帯び、身体の奥にアギトの力が重なる。ギルアギトの群れがアギトの歪んだ影だというなら、こちらが本来のアギトに近い力を使うのは悪くない。敵の正面を切って抜けるため、俺は続けてカードを引き抜いた。

 

「アギトの力なら、こういう連中にはちょうどいい。道がないなら、作ればいいだけだ」

 

『ATTACK RIDE!MACHINE TORNADER!』

 

 マシンディケイダーの車体が光を帯びる。フレームがうねるように展開し、前輪と後輪の位置が変わり、機械の姿そのものがアギトのバイクであるマシントルネイダーへ塗り替えられていく。直後、車体はさらに低く長く広がり、スライダーモードへ変形した。俺はシートに座る姿勢から足場へ立つように体重を移し、サーフボードにでも乗るような感覚で、道路すれすれの高さを滑り始める。

 

 ギルアギトの群れが正面から押し寄せる。俺はマシントルネイダーの進路を少しだけずらし、先頭の一体を車体側面で弾き飛ばした。続く二体は腕を伸ばしてしがみつこうとするが、スライダーモードの速度に追いつけず、爪だけが装甲の表面を掠めて火花を散らす。左右の建物から飛び込む個体は、車体の傾きと反動を使って躱し、そのまま背後の仲間へぶつけた。

 

 それでも敵は退かない。むしろ、こちらが速度を上げたことで、包囲の形を変えてくる。前方の道路を塞ぐように数体が並び、上からは別の個体が飛び降り、横の壁を蹴ってくる連中までいる。体当たりだけでは、合流地点までの道を綺麗に開けるには足りない。

 

 なら、切り開けばいい。

 

『FORM RIDE!AGITO FLAME!』

 

 装甲の右腕に炎の力が宿り、俺の手にはフレイムセイバーが現れる。刀身が赤く輝き、走行風を受けるたびに火の粉が後方へ流れていった。スライダーモードのマシントルネイダーは高速のまま交差点へ突入し、俺はその上で重心を落とし、最初に飛びかかってきたギルアギトへ剣を振るう。

 

「炎の剣で切り開く。そこをどけ、ギルアギト」

 

 フレイムセイバーは敵の胴を深く裂くのではなく、突進の軌道を断つように腕と肩の装甲を斬り払った。炎を帯びた斬撃を受けたギルアギトは体勢を崩し、後続へぶつかって転がる。俺はその隙間へ滑り込み、右から迫った一体を剣の柄で弾き、左から飛び込んできた個体を返す刀で斬り落とした。

 

 視界の端で、路地の奥からさらに三体が現れる。俺はマシントルネイダーを傾け、車体をほとんど横向きに滑らせながら、フレイムセイバーの炎を刀身へ集めた。密集したギルアギト達の間に、一本の赤い線が走る。

 

「セイバースラッシュ」

 

 炎の斬撃が交差点を横切り、前方を塞いでいた群れをまとめて吹き散らした。倒れた連中は燃え尽きたわけではないが、少なくとも追ってくる足は止まっている。俺はその空いた道へマシントルネイダーを滑り込ませ、背後から伸びてきた爪を振り向きざまの一閃で払い落とした。

 

 走る。斬る。躱す。余計なことを考える暇はない。だが、こういう単純な戦いは嫌いではない。敵が道を塞ぐならこちらが道を作るだけで、カードはそのためにある。俺は炎の剣を構え直し、合流地点へ向かって最後の角を曲がった。

 

 その先で、桜色の砲撃が地面を抉り、金色の斬撃が空中の敵を弾き、足元を走る魔法陣が幾つもの拘束光を伸ばしていた。なのは、フェイト、はやて。三人はすでに別方向から来たギルアギト達を相手にしていたらしく、俺が炎の軌跡を引いて飛び込むと、なのはがこちらへ振り向いた。

 

「ツカサさん、無事ですか!」

 

「無事と言うには、少し面倒なのを連れてきたがな」

 

 俺はマシントルネイダーを減速させ、スライダーモードから通常の姿勢へ戻る動きに合わせて地面へ降り立った。背後では、まだ追ってきたギルアギト達が唸っている。なのははレイジングハートを構え直し、フェイトはバルディッシュを低く構え、はやては周囲の魔力反応へ意識を向けていた。

 

「敵の反応が一気に増えています。ここから先は、私達も一緒に戦います」

 

「包囲されています。でも、まだ抜けられます」

 

「また厄介なんが出てきたな。しかも、これで終わりやない気がするわ」

 

 はやての言葉に、俺も同じものを感じていた。ギルアギト達の動きが、急に鈍ったからだ。獣じみた唸りは残っているが、攻めてこない。まるで、こちらを追い立てる役目を終えたかのように、一定の距離を保っている。

 

 その沈黙の向こうから、足音が聞こえた。

 

 炎で切り開いた道の先に、一人の男が立っている。見覚えのある顔。緑谷が倒したはずのフィル・マクスウェル。だが、その身体を包んでいるのは研究者の白衣ではなく、蜃気楼のように輪郭を揺らすアギトの姿だった。複眼には不自然な光が走り、装甲の隙間にはイリスの端末を思わせる青白い線が混じっている。

 

「お久しぶり、と言うべきでしょうか。あるいは、初めましてと言うべきでしょうか」

 

 穏やかな声だった。だからこそ、余計に腹立たしい。俺はフレイムセイバーを構え直し、男の名を呼ぶ。

 

「フィル・マクスウェル……緑谷が倒したはずだが」

 

「ええ、倒されたのでしょう。ですが、それも複製されたフィル・マクスウェルの一人に過ぎません」

 

 なのはが息を呑み、フェイトの目が細くなる。はやては言葉の意味を噛み砕くように、低く呟いた。

 

「複製体……それが本当なら、倒した数だけで安心できへんってことや」

 

「つまり、お前も本物じゃないということか」

 

 俺が問いかけると、フィルは小さく笑った。ミラージュアギトの装甲が薄い陽炎のように揺れ、背後のギルアギト達が一斉に頭を垂れる。その光景は、王を迎える兵ではなく、端末が上位命令を受け取る瞬間に近かった。

 

「本物という定義に意味はありません。私達は、複製されたイリスを基盤に作られた観測者であり、実験の継続そのものです」

 

「私達、か。随分と嫌な言い方をする」

 

「ヘキサオーズの敗北も、あなた達の勝利も、すべて次の検証へ進むための記録に過ぎません」

 

 その言葉に、背筋の奥が冷えるような感覚が走った。緑谷が拳で変えた未来を、こいつはただの記録だと言った。イリスを道具にし、人を複製し、敗北さえ次の実験材料にする。それが目の前のフィル・マクスウェルという複製体の在り方なら、放っておく理由は一つもない。

 

 俺は炎を帯びたフレイムセイバーを肩に担ぎ、なのは達の横へ並ぶ。なのはは砲撃の魔力を収束させ、フェイトは雷光を刃へ走らせ、はやては足元へ魔法陣を広げていた。ミラージュアギトは静かに一歩を踏み出し、背後のギルアギト達もそれに合わせて再び動き出す。

 

「観測者だろうが複製体だろうが、ここで止める。俺達の勝ちを記録扱いしたこと、後悔させてやる」

 

 俺がそう言うと、フィルは穏やかな声のまま答えた。

 

「では、次の検証を始めましょう」

 

 炎の剣を握る手に力を込める。ギルアギトの軍勢を突破した先で待っていたのは、ただの残党ではなく、終わったはずの敵を増殖させる仕組みそのものだった。面倒な相手だ。だが、俺はそういう相手ほど嫌いではない。世界を好き勝手に測ろうとする奴には、通りすがりの仮面ライダーが必要だろうからな。

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